【改正民法債権編】賠償額の予定・過失相殺

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【改正民法債権編】に関して、賠償額の予定・過失相殺について考えてみたいと思います。

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賠償の予定・過失相殺

大きな改正はなく、従来の解釈を維持

 

◆賠償額の予定と新法の定め
損害賠償の範囲は、通常損害と当事者が予見すべき特別損害とされています(法416条1項、新法416条2項)。

しかし、取引実務においては、将来起こるかもしれない紛争を事前に回避する目的で、債務不履行があった場合の損害賠償額を事前に合意しておくことがあります。旧法も新法もこの合意の有効性を認めており、「当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。」(新法420条1項)と定めています。

ただ、旧法では、「この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。」(旧法420条1項後段)として、合意された賠償額が裁判所を拘束することを規定していました。
しかし、これまでの判例法理においても、実際に発生した損害賠償額が合意された損害賠償額に比してあまりに過大な場合には、公序良俗に違反するものとして合意を無効にする解決が図られてきました。

これを受け、新法では、旧法420条1項後段の定めは削除されました。
ただし、この規定が削除されたとしても、裁判所が当事者の合意を無視して予定賠償額を増額することは原則できないと考えられています。
なお、本条に関する経過措置により、新法施行日前にされた損害賠償額の予定にかかる合意については、旧法によって規律されることになります。

 

◆賠償額の予定をめぐる諸問題
賠償額を事前に合意したとしても、無効になる場合があります。上記の公序良俗違反の場合に加えて、強行規定に違反する場合にもその合意は無効とされます。

たとえば、利息制限法4条は、「金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が第一条に規定する率の一.四六倍を超えるときは、その超過部分について、無効とする。」と、賠償予定額の上限を規定しています。あるいは、労働基準法16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と、そもそも賠償額の予定をすることを禁じています。

賠償額を予定した場合であっても、債権者は、債務の本旨に従った履行の請求をしたり、要件を満たせば契約の解除をしたりすることができます。
賠償額を予定しても、債権者がこれらの権利を放棄しているわけではないからです。このことは、旧法・新法の両方において、明文で規定されています(法420条2項)。

また、債務不履行の際に債務者が「違約金」を支払う、という趣旨の合意をすることがあります。違約金には、賠償額の予定のみならず、違約罰の約束という趣旨が含まれることもあります。違約罰は本来的に損害賠償とは別のものですから、違約罰の部分は損害賠償とは別に請求できるようにも思われます。しかし、民法では、違約金の定めがある場合には、賠償額が予定されたものと推定することにしています(法420条3項)。
ただ、これは「みなす」規定ではなく、「推定する」規定にとどまりますから、債権者が反証に成功した場合には、損害賠償とは別に違約罰の趣旨で金銭請求することができます。

 

◆過失相殺と新法の定め
新法418条は、「債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。」としています。

債権者にも債務不履行の原因がある場合には、債権者の責任の程度に応じて賠償額を減額し、債権者も実質的に損害を分担して負担します。これが「過失相殺」です。

たとえば、患者が医師に対して自身の既往症を説明し忘れた結果、医師が十分な医療行為が行なえなかった場合(医療行為についての債務不履行がある場合)には、患者は申告漏れについての責任を負い、損害賠償の一部を負担することになります。仮に、この事例で患者側の過失を2割、損害の総額が100万円とするならば、患者は医師に対して80万円の範囲で損害賠償を請求できるにとどまります。

なお、前記の新法418条中、「又は」から「拡大に」までの部分は新法で追加された文言です。ただし、旧法においても、専ら債務者の責めに帰すべき事由により債務不履行が生じた後に、債権者の過失によって損害が発生・拡大したときには、過失相殺がなされるべきとされてきました。したがって、この法改正は、従前の判例・通説を確認したものにすぎないと考えられます。

 

◆「考慮」か「義務」か
法722条2項は、不法行為の場合に関し、裁判所は「被害者の過失を考慮して損害賠償の額を定めることができる」としています。
これに対して、債務不履行の場面では、旧法も新法も、裁判所は過失相殺を考慮して、「損害賠償の責任とその額を定める」と規定しています。

この文言の違いから、債務不履行においては、裁判所は債権者に過失がある場合には義務的に過失相殺をしなければならないようにも読めます。
しかし、実際には、不法行為の場合と債務不履行の場合で扱いに差異を設ける理由はないですし、そもそも裁判所には過失の基礎となる事実を認定するか否かについての裁量があるので、債務不履行の場面の過失相殺を義務的なものと解する実益は乏しいという考え方も有力です。

 

◆損益相殺
債務不履行によって、損害が発生するとともに、債権者が利益を受けることがあります。
たとえば、建築請負契約において、注文者の債務不履行によって請負人が損害賠償を請求する場合、請負人は建築をしなくて済んだことによって、材料費や人件費等の負担を免れます。この免れた負担を、注文者に対する請負代金請求から控除するのが「損益相殺」です。

損益相殺は、過失相殺とは異なる概念で、旧法下では解釈上認められてきた損害賠償の減額要因です。新法においても明文の規定は設置されませんでしたが、今後もこれまで通り承認される概念だと思われます。

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