【相続・遺言について】遺留分侵害額の算定(各論)

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、遺留分侵害額の算定(各論)について考えてみたいと思います。

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【Q】先月父が亡くなりました。相続人は、兄、私、弟の3人です。
①父の遺産としては、土地(2000万円)と預貯金1000万円があります。父は「土地は兄に相続させ、預貯金は500万円を兄に、300万円を弟に、200万円を私に相続させる」という内容の遺言書を残していました。
この場合、私の遺留分及び遺留分の侵害額は、いくらになりますか?

②父の遺産として、土地(2000万円)、預貯金1000万円、そして借金600万円がありますが、父は「土地は兄に相続させ、預貯金は、500万円を兄に、300万円を弟に、200万円を私に相続させる」という内容の遺言書を残しました。
この場合、私の遺留分及び遺留分の侵害額は、いくらになりますか?また、父の借金全額を兄が返済した場合はどうなりますか?

③先月、父が亡くなりました。相続人は子供である兄と私の2人です。父の遺産としては、土地(各5000万円の価値)と貯金1000万円がありますが、他方で、4000万円の借金もありました。父がすべての遺産を兄に相続させるという遺言書を残していた場合、私の遺留分額及び遺留分の侵害額はどのように計算するのでしょうか?また、私は兄に対し、具体的にどのような請求をすることができるのでしょうか?

 

【A】◆1.①の場合(積極財産のみの場合)
結論:あなたの遺留分は500万円であり、遺留分侵害額は300万円です。

理由:まず、遺留分権利者に該当するのは、第三順位である兄弟姉妹以外の相続人となります。したがって、あなたは遺留分権利者です。

そして、遺留分算定のための財産の価額は、相続開始時に被相続人が有した財産の価額に、被相続人が贈与した財産の価額を加えた額から被相続人の債務全額を控除したものとなります。ですので、父の遺産である土地の価額2000万円と預貯金1000万円の合計額である3000万円が遺留分算定のための財産の価額となります。

そして、遺留分権利者が直系尊属以外の者である場合、遺留分は遺留分算定のための財産の価額の2分の1に遺留分権利者の相続分を乗じた額となります。ですので、あなたの遺留分は500万円となります。

そして、遺留分侵害額は、遺留分から、遺留分権利者が受けた特別受益、遺贈及び取得すべき遺産額を控除し、遺留分権利者が承継する債務の額を加算したものとなります。あなたは相続により200万円を得ています。したがって、あなたの遺留分侵害額は、これを控除した300万円となります。

 

◆2.②について相続財産の中に債務がある場合)
結論:あなたの遺留分は400万円であり、遺留分侵害額は400万円です。そして、お兄さんがお父さんの債務全額を返済した場合、お兄さんはあなたに対して、遺留分侵害額400万円のうち200万円について支払いを拒否することができます。

理由:まず、遺留分算定のための財産の価額は2400万円です(土地の価額2000万円+預貯金1000万円-借金600万円)。そして、あなたの遺留分は400万円になります。(2400万円×1/2×1/3)
これから、相続により得た200万円を控除し、相続債務である200万円(600万円×1/3)を加算した額である400万円が遺留分侵害額になります。

そして、遺留分侵害を理由とする金銭給付の請求を受けた受遺者又は受贈者は、遺留分権利者の負担する相続債務について弁済等の債務消滅行為をしたときは、消滅した相続債務の額の限度において、自己の負担する金銭給付義務の消滅を請求することができます。この点は平成30年改正で加えられた規定です。
そのため、お兄さんがお父さんの債務全額を返済した場合、お兄さんはあなたに対して400万円のうち、200万円について支払義務の消滅を請求することができます。

 

◆3.③について(相続人1人にすべてを相続させる旨の遺言がなされた場合)
結論:あなたの遺留分侵害額は500万円であり、お兄さんに500万円の金銭を支払うよう請求することができます。

理由:遺留分算定のための財産の価額は、2000万円になります(土地の価額5000万円+貯金1000万円-借金4000万円)。そして、遺留分は500万円になります(2000万円×1/2×1/2)。
そして、遺留分侵害額も500万円になります。
この点前記「◆2.」の計算によれば、2000万円を加算すべきとも考えられます(借金4000万円×1/2)。

しかしながら、判例は、相続人の1人にすべての財産を相続させる遺言がなされた場合について、「相続人間においては、当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継する」ので、「遺留分の侵害額の算定においては、遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されない」と判示しました。
したがって、あなたの法定相続分に応じた相続債務の額2000万円を加算しません。

そして、遺留分権利者は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができます。

 

【相続・遺言について】遺留分侵害額の算定(総論)

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、遺留分侵害額の算定(総論)について考えてみたいと思います。

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【Q】遺留分の額や遺留分の侵害額は、どのようにして計算するのですか?

 

【A】◆1.遺留分算定の基礎となる財産の確定
まず、遺留分算定の基礎となる被相続人の財産の範囲を確定しなければなりませんが、これは次のように計算されます。
遺留分算定の基礎となる被相続人の財産
=被相続人が亡くなった時に持っていたプラスの財産
+被相続人が生前に贈与した財産の価額
-被相続人が負っていた債務の額

生前贈与の相手方が相続人でない場合、算入される贈与というのは、相続開始(死亡)前1年間にしたものに限られます。(その贈与が遺留分を侵害することを、被相続人と贈与を受けた人の双方が認識していたという場合には、1年以上前の贈与でも算入されます。)

また、生前贈与を受けたのが相続人であり、その贈与が特別受益に該当する場合には、相続開始(死亡)前10年間にしたものに限り、遺留分算定の基礎に算入されることになります。

 

◆2.遺留分額の計算
遺留分の額の計算ですが、まず、「◆1.」の計算によって確定した遺留分算定の基礎価額に、遺留分の割合と法定相続分の割合を掛け合わせます。

遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人である場合には3分の1で、それ以外の場合は2分の1です。
例えば、夫が亡くなり妻と長男、長女の3人が相続人となった場合の長男の遺留分は、「遺留分算定基礎価額×2分の1(遺留分割合)×4分の1(法定相続分)
という計算が基本になります。
そして、さらに相続人に特別受益がある場合には、ここからその特別受益の価額を差し引くことによって、具体的な遺留分の額が算定されます。

 

◆3.遺留分侵害額の計算
ここまでで、遺留分額がいくらかという計算が出来ました。次は、その遺留分がどれだけ侵害されているかの計算です。
遺留分侵害額は次の計算式で算定されます。
遺留分額-(実際の取得財産額-相続債務の分担額)
要するに、その相続人が実際に取得したプラスの相続財産から、マイナスの相続分である債務額を控除した正味の相続分が、遺留分額にどれだけ足りないかということを計算するわけです。

 

◆4.計算シートの活用
遺留分計算について説明しましたが、決して簡単な計算ではありません。一つ一つ手順を追って計算機でもれなく計算することは大変な作業です。
そこで、東京地方裁判所と東京の三つの弁護士会が合同開催する「民事訴訟の運営に関する懇談会」における協議を踏まえて、「Excel」を用いた計算ソフトが発表されています。
このソフトは、東京弁護士会のホームページから誰でもダウンロードが可能であり、遺留分に関する紛争の迅速かつ的確な解決に有用なものとなっています。

【相続・遺言について】遺留分侵害額請求の効果

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、遺留分侵害額請求の効果について考えてみたいと思います。

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【Q】先日、父が亡くなりました。相続人は兄と私の2人です。父の遺産としては、自宅の土地(価値1000万円)、建物(価値500万円)、預貯金800万円があります。父は、すべての財産を兄に相続させるという内容の遺言を残していました。
①私が遺留分侵害額請求をした場合、父の遺産(土地・建物・預貯金)の権利関係はどのようになるのでしょうか?
②私が遺留分侵害額請求をする前に、兄が他人に、遺産の土地と建物を売却し、登記も完了していた場合、私は、土地と建物について権利を主張できますか?
③私の遺留分侵害額請求後に、兄が他人に、遺産の土地と建物を売却し、登記も完了していた場合はどうですか?

 

【A】◆1.遺留分侵害額請求をした場合の法律関係
お父さんの遺言により、お父さんの遺産は全てお兄さんが相続することになります。あなたは遺留分侵害額請求を行うことができますが、これは遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求する債権ですので、お父さんの遺産(土地・建物)については、全てお兄さんが相続し、全てお兄さん名義になります。
預貯金についても全てお兄さんが相続しますから、お父さんの預貯金に関しても金融機関に対し自己の相続分(遺留分)についての払戻請求をすることはできません。

遺留分侵害額請求によって、あなたはお父さんの相続財産(合計2300万円)から遺留分である4分の1の割合の金銭(2300万円✖1/4=575万円)の支払いをお兄さんから受けることができます。
なお、遺留分侵害額請求権は、相続の開始を知った時から1年、かつ遺留分を侵害する贈与又は遺贈を知った時から1年行使しないときに、時効により消滅します。
したがって請求するかしないかは、早めに決め、内容証明郵便や調停等の申立てという形で、請求したことを明らかにしましょう。
また、相続開始の時から10年を経過した時にも、時効によって消滅します。

 

◆2.遺留分侵害額請求の前に目的物が譲渡されていた場合
上記の通り、遺留分侵害額請求権は金銭の支払いを請求する債権です。したがって、遺留分侵害額請求の前に、お兄さんが他人に遺贈の目的物である土地や建物を売却した場合でも、あなたはお兄さんに対して遺留分に相当する金銭の支払いを請求することはできますが、土地や建物について権利を主張することはできません。

 

◆3.遺留分侵害額請求後に目的物が譲渡された場合
遺留分侵害額請求は遺留分侵害額相当の金銭を請求する債権ですから、あなたからの遺留分侵害額請求があってもお兄さんは、他人に遺産の土地と建物を売却することはできます。
あなたは土地と建物について権利を主張することはできず、お兄さんから遺留分に相当する金銭の支払いを受けることになります。

【相続・遺言について】遺留分侵害額請求権に関する紛争解決手続

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、遺留分侵害額請求権に関する紛争解決手続について考えてみたいと思います。

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【Q】遺留分侵害額請求に関する紛争を解決する手段にはどのようなものがあるのでしょうか?また、各手続でのポイント、注意点など教えてください。

 

【A】◆1.紛争が生じた場合
相続人の遺留分が侵害されて遺留分侵害額請求に関する紛争が生じた場合の解決手段としては、①家事調停の申立て、②民事調停の申立て、③遺留分侵害額請求訴訟を提起することが考えられます。

 

◆2.家事調停の申立て
遺留分侵害額請求は、被相続人の相続をめぐる紛争ですから、原則として「家庭に関する事件」として調停前置主義が適用されます。このため遺留分侵害額請求に関する紛争の解決手段としては、まず家庭裁判所に遺留分侵害額請求調停の申立てをすることになります。
家事調停の申立てには、当事者及び法定代理人のほか、申立ての趣旨及び理由等を記載した申立書を家庭裁判所に提出して行います。
管轄裁判所は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で決める家庭裁判所となります。

申立書には、被相続人の死亡による相続の開始、遺留分の侵害となる被相続人の遺贈又は贈与の存在、申立人と相手方(受遺者・受贈者)との関係、被相続人の遺産(負債も含む)の内容と評価額、遺留分侵害額請求の意思表示の存在などを可能な限り特定して記載する必要があります。
遺留分侵害額請求は、一般調停事項となりますので、調停が不成立となった場合は、別途民事訴訟を提起して、解決を求める事が必要になります。

遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が相続の開始又は遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ったときから1年が経過した場合や、相続開始から10年経過した場合は、消滅し行使できなくなります。このため遺留分侵害額請求の意思表示をした事実を証拠として残しておく必要があります。
調停の申立書は、民事訴訟の場合の訴状と違って、裁判所から相手方に対して、送付の事実を証明する方法では送られませんので、消滅時効にかけないために、申立書の記載とは別に、遺留分侵害額請求の意思表示を内容証明郵便でしておくことが重要です。

なお今回の民法改正によって遺留分侵害額請求権は金銭債権が発生する仕組みとなりました。このため、遺留分侵害額請求権行使のときから5年(改正債権法施行までは10年)が経過した場合には、この債権は時効により消滅しますので、ご注意ください。

 

◆3.民事調停
遺言により財産が相続人以外の第三者に贈与されるなどして、相続人と第三者との間で紛争が生じた場合、民事に関する紛争として、民事調停の申立てをすることも考えられます。しかし、家庭裁判所は、遺留分侵害をめぐる紛争について蓄積があり、相続人以外の第三者に対する調停の場合でも、一般的には家事調停が利用されます。

 

◆4.遺留分侵害額請求訴訟
調停が不成立となった場合は、民事訴訟を提起することになります。
管轄裁判所は、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所のほか、相続開始時における被相続人の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所にも管轄権があります。
遺留分侵害額請求訴訟では、原告は被告に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することになります。
被告が不動産を取得していた場合など、直ちに金銭を準備できない場合もあります。このような場合を考慮して、裁判所は、被告の請求により、遺留分侵害額債務の全部又は一部の支払いにつき相当の期間を許与(猶予)することができるという規定が今回の民法改正で新設されました。

【相続・遺言について】遺留分侵害額請求権の行使の方法

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、遺留分侵害額請求権の行使の方法について考えてみたいと思います。

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【Q】①母が約1年半前に亡くなり、その後、裁判所で母の遺言書の検認手続きを行いました。相続人は長女の私と弟の2人のみです。遺言書には「財産のすべてを弟に相続させる」と書かれておりその遺言に基づき、預貯金や不動産その他すべての財産が弟のものになってしまいました。私は弟に対して、遺留分侵害額請求というものを行えると聞きましたが、検認手続きから間もなく1年となり、法的手続きをしていると時効にかかってしまいそうなのですが、どうしたらよいでしょうか?
②上記①のような場合には遺留分侵害額請求ができるということを最近知りました。しかしすでに検認手続きから1年以上経過しています。この間、弟に遺産分割協議の申し入れをしているのですが、もう遺留分侵害額の請求はできないのでしょうか?
【A】◆1.遺留分侵害額請求権の行使の方法
遺留分制度は被相続人による財産の自由な処分と遺留分権利者の生活保障の調和を図るものです。

平成30年改正前の判例上、遺留分減殺の意思表示によって、贈与等は遺留分を侵害する限度において失効し、受遺者又は受贈者(以下受遺者等)が取得した権利は、その限度で当然に遺留分権利者に戻るものとされていました。そのため減殺請求の対象となった財産については、現物返還が原則とされ、例外的に財産に相当する金銭を支払うことを認めていたのです。

しかしながら、このような考え方には、贈与等の目的物について共有状態が生じた場合に権利関係が複雑になる等の不都合が指摘されていました。
そこで平成30年改正によって、遺留分減殺請求によって当然に遺留分権利者に権利が戻るとされていた枠組みを改め、遺留分権利者は、受遺者等に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できる債権とする枠組みに変更されました。これにより遺留分減殺請求権は遺留分侵害額請求権と呼ばれることになりました。また、受遺者等は例外的にも現物返還を選択することはできなくなり、金銭の支払いをしなければなりません。
遺留分侵害額請求権の行使方法については改正法の影響はありません。したがって、遺留分侵害額請求は、意思表示の方法によって行使すれば足り、訴えの方法による必要はありません。その際遺留分侵害額を具体的に明示することまでは必要ありませんが、その意思表示には遺留分を侵害されたことによる侵害額を請求するものであるとの意思が現れている必要があります。

質問①について具体的に検討すると、お母さんの遺言で弟にすべての財産を相続させると書かれており、相続人はあなたと弟さんの2人である場合、あなたは法定相続分(2分の1)の更に2分の1即ち、4分の1の遺留分を侵害されていることになります。したがってあなたは受贈者である弟さんに対して相続財産の4分の1に相当する金銭を支払うよう請求できることになります。

あなたは検認手続きで「全ての財産を弟に相続させる」という内容を知ったのですから、現実的に遺留分侵害額請求が可能であることまで知ったと推認され、この時が1年間の消滅時効の起算点となります。
検認手続きからまもなく1年経過するということですから、弟さんに対し、早急に遺留分侵害額請求権を行使するとの意思表示をしなければなりません。もっとも訴訟提起することまで求められておりませんので、配達証明付き内容証明郵便を利用して、弟さんに対して「遺留分侵害額請求権を行使します」という内容の意思表示をしましょう。

 

◆2.遺留分侵害額請求権行使期間経過の場合
遺留分侵害額請求権の行使期間は経過しているが、行使期間内に遺産分割協議の申し入れを行っていた場合に、遺産分割協議の申し入れをもって遺留分侵害額請求権の意思表示をしたといえるか検討しましょう。

この点について、判例では、遺産分割と遺留分減殺とはその要件及び効果を異にすることから、遺産分割協議の申し入れに、当然、遺留分減殺の意思表示が含まれているということはできないとしつつ、「被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合には、遺贈を受けなかった相続人が遺産の配分を求めるためには、法律上、遺留分減殺によるほかないのであるから、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申し入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申し入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解するのが相当である」と判示しています。

お母さんの遺言は「全ての財産を弟に相続させる」というものですから、遺言の有効性を争わない限り、あなたが遺産の配分を求めるためには、遺留分侵害額請求権を行使するほかありません。したがって改正前の判例ですが、これを前提とすると、遺産分割協議の申し入れには、遺留分侵害額請求権の行使の意思表示を含むと判断される余地はあります。
したがって、遺言内容を知った検認手続きから1年経過した場合でも、あなたが遺言の有効性をまったく争っていなかったのであれば、例外的に遺留分侵害額請求権を行使することができる余地はあります。

【相続・遺言について】遺留分侵害額請求権行使の時期的制限

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【Q】父が亡くなりました。既に母は他界しており、父の相続人は、私と弟2人だけです。父には預貯金はほとんどなく、私と一緒に住んでいた不動産が唯一の財産でした。
①父は生前、居住不動産を一緒に住んでいた私に残すという遺言を作成していました。父の死から1年半ほどが経過していますが、イギリスに住んでいた弟が、突然、自分にも「遺留分」というのがあるとして、不動産の価格相当分について私に支払うよう主張してきました。私は弟に支払わなければならないのでしょうか?
②父が亡くなる15年前に、私は父から一緒に住んでいた不動産を贈与されていた場合、弟の遺留分の侵害となるのでしょうか?

【A】◆1.遺留分侵害額請求権行使の時期的な制限
①で、弟さんが主張しているのは遺留分侵害額請求権という権利です。遺留分侵害額請求権を行使すると遺留分侵害額に相当する金銭の給付を目的とする債権が発生します。
①の場合で言うと、弟さんがあなたに侵害された遺留分相当額の支払いを求めることができるということです。

この遺留分侵害額請求権の行使については時期的な制限があり、民法上、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年、相続の開始から10年と定められています。
「遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」とは、単に贈与や遺贈があったことを知った時ではなく、これに加えてこれらが遺留分を侵害するものであることを知った時とされています。

①では、お父様が亡くなられてからすでに1年半が経過しているとのことですが、弟さんがお父さんの死だけではなく、お父さんの「唯一の財産」である不動産をあなたに残すという遺言の内容を知り、これを知って1年が経過しているのであれば、遺留分侵害額請求権を行使することはできません。

たとえば、弟さんがお父さんの財産である不動産をあなたに残すという遺言を知っていたとしても、弟さんがお父さんの相続財産全体について不明で遺留分が侵害されているか否か不明であった場合や、弟さんがお父さんの相続財産が他にももっとあり遺留分は侵害されていないと誤信していた場合には、上記1年の期間制限にはかかりません。

したがって、弟さんが遺言の内容を全く知らない場合や知っていても遺言の内容がお父さんがあなたに残した不動産が「唯一の不動産」であることを明示しておらず弟さんがこのことを知らなかったり、お父さんに他に財産があると誤信している場合などは「遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」から「1年」が経過したとはいえず、弟さんはあなたに対して、遺留分侵害額に相当する金銭(この場合不動産価値の4分の1)について請求できることになり、あなたはこれを支払わなければなりません。

 

◆2.遺留分算定に含まれる特別受益の期間
相続人に対してなされた贈与については、特別受益(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本としてなした贈与)に該当する相続開始前10年間にされた贈与のみが遺留分の算定の基礎となります。
したがって②の場合、お父さんからあなたになされた不動産の贈与はすでに10年以上が経過しており、特別受益にあたるか否かに関わらず、遺留分を算定するための財産の価額に算入されません。よって、あなたが弟さんの遺留分を侵害している状態になっていないということになり、弟さんからの金銭の請求を拒むことができます。

【相続・遺言について】遺留分侵害額請求の相手方

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【Q】父が半年前に亡くなりました。法定相続人は母、兄、自分の3人です。
①父の死後、兄が公正証書遺言というものを持ち出してきたのですが、その内容は父名義の預貯金2,000万円のうち、500万円を叔母に贈与する、その他の財産はすべて兄に相続させるという内容になっていました。父名義の資産としては、預貯金のほかに不動産や株式などがあり兄が相続した分の合計額は5,000万円ほど、遺産総額で5,500万円になります。なお、預貯金を払い出してもらう手続きも、不動産の名義を変更する手続きもすべて終わってしまっています。このような場合、遺留分侵害額請求というものができると聞いたのですが、誰に対して行使することができるのでしょうか?
②遺留分侵害額請求を行使する前に、叔母が亡くなってしまいました。相続人は子供1人です。この場合はどうしたらよいでしょうか?
③兄が相続した不動産の一部が売却されてしまっていることが分かりました。この場合はどうしたらよいでしょうか?

 

【A】◆1.誰に遺留分侵害額請求をするべきか
遺留分を侵害された者(遺留分権利者及びその承継人)は、受遺者・受贈者に対して遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができます。
遺言において特定の相続人に「相続させる」旨の遺言は、本来、遺贈とは法的性質は異なりますが、何らの行為を要しないで当該遺産が被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継されるものと考えられていることから、遺贈と同順位で負担します。そして、複数の遺贈がある場合には、遺贈目的物の価額の割合に応じて負担します。
本件では、あなたのお兄さんと叔母さんが、遺留分を侵害する行為によって直接利益を得た受遺者として、遺留分侵害額請求の相手方となります。あなたは、お兄さんと叔母さんに対して、遺留分侵害額請求権を行使することができます。

あなたの遺留分は、被相続人の財産の8分の1になります(財産の2分の1に法定相続分である4分の1を乗じて算出)。
遺留分の基礎となる財産額5,500万円に対し、あなたの遺留分額は687万5000円です。そして遺留分侵害額請求に際しては、遺贈の目的の価額の割合に応じて負担することとされています。この点、お兄さんは遺留分侵害額請求の相手方であると同時に、相続人でもあります。このような場合には、目的物の価額は遺贈された目的物の価額から遺留分として当該相続人(受遺者)が受けるべき額を控除した額が限度となります。
したがって、お兄さんについてはお兄さんの遺留分を超える部分のみとして、
5000万円-687万5000円=4312万5000円。叔母さんは遺留分がないので500万円となります。
お兄さんへの請求額は 687万5000円÷(4312万5000円+500万円)×4312万5000円≒616万714円
叔母さんへの請求額は 687万5000円÷(4312万5000円+500万円)×500万円≒71万4286円

◆2.直接利益を得た受遺者・受贈者が亡くなっていた場合
遺留分侵害額請求の対象となる行為によって直接利益を得た受遺者・受贈者の包括承継人は、遺留分侵害額請求の相手方になります。
本件において、叔母さんの子は受遺者の包括承継人にあたりますので、あなたは、叔母さんの子に対し、遺留分侵害額請求権を行使することができます。

◆3.直接利益を得た受遺者・受贈者がその目的物を他人に譲り渡していた場合
今回の改正により遺留分侵害額請求は金銭債権とされたため、減殺を受けるべき受遺者・受贈者が贈与・遺贈の目的物を他人に譲り渡したときであっても、遺留分権利者は受遺者・受贈者に対して金銭賠償を求めることができます。

【相続・遺言について】遺留分侵害額請求権者

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今回は、【相続・遺言】に関して、遺留分侵害額請求権者について考えてみたいと思います。

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【Q】①死亡した兄の遺言に「全ての財産は弟に相続させる。」と記載がありました。妹の私は、何ももらえないのでしょうか?
②死亡した夫の遺言に「全ての財産は、前妻との間の長男に相続させる」という記載がありました。私は、亡夫との間に子供を身ごもっているのですが、その子は、何ももらえないのでしょうか?
③死亡した祖父の法定相続人として、妻(私の祖母)と子が1人(私の父)いました。祖父の遺言に「財産のうち10分の9を、妻に相続させる」という記載がありました。私の父が相続放棄をした場合、孫の私は、何ももらえないのでしょうか?
④債務者の父親が死亡しましたが、その父親の遺言で「全ての財産は妻に相続させる」という記載がありました。子供である債務者の代わりに、父親の遺産について権利を主張できないでしょうか?

 

【A】◆1.兄弟姉妹に遺留分はない
遺留分は兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる権利です。兄弟姉妹には遺留分はありません。したがって、遺言のとおり、全ての財産は弟さんが相続し、妹であるあなたは、何も相続することはできません。

◆2.胎児にも遺留分はある
胎児も生きて生まれれば、子としての遺留分を持っています。お子さんが無事に生まれたならば、遺留分の請求ができます。
なお、妻であるあなたにも遺留分があります。

◆3.父親の相続放棄
お父さんが相続放棄をされた場合、その子(孫)であるあなたは、何ももらえません。

◆4.債権者代位権
債務者がその財産権を行使しないときに、債権者が自分の債権を守る(保全する)ために、債務者にかわってその権利を行使することができるのが、債権者代位権という権利です。
しかし、「その権利を行使するかどうかが、権利者(この場合債務者)の個人の意思にゆだねられているもの」については、債権者がかわりに行使する(代位する)ことはできません。
遺留分侵害額請求権も債務者本人が行使しない限り、債権者が代位することはできません。
債務者が、遺留分の権利を誰かに譲り渡す等、自分が権利行使する意思があることを、外から分かるようにはっきり表明しているような場合を除いては、債権者が代わって権利を主張することはできません。

【相続・遺言について】遺留分制度の概説

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、遺留分制度の概説について考えてみたいと思います。

世田谷の相続・遺言・成年後見は090-2793-1947までご連絡を

 

【Q】父が死亡した後、遺言が発見されました。その遺言には「すべての財産は、長女に相続させる」と記載されていました。しかし、次女の私には、遺留分の権利があるので、遺産を全くもらえないわけではないと聞きました。父の相続人は、母と長女と私です。遺留分について教えてください。

 

【A】◆1.遺留分制度とは
遺留分とは、相続のとき、一定の相続人のために一定割合の相続財産を確保する制度です。被相続人は、遺言や贈与などによって、遺産を誰に与えるかを自由に決めることができます。しかし、本来相続権のある相続人の生活を保障し、家族財産を公平に配分するという点も無視できません。そこで、民法では、一定の相続人に対しては、被相続人の遺言や贈与などによっても奪うことのできない最低限の取り分を遺留分として保護しています。遺留分制度は、被相続人の財産処分の自由と、相続人の保護という2つの要請を調整したものといえます。

◆2.遺留分権利者
遺留分の権利を持つ相続人を遺留分権利者といいます。遺留分権利者は、兄弟姉妹以外の相続人です。具体的には、被相続人の配偶者、子(胎児も生きて生まれれば含まれます)、直系尊属が該当します。ちなみに、子の代襲相続人も、被代襲者である子と同じ遺留分を持ちます。

◆3.遺留分の算定方法
遺留分がどの程度の割合で認められるかについては、相続人が誰かによって異なります。相続人が直系尊属だけの場合は全相続財産の3分の1、それ以外の場合は2分の1とされています。そして遺留分権利者が複数いる場合には、この割合にそれぞれの遺留分権利者の法定相続分を乗じて算出します。
質問のケースでは、あなたの遺留分は「1/2×1/4(法定相続分)=1/8」になります。

◆4.遺留分の算定の基礎となる財産
遺留分の算定の基礎となる財産は、被相続人が相続開始時に有していた積極財産(祭祀財産は除きます)に、「贈与」した財産を加え、債務の全額を引いて算定します。
ここでの「贈与」とは、相続開始前1年間になされた贈与(贈与の相手は問いません)と、相続開始前10年間になされた相続人への特別受益になります。平成30年の改正によって、遺留分の算定の対象となる特別受益に期間の制限が設けられました。これにより、相続開始の10年以上前になされた特別受益は、遺留分の算定の基礎には含まれなくなりました。
なお、遺留分の算定の基礎となる財産の評価は、客観的基準である取引価格により、評価の基準時は相続開始の時とされています。

◆5.遺留分の請求
自己の遺留分を侵害された遺留分権利者は、受遺者または受贈者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の請求ができます。以前は遺留分の権利を行使すると遺贈又は贈与された財産を共有する状態になっていたのですが、平成30年改正により、遺留分の権利は金銭債権とされました。遺留分侵害額は個別的遺留分から遺留分権利者が相続財産から取得または取得できる財産があればそれを控除し、相続した債務があればそれを加えて算定します。
遺留分請求権の行使は、受遺者または受贈者に対する一方的な意思表示でよく、裁判や調停を起こすことが必要なわけではありません。ただし、立証の観点からすると、配達証明付き内容証明郵便によって意思表示をすべきでしょう。

◆6.遺留分侵害額の負担と順序
遺留分侵害額の請求を受けた受遺者または受贈者は、遺贈または贈与の目的の価額を限度として遺留分侵害額を負担します。ただし、受遺者または受贈者が相続人の場合には、遺贈または贈与の目的の価額からその人の遺留分を控除した金額が負担の限度となります。
遺留分を侵害する遺贈や贈与が複数ある場合には、どのような順序で遺留分を負担するかが定められています。遺贈と贈与がある場合は、遺贈を受けた者が先に遺留分侵害額を負担します。複数の遺贈または贈与が同時になされている場合には、その目的の価額の割合に応じて負担します。贈与が複数ある場合には、後のもの(相続開始時に近いもの)から先に負担します。

◆7.受遺者または受贈者による相続債務の弁済
遺留分侵害額の請求を受けた受遺者または受贈者が、遺留分権利者が相続した債務を弁済等によって消滅させた場合には、遺留分権利者に意思表示をすることで、消滅させた債務の限度で遺留分侵害額を支払わなくてよくなります。この規定は平成30年改正で加えられたものです。

◆8.相当の期限の許与
遺留分侵害額を負担することになった受遺者または受贈者は金銭を支払わなければなりませんが、遺贈や贈与を受けたのが金銭以外の財産だった場合には、すぐに金銭を支払うことが困難な場合があります。このような点に配慮して、受遺者または受贈者は、遺留分侵害額の支払いについて、相当の期間の許与を裁判所に求めることができるようになりました。この規定も平成30年改正で加えられたものです。

◆9.消滅時効
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと時効によって消滅します。また、相続開始の時から10年を経過したときも同様とされています。

◆10.遺留分の放棄
遺留分の放棄は、相続開始後はいつでもできます。しかし、相続開始前の場合は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生じます。なお、共同相続人の1人が遺留分を放棄しても、ほかの共同相続人の遺留分には影響を与えません。

◆11.相続税の還付・納付
遺留分侵害額を負担することになった受遺者または受贈者は、既に相続税の納付をしていた場合には、遺留分侵害額分として支払う金額が確定した日の翌日から4か月以内に更生の請求をして、納付済みの相続税の還付を受けることができます。一方遺留分権利者は、相続税の期限後申告や修正申告をして、遺留分に対応する相続税を納付することになります。

◆12.事業承継と遺留分
中小企業の経営者が、後継者に自己が持つ株式を集中して承継させようとしても、遺留分制度があるために自社株式が分散してしまうなど、事業承継にとって大きなマイナスとなる場合があります。また、後継者に株式を生前贈与していた場合、贈与を受けた後継者の貢献により株式の評価が高くなったのだとしても、遺留分の評価は相続開始時点でなされるため、不公平な結果になる場合もあります。これらの問題に対応するため、「中小企業における経営の継承の円滑化に関する法律」では「遺留分に関する民法の特例」が規定されています。具体的には、後継者に贈与等がなされた自社株式について、遺留分算定の基礎財産から除外する「除外合意」や基礎財産に算入する価額を合意時の時価に固定する「固定合意」があります。

【相続・遺言について】問題のある遺言

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、問題のある遺言について考えてみたいと思います。

世田谷の相続・遺言・成年後見は090-2793-1947までご連絡を

 

【Q】①先日、父が亡くなったのですが、自筆で書かれた遺言書が2通見つかりました。1つは平成22年4月1日付の遺言で、自宅土地建物を母に相続させ、預貯金を弟と私に半分ずつ相続させるという内容なのですが、もう一つは平成24年8月1日付の遺言で、自宅土地建物を私に相続させ、預貯金を母と弟に半分ずつ相続させるという内容です。両方とも父の筆跡であることは間違いないのですが、この場合、相続はどのようになるのでしょうか?

②先日、5年間病院で寝たきりだった母が亡くなったのですが、遺言書が見つかりました。その内容は、妹に全財産を相続させるというものですが、私の知っている母の筆跡とはだいぶ異なる気がします。また、仮に母の筆跡だったとしても、作成日となっているのは、母が亡くなる直前であり、母の意識はもうろうとしていました。このような遺言書でも従わなければならないのでしょうか?

③先日亡くなりました父の遺した遺言書(作成日はなくなる3年前)には、法定相続人である母と私と弟にそれぞれどの遺産を相続させるか、財産ごとに指定して記載されています。その中で、田舎の土地については私に相続させると書かれているのですが、田舎の土地は父が亡くなる1年前に自ら売却しており、すでに他人名義となっています。田舎の土地を私が相続することはできますか?

【A】◆1.複数の遺言
遺言は、遺言の方式に従えば、いつでも全部又は一部を撤回できます。
また、前後の遺言の内容が抵触する場合、抵触する部分は、後の遺言で、前の遺言を撤回したものとみなされますので、後の遺言が効力を有することになります。
本件では、自宅土地建物と預貯金の分け方が変わっておりますので、後になされた平成24年8月1日付の遺言が有効となり、それに従って相続されることになります。

◆2.筆跡や遺言意思の疑わしい遺言
遺言は、厳格な要式行為すなわち法律で定めた要件に従ってなされる必要があります。
自筆証書遺言の場合、遺言の全文、日付、及び名前を自書して、押印することが要件となります(遺言と一体の財産目録は、記載のある頁毎に署名押印されれば、自書でなくとも可能です。)。
被相続人の意思のとおりの内容の遺言であっても、他人が代わりに書いた遺言は、無効です。
本件では、被相続人であるお母さまの筆跡と異なっているように見えるわけですから、遺言書をだれが書いたのか、被相続人の生前の筆跡と比べるなどして確認します。
他人が書いた遺言であれば無効ですが、死の直前であれば、字が乱れるなど筆跡が変わることもありますので、慎重な検討が必要でしょう。

次に意識がもうろうとしていた時点で作成された遺言について回答します。
遺言をするには、遺言者に、遺言能力があることが必要です。
遺言能力とは、遺言の意味、内容を理解して、遺言の効果を判断するに足りる能力のことを言います。
また、法律行為ですので、当然意思能力すなわち事理を弁識する能力(自分が何をしているのかがわかる能力)も必要です。
意識がもうろうとしていて、遺言能力や意思能力がない状況であったのであれば、遺言は無効であり、従う必要はありません。

◆3.遺言作成後に生前処分された財産についての相続
遺言内容はいつでも撤回でき、後の遺言が前の遺言と抵触する場合、前の遺言を撤回したことになりますが、それと同様、遺言と抵触する生前の処分も、その部分について撤回したものとみなされます。
相続させると書かれていた土地が、遺言者である父の生前に売却され、遺言の内容と抵触しておりますから、その部分は撤回されたものとみなされ、相続できません。