世田谷区砧で子供のいないご夫婦、おひとり様の遺言書作成、相続手続き、戸籍収集支援、任意後見、死後事務委任に詳しい行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。
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【終活・遺言・相続相談】相談例54 遺産分割と遺産整理についての記事です。
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【相談内容】
相談者(54歳男性)から「3か月前に母(77歳)が亡くなり、相続については相続人である次男(51歳)・長女(50歳)とほぼ合意できた。今後、どのように手続きを進めればよいか」と相談を受けた。
【検討すべき点】
遺産分割について合意出来たのなら、遺産分割協議書を作成して遺産の処分を始めます。遺産分割協議書は、不動産の所有権移転登記の原因証書となり、預貯金・株式・投資信託の名義変更・解約・売却などに必要な重要書類ですから遺漏ないよう正確に作成する必要があります。遺産の処分手続きも煩雑なことが多いので、双方とも行政書士等士業に任せるのが堅実です。
【1】遺産分割協議書の作成
【1-1】遺産分割協議書の作成
① 遺産分割協議がまとまれば、すべての相続人が署名・捺印して遺産分割協議書を作成します(通常は相続人全員分の遺産分割協議書を作ります)。
② 捺印する印鑑は実印を用い、作成する遺産分割協議書全通に作成日付から発効後3ヶ月以内の印鑑証明書を添付して綴じるようにします。また、契印をお願いします。
③ なお、相続人全員が一堂に会して遺産分割協議書を作成することが困難な場合(相続人が遠隔地に散らばっている場合など)に、一人ずつが署名捺印した同一の内容の遺産分割協議書を全員から集める方法もあります。
④ また、相続人を確定できる戸籍謄本も用意しておき、他の相続人から求められれば写しを差し上げます。
⑤ 平成29年5月29日から、全国の法務局において各種相続手続きに利用することができる法定相続情報証明制度が始まりました。法務局に戸除籍謄本等の束と併せて相続関係を一覧に表した図(法定相続情報一覧図)を提出すれば、登記官がその一覧図に認証文を付した写しを無料で交付してくれます。そして、その後の相続手続きには法定相続情報一覧図の写しを利用でき、戸除籍謄本等の束を何度も出し直す必要がなくなります。
【1-2】遺産分割協議書作成の注意点
遺産分割協議書を作成する際に見落としがちな点は、以下のとおりです。
① 遺産分割協議成立後に見つかった遺産の処理についての取り決め(包括条項)は忘れずに記載して下さい。実際、遺産分割後に株式配当金や還付金などが明らかになることが少なくありません。
② 相続財産からの果実(相続開始前後の賃料など)の帰属者を誰にするか、相続債務(ローン、医療費、葬儀費用など)を誰が支払うかなども(債権者には対抗できませんが)、遺産分割後に争いになりやすい問題ですので、遺産分割協議書に記載するよう勧めます。譲渡所得税や固定資産税の負担についても同様です。
③ 海外資産、ゴルフ会員権、郷里の山林・田畑など換価困難が予想される遺産は、できる限り、相続人の一人に単独取得してもらうことを勧めます。
④ 令和3年の不動産登記法の改正により、遺産分割から3年以内の所有権移転登記が義務付けられ、過料もあります。したがって、相続人の誰もが欲しがらない不動産でも処分を決めなければなりません。
⑤ 相続土地国庫帰属法によって不要な土地を国庫に帰属させる方法も創設されましたが、要件が厳しく、どのように運用されるかまだ未知数です。したがって、現状では、最も多くの遺産を取得する相続人にそれらの遺産を取得させるしかないと思われます。
【1-3】行政書士の関与
① 相談例では、相続人間の話し合いによって、ほぼ遺産分割の合意ができたとのことですから、その内容をむやみに変更することは差し控えます。ただし、、相続人漏れ、遺産漏れ、名義変更や換価・分配などの手続の確認、課税リスクなどには注意が必要です。
② 遺産分割が成立しても、その後の処理に難渋することが予想されるならば、遺産分割協議書の作成にのみを受任するのではなく、遺産分割の履行(遺産整理)も含めて受任すべきです。
【2】遺産別の相続手続き
【2-1】不動産の所有権移転登記
① 不動産につきましては、遺産分割協議書を原因証書として取得者から所有権移転登記を申請します。ただし、当事者の表示や不動産の特定等に瑕疵がある場合は登記できませんので、遺産分割協議書案の段階で、司法書士に対して記載に問題がないかを照会した方がよいでしょう(未登記や非課税の不動産が抜けていないかも確認しましょう)。
【2-2】預貯金の名義変更・解約払い戻し
① 預貯金について、従前は相続人から法定相続分の預金払い戻し請求ができるとされていましたが、平成28年12月19日最高裁判決により、現在は遺産分割の対象です。したがって、遺産分割により、相続人の一人が単独で預貯金を相続する場合には、遺産分割協議書等を金融機関に提示して名義変更を求めます。
② また、遺産分割で預貯金を解約して払戻金を分配すると決めた場合も、同様の手続によります(遺産分割協議書に代えて、代表相続人の届を提出して解約する方法もあります)。
【2-3】株式・投資信託
① 株式・投資信託なども、遺産分割協議書などを提示してそれを取得する相続人に名義変更しますが、売却換価した代金を分配する場合(清算型)には、以下の注意が必要です。
② まず、株式等の共有もあり得ますが、手続が複雑になるので推奨はできません。したがって、相続人の一人が代表相続人として名義変更し、代表相続人が売却を指示する方法をとります。
③ もっとも、代表相続人がその金融機関に口座を持っていなければ、新規に口座を開設しなければなりません。また、株式等は値段が上下して損益が出ますので、遺産分割で代表相続人に名義移転した場合には直ちに売却するよう取り決めておきます。
【3】遺産分割の履行(遺産整理)
【3-1】遺産整理
① 「遺産整理」とは、成立した遺産分割に従って遺産を処分することです。もともと遺産整理という法律用語はなく、金融機関が遺言信託に基づかない(遺言がない)場合に相続手続きを代行する商品(サービス)を表すものとしてこの名称が用いられてきました。
② 遺産分割成立後の手続は前述のとおりですが、煩雑で手間がかかります。特に、不動産や株式・投資信託等を売却し、あるいは預貯金を解約し、払い戻して、その結果得られた金員を相続人間で分配(清算)するとの内容を含む場合、その処理に当たる代表相続人を選ぶのが原則ですが、代表相続人に何らかの障害が生じると手続きがストップします(放置・延滞リスク)。
③ そして、そのまま時間が経過して、その間に遺産分割協議書や印鑑証明書の原本を紛失すれば、再度これらの書類を徴求しなければならなくなります(保管リスク)が、遺産分割の内容に不満を持つ相続人がいれば、応じてくれるとは限りません(居直りリスク)。
④ さらに、代表相続人が払戻しを受けた預貯金や株式等の売却代金を勝手に費消してしまうリスクもあります(横領リスク)。
⑤ したがって、遺産分割の内容を迅速かつ確実に履行するためには、相続人ではない専門職である第三者の関与(遺産整理受任者の選任)が望ましいと言えます。
【3-2】行政書士による遺産整理
① 金融機関が遺産整理業務を行っていることは前述のとおりですが、行政書士も遺産整理業務の受任者として適任です。
② 弁護士や司法書士も遺産整理業務を行いますが、利益相反にならないように注意が必要です。行政書士はそもそも紛争性がある場合は受任できませんし、誰か一人の相続人の代理人になることもありませんので、権利義務に関する書類の作成とその密接関連付帯業務として遺産整理業務が行政書士法上の業務になります(監督官庁である総務省の正式な解釈です)。
③ 相続人との契約で、行政書士が遺産整理受任者となり、成立した遺産分割に従って遺産を処分すること、換価・売却によって得た遺産は預かり口座で保管し、相続人からの照会に応じること、株式や投資信託は遺産整理受任者名義の口座に移管後直ちに売却すること、不動産売却の方法や期限などを記載します。特に清算型遺産分割では、相続人に安心してもらうためにこうしたルールが必要です。