世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。
今回は、【改正民法債権編】に関して、変動制による法定利率について考えてみたいと思います。
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変動制による法定利率
利率の引き下げと固定性から変動制への移行
◆利息の発生と法定利率
利息は、典型的には、金銭を貸し付ける際に発生しますが、それ以外にも、契約を解除し金銭を返還するときや、悪意の受益者が利益を返還するときなどにも発生するとされています。
旧法では、利率に関する約定がないときには、いずれの場合でも年5%の法定利率により利息が発生するとされていました。
そのほか、金銭債務の不履行の場合における損害賠償額の算定(旧法419条1項)にも、年5%の法定利率が用いられていました。
このように、法定利率が適用される場面は多くありますが、旧法が法定利率を年5%と定めていたのは、なぜでしょうか。
これは法定利率が、原則として私人間の関係に適用される規律であり、市中における金利水準に沿ったものであるべきとされ、立法時には、年5%が相当と考えられたことによります。
◆法定利率改正の必要性
市中の金利水準は変動するため、これに応じて法定利率を改正する必要があると考えられていました。
しかし、現実には法定利率が改正されたことはなく、市中の金利と法定利率との間に乖離が生じることになりました。特に1990年代後半から、市中の金利は、非常に低い水準が長期間継続し、法定利率の年5%が市中の金利を大きく上回る状態となっていました。
他方、過去のいわゆるバブル景気においては、市中の金利が年5%の法定利率を上回っている時期もありました。
その結果、年5%に固定された法定利率の適用が、当事者の公平を害している状況があるとの指摘がされてきたのです。
そこで、市中の金利と法定利率に乖離がある不合理な状況を是正し、法定利率を市中の金利水準に合致させるための改正が必要とされました。
結論として、新法404条2項により、当面の法定利率が旧法から2%引き下げて年3%とされ、同3項により、法定利率は3年ごとに見直す変動制とされました。
この改正は、実務に与える影響も大きく、今回の民法改正の中でも注目すべき改正点といえます。
なお、利息制限法等の法令の範囲内で、当事者が約定により法定利率と異なる利率を合意することが可能であることに変更はありません。
【法定利率の改正内容】
改正前(旧法):法定利率・年5% 固定制
↓
改正後(新法):法定利率・年3% 変動制(3年ごとに見直し)
◆商事法定利率の削除
商法では、商法514条により、商行為によって生じた債務に関し、法定利率は年6%とされていました。つまり、民法よりも1%高く設定されていたのです。
これは、商取引においては、金銭の利用によって民事上の取引よりも多額の収益を上げられるはずであると考えられていたこと等が理由です。
しかし、現代では、さまざまな金融取引市場が整備された結果、商人でなくとも投資を行なったり、必要な情報を容易に取得できるようになったりして、商人と非商人との差異は小さなものとなっています。
そうした状況の変化を踏まえると、商取引であるからといって、民法上の法定利率よりも年1%高い利回りを得る必然性が高いとはいえません。
そのため、民法上の法定利率と異なる商事法定利率を別途定める合理性は失われているとされ、民法改正にあわせて商法514条は削除の上、商取引についての法定利率も民法と同一とされました。
◆法定利率が年3%とされた理由
前述のとおり、今回の民法改正時の法定利率は年3%です。
改正の議論がされていた時期の金利水準は、国内銀行の貸出約定平均金利が年1%弱程度、取引主体が個人である住宅ローンが年2%強、無担保のマイカーローンや教育ローンはいずれも年3%程度となっていました。
これら市中の金利の状況、旧法の法定利率年5%からの円滑な移行といった諸般の事情が総合的に考慮された結果、改正法施行時の法定利率は年3%とされました。
◆法定利率変動制の詳細
(1)基本的な仕組み
まず、改正法施行時の法定利率は年3%とされました。
その上で、市中の金利の変動を適切に反映する指標(以下、「基準割合」といいます)として、日本銀行が毎月発表する国内銀行の「貸出約定平均金利(新規・短期)」(国内銀行の当該月末貸出残高のうち、当月中において実行した貸出で、約定時の貸出期間が1年未満の貸出に関する利率の平均)の60か月の平均値を用い、その増減を法定利率に反映することとされました。
各期の法定利率は、法定利率に変動があった期のうち直近のもの(以下、「直近変動期」といいます)における基準割合と、当期における基準割合との差に相当する割合を直近変動期における法定利率に加算し、または減算した割合とされています(新法404条4項)。
また、法定利率の値については、取扱いを容易にする観点から、整数値となるよう1%未満の端数は切り捨てることとされました。
そのため、法定利率は、2%や4%など、必ず整数値となり、1%未満の端数が生じることはありません。
(2)基準割合の算定にあたり金利を参照する期間
法定利率について、変動制を採用する場合であっても、法的安定性や債権管理の事務負担の軽減等の観点からすると、突発的に変動することは望ましくありません。
そして、基準割合について、一時点における金利を参照すると、当該時点のみの特殊事情による影響を受けるため、一定期間の金利の平均値を参照することになりました。
ただし、期間をあまりに短くすると一時的な事情に影響を受けてしまいますし、あまりに長くても金利動向を適切に反映できません。
たとえば、3年間の平均を計算して基準割合を決めるとすると、石油危機やバブル景気といった一時的・短期的な変動に影響されやすく、妥当ではありません。これに対して、5年間の平均を利用した場合、一時的・短期的な出来事の影響を避けつつ、金利変動の大まかな傾向を反映できると考えられました。
そこで、基準割合は貸出約定平均金利の5年間(60か月)の平均を計算して定めるとされました。
この5年間は、各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年の12月までとされています。
(3)法定利率を見直す頻度
市中の金利は、さまざまな要因から変動します。
他方、法定利率は、法的安定性や債務管理の事務負担の軽減等の視点も考慮する必要があるため、あまり頻繁に変動させることは妥当ではありません。しかし、見直しの間隔を長くしすぎると、市中の金利との乖離が生じる可能性が高くなります。
経済実態等を反映して一定期間ごとに見直しを行なう制度の例として、固定資産税の評価換えの制度があり、不動産については、3年ごとに評価額を見直すこととされています。
そのような事情も踏まえて、新法では、法定利率の見直しの頻度は3年に1度とされました。
なお、1期3年が、具体的にいつの時点から開始するかについては、法務省令に委任されています。