世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。
今回は、【改正民法債権編】に関して、債務不履行による損害賠償請求について考えてみたいと思います。
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債務不履行による損害賠償請求
判例法理を維持しつつ、責めに帰すべき事由(帰責事由)の内容を変更
◆債務不履行とは
債務不履行とは、債務の本旨に従った給付を行なわないことです。
契約が成立すると、当事者の一方または双方は、当該契約の内容に従った義務の履行をする必要があります。
たとえば、車を100万円で売買し、1か月後に決済を行なうことが約束されたとします。この場合、1か月後に、買主は代金100万円を支払い、売主は車を引き渡す義務を負います。この買主・売主それぞれの義務を「債務の本旨に従った給付」といい、その義務を果たさないことが債務不履行となります。
債務不履行がある場合には、いくつかの法律上の効果が生じます。債権者(給付を受ける者)は、債務者(給付をする者)に対して、①なお履行が可能な場合には債務の履行を求める、②損害賠償を請求する、③契約解除の手続きをとる、という各手段をとり得ます。
新法144条1項は、「債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、(中略)履行の強制を裁判所に請求することができる。」としました。これは、①の履行を求める場面の1つを定めたものです。ちなみに、強制執行の手続については、民事執行法に別の定めがあります。
債務不履行の効果のうち、③の解除、つまり契約関係を解消させることについては別で説明します。ここでは、②の債務者に損害賠償を求める場面について検討していきます。
◆債務不履行の要件
債務不履行には、「履行遅滞」「履行不能」「不完全履行」の3つの類型があると考えられています。これらの場合に、損害賠償を含めた債務不履行の効果が発生することになります。
(1)履行遅滞
履行遅滞とは、履行が可能であるのに履行期を超えて債務の履行をしないことを指します。
履行期には、期限がある場合とない場合があります。たとえば、「平成29年1月1日」とか「2か月以内」というように、期限の到来時期が決まっている履行期の定め方を「確定期限」といいます。確定期限がある場合には、その期限が到来した時から履行遅滞となります(法412条1項)。
他方で、「親が死んだら自宅を売る」というように、期限がくることは確実であるものの、その時期が決まっていないことがあります。このような履行期の決め方を「不確定期限」といいます。
不確定期限付債務が履行遅滞となる時期については、法改正がありました。旧法では、債務者がその期限の到来を知った時から遅滞の責任を負う(旧法412条2項)とされていましたが、新法では、債務者が「その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。」(新法412条2項)とされました。
(2)履行不能
履行不能とは、旧法下では、債権が成立した時には履行が可能であったが、その後に履行が不能になることを指しました。
たとえば、売買の目的物が契約成立後に滅失してしまった場合には、同種の物を調達できる場合を除いて、履行不能として債務者には債務不履行責任が発生することになります。
旧法では、履行不能による債務不履行の規定はなく、これが解釈上認められてきました。これを受けて、新法では412条の2で、「債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。」(1項)と、履行不能による債務不履行の規定を新設しました。
ところで、旧法下では、契約時にそもそも履行ができない(原始的不能)場合には、契約自体が無効になるという考え方も有力でした。しかし、原始的不能の場合でも契約自体は有効であるという見解も強く、新法はこの考え方を採用しました。
新法412条の2第2項では、「契約の成立の時に不能であったことは、(中略)履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。」と規定され、原始的不能の場面で損害賠償請求ができることが明らかにされました。
(3)不完全履行
不完全履行とは、本来なすべき給付が不完全な状態で行われることです。目的物の数量や品質が不足している場合や、作為に不十分な点(医療過誤など)がある場合を含みます。
不完全履行の場合、履行がなお可能なときは、履行遅滞の場合と同様、完全な履行を求められますし、損害賠償請求や契約の解除もできます。
◆損害賠償の免責
損害賠償の免責とは、違法な行為によって損害を被った者が、その原因を作った者に埋め合わせを求めることです。
民法上、損害賠償が認められる場合には金銭をもって行なうこととされています(法417条)。債務不履行の場面では、不履行を受けた債権者の損害を金銭的に評価して、不履行をした債務者はその分の金銭を賠償する責任を負うこととなります。新法415条1項は、債務の本旨に従った履行をしないとき、または債務の履行が不能であるときに損害賠償を請求できるとしています。ただし、債務不履行があるときに、常に損害賠償が認められるわけではありません。そして、債務者が免責される場面については、今回法改正があります。
旧法下では、明文の規定ではなく、解釈論として、債務者の「責めに帰すべき事由」(帰責事由)の存在が損害賠償の要件とされてきました(判例・通説)。これは、通常の故意・過失よりも広く、債務者の故意・過失および信義則上これと同視すべき事由と考えられています。故意というのは不履行となることを知っていること、過失というのは一般に求められる注意を欠いていることを指します。
これに対し、新法415条1項ただし書は、「債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるとき」には、債務者は免責されると規定しています。
債務者の責めに帰すべき事由が、故意・過失ではなく、契約その他の債務の発生原因と取引上の社会通念に照らして判断されることになったことがわかります。
債務者の帰責性が認められる場面はケース・バイ・ケースですが、契約当事者の意思や、有償・無償など契約の性質、当事者が契約をした目的、取引をめぐる一切の事情が考慮されることになります。
帰責事由がない場合に債務者が免責されるという点では、旧法も新法も同じです。ただ、帰責事由が認められる判断基準に改正がなされているため、注意が必要です。
なお、債務者が免責されるためには、債務者が、自身に帰責事由のないことを主張立証しなければなりません。債務者は、本来であれば債務の本旨に従った履行をすべき義務を負っているところ、履行をしないことの正当化自由は債務者が明らかにすべきであるからです。主張立証責任の所在については、法改正の前後で変化はありません。
◆履行補助者の責任
旧法下では、解釈によって、履行補助者(債務者が履行にあたって使用する家族・被用者など)に故意・過失がある場合には、債務者に対する債務不履行責任を認めていました。たとえば、リーディングケースとなった判例では、家主の承諾を得て借家を転貸した賃借人につき、転借人(履行補助者)が借家を焼失させたことに関する債務不履行責任を認めています。
新法においても、旧法における解釈と同様、履行補助者に帰責事由がある場合には、債務者に債務不履行責任が発生することになると思われます。
ただし、上記のとおり、帰責事由の内容について法改正がなされているので、履行補助者についても、契約その他の債務の発生原因と取引上の社会通念に照らして帰責事由があるかを判断する必要があります。