【成年後見制度について】親族が後見人になる場合には、本人の財産を信託する必要がある?「後見制度支援信託とは?」

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は後見制度に関して、「親族が後見人なる場合には、本人の財産を信託する必要がある?後見制度支援信託とは?」を考えてみましょう。

【Q】私は、認知症の父のために成年後見開始の申立てをしようと準備しています。後見人には、一人っ子である私自身を候補者として推薦しようと思っていますが、先日、親族が後見人になる場合には、本人の財産を信託するよう家庭裁判所から指示を受けると聞きました。信託すると父の財産はどうなってしまうのでしょうか?また、後見人となった私は、その後、どうやって財産管理をしていくことになるのでしょうか?

【A】家庭裁判所は、後見人に対して、必要な指示を出すことができます。(民法863条2項、家事事件手続規則81条)。これを利用して平成24年2月より、家庭裁判所が、親族等の後見人には、信託銀行等へ、本人の財産を信託するよう指示を出すようになりました。これが後見制度支援信託と呼ばれるものです。

・目的

これまで、家庭裁判所は、後見人を選任する際、賃貸不動産を多数所有する等、専門職(弁護士、司法書士、社会福祉士等)としての知識や経験を生かす必要がある事案の他、多額の預貯金がある等、後見人等による不正の発生を防止する必要のある事案では、専門職を後見人に選任したり、親族後見人の後見監督人に選任する等の方法をとってきました。

しかし、適切な専門職後見人を日本全国において安定的に供給することは、現時点において困難であること、後見監督人や家庭裁判所による事後的な確認だけでは、不正を未然に防止するのは不可能であること、専門職にとっては、日常的な生活費の収支の管理、報告等の事務は負担が重すぎること、専門職後見人に対する報酬は、本人の財産の負担となってしまうこと等から、上記のような方法には自ずと限界がありました。

そこで、専門職としての知識や経験が必要とまではいえない事案においては、専門職後見人に頼ることなく、親族後見人を選任する一方、その不正を未然に防止し、安心して親族後見人のみに後見業務を任せることができるよう、被後見人の財産を守るための方策として考えられたのが後見制度支援信託です。対象となるのは成年後見案件のみであり、保佐・補助・任意後見案件は対象外とされています。

・概要

後見制度支援信託は、親族等の後見人を選任する事案において、後見人が、家庭裁判所の指示書に基づき、被後見人のために信託銀行等との間で信託契約を締結し、被後見人(委託者兼受益者)の日常生活に必要十分な金員を預貯金等として後見人の管理下に残した上で、それを超える現金、預金等は、信託銀行等(受託者)に信託するというものです。信託された財産(信託財産)は、受託者の固有財産とは分別して管理され、預金保険制度の対象でもある元本補てん付の指定金銭信託として安定的に運用されます。被後見人の死亡により信託は終了し、信託財産は被後見人の相続人が相続します。信託の費用は、信託契約によって定められます。

仮に、被後見人の年金等の収入だけでは、生計は赤字になってしまうというような場合には、信託契約において、予め赤字相当額を補うように、定期的に一定額の金員が、信託財産から後見人の管理する預貯金等の口座に振込まれるよう定め、被後見人の日常生活に支障が生じないようにしておくことができます。

その後、入所施設に入るための一時金や居宅のリフォーム費用等、まとまった金員を臨時に支払う必要が生じた場合には、信託財産を払い戻すことも可能です。また、親族後見人が管理する預貯金等に信託財産から定期的に交付される金額を増額する等の契約内容の変更や信託契約そのものの解約もできます。ただし、これらの手続は全て、事前に、家庭裁判所に対し、その必要性を説明し、それを裏付ける資料を提出するなどして、家庭裁判所の指示書の発行を受けなければすることができません。なぜなら、これは、家庭裁判所の後見事務の監督権(民法863条2項、家事事件手続規則81条)に基づき行われるからです。

後見制度支援信託そのものは、法律の定める制度ではありませんが、このように、指示書による家庭裁判所の関与により、親族後見人の不正行為を未然に防止し、本人の預貯金等を守るために考え出されたものです。平成24年2月から、これが導入されたことにより、親族後見人が、合理的理由無く、信託の利用に反対したときには、このような者を後見人に選任しても、適切かつ円滑な後見事務を期待できない恐れがあるとして、専門職が後見監督人としてつけられたり、場合によっては後見人を解任される事も起こりえます。

・信託財産の範囲

信託財産は金銭のみとされていますので、信託の対象となる財産は、基本的に現金及び預貯金等に限られます。保険の解約や不動産の売却は想定されていませんが、株式等、金融商品の売却、換金については、個別具体的事情に応じて判断されることになります。また、遺言の存在が明らかな場合には、その対象財産については、信託の対象外とするのが相当と考えられています。

・専門職の関与

かかる信託契約を締結するには、その前に本人の財産状況を踏まえて将来の生活設計を行い、それに見合った収支を予想した上で、日常生活に必要十分な財産が、後見事務を行う親族後見人の手元に存在するような信託条件を設定することが必要です。

そのため、信託契約を締結する前に、家庭裁判所がまず専門職を後見人に選任し、同後見人が専門職としての知識や経験を生かして収支の予想や信託条件の設定を行うことが予定されています。具体的には、①専門職後見人のみを選任し、信託契約締結後に親族後見人に交代するという方式(リレー方式)、②親族と共に専門職後見人を選任し、事務を分掌(親族後見人は身上監護、専門職後見人はそれ以外の事務を分掌等)して権限を行使させるが、信託契約締結後、専門職後見人のみ辞任するという方式(複数選任方式)、③親族後見人とともに専門職後見人を選任し、親族後見人が専門職後見人の監督の下、信託契約を締結し、その後専門職後見監督人が辞任するという方式が考えられます。実務上は①又は②の方法が採用されているようです。信託契約締結後は、信託銀行が信託された財産の収支の管理・報告を行い、親族後見人が信託銀行から定期的に交付される金員を含む手元預貯金等で日常的な生活費等の収支管理を行うことになります。

・後見制度支援信託が利用される事案

訴訟への対応が必要な事案や賃貸不動産を多数抱える事案では、訴訟や財産管理について専門的な知識、経験が必要とされるため、専門職を後見人に選任することが適切です。また、後見事務を任せることができる親族がいないケースや親族間に紛争があるケースでは、専門職後見人を選任するしかありません。このように専門職が後見人に選任されている事案では、信託を利用するのではなく、後見監督人を選任することで財産管理の安全性を図っています。

したがって、このような信託は、通常上記以外の、財産管理に専門的な知識、経験は必要とせず、後見事務を任せられる親族等がいるという事案において利用されることになります。本人の財産保護のためには、不正防止策を講じることなく親族等に後見事務を任せることはできる限り回避すべきであるというのが裁判所の考え方です。

とはいえ、信託できない財産が相当程度ある場合には、信託では財産保護が図れないため、そもそも信託の利用には適していません。ですから、信託の利用は、本人の財産の中心が預貯金であるような場合に限られます。また、本人の財産が少ない事案では、費用対効果の面から、信託や後見監督人の利用はもちろん専門職の関与自体も難しいと言えるでしょう。

【後見制度について】所有不動産を活用したい「財産管理をする上での注意点」

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は後見制度に関して、「所有不動産を活用したい。財産管理をする上での注意点」を考えてみましょう。

【Q】父(75歳)は、脳出血で寝たきりとなり、介護付施設で生活しています。母は早く亡くなり、父は施設に入る前には、所有する一軒家で一人暮らしをしていましたが、今後ここに戻る見込みはありません。父は、自宅のほかにも複数の不動産を所有しており、そのうち賃貸マンションは自分で管理していましたが、賃借人がいまはいない家や更地もあります。賃料収入などがあるので資産は1億円ほどありますが、不動産をそのまま放っておくのもどうかと思い、それなりに不動産を活用したほうが良いと思いますが、どうしたらよいでしょうか。

【A】

・最初にすることは

お父さまは、介護付の施設に入所しておられますし、財産も潤沢ですので、生活面での心配はないと言えます。しかし、これまでご自身で管理していたマンションの経営を継続することは難しくなっているようです。遊休資産も荒れれば近所迷惑となりますし、放っておくわけにもいきませんので、何らかの対応が必要となるでしょう。お父さま自身は、現在、自分で財産を処分する能力はないと考えられますので、このような場合の財産の管理や処分は、裁判所に成年後見人を選任してもらい、後見人が判断することになります。

・賃貸マンションの管理

賃貸マンションは、重要な資金源でしょうから、きちんと管理して収入を確保するのが最も適切とされる場合が多いと思います。そのように対処する後見人も多いと思われます。ただ、マンションが老朽化していて、借り手がいないなどの場合は、修繕が必要となりますし、さらには売却するということも考えられるでしょう。

・遊休不動産の活用

賃借人のいない家やマンションなどは、賃貸が可能であれば賃貸にまわすということが考えられます。また、更地は駐車場にするなどして、土地が荒れるのを防ぐ一方でそれなりの収益を出す方法も考えられます。成年後見人は事業家ではありませんので、大きな収益を期待するべきではないでしょうが、どのような資産運用が可能か、親族ともよく話し合っていくのがよいと思われます。

・不動産の売却

それでは、不動産を売却する場合には、どうなるのでしょうか。被後見人が複数の不動産を持っている場合、被後見人が居住していた不動産(居住用不動産)を処分する場合には家庭裁判所の許可が必要ですが、そうではない不動産の処分については、許可は不要ですから、売却して現金化することが可能です。つまり後見人のみの判断で居住用不動産以外の不動産は処分できます。

しかし、後見人としては、許可が不要だからといって、どんどん財産を処分していいとは言えません。後見人には民法の委任の規定が準用されますので、善管注意義務が課せられています(民法852条による民法644条の準用)。善管注意義務とは、善良なる管理者の注意義務のことで、財産管理にあたっては、他人の財産として自分のものよりもより一層大切に管理すべきとされているのです。また、不正行為や著しい不行跡があるなど、後見の任務に適しないときには後見人を解任され(民法846条)、その行為により被後見人に損害を与えた場合には、損害賠償の責任が生じます(同709条)。また財産管理にあたっては、被後見人の意思を尊重し、その心身の状態及び生活の状況に配慮する義務もあります(同858条)。

したがって、被後見人の財産を処分する場合には、処分の必要性や財産のバランスなどを十分考慮したうえで慎重に行うようにしなければなりません。例えば、複数の不動産を処分する場合に、賃料収入のあがるアパートと住む者もなく管理費がかかる不動産があれば、処分によって得る金額の必要性なども考慮し、問題がなければ賃料収入のある方を残すなど、適正な処理が求められます。

・親族の意向

お父さまがお持ちの家が、子どもたちの育った家であった場合など、遠くない将来、被後見人を相続する者としては、売却は望まないというようなこともあると思います。居住用以外の不動産の処分は後見人の権限に属しますので、親族の意向が必ずしも常に後見人の判断に反映されるとは限りません。しかし、このような場合、子どもたちが望まないことを被後見人であるお父さまが強く望むというわけでもないでしょうから、被後見人の意思を考慮する意味でも、より望ましい財産管理がなされるような工夫も大切です。

いずれにせよ、後見制度は、被後見人がより良い生活を送るためにある制度ですので、後見人と、被後見人の関係者たちはよく話し合うことが必要です。なお、居住用不動産を処分する場合としては、第三者への賃貸、使用貸借(無償で誰かに貸すこと)、家屋の取り壊し、抵当権の設定などがあり、これらの行為をする場合には、家庭裁判所の「居住用不動産処分許可」が必要になります。

【後見制度について】施設に入ったので自宅を処分したい「居住用不動産を売却するときの注意点」

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は後見制度に関して、「居住用不動産を売却するときの注意点」を考えてみましょう。

【Q】おば(82歳)は、認知症で、現在、介護付き施設で生活しています。施設に入る前は、自分が所有する一軒家に住んでいましたが、今後ここに戻る見込みはありません。年金は月々入っていますが、資産は300万円ほどで、十分な介護のためにできれば不動産を処分したいと思いますが、どうしたらよいでしょうか。

【A】

・最初にすることは

おばさまは、現在、介護付の施設に入所しておられますから、生活面での心配はあまりないのだと思われます。でも、手持ち現金が潤沢とまでは言えないようですので、所有不動産を現金化して十分な介護をしてあげたいという気持ちもわかります。

また、手入れをする者のいない一軒家は荒れがちですし、浮浪者が入り込んだりすることもあるため、消防署や近隣の方は無人の一軒家には神経を尖らせており、何らかの対応が必要になることも多いと思います。おばさま自身は、認知症で、財産の処分をする能力はないと考えられますので、このような場合の財産処分は、成年後見人を選任して判断してもらうことになります。

・居住用不動産の処理

成年後見人が選任されたら、ご本人(被後見人)が所有していた不動産はどのように扱われるでしょうか。おばさまはご自身が所有していた不動産に住んでいたので、その不動産は「居住用不動産」となります。「居住用不動産」は被後見人が居住の用に供していたということから、一般の所有不動産とは異なり、特に慎重な対応が必要とされています。

おばさまの場合は認知症で回復の見込みが少ないですが、例えば統合失調症などで長年自宅に居住し続けたけれども一人暮らしが難しくなったというような人は、自宅に強い愛着を持っている場合などがあります。その場合に、その居住用の不動産を簡単に売却したりすると、ご本人の生活や精神的な安定に大きな影響をもたらすことがあるからです。したがって、成年後見人が居住用不動産を売却するなど、居住用不動産の処分をする場合には、事前に家庭裁判所に「居住用不動産処分許可」の申立てをし、許可を得る必要があります。

もっとも、ご質問のように、被後見人の介護のために現金が必要であったり、居住用不動産に戻る見込みがないような場合、居住用不動産の売却処分は比較的容易に許可されると思います。このほか、居住用不動産の処分には、第三者への賃貸、使用貸借(無償で誰かに貸すこと)、家屋の取り壊し、抵当権の設定などがあり、これらの行為をする場合にも、家庭裁判所の「居住用不動産処分許可」が必要となります。

【後見制度について】一人暮らしの認知症高齢者を施設に入所させるには「成年後見人が施設と入所契約」

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は後見制度に関して、「一人暮らしの認知症高齢者を施設に入所させるには」を考えてみましょう。

【Q】賃貸マンションで一人暮らしをしてるおば(78歳)が最近、肺炎を起こして入院しました。しかし、認知症がすすんでおり、家に帰って一人暮らしをするのは無理だと言われています。施設に入れたいと思いますが、今後どのようにすればいいのでしょうか。財産は預貯金が1500万円くらいと、収入は年金だけです。

【A】

・最初にすることは

おばさまは今後、一人暮らしは無理ということですが、ある程度財産も有りますから、地方公共団体や社会福祉法人が運営する特別養護老人ホームや介護付きの有料老人ホーム等に入所するということになると思います。特別養護老人ホームは何年も入所待ちをしているのが現状であることを考えますと、有料老人ホームへの入所が現実的です。

ただ、おばさまは認知症のために、ご自身で財産を管理したり、施設に入所したりということはできない状態でしょう。このような場合、おばさまのために、家庭裁判所で成年後見人を選任してもらい、施設の入所契約をしたり、財産管理をしてもらうことになります。

したがって、おばさまに関して、まず家庭裁判所に成年後見開始の申立てをし、成年後見人を選んでもらうことになります。この場合、後見開始の申立権者は、4親等内の親族(配偶者、4親等内の血族、3親等内の姻族)らとなります。もしあなたがずっとおばさまの面倒をみてあげようと思われるのであれば、あなたが成年後見の申立てをし、ご自身が成年後見人の候補者となればよいでしょう。

申立て後、家庭裁判所で審理をして、後見開始の決定が出れば、成年後見人が選任されます。親族が成年後見人になることが多いですが、親族に成年後見人になれる人がいない場合や親族で誰が後見人になるかに争いがある場合などには、裁判所で専門職などの第三者が選ばれます。その場合、成年後見人には、弁護士や司法書士、社会福祉士などが選ばれることになります。

・施設の入所契約

現在、おばさまは肺炎で入院中ですが、退院が決まれば、施設に入所するのがよいと思われます。その場合、施設に入所するのには、施設入所契約が必要となります。また、有料施設の場合には、ある程度のまとまった費用も必要です。

施設は、親戚の方が面倒を見やすい場所で選び、入所が決まれば、成年後見人が、ご本人の後見人として後見人名義で施設勇所契約を締結します。その際に必要な費用は、この場合であれば、おばさまがお持ちの預貯金から引き出して支払うということになります。銀行は、預貯金名義人が認知症と分かった場合、預貯金の引出に応じることはありませんが、後見人からの払出請求にはもちろん応じます。その後の、入所費用等は、年金や預貯金の残金から支出することになります。その入出金の管理は後見人が行います。預貯金の管理や施設入所のための入出金管理は後見人の重要な仕事になります。

・居住用不動産の処分

おばさまは賃貸マンションにお住まいということでしたが、通常施設に移ると、今後、賃貸マンションに戻ることは考えられません。それにもかかわらず、マンションを借りっぱなしにすると月々の賃料が発生しますから、財産的には大きなマイナスとなります。そこで、後見人は、マンションの賃貸借契約を解約する必要があります。

おばさまの場合は認知症がすすみ回復の見込みが少ないですが、回復の可能性があったり、統合失調症などで長年自宅に居住し続けたけれども一人暮らしが難しくなったというような人では、自宅に強い愛着を持っているケースなどもあります。その場合に、その居住用の不動産を手放してしまうと、ご本人の今後の住まいや精神的な安定に大きな影響をもたらすことがあります。そこで、居住用不動産の扱いには特に慎重な対応が求められます。

そのため、成年後見人が居住用不動産の売却や賃貸借契約の解除など、居住用不動産の処分をする場合には、事前に家庭裁判所に「居住用不動産処分許可」の申立てをし、許可を得る必要があります。したがって、賃貸マンションについては、後見人が裁判所の許可を得て、賃貸借契約を解除することになります。

【後見制度について】認知症の高齢者が遺産相続をするには「遺産分割のために成年後見人を選任」

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は後見制度に関して、「認知症の高齢者が遺産相続をするには」を考えてみましょう。

【Q】最近父が亡くなりました。86歳の母は認知症のために、父が亡くなったことさえ理解できていないようです。子である私と弟が父の相続手続きをするには、どのようにすればよいでしょうか。

【A】相続の手続きを進めるには、まずお父様が生まれてから亡くなったときまでの戸籍謄本等を取って、相続人が、妻であるお母様、子であるあなたと弟さんの3人であることを確定する必要があります。また、遺産として何があるのかも調査しなければなりません。銀行などでお父様の遺産を調査する場合にも、あなたが相続人であることを証明する資料として、これらの戸籍謄本等は必要になります。

このようにして、誰が相続人であるか(相続人の範囲)と、遺産としては何があるか(遺産の範囲)を確定させたうえで、相続人全員で遺産をどのように分けるのかの話し合い(遺産分割の協議)をすることになります。この遺産分割協議をするには、判断能力を備えていることが必要ですが、お母様にはこの判断能力が欠けているとみられますので、遺産分割の協議をする能力がありません。そこで、お母様が遺産分割で不利益を受けないように、お母様に代わってあなたたちと遺産分割の協議をする、お母様の代理人が必要になります。判断能力がない人の代理をするために法律が定めているのが成年後見人です。成年後見人を付けるには、あなたがお母様の住む家庭裁判所に、お母様について成年後見開始の申し立てを行うとよいでしょう。その場合に、何のために成年後見の申立てを行うのか、成年後見申立ての目的も記載します。

お母様の成年後見人を選任する家庭裁判所の審判が出て確定したら、あなたと弟さんとお母様の後見人とで遺産分割の協議をし、協議が整えば遺産分割協議書を作成します。この遺産分割の内容ですが、判断能力の欠けるお母様の利益保護のため、原則としてお母様の法定相続分(全体の遺産の2分の1)は確保させる必要があります。

遺産分割のために選任された成年後見人も、お母様の財産管理や身上監護の任にあたります。そのため、遺産分割協議にあたって紛争などの問題が生じるおそれがない場合には、親族であるあなたや弟さんが成年後見人に選任されることもあり得ます。ただし、相続人であるあなたが成年後見人に選任された場合には、遺産分割協議にあたってあなたがお母様の後見人としてお母様を代理することはできません。なぜなら遺産分割については、あなたもお母様も同じ相続人としてお父様の財産を分けることになるため、二人の利益が相反するからです。その場合には、公正を期してお母様の利益を守るために、家庭裁判所に特別代理人選任の申立てを行い、遺産分割に関しては、相続人とえらばれた特別代理人との間で、遺産分割協議を行うことが必要です。

【後見制度について】預金通帳の管理が難しくなってきた「銀行預金の出し入れの支援」

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は後見制度に関して、「預金通帳の管理が難しくなってきた」ケースを考えてみましょう。

【Q】母は高齢ですが、父が亡くなった後一人暮らしをしています。結婚して遠方に住んでいるひとり娘の私が、久しぶりに母を訪ねたところ、預金通帳や印鑑が見つからず、銀行で通帳の再発行や改印届を何度かしていることがわかりました。判断能力が著しく劣っているというわけではないのですが、今後の母の生活が心配です。日常生活のために預金の出し入れを支援してもらう方法はないでしょうか。

【A】高齢になって判断能力が衰えると、預金通帳の管理や、預金の出し入れも難しくなります。遠方に住むひとり娘のあなたが、お母さまの日常生活を心配する気持ちもよくわかります。

あなたのお母さまに判断能力の衰えがみられるにしても、判断能力が著しく劣っていない場合には、お母様の住む地域の社会福祉協議会で相談して、お母様の支援をしてもらうとよいでしょう。この相談から支援までの流れは、次のようになります。

まず、お母様の住む市区町村の社会福祉協議会で、福祉サービスの利用援助など福祉サービスに関する相談をすると、職員(専門員)がお母さまの自宅を訪問してお母さまの状況を聴いて、どのような援助が必要かお母さまと話し合います。そのうえで、お母様の希望に沿った支援計画を作成してお母さまと契約します。契約後は、職員(専門員・生活支援員)による援助が実施されます。あなたのお母さまの場合、預金通帳や印鑑の管理が難しくなってきていて、日常生活のために預金の出し入れをしてもらう支援が必要のようですので、市区町村の社会福祉協議会(実施主体の都道府県社会福祉協議会からの受託)が、日常生活自立支援事業(地域福祉権利擁護事業)として行っている福祉サービスの利用援助の契約をして、通帳の預かりや預貯金の引き出し、公共料金などの支払い(日常的金銭管理)や、通帳・実印・保険証書・年金証書・権利証・契約書などの預かり(書類などの預かり)サービスを受けるようにしたら良いとおもいます。

次に、あなたのお母さまの判断能力の衰えが進み、判断能力が無くなってしまった場合は、お母さまが社会福祉協議会とこれらのサービスの契約をすることはできません。その場合は、お母様について成年後見開始の申立てをして、家庭裁判所が選任した成年後見人が、お母さまの預貯金通帳・印鑑を預かり、預貯金の出し入れをして、お母さまの財産管理や身上監護をすることになります。

相続・遺言・成年後見無料相談会のお知らせ

世田谷区砧の車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

本日は無料相談会のお知らせをいたします。

相続、遺言、成年後見について、世田谷区の行政書士5名が無料相談会を開催いたします。私もメンバーの一人になっております。

会場は世田谷区【烏山区民会館 集会室】京王線千歳烏山駅徒歩1分

日時は令和1年6月30日(日)13:00~16:30

予約番号 080-7025-8357(中村由美子)

予約優先ですが、当日飛込みでのご相談も歓迎です。

皆様のお越しをお待ち申し上げております。

見に覚えのない商品が届いたら・・・代引きによる金銭被害にご注意ください

世田谷区砧の車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、身に覚えのない商品が届いたら?・・・代引きによる金銭被害について、心掛けておきたいことをご案内します。

身に覚えのない商品が突然届いたという相談が、全国の消費生活センターや国民生活センター 越境消費者センター(CCJ)等に寄せられています。特に最近、「代引 き(注)」サービスを利用して消費者に商品代金を支払わせるものや、海外から送り主不明の小包が届くといったケースが目立っています。

(注)「代引き(代金引き換え配達)」とは、インターネット通販などで購入した商品の代金を、商品到着と同時に配送業者に支払 い、引き換えに商品を受け取るサービスのこと。

【1.相談事例 】

【事例1】誰かが自分の名前を使って注文したと思われる商品が代引きで届いた
インターネット通販会社から自分宛てに代引きで荷物が届いた。不在にしていたので、代わりに家族が代金約3,000円を支払い、荷物を受け取った。送り主は自分の名前になっており、不審に思ったが、開封して内容を確認すると、全く注文した覚えのないライターだった。支払ってしまった代金を返金してほしい。
(受信年月:2019年3月 50歳代 男性)

【事例2】海外から送り主不明の小包がポストに届いていた
送り主不明の小包が自宅のポストに投函されていた。開封してしまったため、配送業者では受取拒否できないと言われた。中にはキーホルダーが入っていたが、代金は支払っていないし、クレジットカードへの請求もない。外国から送られてきたようだが、届いた商品をどう扱えばよいか。
(相談受付年月:2019年4月 相談者:30歳代 女性

【2.消費者へのアドバイス 】
身に覚えのない商品が届いたら、以下の点に注意しましょう。
(1)身に覚えのない商品が届いたら、受け取らないようにしましょう
家族宛てなど、受け取るべきかその場で判断できないときは、荷物を一旦持ち帰ってもらいましょう。

(2)仮に受け取ってしまっても支払う必要はありません   受け取った後で、注文していない商品だと分かった場合(注1)、売買契約は成立していないため、 荷物の中に請求書が入っていても支払う必要はありません(注2)。

(注1)注文をしていない商品を受け取ってしまっても、商品の送付があった日から 14 日間(商品の引取りを販売業者に請求した 場合は7日間)を経過した場合は、販売業者による商品の引取りに応じる必要はない。

(注2)請求されないケースもみられるが、その場合、商品は保管しておくことが望ましい。

一方、請求書が入っていなかった場合でも、後日クレジットカードの請求がある可能性があ りますので、毎月の明細書をチェックしましょう。

(3)商品が「代引き」で届いて、支払ってしまった場合は、早急に販売元・発送元に連絡しましょう
商品を「代引き」で支払い、受け取ってしまった後で、注文していないことが分かった場合 は、販売元・発送元にその旨を伝え、返品・返金の交渉をしましょう。

(4)「海外から届いた商品」の場合は安易に返送してはいけません
発送元が海外である商品を受け取った場合は、商品の内容によっては、関税法上の問題とな る可能性がありますので、安易に返送しないようにしましょう(注3)。

(注3)商標権等の「知的財産権」を侵害する商品(いわゆる模倣品)を海外へ返品する行為は「権利侵害品の輸出」として関税法 違反に問われるおそれがある。

(5)家族と普段から打ち合わせておきましょう
普段からの備えとして、通信販売等を利用した場合は、代引き等の支払い方法も含め必ず家族に伝え、「誰が注文したか分からない荷物は受け取らない」等、家族間のルールを決めておきましょう。

(6)身に覚えのない商品が届いた場合は、すぐ最寄りの消費生活センター等に相談しましょう *消費者ホットライン:「188(いやや!)」番 最寄りの市町村や都道府県の消費生活センター等をご案内する全国共通の3桁の電話番号です。

3.情報提供先
消費者庁消費者政策課(法人番号 5000012010024)
内閣府消費者委員会事務局(法人番号 2000012010019)

身元保証など高齢者サポートサービスをめぐる契約トラブルについて

世田谷区砧の車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、身元保証など高齢者サポートサービスをめぐる契約トラブルについて、心掛けておきたいことをご案内します。

近年、高齢者の単独世帯が増加傾向にあるなか、高齢者を対象とする身元保証や日常生活の支援、死後事務等を行うサービス(以下、身元保証等高齢者サポートサービス(注1))が広まってきています。

一方で、全国の消費生活センター等には「契約内容をよく理解できていないにもかかわらず、高額な契約をしてしまった」等の契約時のトラブルのほか、「解約時の返金額に納得できない」等、解約時のトラブルについて相談が寄せられています。

2013年度の相談件数は85件、2014年度の相談件数は99件、2015年度の相談件数は177件、2016年度の相談件数は127件、2017年度の相談件数は74件、2018年度の相談件数は101件です。

(注1)本資料における「身元保証等高齢者サポートサービス」は、一人暮らしの高齢者等を対象とする、身元保証や日常生活支援、死後事務等に関するサービスのことをいう。具体的には、医療機関への入院や老人福祉施設等への入所、賃貸住宅等の契約の際の身元保証・身元引受等のサービスや、買い物等の日常の生活支援や見守り支援、死後の葬儀支援等のサービスが行われている。なお、「身元保証等高齢者サポートサービス」は高齢者以外も契約当事者になる場合がある。

【相談例】預託金を支払うように言われているが、詳細な説明がない

頼れる親族がいない中、身元保証サービスや亡くなった後の事務手続等を代行する事業者とサポート契約をしたら、預託金を支払うように求められた。契約内容などの詳細について理解できていなかったこともあり、更なる高額な預託金の支払いを躊躇(ちゅうちょ)していたところ、担当者から「明日どうなるか分からない。一刻も早く預託金を支払うように」と急がされた。詳細な説明もない中で、このような事業者の対応に困惑しているが、どうしたらよいか。

※その他、以下のような相談も寄せられています。

  • 契約内容がよく分からず高額なので解約したい
  • 事業者に勧められるままにサービスを追加して思ったより高額な契約になった
  • 契約するつもりのなかったサービスも含まれていた
  • 約束されたサービスが提供されないので事業者に解約を申し出たところ、説明のないまま精算された

【相談例からみられる問題点】

  1. サービス内容や料金等を理解できていないまま契約している
  2. 約束されたサービスが提供されないことがある
  3. 解約時の返金をめぐってトラブルになることがある

【消費者へのアドバイス】

  1. 自分の希望をしっかりと伝え、サービス内容や料金等をよく確認しましょう
  2. 預託金等の用途や解約時の返金に関する条件について予め確認しておきましょう
  3. 契約内容を周囲の人にも理解してもらうよう心がけましょう
  4. 契約や解約に際しトラブルになった場合にはすぐに最寄りの消費生活センター等に相談しましょう
  • *消費者ホットライン:「188(いやや!)」番

 

配偶者の居住権保護に関する相続法改正について(配偶者居住権)

世田谷区砧の車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

令和2年4月1日から施行される配偶者の居住権保護に関する民法相続編の改正について、今回は相続の効力等に関する改正について解説していきたいと思います。

配偶者の居住権保護のための方策は,大別すると,遺産分割が終了するまでの間といった比較的短期間に限りこれを保護する方策と,配偶者がある程度長期間その居住建物を使用することができるようにするための方策とに分かれています。今回は、長期間保護する方策について見ていきます。

配偶者の居住権を長期的に保護するための方策 (配偶者居住権)

【要点】
配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の所有建物を対象として,終身又は一定期間,配偶者にその使用又は収益を認めることを内容とする法定の権利を新設し,遺産分割における選択肢の一つとして,配偶者に配偶者居住権を取得させることができることとするほか,被相続人が遺贈等によって配偶者に配偶者居住権を取得させることができることにする。

【1.見直しのポイント】

配偶者が相続開始時に居住していた被相続人単独所有の建物を対象として,終身又は 一定期間,配偶者に建物の使用を認めることを内容とする法定の権利(配偶者居住権)を新設する。➡① 遺産分割における選択肢の一つとして ② 被相続人の遺言等によって配偶者に配偶者居住権を取得させることができるようにする

【2.現行制度】

例: 相続人が妻及び子,遺産が自宅(2000万円)及び預貯金(3000万円)だった場合 妻と子の相続分 = 1:1 (妻2500万円 子2500万円)内訳、妻「自宅20000万円+預貯金500万円」子「預貯金2500万円」

妻:「住む場所はあるけど, 生活費が不足しそうで 不安」

【3.制度導入のメリット】

配偶者は自宅での居住を継続しながらその他の財産も取得できるようになる。

妻:「配偶者居住権(1000万円) 預貯金1500万円」
子:「負担付の所有権(1000万円) 預貯金1500万円」
妻:「住む場所もあって,生活費 もあるので,生活が安心」