【相続・遺言について】相続税の申告と期限

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、相続税の申告と期限について考えてみたいと思います。

世田谷の相続・遺言・成年後見は090-2793-1947までご連絡を

 

【Q】①相続税の申告義務があるのはどのような場合ですか?
②相続税の申告が必要な場合、いつまでに申告する必要がありますか?

【A】◆1.相続税の申告と期限
相続税の納税義務者は、原則として、相続もしくは遺贈(死因贈与を含む、以下同じ。)により財産を取得した個人または、被相続人からの贈与について相続時精算課税制度の適用を受けた個人です。
被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した者の「課税価格の合計額」が「遺産に係る基礎控除額」を超える場合において、納付すべき相続税額が算出される者は、相続税の申告書を提出しなければなりません。

「課税価格の合計額」は相続人及び受遺者の各人の課税価格を合計したものです。各人の課税価格は、相続又は遺贈により取得した財産のうち非課税財産を除いたものの価額と、相続や遺贈によって取得したとみなされる財産(例えば保険金や死亡退職金等)で非課税限度額を超える価額との合計額から、葬式費用等や債務の額を控除し、相続開始前3年以内の贈与財産の価額を加算して計算します。

「遺産に係る基礎控除額」は3000万円+(600万円×法定相続人の数)です。

「課税価額の合計額」から「遺産に係る基礎控除額」を控除した残額を基に、相続税の総額を計算し、相続税の総額を、各人が取得した財産の額(割合)に応じ配分し、各人の算出税額を計算します。各人の算出税額から、各人に応じた各種の税額控除額を控除し、各人の納付すべき税額を計算します。

以上の計算の結果、納付すべき相続税額が算出された者は相続税の申告が必要です。
相続税の申告が必要な場合、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、申告と納税をしなければなりません。相続税の申告書の提出先は、被相続人の死亡時の住所を管轄する税務署長となります。

また、配偶者に対する相続税額の軽減や、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例など、相続税を軽減する特例が適用できる場合がありますが、このような特例の中には、申告書の提出を適用要件にしているものが少なくありません。このような特例を受ける場合には、その特例の適用により納付すべき相続税額が0円になる場合であっても、相続税の申告書を提出しなければならないことに留意してください。

そして、申告期限内に、相続税の申告書を提出しなかった場合には、本来の相続税額に加えて、延滞税や無申告加算税などの負担が生じることがあります。
申告期限を知らなかった、調査すれば把握できた遺産を調査しなかったために基礎控除額を超える遺産があることを知らなかった、相続人間で遺産分割について揉めており、調停や裁判手続で忙しかった等の理由は、期限内に申告書を提出しなかったことの正当な理由とは認められません。

また、申告期限内に遺産分割ができていない場合には、いったん、法定相続割合で取得したものとして申告期限内に申告書を提出した上、遺産分割協議が成立した後、その結果に応じて、修正申告などをする必要があります。
この場合、当初の申告書と共に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておかないと、配偶者に対する相続税額の軽減や、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例などの適用が受けられなくなりますので、留意してください。

【相続・遺言について】配偶者の居住権を長期的に保護するための方策

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、配偶者の居住権を長期的に保護するための方策について考えてみたいと思います。

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【Q】今回の相続法改正で、配偶者の居住権を長期的に保護するための方策が制定されたと聞きました。そこで、具体的にどのような制度・方策なのか教えてください。

【A】◆1.制度創設の理由
近年の社会の高齢化の進展及び平均寿命の伸長に伴う家族形態・家族観の変化の中で、被相続人の配偶者(以下生存配偶者と言います)が、被相続人の死亡後、長期間にわたって住み慣れた居住環境での生活を継続することは少なくありません。そこで生存配偶者のこれまでの居住環境・居住権を確保しつつ、その後の生活資金として、居住権以外の財産(特に預貯金)についても一定程度確保・保護すべく、所有権とは別に、配偶者居住権が創設されました。
そして、配偶者居住権が設定された住居(居住建物)の所有者は、配偶者居住権という負担付の所有権者となります。

◆2.配偶者居住権の内容
次に、配偶者居住権の内容についてお話しします。
配偶者居住権は、相続開始の時に、被相続人の住居(居住建物)に居住していた生存配偶者に、原則として終身、その住居に無償で生活できる権利を確保する内容となっています。つまり、生存配偶者はこれまで使用していた住居全体について、引き続き使用及び収益することができるということです。

また、配偶者居住権は、生存配偶者の居住権を保護するために認められた権利ですので、帰属上の一身専属権となります。そのため、配偶者居住権を譲渡することはできません。さらに、配偶者居住権は、法律上の配偶者に限定されており、内縁の配偶者や事実婚の配偶者には、適用はありません。

気を付けることとして、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでないと規定されていることです。
すなわち、被相続人とその子が共有している建物の場合、配偶者居住権を取得することはできません。

加えて、生存配偶者が死亡した場合には、当然に配偶者居住権は消滅し、相続の対象にもなりません。

◆3.配偶者居住権の成立要件について
配偶者居住権の成立要件は、配偶者が相続開始の時に被相続人所有の建物(被相続人と他の者との共有の建物除く)に居住していたことを前提に、①その建物について、生存配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割、②被相続人からの遺贈、③死因贈与契約、④家庭裁判所の審判、のいずれかによりなされたこと、となっています。

ここで、「被相続人所有の建物に居住していた」という要件に関連して、被相続人死亡時に、生存配偶者が入院していたり、施設へ入所していたりという場合が想定されます。
しかしこの場合、生存配偶者の入院・入所が一時的なもので、家財道具が建物に存在し、退院・退所後に、当該建物に帰ることが予定されていた等であれば、このような生存配偶者については、「被相続人所有の建物に居住していた」という要件を満たすものと考えられます。

◆4.配偶者居住権を第三者に対抗する手続き
生存配偶者が、配偶者居住権を第三者に対抗するには、配偶者居住権の設定の登記が必要になります。
遺産分割に関する審判や調停によって配偶者居住権を取得したときは、その審判書や調停調書に、配偶者が単独で配偶者居住権の登記手続きをすることができるよう記載されることが通常ですので、審判書や調停調書に基づき単独で申請をすることができます。

また、遺産分割に関する審判書や調停調書がない場合には、配偶者居住権の設定の登記は、生存配偶者と居住建物の所有者と共同で申請する必要があります。
もっとも、居住建物の所有者が登記の申請に協力しない場合は、生存配偶者は、居住建物の所有者に対して登記義務の履行を求める訴えを提起することができ、この訴えが認められれば、判決に基づき、生存配偶者は、単独で登記申請をすることができます。

◆5.配偶者居住権が設定された場合の居住建物の修繕費用等について
配偶者居住権が設定された場合の居住建物の修繕費用等は、居住建物の所有者が負担することはなく、生存配偶者が負担することとなります。
また、配偶者居住権が設定された場合の固定資産税についても、生存配偶者が負担することになります。

◆6.配偶者居住権の施行期日について
2020年4月1日からとなっております。

【相続・遺言について】配偶者の居住権を短期的に保護するための方策

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、配偶者の居住権を短期的に保護するための方策について考えてみたいと思います。

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【Q】最近、夫が亡くなりました。夫は遺言を残していません。私には2人の子がおり、その2人の子と遺産分割協議をしていますが、なかなか協議が調わない状況です。私は夫が生前所有していた建物に長年住んでおり、現在もそこで暮らしています。子2人との遺産分割協議が調うまでの間、私はその建物に住み続けることはできるのでしょうか?

 

【A】
配偶者の一方が亡くなった場合、残された配偶者は今まで暮らしてきた建物に住み続けたいと希望されることが多いと思います。これまでの判例では、配偶者が、相続開始時被相続人の建物に居住していた場合には、原則として、被相続人と相続人との間で使用貸借契約が成立していたと推認され、配偶者は居住していた建物に無償で住み続けることができました。

しかし、この判例の枠組みでは、第三者に居住建物が遺贈されてしまった場合や、被相続人が遺言などで配偶者が建物を無償で使用することについて反対の意思表示をしていた場合には使用貸借が推認されないため、配偶者が建物に住み続けることができないといった問題がありました。

このような事態を避け、遺された配偶者の生活を配慮し、遺された配偶者の居住の権利を保護するため、民法の相続法の規定が改正され、新たに「配偶者短期居住権」という制度が創設されました。

配偶者短期居住権とは、配偶者が亡くなった後しばらくの期間、遺された配偶者が自宅で生活できるように配慮して制定された権利(制度)です。配偶者は、相続開始時に被相続人の所有する建物に無償で住んでいた場合には、次のとおり今まで住んでいた建物を短期間無償で使用することができます。

①残された配偶者が居住建物の遺産分割に関与する場合、居住建物を誰が相続するかが確定する日までの間、配偶者は居住建物に居住することができます。
(ただし、早期に遺産分割協議が成立した場合、配偶者は被相続人が亡くなった日から最低6か月間は居住建物に住むことができます。)

②居住建物が第三者に遺贈された場合や、遺された配偶者が相続放棄をした場合、遺贈や相続によって居住建物を所有することになった者から配偶者短期居住権の消滅請求を受けてから6か月間が経過するまでは、配偶者は居住建物に居住することができます。

配偶者居住権の導入によって、被相続人が居住建物を遺贈した場合や、遺された配偶者が居住建物に住み続けることに反対の意思を表示した場合であっても配偶者の居住は保護されることになります。
また、配偶者短期居住権によって、遺された配偶者は最低6か月間は居住していた自宅に住み続けることができることになります。

今回のご相談では、相談者は夫が生前所有していた建物に長年住んでおり、現在もそこで暮らしていることから配偶者短期居住権を主張することができます。そして、夫が生前所有していた建物は遺贈されておらず、相談者も相続放棄をしていないことから、建物を誰が相続するかについての遺産分割協議が調うまでは、建物に住み続けることができます。また、夫が亡くなってから6か月以内に遺産分割協議が調った場合には、遺産分割協議成立後であっても夫が亡くなってから6か月間は建物に住み続けることができます。

なお、配偶者短期居住権については2020年4月1日から施行されることになっておりますので、これよりも前に亡くなった被相続人の配偶者に対しては、配偶者短期居住権は発生しませんのでご注意ください。

【相続・遺言について】遺産分割協議書の作成

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、遺産分割協議書の作成について考えてみたいと思います。

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【Q】①母が亡くなりました。相続人は私と、兄と妹です。私たちは、母の遺産である不動産と預金の分割協議を行ってきました。ようやくみんなが納得する形で協議がまとまりそうです。協議がまとまった場合、内容を書面に残しておいた方がよいですか?書面に残す場合、どのようなことに注意したらよいですか?

②遺産分割協議書の作成が終わり、ホッとしたところ、母宛に証券会社から封書が届きました。この証券会社に連絡してみたところ、母が株式を持っていたことが新たに分かりました。遺産分割協議をやり直さなければいけませんか?

 

【A】A◆1.遺産分割協議が調った場合
相続人全員の間で遺産分割協議が調ったとして、これを書面にすること(遺産分割協議書を作ること)は法律上必要とされていません。しかし、次の理由から遺産分割協議書は作成した方がよいでしょう。
①書面にすることにより、後日の紛争を防止できる。
②遺産の中に不動産がある場合、遺産分割によって、その所有権を移転する登記手続をするためには、遺産分割協議書が必要になります。
③遺産の中に預貯金があって、相続の手続をする場合、遺産分割協議書の提示を求められることがあります。
④相続税の申告が必要な場合、法定相続分と異なった遺産分割をしたときなどに、遺産分割協議書が必要になります。
以上のことから、遺産分割協議が成立した際には、遺産分割協議書を作成することをお勧めします。

 

次に、遺産分割協議書を作成する場合に気を付けたい点をお伝えします。

①誰が、どの財産を取得するのか明らかにしましょう。
特に、遺産の内容について正確に記載し、「特定」できるように気を付けましょう。ここでの「特定」とは、ほかの財産と間違えることなく識別できるという意味であると考えてください。
・不動産であれば、その登記事項証明書を最寄りの法務局で取得し、そこに記載されている通りに正確に記載しましょう。
・預貯金であれば、金融機関名、支店名、口座種類、口座番号、名義人まで記載しておきましょう。
ポイントは、事情を全く知らない人(例えば、不動産の登記官や金融機関の窓口職員といった、遺産分割手続きに関わる人)が遺産分割協議書の記載から、どの遺産を指すかを明確に判断できるようにする、と観点が必要です。

②印鑑は、実印(役所に印鑑登録しているもの)を使いましょう。
後日の紛争を防ぐためです。また、不動産の登記手続のように、遺産分割協議書に実印を押し、相続人全員の印鑑証明書を添付しなければならないものがあります。

③遺産分割協議書が2枚以上にわたる場合、相続人全員の印鑑(実印)で契印をしましょう。
契印とは、2枚以上の文書が一体であることを示すための印です。すべてのページの見開き部分にまたがるように押印する等の方法がとられます。
一部のページの差し替え防止の機能を果たします。

④相続人の数だけ遺産分割協議書を作成し、各相続人が1通ずつ保管しましょう。

 

◆2.新たに遺産が発見された場合
後日、新たに遺産が発見された場合、既になされた遺産分割協議を始めからやり直しする必要があるのかどうかは、新たに発見された遺産の重要性(遺産分割協議に与える影響)によって異なります。

もし、その遺産の存在が当初から判明していれば、全く異なった遺産分割協議になったであろう場合などには、協議が無効となる可能性があります。
他方、そのような特段の事情がない場合には、遺産分割協議をやり直す必要はなく、新たに判明した遺産について分割協議することになります。

遺産分割協議書を作成する際には、新しい遺産が発見された場合を想定して、その取得は別途協議して定める旨や、相続人を指定して取得する旨を定めておく条項を入れておくことも検討しましょう。

【相続・遺言について】協議中の遺産の管理

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、協議中の遺産の管理について考えてみたいと思います。

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【Q】父が亡くなってから1年以上になりますが、相続人の間で遺産分割協議が調っていません。相続人は私を含めた息子3人です。父はこのあたりでは名の知れた資産家で、自宅の土地建物のほか、リゾート地の別荘や、賃貸用マンションを所有していました。
①自宅が台風の直撃を受け、屋根瓦が飛ぶ、窓ガラスが割れるなどの被害を受けました。私が単独で修理しても良いのでしょうか?

②リゾート地の別荘について、私たち兄弟には使うあてがないので、誰かに貸して賃料収入を得ればいいのではないかと思っています。私が単独で貸しても良いのでしょうか。売却する場合はどうでしょうか?

③賃貸用マンションについては、父の死後も、入居者が毎月の賃料を支払ってくれています。この賃料は誰がいつ取得するのでしょうか?

 

【A】◆1.相続財産の管理方法
相続人が複数いる場合、相続財産は共同相続人の共有になり、各相続人は相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します。
そのため、遺産分割がなされていない遺産についても共同相続人がその相続分に応じて帰属し、共同して管理することになります。

判例によると、遺産の管理方法については、民法の共有に関する定めに従うことになりますが、民法はその管理方法について以下のとおり定めています。

①保存行為
意味:現状を維持する行為
方法:相続人が単独で行うことができる

②管理行為
意味:財産の性質を変更しない範囲内の利用改良行為
方法:相続分の過半数の同意により行うことができる

③変更・処分行為
意味:物理的な変更、権利の処分行為
方法:相続人の全員の同意により行うことができる

 

◆2.質問①について
①家屋の修繕(保存行為)
家屋の修繕は、現状を維持する行為であり「保存行為」にあたりますから、各相続人が単独で行うことができます。

②家屋の使用(管理行為)
遺産である家屋の利用は、遺産の「管理行為」にあたりますから、相続分の過半数の同意があれば、相続人1人が家屋を使用することができます。

 

◆3.質問②について
①賃貸
第三者への遺産の賃貸は、現状を維持する行為ではなく、「保存行為」とは言えないため、相続人が単独で行うことはできません。そして、第三者への遺産の賃貸は、以下のとおり、その賃貸期間に応じて「管理行為」と「処分行為」に分かれます。

民法602条の期間を超える賃貸
裁判例は、民法602条の期間(建物は3年)を超える賃貸を遺産の「処分行為」と判断しました。よって、民法602条の期間を超える賃貸をするためには、共同相続人全員の同意が必要です。

民法602条の期間を超えない賃貸
裁判例は、民法602条の期間を超えない賃貸を遺産の「管理行為」と判断しました。よって、民法602条の期間を超えない賃貸をするためには、相続分の過半数の同意が必要です。共同相続人全員の同意までは必要ではありません。

②売却
遺産の売却は「処分行為」ですから、相続人単独での遺産の売却はできず、共同相続人全員の同意が必要です。

 

◆4.質問③について
判例は、相続開始から遺産分割までの賃料を誰が取得するかが争われた事案において、相続開始から遺産分割までの間、遺産である不動産を使用管理した結果生ずる賃料債権は共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、その後の遺産分割の影響を受けないと判示しました。

よって、相続開始後のマンションの賃料は、共同相続人が相続分に応じて毎月の賃料支払い時に確定的に取得します。
なお、以上の見解によれば、各相続人は相続分に応じて賃料債権を確定的に取得していますから、一部の者が単独で賃料を取得した場合、他の相続人は賃料を取得した相続人に対し、民事訴訟を提起して自己の相続分に応じた金銭の支払いを求めるのが原則です。しかし、実務上は、相続人全員の同意がある場合、遺産分割手続きの中で賃料の分配を協議することもできるとされています。

【相続・遺言について】未成年者・認知症の方などへの遺産分割

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今回は、【相続・遺言】に関して、未成年者・認知症の方などへの遺産分割について考えてみたいと思います。

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【Q】①夫が突然の事故で亡くなってしまいました。相続人は、妻である私と、10歳の娘の2人だけです。夫には、自宅マンションや預金などの財産がありましたが、これらの遺産を私と娘の間で分割するためには、どのような手続きが必要ですか。娘の親権者である私が娘を代理して遺産分割協議を行うことはできますか?

②父が88歳で亡くなりました。相続人は80歳の母と、私を含めた子供3人です。母は認知症のため、息子である私の顔も分からないような状況です。父の遺産について法定相続人の間で分割協議をする場合、母を除いて遺産分割協議をすることはできますか?

 

【A】◆1.相続人に未成年者がいる場合
あなたが娘さんを代理して遺産分割協議を行うことはできません。
家庭裁判所に娘さんの特別代理人を選任してもらい、その特別代理人との間で遺産分割協議を行います。

親権者は、子の財産に関する法律行為について代理できるのが原則であり、遺産分割も法律行為の一種です。
しかし、外形的・客観的に利害が対立する「利益相反行為」は、親権者が、その子である未成年者の法律行為を代理して行うことはできません。子である未成年者との間の遺産分割は、利益相反行為にあたります。仮に行うと、その効力は原則として無効とされます。

本件での相続人はあなたと10歳の娘さんの2人だけですから、あなたが娘さんを代理して遺産分割協議を行うことはできません。
有効な遺産分割を行うためには、家庭裁判所に娘さんのための特別代理人を選任してもらう手続きが必要です。そして、あなたと特別代理人との間で遺産分割協議を行うことになります。

 

◆2.相続人に認知症等意思無能力者がいる場合
お義母さんを除いた3人の子供だけで遺産分割協議を行うことはできません。
家庭裁判所にお母さんの成年後見人等を選任してもらい、その成年後見人等がお母さんの代理人となってあなた方と遺産分割協議をします。

遺産分割協議では、相続人全員の意思が反映されることが重要であることから、共同相続人全員の参加と同意が必要とされ、一部の相続人を除外して行った遺産分割は無効となります。
したがって、お母さんを除いた3人の子供だけで遺産分割協議を行うことはできません。

他方で、お母さんは認知症で息子であるあなたの顔もわからない程ですから、遺産分割協議を自身で行うのに必要とされる意思能力について問題があると思われます。
このままお母さんを交えて、お母さんと3人の子供の合計4人で遺産分割協議をしても、その遺産分割は共同相続人のひとりであるお母さんの意思に基づくものとは認められず、やはり無効です。

共同相続人の中に意思能力に問題がある相続人がある場合、有効な遺産分割協議を行うには、別途の手続きが必要となります。
その相続人の意思能力の問題の程度によって、成年後見人や保佐人、補助人を家庭裁判所に選任してもらい、その成年後見人等がその相続人に代わって手続きに参加して遺産分割協議ができる体制を整えます。
その上で成年後見人等と他の相続人との間で遺産分割協議を行うことで、有効な遺産分割が可能となります。

本件でお父さんの遺産について有効な遺産分割をするには、まず意思能力に問題があるお母さんのために、遺産分割についての権限を有する成年後見人等を家庭裁判所に選任してもらいます。
その上で、成年後見人等と他の法定相続人である3人の子供で遺産分割協議を行うことになります。

【相続・遺言について】遺言がない場合

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【Q】父が亡くなりましたが、遺言書などは発見されませんでした。
①このような場合、父の遺産をどのように分割すればよいのでしょうか。分割方法に法律上の制限はありますか?
②相続人間で分割協議が整わなかった場合、裁判所で調停や審判の手続きを行う必要があると聞きました。それぞれの手続きの流れや内容を教えて下さい。

 

【A】◆1.遺言がない場合の遺産分割手続きの方法
お父様の遺産を分けるうえで、まず誰が相続人かを確認してください。
また、お父様の遺産を特定してください。
お父様の相続人があなた一人の場合、あなたが遺産全てを相続することになりあます。

相続人が複数いらっしゃる場合、遺産をどう分けるか、相続人全員の間で話し合いをすることになります。この話し合いを遺産分割協議といいます。
相続人全員が合意できたのであれば、お父様の遺産をどのように分割するかは自由です。
ただし、お父様の遺産の中に借金があった場合、相続人全員で借金をどう負担するか決めても、その債権者が同意しない限り、債権者からの相続分に応じた請求を逃れることはできません。

遺産分割のやり方、例えば、相続人の間で会って話をするのか、メールや電話で話をするのかは、自由です。
相続人の間でお父様の遺産を分けた後、遺産を受け取るためには、話し合いの結果を、遺産分割協議書という書面に残す必要があります。
遺産分割協議書の書き方によっては、金融機関(預金を引き出す場合)や法務局(登記を移す場合)が、遺産の名義の変更を受付けてくれないことがあります。

遺産の分割について話し合いが成立したのであれば、その時点で専門家である行政書士や弁護士、司法書士等に相談することをお勧めします。
トラブルなく財産を移転するための遺産分割協議書を作成できます。

 

◆2.遺産分割調停、審判について
何らかの原因で、相続人の間で分割協議が整わなかった場合、お父様の遺産をどう分けるか、裁判所を通じて解決することになります。
この場合、原則まずは家庭裁判所で話合うことになります。この話合いを調停と言います。

調停手続きは、原則相続人全員が参加する必要があります。
調停は、当事者が所管の家庭裁判所に申立書を提出することで、開始します。
調停手続では、裁判所の調停委員という人に、対立する当事者双方の言い分を、交代で聞いてもらいます。
その中で、お互いが納得できる解決案を探ることになります。
調停委員に話を聞いてもらう際、対立する相続人同士が、顔を合わせることはありません。

調停手続で話合いがついた場合、裁判所が、その内容を、調停調書という書面にまとめてくれます。
調停調書があれば、遺産を受け取ることが可能になります。
調停で話合いがまとまらなかった場合、調停は終了となり、自動的に審判手続に移行します。

審判とは、裁判所が、お父様の遺産について、強制的に分割してしまう手続きです。分割の方法は、原則法定相続分に従ってされます。
遺産に不動産がある場合、売却しなければならなくなる可能性があります。審判がでて確定した場合、審判書に基づいて、遺産を受け取ることになります。

なお、今まで、「原則」と書いたものには、法律上、例外もあります。例外が当てはまるかどうかや、調停や審判を、どこの裁判所に、どのように申立て、何を主張するかは、個別の事件で大きく変わります。それによって、遺産分割の結果が大きく変化する可能性があります。
相続人の間で分割協議が整わなかった場合、紛争事案の専門家である弁護士に相談することをお勧めします。

【相続・遺言について】遺言がある場合の分割手続

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【Q】遺言がある場合には、遺言と異なる遺産分割をすることはできないのでしょうか?

 

【A】◆1.遺言がある場合の遺産分割の原則
遺言がある場合は、原則としてその遺言に沿って遺産が分割されます。我が国のような私有財産制の国においては、自分の財産の処分は自分の意思をもって自由に決定することが認められています。

遺言は、被相続人の最後の意思表示ですから、遺言でもってその人は、自分の財産を誰にどれだけ譲るかを自由に決定できるのです。そして、被相続人の最終意思は尊重されなければなりません。

例えば、「自宅の土地建物は妻に、預金は長男に、株式は長女に」というような遺産分割方法を指定した遺言があった場合、それぞれの遺産は遺言の趣旨に沿って、相続開始と同時に当該相続人に直接帰属することになります。

また、「遺産の2分の1は長男に、残りの2分の1は3人の姉妹で分けるように」というように、相続する割合(これを相続分といいます)のみを指定した遺言もあります。こうした場合は、遺言の趣旨に沿って、具体的に誰がどれを相続するかについて、遺産分割協議を行う必要があります。

 

◆2.遺言と異なる遺産分割をする方法
一方、遺言により利益を得た相続人や受遺者も自分の財産を処分する自由がありますから、遺言により得た利益や遺贈を放棄することが認められています。また、遺言の内容そのものが年月の経過等により実行不可能となっていたり、遺言の実現が経済情勢や相続人の生活状況の変化により妥当性を失っていたりしている場合もありますので、遺言の内容に従うことが常に合理性があるとは限りません。

そこで、遺言がある場合でも相続人全員(受遺者がいる場合には受遺者も含みます)の同意があれば、遺言と異なる遺産分割をすることができます。例えば、「自宅の土地建物は妻に、預金は長男に、株式は長女に」という遺言があった場合、相続人3人全員の同意があれば、「自宅の土地建物は長男に、預金は長女に、株式は妻に」というように、遺言の内容を変更して遺産分割することができることになります。

また例えば、「遺産の2分の1は長男に、残りの2分の1は3人の姉妹で分けるように」という遺言があった場合でも、相続人全員の同意があれば、遺産分割の協議の中で「全員が4分の1ずつ等分に取得する」というように、遺言の内容を変更して遺産分割することができます。

 

◆3.遺言執行者がいる場合
ただし、遺言執行者がいる場合には問題があります。遺言執行者は遺言内容に従って執行することが本来の職務ですから、相続人全員の同意により遺言の内容と異なる財産処分を求められても、遺言に基づいた執行をすることができます。その反面、遺言執行者がいる場合には、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができないことになっており、相続人がこれに反してなした行為は無効とされています。

そこで、遺言執行者がいる場合に相続人全員が遺言と異なる遺産分割を望んだとき、遺言執行者はそのような分割に同意することができるかという問題があります。

遺言執行者としては、例えば、遺留分を侵害する遺言において遺留分侵害額請求権が行使された場合などのように、相続人間の争いを調整するために、事実上遺言を一部訂正したうえで執行せざるを得ない場合があります。したがって、相続人全員の同意があれば、遺言執行者はそのような分割に同意をすることができると考えることができます。

この点について、遺言執行者の同意のもとに、利害関係人全員の同意のうえでなされた相続財産の処分行為を有効とした裁判例があります。

いずれにしても、実務上では、遺言執行者がいる場合において、遺言内容と異なる遺産分割協議を行うときには、遺言執行者を加えたうえで成立させる必要があるといえます。

そもそも遺言執行者がその職に就職する以前に、遺言執行者就職を辞退してもらうように交渉することも一つの方法と言えます。

【相続・遺言について】共同相続における権利の承継の対抗要件

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、共同相続における権利の承継の対抗要件について考えてみたいと思います。

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【Q】①父は、その所有する土地甲を私に相続させる旨の遺言をして亡くなりました。私は手続きがよくわからず、忙しかったこともあり、父の遺言に基づいて土地甲の登記を私に変更することなく放置していました。そうしたところ、父の相続人である弟が土地甲の登記を自分の名義として第三者に売却してしまいました。このような場合、私はその第三者に土地甲の権利を主張できるのでしょうか?

②父は、私の相続分を3分の2、弟の相続分を3分の1とする旨遺言をして亡くなりました。私は、手続きがよくわからず、忙しかったこともあり、父の遺言に基づいて土地甲の登記を変更することなく放置してしまいました。そうしたところ、弟が土地甲の登記を自分の名義として第三者に売却してしまいました。
このような場合、私はその第三者に土地甲につき3分の2の権利があることを主張できるのでしょうか?

③父は全ての財産を私に相続させる旨の遺言書を遺して亡くなりました。相続人は私と弟の2人です。父の遺産には1000万円の預貯金があります。預貯金の払い戻しを受けるにはどのような手続きが必要でしょうか?

 

【A】◆1.Q①について
お父さんの遺言によれば、弟さんは土地甲の権利を持っていませんから、当然土地甲を誰かに売却することはできないはずです。ですが、今回、弟さんは土地甲の登記を自分の名義にして第三者に売却してしまいました。土地のような不動産は、登記をしていないと第三者に対して権利を主張できなくなってしまうのではないかという問題です。

特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺贈であることが明らかな場合などを除き、原則として遺産分割の方法を指定したものと考えられます。そのため今回の遺言の内容は、土地甲をお兄さんに相続させるという遺産分割方法の指定がされているといえます。

ところで、相続による権利の承継は、法定相続分を超える部分については、登記などの対抗要件を備えなければ第三者に対抗できません。そしてこれは土地のような特定の財産を承継させる遺言の場合にも当てはまります。

お父さんの相続人が兄弟2人のみの場合、その法定相続分は各2分の1となります。そうすると、土地甲については、お兄さんの名義の登記をしていない以上、土地甲を購入した第三者に対して主張することはできません。
本問では、あなたの法定相続分である2分の1に限り、土地甲の権利を主張することができることになります。

 

◆2.Q②について
この問いでは、遺言でお兄さんの相続分を3分の2、弟を3分1とするという相続分の指定がされています。この場合も、上記Q①の場合と同様に、相続による権利の承継は、法定相続分を超える部分については、登記などの対抗要件を備えなければ第三者に対抗できませんから、土地甲についてお兄さん名義の登記をしていない以上、第三者にあなたの法定相続分である2分の1を超える3分の2の権利があることを主張することはできません。

 

◆3.Q③について
相続人が兄弟2人である場合、法定相続分はそれぞれ2分の1となります。すべての財産をお兄さんに相続させる旨の遺言の内容は、Q①やQ②と同様、法定相続分を超える権利の承継となり、第三者に対して権利を主張するためには、対抗要件を備える必要があります。ここでいう「第三者」には、債務者も含まれます。
預貯金の払い戻しを受ける権利は債権です。預貯金の払い戻しを行う債務を負う債務者である銀行に対して、お兄さんは債権の対抗要件を備える必要があります。債権の対抗要件は、債務者への通知又は債務者の承諾であり、債務者以外の第三者に対抗するためには、確定日付のある証書によって行う必要があります。

本問で、あなたが銀行から1000万円の預貯金の払い戻しを受けるためには、共同相続人である兄弟が銀行に通知するか、銀行が承諾することが必要になります。それにより、あなたは預貯金の払い戻しを請求できるようになります。

ところで、共同相続人間で感情的対立などがあり、他の共同相続人の協力が得られず、通知ができない場合が考えられます。このような場合は、法定相続分を超えて債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容を明らかにして債務者に承継の通知をすることで、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなされます。

本問では、法定相続分を超えて債権を承継したあなたが、債務者である銀行に遺言の内容を明らかにして通知をすることで、銀行に対して預貯金の払い戻しを請求できることになります。
ここでいう遺言の内容を明らかにする方法としては、遺言書を交付することが考えられますが、それに限らず、客観的に遺言の有無やその内容を判断できるような方法で良いとされています。例えば、相続人が遺言の原本を提示し、債務者の求めに応じて債権の承継の記載部分の写しを交付するという方法も考えられます。

【相続・遺言について】事業承継に関する制度

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、事業承継に関する制度について考えてみたいと思います。

世田谷の相続・遺言・成年後見は090-2793-1947までご連絡を

 

【Q】中小企業ですが、株式会社の社長をしております。今後長男を後継者にと考えており、仕事を引き継がせたいと指導中です。私には長男の他に嫁いだ娘が2人います。
①私の死後、会社をうまく長男に引き継がせるためには、民法上どのような制度が利用できますか?
②遺留分に関する特例とはどういったものですか?
③もし、長男を後継者にできなければ、娘たちには会社は引き継がせられません。同業他社に引き継いでもらえるならそれもよいかと思っています。会社法上どのような制度が利用できますか?

 

【A】◆1.事業承継に関する民法上の諸制度
あなたの死後、長男が会社を引き継ぐための民法上の制度としては、生前贈与や遺言と言った制度が利用できます。

円滑な事業承継を行い、承継後の経営を安定させるためには、後継者(長男)に自社株式や事業用資産を集中させることが重要です。あなたが生前に何の対策もしないまま死亡した場合、あなたの所有している自社株式や事業用資産は他の相続人に分散してしまいます。

このような事態を防ぐためには、生前にあなたが所有している自社株式や事業用資産を徐々に長男に贈与したり(生前贈与)、自社株式や事業用資産を長男に相続させる旨の遺言書を作成することが必要です。

しかし、あなたの相続財産の大半が自社株式や事業用資産である場合、長男への生前贈与や遺言は他の相続人の遺留分を侵害する可能性があります。その場合、他の相続人から長男に対する遺留分侵害差額請求がされた結果、遺産相続が紛争化してしまうおそれがあります。

特に自社株式の生前贈与を行った場合、死亡する10年以内になされた生前贈与は特別受益として遺留分算定の基礎財産に加えられることになります。さらに遺留分算定の基礎財産に加えられる金額は、贈与された時点での自社株式の時価ではなく、相続開始時点での時価額となるため、贈与を受けてから相続開始時までの間に評価額が上昇していれば、上昇後の評価額が贈与額として基礎財産に算入されてしまいます。

このような遺留分についての問題が生じることを防ぐため、あなたが生きているうちに、長男以外の相続人に遺留分を放棄してもらう制度があります。
この場合には、長男以外の相続人全員が、家庭裁判所に申し立てを行い、許可を受ける必要があります。
家庭裁判所は、事前放棄を申し立てた相続人が十分な見返りとなるものを受け取っているかなどを確認します。場合によると許可をしないこともあります。
また、申し立てをする相続人にしてみれば、何らのメリットもなく、家庭裁判所での手続きをするという負担を被ることになります。

 

◆2.遺留分に関する民法の特例
このように事業承継における遺留分の問題については、民法上の制度だけでは対応することが困難でした。そのため平成20年5月に中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)が成立し、遺留分に関する民法の特例が出来ました。

この特例では、現経営者の遺留分を有する推定相続人全員において、現経営者から後継者に生前贈与や遺贈等された自社株式等について、遺留分算定基礎財産に算入しない旨の合意をすることができます(除外特例)。
また、現経営者から後継者に生前贈与等された自社株式等について、遺留分算定の基礎財産に算入する際の価額を当該合意時の価額に固定する旨の合意をすることもできます(固定合意)。
なお、除外特例と固定特例は併用することもできます。例えば、後継者が現経営者から贈与等により取得した1000株のうち、500株を除外特例の対象とし、残りの500株を固定合意の対象とすることもできます。

これらの特例を利用するためには、
①会社が中小企業であり、3年以上継続して事業を行っている非上場会社であること
②現経営者が過去又は合意時点において会社の代表であること
③後継者が合意時点で会社の代表者であること
④現経営者からの贈与等によって株式を取得したことにより会社の議決権の過半数を保有していること
⑤現経営者の遺留分を有する推定相続人全員の合意があること
といった要件を満たす必要があります。

そして、上記要件を満たしている場合に遺留分を有する相続人間全員で合意書を作成し、経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可を受けることで初めて当該合意は効力を生じます。

合意書には、
①合意が会社の経営の承継の円滑化を図ることを目的とすること。
②後継者が現経営者からの贈与等により取得した自社株式についての除外合意または固定合意(もしくはその両方)。
③後継者が合意した対象の株式を処分した場合や現経営者の生存中に後継者が会社代表でなくなった場合に非後継者が取ることができる措置の定め(例えば、非後継者は他の非後継者と共同して当該合意を解除できる等)
が必ず記載されていなければなりません(必要的記載事項)。

また、後継者が現経営者からの贈与等により取得した事業用資産などの自社株式以外の財産や非後継者が現経営者からの贈与等により取得した財産を遺留分算定の基礎財産から除外する旨の合意や推定相続人間の公平を図るための措置(後継者は非後継者に一定の金銭を支払う等)について記載することもできます(任意的記載事項)。

そして合意書の作成から1ヶ月以内に、経済産業大臣の確認を申請しなければならず、経済産業大臣の確認を受けてから1ヶ月以内に家庭裁判所の許可の申立てをしなければなりません。

 

◆3.会社法上の諸制度の利用
同業他社にあなたの会社の事業を引き継いでもらう方法としては、M&A(企業の合併や買収)により会社そのものを売却するなどして経営を引き継いでもらうことが可能です。M&Aでは、合併、株式交換、株式移転、会社分割、株式譲渡、事業譲渡といった会社法上の制度が利用されています。

①合併
合併とは、会社の全資産・負債・従業員等を丸ごと他の会社に承継する手法です。実務上は2つの会社の一方が解散し、その資産や負債・人材・技術などの経営資源をもう一方の存続会社が吸収して引き継ぐ形の合併(吸収合併)がなされることがほとんどです。

②株式交換
株式交換とは、株主総会の特別決議によってあなたの会社の全株式と他社株式等を交換することです。この場合、あなたの会社は交換先会社の100%子会社(完全子会社)になり、あなたが保有していた自社株式が交換先会社の株式や現金に変わります。

③株式移転
株式移転とは、事業承継する会社が完全親会社となる持ち株会社を設立し、事業承継する会社もあなたの会社も新設された持ち株会社の完全子会社となる方法です。

④会社分割
会社分割とは、あなたの会社の事業部門のうちの一部門を切り出して、他の会社に承継する方法です。事業譲渡との違いは、買い手企業側は事業承継の対価として現金ではなく株式を利用できるということにあります。

⑤株式譲渡
株式譲渡とは、あなたが所有している自社株式を事業譲渡する会社等に売却することです。

⑥事業譲渡
事業譲渡とは、あなたの会社の事業の一部を他の会社に売却することです。事業譲渡の場合、会社分割に比べてより個別の事業単位での売却が可能です。