【相続・遺言について】不動産評価と基準時

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲について考えてみたいと思います。

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【Q】父の遺産として不動産を相続しました。相続開始時から遺産分割までに父から相続した不動産価格が大きく下落しました。不動産の評価方法について教えてください。

 

【A】◆1.不動産価格の基準時について

遺産である不動産価格の評価をいつの時点を基準として行うかについて、実際の事例の多くは、現実に遺産を分割する時点の評価に従って遺産を分割します。

但し、特別受益や寄与分など各相続人の相続分が問題となる場合には、各相続人の具体的相続分を算定する必要があるため、相続が開始した時点での不動産の価格を評価して、各相続人の相続分を算定します。その後、具体的相続分に従って、どの遺産を誰が相続するか決める際には、遺産を分割する時点の不動産価格の評価を基に、遺産の分割が行われます。

したがって、ご質問の事例で特別受益や寄与分など各相続人の相続分が問題となるかならないかわかりませんが、最終的には、遺産を分割する時点の評価に従って遺産を分割することになりますので、不動産の価値が大きく下落している価値での評価となります。

なお、当事者間で合意ができれば、遺産分割時以外の時点を基準時とすることができます。

◆2.不動産の価格の評価方法について

①話し合いの段階

ア)当事者間での話し合いの段階では、遺産である不動産の価格の評価には、(A)固定資産評価額(B)相続税評価額(C)公示地価(D)基準地標準価格等の資料が参考になります。しかし、これらについては次のような問題点も指摘されています。

(A)固定資産評価額(土地家屋評価台帳などに登録された基準年度における価格又は比準価格)は、各不動産について価格を求めることができるという利点があり調停でもよく参考とされますが、評価替え時期との関係で実勢価格との格差が出やすいと指摘されています。都市部では、実勢価格より固定資産評価額の方が低いと言われていますが、不動産取引が活発ではない中山間地域では、実勢価格より固定資産評価額の方が高い場合もあるようです。

(B)相続税評価額(相続税賦課の基礎となる財産評価基本通達により対象土地の地目ごとに路線価方式、倍率方式、比準方式のいずれかによるべきことが指定されています。)も調停でよく参考にされますが、路線価をもとに対象となる不動産の個別的要因を考慮して評価を算出する必要があり、路線価のある道路に面していない土地や形状の悪い土地では算出が困難な場合もあります。

(C)公示価格及び(D)基準地標準価格は、時価に近いとされますが、対象となる標準地・基準地が少なくこれらに基づいて対象土地の評価を算出する際の調整が困難です。

 

イ)その他には、遺産である不動産の近隣の不動産業者による不動産査定書を参考にすることも多いです。

また、当事者が自ら不動産鑑定を依頼して、遺産である不動産の鑑定をして不動産の価格を算定することもありますが、依頼者に有利な評価になってしまうという指摘もあります。

調停においては、家庭裁判所の調査官により、遺産である不動産の価格の調査報告がされることもありますが、一般的には、家庭裁判所の調査官は、不動産評価に関する専門家ではありませんので、その調査について過大な期待はできず、当事者間に評価について争いが多い場合には有効な資料になりにくいとされています。

また、調停の段階では、不動産鑑定士の資格を有する方を家事調停委員に指名して遺産の評価についての意見を聴取することもできます。この方法は、専門家の意見ですの信頼性において優れ、かつ、格別の費用も要しないのが利点ですが、不動産鑑定士の資格を有する家事調停委員を確保することが困難であるという難点もあります。

なお、調停手続の段階でも、下記に述べる鑑定が行われることがあります。鑑定は多額の費用を要することから、調停で鑑定する場合には、鑑定を無駄にしないために、鑑定に先立ち、鑑定結果に従うとの当事者全員の合意を調書に記載するのがよいとされています。ただし、遺産である不動産の価格が低い場合や不動産数が多い場合などには、高額な費用を負担しなければならない鑑定によるのは合理的ではないので、上記の他の方法で合意することが多いです。

 

②審判手続の段階

当事者間の話し合い(調停も含む)によっては、遺産である不動産の価格が合意に至らなかった場合には、審判手続によって遺産である不動産の価格が決定されることになります。審判手続においては、遺産である不動産の価格について鑑定が行われることが多いです。

鑑定とは、家庭裁判所から選任された鑑定人がその専門的知識により鑑定を行い、裁判所に鑑定結果を報告するもので、最も客観性に優れ、当事者も信頼することのできるものです。鑑定費用については、鑑定を希望する者に全額予納させたうえで、審判において、各相続人に相続分に応じた負担を命ずることが多いです。なお、当事者に資力がない場合には、当事者全員の合意で相続財産から鑑定費用を拠出することもできます。

鑑定人のする鑑定においては、(A)取引事例比較法(B)収益還元法(C)原価法の3つの各評価方法に基づく価格を算定した上で、現実の不動産の状況や条件に照らした総合的考察により、最終的な評価額を決定する手法が採られていることが多いです。

なお、(A)取引事例比較法とは、同種の不動産が市場において取引されている価格との比較で価格を算定する方法を言い、(B)収益還元法とは、当該不動産を利用することによりどの程度の収益を得られるかに着目して、その収益を期待利回りで除して資本還元することにより価格を算定する方法を言い、(C)原価法とは、当該不動産がどの程度の費用で造成・建築されるかという原価に着目して価格を算定する方法を言います。

したがって、ご質問の事例では、上記①で説明した評価方法による不動産の価格で合意できれば、それが遺産である不動産の価格になります。しかし当事者間の話し合いによって合意できなければ、上記②で述べた審判手続で遺産である不動産の価格が決められることになり、その前提として鑑定人による鑑定が行われることが多いです。

 

◆3.土地賃借権の価格の評価方法について

不動産の所有権ではなく、土地賃借権(借地権)が遺産である場合も多いので、触れさせていただきます。土地賃借権は更地価格に対して借地権割合と言われる一定の割合を乗じて算出されることが多いです。借地権割合には地域差がありますが(およそ更地価格の30%~90%)、これは税務署が相続税を算出するための数値で、路線価図などに記載されています。都市部の方が中山間地域に比べて借地権割合が高い傾向にあります。

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