【相続・遺言について】相続財産④借地・借家の場合

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、相続財産④(借地・借家の場合)について考えてみたいと思います。

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【Q】◆父が突然亡くなり、兄弟で財産を分けることになりました。

1.父は、生前、土地を賃借して、その上に持家を建て、そこに住んでいました。

①父が亡くなった後、この土地を借りる権利はどうなるのでしょうか?仮に父が、この土地を友人から無償で借りていた場合、違いはありますか?

②私たちの母は早くに亡くなくなっており、母の死後、父はAさんと事実上の夫婦として、父の持家に2人で長年にわたって住んでいました。現在もAさんは其の家に住んでいます。私たちとしては、家を自由に使うため、Aさんに家から出て行ってもらいたいのですが、これは法律上可能でしょうか?

2.父は生前アパートの一室を賃借して住んでいました。

①父が亡くなった後、このアパートを借りる権利はどうなるのでしょうか?仮に、このアパートが、父が長年の友人から無償で借りているものであった場合、違いがありますか?

②私たちの母は早くに亡くなっており、母の死後、父はAさんと事実上の夫婦として、そのアパートに2人で長年にわたって住んでいました。現在もAさんはそのアパートに住んでいます。このたび、Aさんは賃貸人(大家さん)から立ち退くように求められているそうです。私たちもAさんにはアパートから出て行ってもらいたいと思ってます。大家さんや私たちの請求は法律上認められますか?

 

【A】◆1.土地を借りる権利

民法上は、相続人は、相続開始により「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」と定めています。これにより、被相続人の所有権や債権、債務、財産法上の法的地位などが包括的に相続の対象となります。

土地の賃借人たる地位についても、財産法上の法的地位といえ、相続の対象になるので、本件では、お父さんの賃借人たる地位を兄弟で相続することとなります。

他方、お父さんが無償で土地を借りていたという使用貸借契約の場合には、お父さんの死亡により契約は終了しますので、相続の対象になりません。

 

◆2.内縁の場合

お父さんの死亡により、持ち家の所有権は兄弟が相続します。内縁であったとしてもAさんには法定相続分はありません。そうすると、Aさんは、お父さんの死亡後、兄弟の持ち家に権限なく居住していることとなるので、兄弟は明け渡しの請求ができるのが原則です。

しかし、常にそのような主張を認めると、長年、お父さんの持ち家に居住しているAさんの利益を害します。

そのため、判例上は、相続人が内縁の寡婦に家屋の明け渡しを求めるのは権利の濫用だとして内縁の配偶者の保護を図ったものがあります。したがって、本件でも、明け渡しの請求が権利の濫用にあたらない限り、Aさんに家から出て行ってもらうことが可能です。

 

◆3.アパートを借りる権利

お父さんがアパートを賃借していた場合も、土地を賃借していた場合と同様に、賃借人たる地位を兄弟で相続することとなります。

また、アパートを無償で借りていた場合も、土地を無償で借りていた場合と同様に、お父さんの死亡によりその使用貸借契約は終了しますので、相続の対象になりません。

 

◆4.明渡しの請求

Aさんは法定相続人ではありませんので、お父さんの賃借権を相続することはありません。そうすると、お父さんの死亡により、大家さんからAさんに対する明け渡しの請求が認められそうです。しかし、これを認めるとAさんにとって酷です。

そこで、判例は、Aさんが相続人の相続した賃借権を援用して居住の権利を主張できることを認めました。

兄弟としては、相続した賃借権について、あえて賃料を不払いにして大家さんから債務不履行解除を受けたり、賃借権自体を放棄したりすることでAさんをアパートから出て行ってもらう方法も考えられますが、下級審の判例には、賃借権の放棄を無効と判断したものもあります。

したがって、本件でもAさんが賃借権を援用し、賃借権の放棄が無効と判断されたような場合には明け渡しの請求は認められません。

【相続・遺言について】相続財産③死亡退職金、香典、お墓、位牌、損害賠償請求権

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、相続財産③(死亡退職金、香典、お墓、位牌、損害賠償請求権)について考えてみたいと思います。

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【Q】◆1.父の勤めていた会社では、労働者が死亡した場合には死亡退職金を支払うとの退職金支給規定があります。この死亡退職金も父の相続財産に含まれるのでしょうか?

◆2.このたび、私が喪主として父の葬儀を執り行ったところ、多数の参列者の方から香典をいただきました。これも父の相続財産に含まれるのでしょうか?

◆3.お墓、位牌、家系図、仏壇も相続財産に含まれるのでしょうか?

◆4.実は父は飲酒運転をしていた自動車に跳ねられて亡くなりました(即死だったようです)。このことによって発生する父の自動車の運転者に対する損害賠償請求権は、相続財産に含まれるのでしょうか?

 

【A】◆1.死亡退職金

死亡退職金は、お亡くなりになった方への賃金の後払いの側面があり、この点からすれば相続財産に含むと考えるべきと言えます。

しかし、死亡退職金には、遺族の生活保障としての側面もあります。この点からすれば、遺族固有の財産と考えるべきとも言えます。

このように、死亡退職金のどの側面に着目するかで結論が異なることになりますが、実務上は、死亡退職金に関する支給規定(支給根拠)によるべきとされています。

つまり、退職金支給規定の支給基準、受給権者の範囲又は順位などの規定により判断されるべきものとされているのです。

例えば、国家公務員については、国家公務員退職手当法により受給権者を遺族としており、職員の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的として受給権者を定めたものと解されますので、死亡退職金は、受給権者固有の権利であって、相続財産には含まれないとされています。

民間企業でも、就業規則等で死亡退職金が定められている場合には、受給権者の範囲や順位等が定められている可能性が高いと思われます。

したがって、まずはあなたの父が勤めていた会社の就業規則等の退職金支給規定を確認する必要があります。

 

◆2.香典

香典は、被相続人の死後、死者への弔意、遺族への慰め、遺族が支出を余儀なくされる葬儀費用などの負担の軽減などを目的として、祭祀主宰者や遺族へ交付されるものです。

したがって、法的には祭祀主宰者や遺族への贈与と評価すべきものでありますので、相続財産には含まれません。

香典は通常は葬儀費用に充てられるものと思われますが、仮に葬儀費用に充てた後で残余があった場合でも、今後の法事の費用等に使用されることが多いと考えられますので、相続人間で当然に分配されるという性質のものではありません。

 

◆3.お墓、位牌、家系図、仏壇

お墓は墳墓、位牌・仏壇は祭具、家系図は系譜として、すべて祭祀財産です。

これらのものが、遺産分割によって容易に分けられないものであることは当然ですが、法律上も「系譜、祭具及び墳墓の所有権は」、「祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する」とされ、祭祀財産は、祖先の祭祀の主宰者に帰属されるとされています。

したがって、これらの祭祀財産は、相続財産には含まれません。ちなみに、祭祀承継者は相続人に限定されません。承継順位は、第一順位が「被相続人が指定した者」、第二順位が「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者と定められた者」、第三順位が「家庭裁判所により定められた者」です。

 

◆4.相続と損害賠償請求権

交通事故の被害者が、加害者に対して損害賠償請求できることは当然です。逸失利益などの財産的損害や慰謝料(精神的損害)を請求できます。それでは、本件のように交通事故により即死した場合はどうなるのでしょうか。

この点、被害者は死亡により権利主体でなくなるのであるから、損害賠償請求権を取得することができず、相続人は、被害者である被相続人が取得しえない損害賠償請求権を相続することはできないのではないかとも思われます。

しかし、このような結論は、交通事故により数時間後に死亡した場合、被害者が損害賠償請求権を取得し、それを相続人が相続できることと比べても不当です。

この問題については、学説上争いがあるところですが、判例では、財産的損害についても、精神的損害についても、損害賠償請求権が相続財産に含まれるとされています。

したがって、父の加害者に対する損害賠償請求権は相続財産に含まれ、あなたはこれを相続することができます。

【相続・遺言について】相続財産②(生命保険)

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、相続財産②(生命保険)について考えてみたいと思います。

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【Q】父は生前に私を保険金の受取人とする生命保険契約を締結していました。この度、父が亡くなり、保険会社から保険金が支払われることになりました。

①この生命保険金も、父の相続財産に含まれるのでしょうか?私が保険金全額を受け取った場合、遺産分割に何か影響はありますか?

②保険金の受取人が「相続人」とされていた場合はどうなるのでしょうか?

【A】◆生命保険金と相続

①生命保険金が相続財産に含まれるか否かは、保険金受取人としてどのような指定がなされているかにより結論が異なります。

受取人が被相続人自身であった場合、観念的には生命保険金はいったん被相続人に帰属すると考えられるため、相続財産に含まれることになります。これに対し、受取人が「相続人」と指定されていたり、相続人のうち特定の者と指定されていたりした場合、生命保険金は相続財産とはならず、受取人固有の財産となるとされています。

本件ではあなたが受取人として指定されていたのですから、生命保険金は相続財産には含まれません。あなたは、相続によってではなく、保険契約による固有の権利として保険金請求権を取得することになります。

それでは生命保険金を取得したあなたと他の相続人との関係はどうなるのでしょうか?遺産分割にあたり相続人による生命保険金の取得という事情が考慮されるか否かが問題となります。

これは、生命保険金が特別受益となるか否かという問題です。仮に特別受益とされるのであれば、これを相続分の前渡しとみて、計算上この生命保険金を相続財産に加算して相続分を算定することになります。

この点については、生命保険金は、原則として特別受益とはならないとされています。したがって、原則として、生命保険金を取得したからといって、遺産分割において、あなたの相続分が減らされるわけではありません。

もっとも、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平感が到底是認することができないほど著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、特別受益に準じて処理すべきとされています。

具体的には、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を考慮して判断されます。

個々の事案によって結論が異なることになります。あくまでも他の事情にもよりますが、生命保険金の額が相続財産の総額に匹敵するほどの額であった場合は、著しい不公平な状態であると評価されやすいでしょう。

②保険金の受取人が「相続人」とされていた場合も同様です。判例では「被保険者死亡の場合の受取人を特定人の氏名を挙げることなく抽象的に指定している場合でも、保険契約者の意思を合理的に推測して、保険事故発生の時において被指定者を特定し得る以上、右の如き指定も有効であり、特段の事情のないかぎり、右指定は、被保険者死亡の時における、すなわち保険金請求権発生当時の相続人たるべき者個人を受取人として特に指定した」ものと解するのが相当とされています。

したがって、この場合でも、生命保険金は相続財産には含まれません。なお、相続人が複数いる場合の各相続人が保険金を受け取る割合については、各相続人が平等に取得するという説もありますが、判例は、原則として、法定相続分の割合による分配とする見解に立っています。

【相続・遺言について】相続財産①(預貯金)

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、相続財産①(預貯金)について考えてみたいと思います。

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【Q】一人暮らしの父が急病で入院して、そのまま亡くなりました。葬儀まで済ませてひと段落がついたところですが、入院費用や葬儀費用を支払うために父名義の預貯金を解約したいと考えています。どのように進めればよいでしょうか。

 

【A】◆1.平成28年の最高裁判決による影響について

①平成28年に最高裁判所が判例を変更するまでの状況

平成28年に最高裁判所が判例を変更する以前は、預貯金は、被相続人の死亡と同時に、相続人らに当然に分割されて相続されるため、遺産分割の対象とはならず、理論的には、各相続人の法定相続分の範囲内で解約・払戻しが可能であると考えられていました。

しかし、相続人かどうかや法定相続分の割合を把握することは困難であり、相続人間で揉めている場合もあるため、これまで金融機関は、自己責任で払戻しに応じるか、被相続人の死亡が分かると、預貯金口座などを凍結して払戻しを停止するという取扱いを行っていました。そのため、相続人が被相続人名義の預貯金口座を解約するには、金融機関所定の手続書類に署名と実印による捺印を相続人全員に行ってもらい、全員の印鑑証明書を添付して、金融機関に提出しなければならない場合がほとんどでした。

これでは、相続人間に争いがあったり、相続人の中に生死や所在不明の方がいたりする場合などでは、預貯金の払い戻しにかなりの時間がかかることになり、遺族が、被相続人の治療費や葬儀費用の支払いといった当面の費用の支払いに苦慮することになってしまいます。

そこで、判例が変更される以前は、相続人が、自ら相続した法定相続分の範囲で預貯金の支払いを求めて金融機関を提訴し、判決を得て支払いを受けるという方法も利用されていたところです。

②最高裁判所による判例の変更

ところが、最高裁判所が平成28年に判例を変更し、預貯金も、被相続人の死亡により各相続人らに当然に分割されて相続されるわけではなく、遺産分割の対象となると判断したため、預貯金の払戻しを行うには長い時間をかけてでも遺産分割を経るほかなくなってしまいました。

遺産分割の場面では、通常は預貯金も含めた全ての相続財産を考慮して分割方法を考える場合が多いでしょうから、これに沿った上記の最高裁判所の判断は自然なものではあります。ただ、相続人間に争いがある場合、遺産分割を調停や審判で最終的に解決するまでには何年もかかることがあり、遺産分割が終了するまで預貯金を解約して払い戻すことができないとなると、相続の際の当座の資金需要に対応できません。

そこで、この度の民法改正により、この問題に対応するための制度が創設されました。

 

◆2.民法の改正などによる対応について

①利用しやすい仮処分手続きの創設

まず、上記のとおり、これまでの仮処分手続は利用が困難であったため、家事事件手続法において、より利用しやすい手続きが創設されました。具体的には、「①遺産分割の審判や調停の申立てがあった場合に、②相続財産に属する債務の弁済や相続人の生活費の支払い等のために、審判や調停を申し立てた相続人やその相手方が、遺産に属する預貯金を(共同相続人の利益を侵害しない範囲で)その者が仮に取得することができる。」というものです。

この手続きにより、遺産分割の調停や審判が成立する前の段階で、相続人が預貯金の一部を仮に取得して、被相続人の死去前の治療費などの支払いを行うことができるようになります。ただ、どのような場合にどの程度の預貯金の取得が認められるかは裁判所の判断となり、また、遺産分割の審判や調停の申立てを行っていなければ利用できません。

②仮処分によらない預貯金の払戻し方法の創設

上記の手続きは、遺産分割の審判や調停の申立てを行ったうえで、さらに仮処分の申し立てを行って裁判所の判断を得なければならず、必ずしも手続きが簡単ではないため、この制度だけでは相続開始直後の資金の必要性に十分に対応できるとはいえません。

そこで、この度の改正により、各相続人が遺産である各預貯金口座ごとに、相続開始時の預貯金額の1/3に当該相続人の法定相続分を乗じた額の範囲内で、各金融機関ごとに法務省令で定められた金額(当面150万円)を上限として、家庭裁判所などの手続きを経なくても、単独で払戻しを受けられるという制度が創設されました。

この制度の創設により、限られた金額ではありますが、迅速に預貯金の払戻しを受け、被相続人の生前の治療費や葬儀費用の支払い等に充てることができるようになったことになります。この払戻しにおいては、上記の仮処分と異なり使用目的などは問題となりません。

なお、この制度によって相続人が払戻しを行った場合、その相続人は遺産の一部の分割により払い戻した部分を取得したものとみなすとされています。(後に、他の相続人のために払戻しを受けて支払ったなどの主張はできない。)

③遺産の一部分割

また、この度の民法改正により、遺産の一部分割が明文の規定として創設されたため、相続人は、遺産の一部分割を活用しやすくなり、裁判所に対しても審判や調停を申し立てやすくなりました。これにより、全部の遺産の分割には時間がかかることが想定される場合でも、遺産の一部分割という形で預貯金についてのみ先行して遺産分割を成立させ、払戻しを受けることが可能になります。

【相続・遺言について】相続放棄

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、養子・非嫡出子・相続放棄の場合の相続分について考えてみたいと思います。

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【Q】1.相続放棄の方法を教えて下さい。

2.私が受取人になっている生命保険があるのですが、相続放棄をしたら、受け取ることができなくなるのでしょうか?

3.受け取ったら相続放棄できなくなるものと、相続放棄をしても受け取れるものを教えてください。

 

【A】◆1.相続放棄の方法

①被相続人が亡くなると、直ちに相続(相続による権利義務の承継)が開始します。ただ、相続では、プラスの財産(不動産や預貯金など)だけでなく、マイナスの財産(借金など)も相続してしまうため、たとえば、被相続人が多額の借金を残している場合など、相続人は相続したくないと考えるかもしれません。そのような場合に、相続人が、相続するのか(単純承認)、一切相続しないのか(相続放棄)、限定的な範囲で相続するのか(限定承認)、選択できるようになっています。相続放棄とは、上記のうち、相続人が被相続人の財産の一切を相続しないことを言います。相続放棄をすると、初めから相続人にならなかったものとみなされます。

②相続放棄をするには、被相続人が最後に住んでいた住所地を管轄する家庭裁判所に相続放棄をすることを申し出なければなりません(「申述」と言います)。相続人間の話し合いの中で、「私は何も相続しなくていい。」「私は相続を放棄する。」などと言っても、それは民法上の「相続放棄」とはなりません。

相続放棄の申述書には収入印紙を貼り、申述書と共に、戸籍謄本や郵便切手等を家庭裁判所に提出します。相続放棄の申述の期間は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内とされています(これを「熟慮期間」と言います)。なお、相続人が相続放棄をする前に死亡した場合、相続人の相続人に放棄の権利が承継されますが、この場合は後の相続人が自己のために相続開始を知ったときから、熟慮期間は起算されます。この熟慮期間は、相続人や利害関係人が、被相続人の財産状況を調査し、相続するのか、相続放棄するのか、限定承認するのかについて、調査・熟慮するための期間です。被相続人の財産状況の調査などのため、利害関係人等は、熟慮期間の延長を家庭裁判所に請求することができます。

③熟慮期間が過ぎると相続放棄が認められないことから、熟慮期間の起算点が問題になることがあります。この点につき、最高裁判所は、相続人が3ヶ月以内に相続放棄等をしなかったことにつき、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人の間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続に対し相続財産の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人においてそのように信ずることに相当な理由があると認められるときには、熟慮期間は、相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべかりし時から起算すべきものと解するのが相当としています。

④なお、相続開始があったことを知ってから3ヶ月以内であっても、相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき(ただし、相続財産を保存するための行為等の例外はあり)は、単純承認といって、無限に被相続人の権利義務を承継するとみなされてしまい、相続放棄ができなくなることがあります。

また、上記3ヶ月以内に相続放棄の手続きをした後であっても、相続人が相続財産の全部又は一部を。隠したり、密かに費消したり、悪意で財産目録に記載しなかったときには、単純承認をしたものとみなされ、相続放棄は認められません。

⑤一度相続放棄をすると、たとえ熟慮期間内であっても、撤回することはできません。ただし、騙されたり、錯誤により相続放棄をした場合など、例外的に相続放棄の取消しや無効が認められる場合があります。

 

◆2.生命保険の受け取り

相続放棄をした場合に保険金を受領できるかどうかは、生命保険金が相続財産にあたるかどうかによります。

生命保険金の受取人が相続人の中の特定の者に指定されている場合、その生命保険金は相続財産にあたりません。この場合、当該特定の相続人が保険金を受け取るのは、相続によるのではなく、保険契約によると考えられるからです。また、生命保険金の受取人が「相続人」と抽象的に指定されている場合、一見、相続により保険金受領の権利が発生するように思えますが、この場合も保険金は相続財産にあたりません。したがって、これらの場合には、相続放棄をしていても、相続人は保険金を受け取ることは可能です。

これに対し、生命保険金の受取人が、被相続人自身の場合には、当該保険金は相続財産になるため、相続放棄をしている場合には、保険金を受け取ることはできません。また、保険金を受領した後は、単純承認をしたものとみなされますので、その後、相続放棄ができなくなります。

 

3.相続放棄をしても受け取ることができるもの

前述のとおり、熟慮期間内であっても、相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときは、単純承認したものとみなされ、相続放棄はできなくなります。

相続財産の中から何らかの物を受け取った場合、それが「相続財産の処分」にあたれば、相続放棄ができなくなります。「相続財産の処分」にあたらないものとしては、さきほどの受取人が相続人と指定されている場合などの生命保険金の受領のほか、遺族年金の受領などがあります。これらは、そもそも、相続財産にはなりませんが、死亡退職金については争いがあるところです。

また、被相続人の形見の物の受領、葬儀費用を相続財産の中から支出することも、「相続財産の処分」にあたらないと考えられます。ただし、これらはいずれも相当な範囲での受領に限られますので、形見分けの範囲を超えて著しく高価な物を受領したり、不相当に豪華な葬儀をした場合の葬儀費用を相続財産から支出した場合には、「相続財産の処分」にあたり、相続放棄が認められない場合があります。

これに対し、被相続人が受取人の生命保険金の受領や、被相続人が有していた債権の取り立て及び受領は、相続財産の処分にあたるため、相続放棄ができなくなる可能性があります。また、受領行為に限らず、相続債務の弁済、相続財産である不動産の売却等も、「相続財産の処分」にあたり、単純承認をしたものとみなされますので、相続放棄ができなくなります。

【相続・遺言について】養子・非嫡出子・相続放棄の場合の相続分

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、養子・非嫡出子・相続放棄の場合の相続分について考えてみたいと思います。

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【Q】次の場合、法律上相続の割合はどうなるのでしょうか?

1. 養子の場合

2. 非嫡出子(法律上の婚姻関係にない男女間の子)の場合

3. 相続放棄が行われた場合

 

【A】◆1.養子の場合

①父親の死亡後、母親が死亡し、実子2名と養子2名がいある場合

子4名の法定相続分は、それぞれ1/4となります。

養子の法定相続分(相続の割合)は、実子と同じです。

 

②普通養子が配偶者も子もなく死亡し、実母と養父母がいる場合

実母と養父と養母の法定相続分は、それぞれ1/3となります。

普通養子縁組(一般的な養子縁組)の場合、養親と親子関係が生じますが、実親との親子関係が消滅する訳ではありません。

 

③特別養子が配偶者も子もなく死亡し、実母と養父母がいる場合

養父と養母の法定相続分は、それぞれ1/2となります。

特別養子縁組をすると、実親との親子関係が終了します。従って、特別養子縁組の場合、実母は相続人ではありません。

 

◆税金の知識

相続税の基礎控除額、生命保険金の非課税限度額、死亡退職金の非課税限度額、相続税の総額の計算を行う場合、法定相続人の数を基に計算を行いますが、この相続人の数に含める養子の数は次の通り制限されます。

①被相続人に実子がいる場合・・・含まれる養子は一人まで。

②被相続人に実子がいない場合・・・含まれる養子は二人まで。

但し、特別養子、配偶者の実子で養子縁組した子、及び、配偶者の特別養子で養子縁組した子の場合は、上記計算では実子と扱われます。

 

◆2.非嫡出子(法律上の婚姻関係にない男女間の子)の場合

①母親の次に父親が死亡して、嫡出子2人、非嫡出子1人がいる場合

ア 父親が平成25年9月5日以降に死亡した場合、法定相続分は、それぞれ1/3になります。

イ 非嫡出子の相続分は、嫡出子の相続分の1/2と規定されていました(民法900条4号但書前段)。しかし平成25年9月4日に最高裁判所は、この民法の規定について不平等で憲法に違反すると判断しました。これを受けて、同年12月5日に民法の一部を改正する法律が成立し、この規定が削除され、嫡出子と被嫡出子の相続分は同等となりました。改正後の規定は、平成25年9月5日以降に開始した相続に適用することとされました。

ウ ただ、上記最高裁判所の判断においては、上記民法の規定が遅くとも平成13年7月当時には憲法違反であったとしつつも、この最高裁判所の判断は、同月から平成25年9月4日までの間に開始された相続について、遺産分割の審判などにより確定的なものとなった法律関係には影響を及ぼさないとしています。

他方、平成13年7月1日から平成25年9月4日までの間に開始した相続について、同月5日以後に遺産の分割をする場合には、最高裁判所の憲法違反の判断に従い、嫡出子と非嫡出子の相続分は同等のものとして扱われることになります。

② 非嫡出子が配偶者も子もなく死亡し、実父母がいる場合

実父、実母の法定相続分は、それぞれ1/2となります。

非嫡出子であることは影響しません。

 

◆3.相続放棄が行われた場合

相続を放棄すると、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます。

なお、相続放棄は、相続開始前の死亡ではありませんので、放棄をした人の子には代襲相続は生じません。

配偶者と子と子の代襲相続人の全員が相続放棄をした場合、直系尊属が相続人となります。

次に直系尊属が相続放棄をすると、兄弟姉妹が相続人となります。

次に兄弟姉妹が相続放棄をすると、相続人不存在となります。

相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は法人とされ、利害関係人の請求によって家庭裁判所が相続財産管理人を選任します。

 

【相続・遺言について】法定相続分(相続の割合)

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、法定相続分(相続の割合)について考えてみたいと思います。

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【Q】法律によって相続の割合が定められていると聞いています。日本では、どのように定められているのでしょうか?

【A】◆配偶者と直系卑属(子・孫)の場合

配偶者が1/2の割合、子が1/2の割合となり、直系尊属(両親・祖父母)及び兄弟姉妹には法定相続分はありません。

子が複数いる場合、子の1/2を子の人数で頭割りすることになります。

代襲相続人(孫等)が複数いる場合は、被代襲者(子など)の相続分を代襲相続人の人数で頭割りすることになります。

◆配偶者と直系尊属(父母・祖父母など)の場合

配偶者が2/3の割合、直系尊属が1/3の割合となり、兄弟姉妹には相続分はありません。直系尊属が複数いる場合は、直系尊属の1/3を直系尊属の人数で頭割りすることになります。

◆配偶者と兄弟姉妹の場合

配偶者が3/4の割合、兄弟姉妹が1/4の割合となります。兄弟姉妹が複数いる場合は、兄弟姉妹の1/4を兄弟姉妹の人数で頭割りすることになります。

ただし、父母の一方だけを同じくする半血の兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする全血兄弟姉妹の相続分の1/2になります。

◆配偶者のみの場合

配偶者が全部を相続します。

◆配偶者がなく、子、直系尊属または兄弟姉妹だけの場合

複数であれば、相続人となる者らの頭割りとなります。

【相続・遺言について】相続人とならないケース

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、様々なケースにおける相続人の該当性について考えてみたいと思います。

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【Q】親に対し、長年にわたって暴力をふるってきた子でも、親の遺産を相続することができるのでしょうか?法律上相続人となる者であれば、どのようなケースでも相続することができるのでしょうか?

 

【A】◆はじめに

相続が開始した場合に相続人になるべき者(推定相続人)であれば、どのようなケースでも被相続人の遺産を相続できるわけではありません。推定相続人は、相続放棄の場合又は相続欠格・廃除の場合、相続資格を失います。以下、相続欠格・廃除について説明します。

 

◆相続欠格

(1)相続欠格とは、推定相続人が欠格事由に該当する場合に、被相続人の意思を問うことなく、法律上当然に相続資格を失う制度です。

(2)民法は以下の5つの欠格事由を定めています。

①「故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者」

②「被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。」

③「詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者」

④「詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者」

⑤「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」

(3)推定相続人が欠格事由に該当する場合、家庭裁判所の審判を要することなく、法律上当然に相続資格を失います。この場合、受遺者の資格も失います。欠格の効果は、特定の被相続人と欠格者との間で相対的に発生するにすぎないと解されます。

 

◆廃除

(1)廃除とは、遺留分を有する推定相続人が廃除事由に該当する場合に、被相続人の意思に基づいて相続資格を失う制度です。

(2)民法は以下の2つの廃除事由を定めています。

①「被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき」

②「その他の著しい非行があったとき」

上記廃除事由に該当するためには、一般的に、被相続人と遺留分を有する推定相続人との関係において、人間関係や信頼関係(相続的協同関係)を破壊する程度の客観的に重大な行為であることが必要であるとされています。

(3)被相続人は、生存中に、その住所地の家庭裁判所に対し、推定相続人の廃除の審判を申し立てることができます。(生前廃除)。

また、被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思表示をしたときは、遺言執行者は遺言が効力を生じた後、遅滞なく、相続開始地の家庭裁判所に対し、推定相続人の廃除の審判を申し立てなければなりません(遺言廃除)。

(4)廃除の審判の確定によって、被廃除者は法律上当然に相続資格を失います。もっともこの場合、受遺者の資格は失いません。廃除の効果は、廃除者と被廃除者との間で相対的に発生するにすぎないと解されます。廃除の審判の確定後、原則として申立人は、被廃除者の本籍地又は届出人の所在地の市区町村に推定相続人廃除届をしなければなりません。

(5)被相続人は、いつでも、その住所地の家庭裁判所に対し、廃除取消しの審判を申し立てることができます。被相続人が遺言で廃除取消しの意思表示をしたときは、遺言執行者は遺言が効力を生じた後、遅滞なく、相続開始地の家庭裁判所に対し、廃除取消しの審判を申し立てなければなりません。

 

◆本ケースの検討

(1)まず、本ケースでは、「親に対し、長年にわたって暴力をふるってきた」という内容からすれば、親を殺害する等したために実刑に処せられたという事情まではないものと思われますので、欠格事由に該当せず、相続欠格は認められないと考えられます。

(2)次に、廃除事由に該当するかが問題となります。被相続人に対する暴力について廃除事由に該当するとした裁判例には、推定相続人が暴力を断続的に繰り返してきたこと、推定相続人が被相続人に無断でその多額の貯金の払戻しを受け、現時点で返済の意思がないこと、暴力をやめた後も被相続人の精神障害ないし人格障害をいう主張ないし行動を続けていることなどから、推定相続人は、被相続人に虐待をし、重大な侮辱を加えたほか、著しい非行に及んだものであるといえ、これにより、被相続人と推定相続人の相続的協同関係は破壊されたものと言わざるを得ないから、廃除するのが相当であるとしたもの等があります。

他方で、廃除事由に該当しないとした裁判例には、被相続人が受けた暴行・障害・苦痛は、相続人だけに非があるとは言えず、被相続人にもかなりの責任があるから、その内容・程度と前後の事情を総合すれば、いまだ相続人の相続権を奪うことを正当視する程度に重大なものと評価するに至らず、廃除事由に該当するものとは認められないとしたもの等があります。

以上によれば、長年にわたる暴力であったとしても、そのことから直ちに廃除事由に該当するものとは認められず、暴力に至った原因、暴力を加えた期間の長さ、暴力の内容・程度、暴力以外の事情等を考慮し、被相続人と推定相続人の相続的協同関係を破壊する程度の客観的に重大な行為と言えるかを検討し、廃除事由に該当するか否かを判断することになると考えます。

【相続・遺言について】様々なケースにおける相続人該当性

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、様々なケースにおける相続人の該当性について考えてみたいと思います。

【Q】前回どのような人が相続人になるのかは分かりましたが、次のようなケースではどうなるのでしょうか?

①:内縁配偶者、事実婚パートナーのケース

②:子が出生前の胎児であるケース

③:子が親より先に死亡していたケース

④:実際には他人の子であるのに、実子として出生届を出しているケース

【A】①:内縁配偶者、事実婚パートナーのケース

内縁とは、婚姻届を提出していないものの、男女が婚姻の意思を持って実際に夫婦生活を営んでいる関係をさします。これと似たものとして、最近は事実婚という言葉が使われることがあります。内縁と全く同じ意味でつかわれる場合もあれば、内縁のうち特に当事者が意図的な選択によって婚姻届を提出しない場合を意味することもあります。

内縁・事実婚ともに、相続の場面では法律上の夫婦と明確に区別され、内縁配偶者・事実婚パートナーは相続人にはなれません。

内縁配偶者も、婚姻届を提出していないだけで、法律上の配偶者と区別する必要はないとして、相続人となることを実質的に認めようという見解もありますが、最高裁判所はこのような見解を明確に否定しています。

ただし、被相続人に相続人が一切いない場合で、内縁配偶者・事実婚パートナーが相続人と生計を同じにしていたような場合には、特別縁故者として相続財産の分与を受けられる可能性はあります。

②:子が出生前の胎児であるケース

民法は、胎児は相続について「既に生まれたものとみなす」と規定し、「胎児が死体で生まれたときは」はじめから相続人とならなかったものとされます。

「既に生まれたものとみなす」といっても、実際に生まれていない胎児が相続人となって遺産を受け取ることはできません。判例実務上は、生きて生まれた場合に相続時にさかのぼって相続人の権利を認め、遺産分割もそのときまで待つという扱いになっています。この場合、生まれたばかりの子は、他の相続人との話し合いなどできませんので、親族や弁護士等が子の代理人となり、話し合いに参加することになります。

③:子が親より先に死亡していたケース

被相続人である親が死亡した場合に、相続人となるべき子が親より先に死亡していたら、その子は親の相続人となることはできません。

しかし、その子に子(親から見たら孫)がいた場合、その孫が親(孫から見た祖父母)の相続人となることができます。これを「代襲相続」と言います。

ただし、子が親の養子で、孫が養子縁組前に生まれていた場合には、代襲相続は発生せず、孫は相続人にはなれません。

また、被相続人より先に、子及び孫が死亡し、ひ孫がいる場合は、ひ孫が相続人となります。これを「再代襲」と言います。

代襲相続は、子が先に死亡していた場合だけではなく、兄弟姉妹が法定相続人となるケースで、その兄弟姉妹が被相続人より先に死亡していた場合にも発生し、兄弟姉妹の子(被相続人から見た甥や姪)が相続人となります。ただし、このケースでは「再代襲」は認められません。

④:実際には他人の子であるのに、実子として出生届を出している場合

実際には他人の子であるのに、養子縁組の届出をせず、自分の実子として出生届を提出することがごくまれにあります。「藁の上からの養子」と呼ばれるものです。このような出生届は、虚偽の内容を含むものであり、出生届としては無効です。

この点については、実質的には養子縁組とすべき事案であるので、実子としての出生届に養子縁組届としての効力を認めるべきという見解もありますが、最高裁判所はこれを否定し、親子関係は(養親子関係も含めて)認められないとしています。つまり原則として「藁の上からの養子」は相続人ではありません。

ただし、長期間にわたって親子としての生活実体が存続していたような場合には、このような結論が不当となる場合もあります。

最高裁判所も、近時、藁の上からの養子であるXが約55年間にわたって実子として生活してきた場合に、他の相続人Yが、Xと両親との間の親子関係が不存在であると主張することは権利の濫用にあたり許されないとする判断を下しています。つまり、この事案においては、藁の上からの養子が相続人になったのと同じ結論になります。

ただし、単に長期間実子として生活しただけでは足りず、様々な具体的事情(他の相続人が親子関係の不存在を主張する動機、藁の上からの養子が受ける不利益等)を考慮した上での判断ですので、一般化できるものではありません。

【相続・遺言について】相続人の範囲

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回からは【相続・遺言】に関して基本的なところから解説していきたいと思います。

【Q】相続人となることができるのはどのような人でしょうか?

【A】◆配偶者について

亡くなった人のことを「被相続人」、財産などを相続する人のことを「相続人」と呼びます。

被相続人に近い関係のある者としては、配偶者と血族(親、兄弟姉妹、子など)が考えられますが、このうち配偶者については常に相続人となると定められています。従って、夫が亡くなれば、妻は常に相続人ということになります。

◆血族について

血族については、子、親、兄弟姉妹の順に相続人となります。

① 被相続人に親、兄弟姉妹、子のいずれもがいる、ということもあるでしょう。この場合全員が相続人となれるわけではありません。相続人となる順位は民法で定められており、上の順位の者がいる場合には、その者のみが相続人となります。

② 第1順位とされているのは「子」です。ここでいう子には、実の子だけでなく「養子」も含みます。つまり「子」がいる場合は配偶者と子が相続人となります。

また、夫が亡くなる前に子が亡くなっていた場合、子の子つまり「孫」がいる場合には、その孫が相続人となり、親、兄弟姉妹は相続人とはなりません。

③ 第2順位とされているのは、「直系尊属」です。直系尊属とは、祖父母や父母などのように、血縁関係が縦につながっている者をいいます。養親は含まれますが、配偶者の父母は含まれません。

直系尊属の中では、親等の近い者が優先されます。従って、父母いずれかが存命であれば、祖父母は相続人となりません。両親ともに亡くなっているが、祖父母のいずれかが健在である場合、その祖父母と妻が相続人となり、兄弟姉妹は相続人とはなりません。

④ 兄弟姉妹は、先順位者である子、直系尊属ともに存しない場合に、初めて相続人となります。つまり夫が亡くなった場合、配偶者である妻と、夫の兄弟姉妹が相続人となります。

兄弟姉妹には父母の一方のみが同じ者も含まれますが、父母の両方を同じくする兄弟姉妹とは相続分が違います。

また、夫が亡くなる前に兄弟姉妹が亡くなっていた場合、兄弟姉妹の子、すなわち被相続人の「甥や姪」が相続人になります。

⑤ なお、先順位者がいない場合とは、そもそも存在しない場合や亡くなっている場合だけでなく、相続放棄がなされた場合なども含みます。

良くいただくご相談の中に、ご夫婦にお子様がいらっしゃらない場合、「お互い配偶者だけに財産が相続される」と勘違いされているケースです。

このケースは上記③のケースまたは④のケースに該当しますので、あくまでも配偶者と被相続人の親または兄弟姉妹と相続の話し合いをしなければならなくなるので、事前に遺言書作成等対策が必要となります。