世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。
今回は後見制度に関して、「身内でも罪に問われる⁈成年後見人の横領行為に対して懲役2年の実刑判決が下された裁判例」について考えてみましょう。
【Q】高齢の親戚の成年後見人になった人が、財産を使い込んで横領罪に問われたケースがあると聞きましたが、身内でも、刑法上の罪に問われてしまうのですか?
【A】身内であっても、家庭裁判所によって成年後見人に選ばれた以上、財産を使い込んでしまった場合には、業務上横領罪に問われます。実際に業務上横領罪として懲役2年の実刑判決が下された事件がありますので、ご紹介します。
この事件の登場人物は、叔母さんと甥です。叔母さんが倒れたため、甥が成年後見開始の申立てを行い、叔母さんの成年後見人となり、叔母さんの預金通帳を管理するようになったのですが、その甥は、生業にしていた焼きそば店の経営が振るわず、多額の借金をしていました。そこで、成年後見人として叔母さんの預金通帳を預かっているのをよいことに、1年8ヶ月余りの間に、合計26回にわたり通帳から現金を引き出して、自分の借金の返済に回していたのです。
このようにして預金から引き出したり、預金を解約して借金の返済に回したお金は、合わせて1800万円にもなりました。このような甥の横領行為が発覚したのは、家庭裁判所が甥に、財産の目録を提出するよう求めたのが、きっかけでした。
つまり家庭裁判所は、成年後見人が財産の管理を適切に行っているかをチェックするために、いつでも、管理している財産の状況に関する目録を提出するよう求めることができます。そこで、このときも、成年後見人である甥に対して、叔母さんの財産の目録を提出するよう求め、その結果、横領行為が判明したというわけです。
その後の経過も申しますと、家庭裁判所は、甥に、成年後見人としての不正行為があったとして、直ちに甥を解任して、新しい成年後見人を付けました。こうして新しく選ばれた成年後見人によって甥が刑事告訴され、その結果、裁判で、懲役2年という実刑判決が下されたというわけです。(秋田地裁H18.10.25判決・仙台高裁秋田支部H19.2.8判決確定)
元々、親族の間で、横領行為などの一定の犯罪が行われた場合は、刑法では、刑罰が免除されたり、告訴がなければ裁判にかけられないと定められています。それに比べると、この事件で懲役2年という実刑判決が下されたことは、厳しいと言えるかもしれません。ただ、成年後見制度は、判断能力が低下した方の権利を擁護するという、いわば公益的な制度なので、成年後見人が、その地位を悪用した場合には、その分、厳しい処分を受けることになるのは、やむを得ないと言えます。
成年後見人として選ばれた以上、不正・不適切な財産管理をした場合には、成年後見人を解任されるだけではなく、刑事上も厳しい刑が下されることもあるのです。もちろん、横領行為に対しては、民事上の損害賠償請求も可能ですので、民事上も訴えられる可能性があります。