【相続・遺言について】遺言執行者を指定していなかった場合の手続きの流れ

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、遺言執行者を指定していなかった場合の手続きの流れについて考えてみたいと思います。

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【Q】遺言書で遺言執行者を指定していなかった場合、遺言の内容はどのような手続きで執行されるのですか?

 

【A】遺言の内容には、その内容を実現するために何らかの手続きを必要とするものと、何らの手続きを必要としないものがあります。遺言の内容を実現するために手続きを行うことを遺言の執行といい、認知や相続人の排除といった遺言執行者でなければできない手続と、遺言執行者がなくても相続人で行うことができる手続きがあります。
では、遺言書で遺言執行者が指定されていなかった場合、遺言の内容はどのような手続きで執行されるのでしょうか?

◆①家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立て、裁判所が選任した遺言執行者が執行する方法です。遺言執行者がいないときには、利害関係人(相続人、受遺者など)は、家庭裁判所に遺言執行者の選任を請求することができます。遺言書で遺言執行者が指定されていないけれども、遺言執行者でなければできないことが遺言書に記載されている場合、遺言を執行するためにはこの方法によることが必要になります。
また、遺言執行者でなければできないことが遺言書に書かれていない場合でも、遺言執行者の選任は可能です。(ただし、遺言執行者による執行の余地が全くない場合は、申立は却下されます)。家庭裁判所によって遺言執行者が選任された場合には、相続人は遺産の処分等の遺言執行を妨げるような行為を行うことができず(仮に行ったとしても原則として無効になりますが、平成30年改正により、善意の第三者に対抗できない旨が定められました。)、遺言執行者が相続人に代わって必要な諸手続きを行い、遺言を執行していくことになります。

◆②遺言執行者なしで遺言を執行する方法です。例えば、被相続人Aが「自宅の甲不動産は同居している妻のBに相続させる。乙不動産は社会福祉法人Cに遺贈する。丙銀行の普通預金は別居している子のDとEに半分ずつ相続させる。丁銀行の普通預金は生前世話になった知人のFに遺贈する。自宅に保管してある絵画はG美術館に遺贈する。」という内容の遺言書を残して死亡したとします(相続人はB、D、Fの3名)。このときの具体的な手続きを考えてみます。

まず甲不動産について、従来「相続させる遺言」と呼ばれていた特定の遺産を特定の相続人に承継させる旨の遺言は平成30年改正で「特定財産承継遺言」と名付けられましたが、最高裁の判例は「相続させる遺言」について、遺産分割方法を定めるものであり、特段の事情のない限り、何らの行為を要さず、被相続人の死亡時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される、ということを述べています。
つまり、A死亡時に当然に甲不動産の所有権がAからBに移転することになります。甲不動産の登記名義をAからBに移す場合、Bは単独で(他の相続人であるD、Eの関与なしで)法務局に対して登記手続きを行うことができます。
なお、従来「相続させる遺言」には対抗要件が不要とされていましたので、もし、Bが登記手続きをする前に、相続人Dが自己の法定相続分4分の1の相続登記を行いその上で、第三者に当該4分の1の持分を売却してXがその旨の登記を経た場合でも、BはXに対して甲不動産全部の権利を主張することができました。
しかし平成30年改正により、自己の法定相続分を超える部分については対抗要件を要するものとされましたので(後述する遺贈と同じ扱い)、この場合、BはXに対してX名義に登記された4分の1の持分の権利を主張することができなくなりました。

乙不動産については、Aの相続人ではないものに財産を与える遺贈であり、遺贈の場合、登記名義をAからCに移すためには、登記権利者であるCと、登記義務者である相続人B、D、Eの全員で共同申請をしなければなりません。仮に相続人の内1人でも登記手続きに協力しない者がいれば、共同申請で登記することはできませんので、この場合、Cは裁判を起こして登記手続きを請求することになります。また、現に乙不動産を占有する者が任意に引渡しをしない場合には、占有者に対して引渡しを求める裁判も必要となります。
なお、遺贈によるAからCへの所有権移転登記が行われる前に、Dが法定相続分に基づく相続登記を経て、自己の持分4分の1を第三者に売却して、Yが登記名義を得た場合、Cは遺贈による所有権取得を先に登記を得たYに対抗することができませんので、注意が必要です。

丙銀行の普通預金はどうでしょう。上記の最高裁判例からすると、Aの死亡と同時にAの預金は半分ずつDとEに当然に帰属することになり、D及びEはそれぞれ、単独で丙銀行に対して預金の各2分の1の払戻しを請求することができそうです(なお、この場合も、法定相続分を超える部分については対抗要件(債務者への通知)が必要とされました。)。しかしながら、銀行は遺言書が無効である可能性や、相続人間の紛争に巻き込まれることなどを懸念して、相続人が単独で遺産である預金の払戻し請求を行った場合、相続人全員の承諾書や印鑑証明書等の提出を求めることがあります。その場合、相続人の内1人でも協力しない者がいた場合には、丙銀行に対して裁判をして、払戻しを求めざるを得ないことになります。

Fが遺贈を受けたとして丁銀行の預金払い戻しを求める場合にも、相続人全員の協力を得て、その旨の書面を銀行に提出をして払戻しを受けるか、そうでなければ裁判手続きによらざるをえません。

動産である絵画については、遺贈の効力発生時に何らの行為を要せず、当然に受遺者であるGに権利が移転することになりますが、第三者に対抗するには対抗要件(動産の場合は引渡し)を要します。具体的な遺言の執行としては、事実上絵画を保管しているBが、遺贈を受けたGに引き渡すことで執行されることになります。もし、Bが絵画を引き渡すことを拒んだ場合、GはBに対して裁判を起こし、絵画の所有権に基づき引渡しを求めることができます。

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