【相続・遺言について】遺留分侵害額請求権の行使の方法

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、遺留分侵害額請求権の行使の方法について考えてみたいと思います。

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【Q】①母が約1年半前に亡くなり、その後、裁判所で母の遺言書の検認手続きを行いました。相続人は長女の私と弟の2人のみです。遺言書には「財産のすべてを弟に相続させる」と書かれておりその遺言に基づき、預貯金や不動産その他すべての財産が弟のものになってしまいました。私は弟に対して、遺留分侵害額請求というものを行えると聞きましたが、検認手続きから間もなく1年となり、法的手続きをしていると時効にかかってしまいそうなのですが、どうしたらよいでしょうか?
②上記①のような場合には遺留分侵害額請求ができるということを最近知りました。しかしすでに検認手続きから1年以上経過しています。この間、弟に遺産分割協議の申し入れをしているのですが、もう遺留分侵害額の請求はできないのでしょうか?
【A】◆1.遺留分侵害額請求権の行使の方法
遺留分制度は被相続人による財産の自由な処分と遺留分権利者の生活保障の調和を図るものです。

平成30年改正前の判例上、遺留分減殺の意思表示によって、贈与等は遺留分を侵害する限度において失効し、受遺者又は受贈者(以下受遺者等)が取得した権利は、その限度で当然に遺留分権利者に戻るものとされていました。そのため減殺請求の対象となった財産については、現物返還が原則とされ、例外的に財産に相当する金銭を支払うことを認めていたのです。

しかしながら、このような考え方には、贈与等の目的物について共有状態が生じた場合に権利関係が複雑になる等の不都合が指摘されていました。
そこで平成30年改正によって、遺留分減殺請求によって当然に遺留分権利者に権利が戻るとされていた枠組みを改め、遺留分権利者は、受遺者等に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できる債権とする枠組みに変更されました。これにより遺留分減殺請求権は遺留分侵害額請求権と呼ばれることになりました。また、受遺者等は例外的にも現物返還を選択することはできなくなり、金銭の支払いをしなければなりません。
遺留分侵害額請求権の行使方法については改正法の影響はありません。したがって、遺留分侵害額請求は、意思表示の方法によって行使すれば足り、訴えの方法による必要はありません。その際遺留分侵害額を具体的に明示することまでは必要ありませんが、その意思表示には遺留分を侵害されたことによる侵害額を請求するものであるとの意思が現れている必要があります。

質問①について具体的に検討すると、お母さんの遺言で弟にすべての財産を相続させると書かれており、相続人はあなたと弟さんの2人である場合、あなたは法定相続分(2分の1)の更に2分の1即ち、4分の1の遺留分を侵害されていることになります。したがってあなたは受贈者である弟さんに対して相続財産の4分の1に相当する金銭を支払うよう請求できることになります。

あなたは検認手続きで「全ての財産を弟に相続させる」という内容を知ったのですから、現実的に遺留分侵害額請求が可能であることまで知ったと推認され、この時が1年間の消滅時効の起算点となります。
検認手続きからまもなく1年経過するということですから、弟さんに対し、早急に遺留分侵害額請求権を行使するとの意思表示をしなければなりません。もっとも訴訟提起することまで求められておりませんので、配達証明付き内容証明郵便を利用して、弟さんに対して「遺留分侵害額請求権を行使します」という内容の意思表示をしましょう。

 

◆2.遺留分侵害額請求権行使期間経過の場合
遺留分侵害額請求権の行使期間は経過しているが、行使期間内に遺産分割協議の申し入れを行っていた場合に、遺産分割協議の申し入れをもって遺留分侵害額請求権の意思表示をしたといえるか検討しましょう。

この点について、判例では、遺産分割と遺留分減殺とはその要件及び効果を異にすることから、遺産分割協議の申し入れに、当然、遺留分減殺の意思表示が含まれているということはできないとしつつ、「被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合には、遺贈を受けなかった相続人が遺産の配分を求めるためには、法律上、遺留分減殺によるほかないのであるから、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申し入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申し入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解するのが相当である」と判示しています。

お母さんの遺言は「全ての財産を弟に相続させる」というものですから、遺言の有効性を争わない限り、あなたが遺産の配分を求めるためには、遺留分侵害額請求権を行使するほかありません。したがって改正前の判例ですが、これを前提とすると、遺産分割協議の申し入れには、遺留分侵害額請求権の行使の意思表示を含むと判断される余地はあります。
したがって、遺言内容を知った検認手続きから1年経過した場合でも、あなたが遺言の有効性をまったく争っていなかったのであれば、例外的に遺留分侵害額請求権を行使することができる余地はあります。

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