【孤独死をめぐるQ&A】Q30 葬儀費用の負担者、葬儀費用不払への対応(葬儀費用の先取特権)

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【孤独死をめぐるQ&A】Q30 葬儀費用の負担者、葬儀費用不払への対応(葬儀費用の先取特権)についての記事です。

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【Q30】孤独死した方の遺体を親族が引き取り、当社に葬儀を依頼しました。故人に相続人はなく、生前に交流はありませんでしたが警察に言われてやむなく遠縁の親族が遺体を引取り、葬儀を依頼することになったようです。
葬儀が終わり、葬儀費用を請求したところ、「故人の預金があるのだから、そこから回収して欲しい。私は相続人でもないし葬儀費用は支払いたくない」と支払いを拒否されてしまいました。葬儀費用は誰が負担するものなのでしょうか。また、相続財産から回収することはできないものでしょうか。

【A】葬儀費用は原則として喪主が支払います。そのため、葬儀社としては喪主に葬儀費用を請求することになります。喪主は、相続人でないなどという理由で支払いを拒否することはできません。
とはいえ、複数の葬儀社の顧問弁護士に聞くと、葬儀費用不払対応をしていると同案件では、縁が遠い方が期せずして葬儀をしなければならなくなった例が多いと感じるそうです。
本事例のように喪主から葬儀費用の支払いを拒否されているが故人に財産があることが分かっている場合、葬儀費用の先取特権を用いて回収できる可能性があるため、その方法を検討しても良いかもしれません。

【解説】

1 葬儀契約の主体は喪主

① 葬儀契約は、何か特殊な契約というわけではなく、葬儀という儀礼を行うことや葬儀のために必要な業者を手配・取り次いでもらうことを依頼する準委任契約にすぎません。
② したがって、葬儀契約の主体は、喪主と葬儀社であり、葬儀社は契約の主体である喪主にしか葬儀費用を請求することはできません。
③ この点、喪主が負担した葬儀費用を相続人間でどのように分担するかについては喪主負担説や相続財産負担説など諸説ありますが、葬儀社が誰に請求できるかというとそれは契約主体である喪主にしか請求できないということになります。
④ なお、葬儀社によっては、宗教的な葬儀の主宰者である「喪主」と契約主体として葬儀費用を負担する「施主」と表現を使い分けていることがあります。そのような場合、契約主体は「施主」と認定されるのではないかと思います。

2 先取特権

① 葬儀によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有します(民法306条3号)。
② 葬式費用が先取特権とされた趣旨は、「葬式の際に…相手方がいちいち債権実現の可能性を検討したり、担保を徴したりする余裕はないのが通常であるから、債権者のために債権実現を保障することにより債務者が葬式をあげることを容易にする」ことにあるとされています(加藤一郎・林良平編「担保法大系第2巻」347項金融財政事情研究会1985)。葬儀は亡くなってすぐに行われなければなりませんので、葬儀社としては、喪主に資力も故人の資力も分からないままに受注せざるを得ません。そのため、葬儀費用債権には特別の保護が与えられています。
③ この点、東京高決平成21年10月20日は、民法309条1項の「債務者」とは死者自身を指すべきものと解されており、葬式費用の債権者は本来的には葬儀社であって、「債務者」の総財産である遺産の上に相当額について先取特権を有することになると判示しています。
④ 本事例では、葬儀社は葬儀によって生じた債権を有する者に当たりますし、債務者は死者自身を指すので、故人の預金は債務者の財産に当たります。
⑤ そのため、葬儀費用先取特権により、預貯金を差し押さえて回収をすることが可能と考えます。債務者は死者自身を指すと解されていますが、死者自身は当事者にはなりませんので、債務者は相続財産法人となります(民法951条)。
⑥ そして、相続財産管理人が選任されておらず相続財産法人に代表者がいないため、民事訴訟法35条の準用により特別代理人を選任して、手続きを進めます。本事例と異なり、相続人がいる場合は、亡き誰々相続人○○が債務者になります。
⑦ なお、不動産に対する先取特権の行使の場合には、民法335条1項により不動産以外の財産から弁済が受けられないことが必要になります。
⑧ 葬儀費用の先取特権は、葬儀費用全額ではなく、債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額のみだけが対象になります(民法309条1項)。そのため、葬儀費用が相当額の範囲内であることを資料を添付して明らかにする必要があります。