世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。
今回は、【改正民法債権編】に関して、損害賠償の範囲について考えてみたいと思います。
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損害賠償の範囲
基本的な考え方は維持しながらも、残された解釈論
◆賠償範囲の合理的制限
債務不履行によって生じる損害は、その因果関係をたどっていけば無限に拡大します。たとえば、売買によって車両を手に入れる予定だった債権者が、債務者の履行遅滞によって納期限に当該車両を手に入れることができず、転売予定の主力取引先の不興を買い、取引が打ち切られて事業破綻し、最終的には一家離散に至った場面を想定します。
この例で、車両の引渡しを怠った債務者が、債権者の一家離散についてまで責任を負うというのでは、あまりに責任の範囲が広範です。債務者が負担する損害賠償の範囲は、取引上または社会通念上相当な範囲に限定される必要があります。そこで、損害賠償法理においては、賠償範囲の画定が重要な課題になってきます。
◆通常損害と特別損害
法416条1項は、「債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。」と規定しています。このような損害を「通常損害」といいます。
損害賠償は通常損害の範囲に限られるというのが原則です。何が通常損害の範囲に含まれるかについては、一義的には決まらないことが多いのですが、以下のような損害は通常損害の範囲に含まれると考えられます。
①転売を前提とする取引で、買主が次の取引で得られるはずの転売利益
②同じく転売を前提とする取引において、買主が第三者に債務不履行による損害賠償責任を負ったときの賠償金
③買主が売買の目的物を利用して得る予定だった営業利益
他方で、新法416条2項は、「特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。」としました。「特別損害」は当事者の予見可能性がある場合に限って賠償範囲に含まれることになります。
なお、旧法416条2項は「当事者がその事情を予見し、又は予見することができたとき」に特別損害が賠償範囲に含まれるとしていました。法の文言には変化がありますが、その実質は同じであり、賠償範囲に関する従前の解釈に変化はないと考えられています。
◆残された解釈の問題
上記のとおり、新法416条2項は、「当事者がその事情を予見すべき」場合に、特別損害であっても損害賠償の範囲に含まれるとしています。しかし、この法文はやや抽象的で、解釈にあたってはいくつかの問題がなお残されたままになっています。
たとえば、予見をすべき主体は、契約の当事者双方なのか、債務者のみで足りるのか、という問題があります。一般には、賠償義務者のみ予見できれば不測の損害が発生しないので、債務者のみ特別の事情を予見できれば足りると考えられています。ただ、今回の改正では、議論がされつつも、この問題に関する立法的な解決はなされませんでした。
また、当事者は「どの時点」で特別の事情を予見できる必要があるのか、という問題もあります。古い判例や多くの学説は、契約締結時に特別の事情が予見できなくても、履行期までに損害の拡大が予見できた場合には、債務不履行をした者がその賠償をするのは当然であるとしています。他方で、契約解釈は契約締結時の状況を背景になされるから、契約締結時に予見可能性があることを必要とする見解もあります。この点についても、今回の改正では立法的解決はされていません。
これらの点については、今後さらに解釈の蓄積が待たれるところです。