【相続・遺言について】共同相続における権利の承継の対抗要件

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、共同相続における権利の承継の対抗要件について考えてみたいと思います。

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【Q】①父は、その所有する土地甲を私に相続させる旨の遺言をして亡くなりました。私は手続きがよくわからず、忙しかったこともあり、父の遺言に基づいて土地甲の登記を私に変更することなく放置していました。そうしたところ、父の相続人である弟が土地甲の登記を自分の名義として第三者に売却してしまいました。このような場合、私はその第三者に土地甲の権利を主張できるのでしょうか?

②父は、私の相続分を3分の2、弟の相続分を3分の1とする旨遺言をして亡くなりました。私は、手続きがよくわからず、忙しかったこともあり、父の遺言に基づいて土地甲の登記を変更することなく放置してしまいました。そうしたところ、弟が土地甲の登記を自分の名義として第三者に売却してしまいました。
このような場合、私はその第三者に土地甲につき3分の2の権利があることを主張できるのでしょうか?

③父は全ての財産を私に相続させる旨の遺言書を遺して亡くなりました。相続人は私と弟の2人です。父の遺産には1000万円の預貯金があります。預貯金の払い戻しを受けるにはどのような手続きが必要でしょうか?

 

【A】◆1.Q①について
お父さんの遺言によれば、弟さんは土地甲の権利を持っていませんから、当然土地甲を誰かに売却することはできないはずです。ですが、今回、弟さんは土地甲の登記を自分の名義にして第三者に売却してしまいました。土地のような不動産は、登記をしていないと第三者に対して権利を主張できなくなってしまうのではないかという問題です。

特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺贈であることが明らかな場合などを除き、原則として遺産分割の方法を指定したものと考えられます。そのため今回の遺言の内容は、土地甲をお兄さんに相続させるという遺産分割方法の指定がされているといえます。

ところで、相続による権利の承継は、法定相続分を超える部分については、登記などの対抗要件を備えなければ第三者に対抗できません。そしてこれは土地のような特定の財産を承継させる遺言の場合にも当てはまります。

お父さんの相続人が兄弟2人のみの場合、その法定相続分は各2分の1となります。そうすると、土地甲については、お兄さんの名義の登記をしていない以上、土地甲を購入した第三者に対して主張することはできません。
本問では、あなたの法定相続分である2分の1に限り、土地甲の権利を主張することができることになります。

 

◆2.Q②について
この問いでは、遺言でお兄さんの相続分を3分の2、弟を3分1とするという相続分の指定がされています。この場合も、上記Q①の場合と同様に、相続による権利の承継は、法定相続分を超える部分については、登記などの対抗要件を備えなければ第三者に対抗できませんから、土地甲についてお兄さん名義の登記をしていない以上、第三者にあなたの法定相続分である2分の1を超える3分の2の権利があることを主張することはできません。

 

◆3.Q③について
相続人が兄弟2人である場合、法定相続分はそれぞれ2分の1となります。すべての財産をお兄さんに相続させる旨の遺言の内容は、Q①やQ②と同様、法定相続分を超える権利の承継となり、第三者に対して権利を主張するためには、対抗要件を備える必要があります。ここでいう「第三者」には、債務者も含まれます。
預貯金の払い戻しを受ける権利は債権です。預貯金の払い戻しを行う債務を負う債務者である銀行に対して、お兄さんは債権の対抗要件を備える必要があります。債権の対抗要件は、債務者への通知又は債務者の承諾であり、債務者以外の第三者に対抗するためには、確定日付のある証書によって行う必要があります。

本問で、あなたが銀行から1000万円の預貯金の払い戻しを受けるためには、共同相続人である兄弟が銀行に通知するか、銀行が承諾することが必要になります。それにより、あなたは預貯金の払い戻しを請求できるようになります。

ところで、共同相続人間で感情的対立などがあり、他の共同相続人の協力が得られず、通知ができない場合が考えられます。このような場合は、法定相続分を超えて債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容を明らかにして債務者に承継の通知をすることで、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなされます。

本問では、法定相続分を超えて債権を承継したあなたが、債務者である銀行に遺言の内容を明らかにして通知をすることで、銀行に対して預貯金の払い戻しを請求できることになります。
ここでいう遺言の内容を明らかにする方法としては、遺言書を交付することが考えられますが、それに限らず、客観的に遺言の有無やその内容を判断できるような方法で良いとされています。例えば、相続人が遺言の原本を提示し、債務者の求めに応じて債権の承継の記載部分の写しを交付するという方法も考えられます。

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