世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。
今回は、【相続・遺言】に関して、不動産の無償使用と特別受益について考えてみたいと思います。
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【Q】兄が父親の所有する建物に長年無償で居住していた場合、遺産分割に際してこの点は考慮されないのでしょうか?兄が所有する建物の底地が父親所有で、兄がこの土地を無償で使用させてもらった場合はどうでしょうか?この無償使用が、父親が営んでいた農業を兄が手伝うためのものだった場合はどうでしょうか?
【A】◆1.遺産分割における特別受益の調整
遺産分割は、遺産の分け方について共同相続人間の話し合いで全員が合意すれば、民法で定める相続分と異なった内容でも行うことはできます。したがって、亡きお父さんの遺産分割をどのようにするかの話し合いのなかで、お父さんの所有する土地や建物をお兄さんが無償で使っていたことを持ちだし、お兄さんも含めた共同相続人全員がそのことを考慮した遺産の分け方で、合意できれば、お父さんの遺産分割を行うことはできます。
もっとも、共同相続人間で遺産の分け方について話し合って合意ができなければ、最終的には裁判所の審判によって遺産の分け方は決められることになりますが、審判では民法に定める法定相続分や相続人の具体的な相続分を決める際に考慮する「特別受益」の有無などが問題となります。また、共同相続人間で遺産分割の話し合いをする際にも、法定相続分や特別受益の有無などを踏まえて話し合いをすることが多いです。
そこで、亡きお父さんの所有する土地あるいは建物を無償で使っていたお兄さんに特別受益があると言えるかが問題となります。特別受益の制度は、相続人間の公平を図るものですから、形式的には「贈与」とは言えなくても、相続人が被相続人から特別の財産的価値のある利益を得ていると評価できる場合には、特別受益を得ているとして遺産分割で考慮されます。
◆2.土地の無償使用の場合
まず、お兄さんが亡きお父さんの所有する土地に建物を建てて利用していた場合をみてみます。お兄さんは、建物が建っている土地(以下底地とします)をタダで使っており、そのことをお父さんが了承しておれば、お父さんとお兄さんとの間では建物所有のために底地を無償で利用すること(使用貸借)の合意があったとみることができます。
そして、建物所有目的の土地使用貸借権は、底地の更地価格の一定割合(1割から3割程度の範囲が多いとされています。割合は建物の作りや築年数その他の事情によって異なります)の財産的価値があります。
そうすると、今回の場合、お兄さんはお父さんから底地の使用貸借権を無償で設定してもらっていると言えますから、お兄さんはお父さんから財産的価値のある利益を得ているということができます。
ただ、具体的相続分を決める際の特別受益といえるかどうかは、特別受益制度が相続人間の公平のために、相続財産の前渡し的性格を持っているものを遺産分割の際に考慮しようとするものですので、形式的画一的に決めることは難しく、被相続人の資産の状況、贈与等された財産や利益の価格、それが被相続人の遺産に占める割合、利益を得ている相続人の負担、被相続人の生活状況、利益を得ている相続人の生活状況、被相続人が財産を贈与等した理由、他の相続人との比較など種々の事情を考慮して判断せざるを得ません。
したがって、お兄さんが亡きお父さんの所有する土地に建物を建てて利用していた場合、お兄さんはお父さんから底地の使用貸借権という財産的価値のある利益を得ているのですが、それが特別受益といえるかは、上記のような種々の事情も考慮して決めるということになります。
底地の無償使用が亡きお父さんが営んでいた農業を手伝うためのものだった場合についても、先に述べました事情や農業でのお兄さんの負担や農業で収入を得ていたかなどの事情も考慮して特別受益となるかを判断することになります。
なお、特別受益にあたるとしても、被相続人である亡きお父さんが持ち戻しの免除の意思表示をしていれば、特別受益として考慮することはできません。
◆3.建物の無償使用の場合
次にお兄さんが亡きお父さんが所有していた建物に長年無償で居住していた場合、お兄さんに特別受益があるといえるでしょうか?
この場合、お兄さんは建物居住の利益を得ています。お兄さんが、お父さん所有の建物に居住できないとなると、お兄さんは、例えば、居住用の建物を借りなければなりませんが、それをしないで住んでいるので、家賃相当額の財産的価値のある利益を得ていると考えることはできます。
しかし、特別受益といえるためには、被相続人の経済的負担で相続人が利益を得ている必要がありますが、建物の利用状況等からすると被相続人の経済的負担になっていない場合もあり、一概に、家賃相当額が特別受益になるとはいえません。また、相続人の一人と被相続人との間に建物を無償で利用すること(使用貸借)の合意があったとみることができる場合もありますが、建物の使用貸借権の経済的価値の算定は難しいという問題があります。
さらに、この問題をクリアーできたとしても、前に述べたとおり、特別受益にあたるかどうかは、種々の事情をもとに判断せざるをえません。
そしてご質問のような相続人の一人が被相続人所有の建物に居住していた場合と言っても様々なケースがありますので、前に述べた事情に加え、例えば、相続人が被相続人と同居していたか否か、同居していたとして建物の大きさや構造、同居するに至った経緯理由、相続人の負担の有無や内容、あるいは、同居していない場合でも、その建物が居住用か賃貸用か、相続人が居住するようになった経緯理由、相続人の負担の有無や内容など種々の事情を考慮して判断することになります。
建物の無償使用がお父さんが営んでいた農業を手伝うためのものだったという事情も特別受益があったかどうか判断する際の一つの事情と言えます。
ご質問のケースでは、お父さんの建物を無償で使用しているお兄さんに特別受益があるかどうか、あるとしてその価額はいくらかは、前に述べた事情を総合して考えざるを得ません。
また、お父さんが持ち戻しの免除の意思表示をしていれば、特別受益としては考慮されません。