世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。
今回は後見制度に関して、「事務管理とは何ですか?応急処分義務(善処義務)とは何ですか?」について考えてみましょう。
◆事務管理とは何ですか?
事務管理(民法697条)というのは、例えば隣家のひとり暮らしの高齢者が、倒れているのを発見した隣人が、高齢者を病院に運んで、高齢者の名前で入院・治療契約をしてあげるように、他人に対して義務や権限がないのに、他人の利益のために他人の生活に必要な仕事を処理する行為のことです。高齢者と隣人が親子であれば、親族間の扶養義務に基づくものですから、事務管理になりませんし、隣人が高齢者の後見人の場合も、身上監護義務がありますから、事務管理ではありません。
事務管理を始めた者は、自分で始めた以上、本人やその相続人または法定代理人が管理できるようになるまで、管理を継続しなければなりませんし、本人の意思や利益に反することが明らかな場合は、管理を中止しなければなりません。
事務管理者は、その事務に従い、最も本人の利益に適する方法で管理すべき義務があるのです。そのほか管理者には、本人への通知義務(民法699条)や事務管理状況・顛末の報告義務(民法701条・645条)、受取物引渡・取得権利移転義務(民法701条・646条)、金銭消費の場合の利息支払等の義務(民法701条・647条)が発生します。
事務管理者は、「本人の身体・名誉または財産に対する急迫の危害を免れさせるために」事務管理を行った緊急事務管理の場合は、悪意又は重過失がない限り、本人に発生した損害の賠償義務は負いませんが、急迫の危害がなければ、受任者と同様、善管注意義務を負うと考えられます。
しかし、事務管理は親切行為となる反面、いらぬお節介となる場合もある上、損害賠償責任まで負わなければならなくなる可能性もあるので注意が必要です。その一方で、事務管理者は本人に対して、事務管理に要した費用の償還請求ができます。
◆応急処分義務(善処義務)とは何ですか?
委任関係は、契約が終了しても、委任者と受任者の権利義務が当然に終了するものではありません。委任契約が何らかの事情で終了した場合でも、委任者側に引き継ぎをすることなく受任者が突然仕事をやめてしまっては、困ることがあるからです。そこで、委任者側で事務を処理することができるまでの間に、委任者が測り知れない損害を受けるおそれがある「急迫の事情」があるときは、受任者やその相続人または法定代理人は、必要な処分をしなければならない(民法654条)とされています。これを応急処分義務(または善処義務)といいます。
この応急処分義務は、法律関係が委任関係と似ている被後見人と後見人との間にもあります。(民法874条、876条の5、876条の10、任意後見契約法7条、民法654条。委任契約の一種である任意後見契約に基づく任意後見人には民法654条が直接適用)ので、後見が終了した場合、被後見人側で事務を処理することができるまでの間に、例えば、被後見人の権利が時効で消滅しそうなときなど「急迫の事情」がある場合は、後見人であった者やその相続人・法定代理人・後見監督人は、時効中断の手続きをとるなど、必要な処分をする義務があるのです。
葬儀費用や病院の入院治療費の支払いが、応急処分義務に当たるかどうか検討すると、具体的な事情にもよりますが、これらは通常、本人の相続人が対応すべきで、「急迫の事情」があるとまではいえないのではないかと思います。
応急処分を行った場合、委任が有償だった場合は、受任者は費用の償還請求や報酬請求ができると考えられます。後見の場合も、費用の償還請求や家庭裁判所に報酬付与審判の申立てができると考えられます。
応急処分をすべき期間は、委任者やその相続人・法定代理人が委任事務を処理するまで、後見人などの場合は、被後見人などが能力を回復して自分で財産管理ができるときまで、被後見人などが死亡したときは、その相続人が財産管理ができるときまでです。
後見人等であったものが、善管注意義務に反して応急処分をせず、被後見人等に測り知れない損害を発生させたときは、損害賠償責任を負うことになるので、注意が必要です。