【相続・遺言について】相続財産①(預貯金)

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、相続財産①(預貯金)について考えてみたいと思います。

世田谷の相続・遺言・成年後見は090-2793-1947までご連絡を

 

【Q】一人暮らしの父が急病で入院して、そのまま亡くなりました。葬儀まで済ませてひと段落がついたところですが、入院費用や葬儀費用を支払うために父名義の預貯金を解約したいと考えています。どのように進めればよいでしょうか。

 

【A】◆1.平成28年の最高裁判決による影響について

①平成28年に最高裁判所が判例を変更するまでの状況

平成28年に最高裁判所が判例を変更する以前は、預貯金は、被相続人の死亡と同時に、相続人らに当然に分割されて相続されるため、遺産分割の対象とはならず、理論的には、各相続人の法定相続分の範囲内で解約・払戻しが可能であると考えられていました。

しかし、相続人かどうかや法定相続分の割合を把握することは困難であり、相続人間で揉めている場合もあるため、これまで金融機関は、自己責任で払戻しに応じるか、被相続人の死亡が分かると、預貯金口座などを凍結して払戻しを停止するという取扱いを行っていました。そのため、相続人が被相続人名義の預貯金口座を解約するには、金融機関所定の手続書類に署名と実印による捺印を相続人全員に行ってもらい、全員の印鑑証明書を添付して、金融機関に提出しなければならない場合がほとんどでした。

これでは、相続人間に争いがあったり、相続人の中に生死や所在不明の方がいたりする場合などでは、預貯金の払い戻しにかなりの時間がかかることになり、遺族が、被相続人の治療費や葬儀費用の支払いといった当面の費用の支払いに苦慮することになってしまいます。

そこで、判例が変更される以前は、相続人が、自ら相続した法定相続分の範囲で預貯金の支払いを求めて金融機関を提訴し、判決を得て支払いを受けるという方法も利用されていたところです。

②最高裁判所による判例の変更

ところが、最高裁判所が平成28年に判例を変更し、預貯金も、被相続人の死亡により各相続人らに当然に分割されて相続されるわけではなく、遺産分割の対象となると判断したため、預貯金の払戻しを行うには長い時間をかけてでも遺産分割を経るほかなくなってしまいました。

遺産分割の場面では、通常は預貯金も含めた全ての相続財産を考慮して分割方法を考える場合が多いでしょうから、これに沿った上記の最高裁判所の判断は自然なものではあります。ただ、相続人間に争いがある場合、遺産分割を調停や審判で最終的に解決するまでには何年もかかることがあり、遺産分割が終了するまで預貯金を解約して払い戻すことができないとなると、相続の際の当座の資金需要に対応できません。

そこで、この度の民法改正により、この問題に対応するための制度が創設されました。

 

◆2.民法の改正などによる対応について

①利用しやすい仮処分手続きの創設

まず、上記のとおり、これまでの仮処分手続は利用が困難であったため、家事事件手続法において、より利用しやすい手続きが創設されました。具体的には、「①遺産分割の審判や調停の申立てがあった場合に、②相続財産に属する債務の弁済や相続人の生活費の支払い等のために、審判や調停を申し立てた相続人やその相手方が、遺産に属する預貯金を(共同相続人の利益を侵害しない範囲で)その者が仮に取得することができる。」というものです。

この手続きにより、遺産分割の調停や審判が成立する前の段階で、相続人が預貯金の一部を仮に取得して、被相続人の死去前の治療費などの支払いを行うことができるようになります。ただ、どのような場合にどの程度の預貯金の取得が認められるかは裁判所の判断となり、また、遺産分割の審判や調停の申立てを行っていなければ利用できません。

②仮処分によらない預貯金の払戻し方法の創設

上記の手続きは、遺産分割の審判や調停の申立てを行ったうえで、さらに仮処分の申し立てを行って裁判所の判断を得なければならず、必ずしも手続きが簡単ではないため、この制度だけでは相続開始直後の資金の必要性に十分に対応できるとはいえません。

そこで、この度の改正により、各相続人が遺産である各預貯金口座ごとに、相続開始時の預貯金額の1/3に当該相続人の法定相続分を乗じた額の範囲内で、各金融機関ごとに法務省令で定められた金額(当面150万円)を上限として、家庭裁判所などの手続きを経なくても、単独で払戻しを受けられるという制度が創設されました。

この制度の創設により、限られた金額ではありますが、迅速に預貯金の払戻しを受け、被相続人の生前の治療費や葬儀費用の支払い等に充てることができるようになったことになります。この払戻しにおいては、上記の仮処分と異なり使用目的などは問題となりません。

なお、この制度によって相続人が払戻しを行った場合、その相続人は遺産の一部の分割により払い戻した部分を取得したものとみなすとされています。(後に、他の相続人のために払戻しを受けて支払ったなどの主張はできない。)

③遺産の一部分割

また、この度の民法改正により、遺産の一部分割が明文の規定として創設されたため、相続人は、遺産の一部分割を活用しやすくなり、裁判所に対しても審判や調停を申し立てやすくなりました。これにより、全部の遺産の分割には時間がかかることが想定される場合でも、遺産の一部分割という形で預貯金についてのみ先行して遺産分割を成立させ、払戻しを受けることが可能になります。

コメントを残す