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【孤独死をめぐるQ&A】Q14 相続放棄① 相続放棄の概説についての記事です。
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【Q14】相続放棄① 相続放棄の概説
幼いときに両親は離婚し、母親が親権者になりました。母親が再婚したこともあり、実の父親とは会っておらず、一切交流がありませんでした。
この度、警察から連絡があり父親が亡くなったことを知りました。父とは生前まったく交流をしておらずどのような財産があるかもわからないですし、交流がなかった父親の遺産を相続する気もないので、相続放棄をしようと考えています。
相続放棄はどのように行えばよいのでしょうか。
【A】相続放棄は、原則として相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をする必要があります。
相続をしないという文書を作成したり、実際に相続手続をしなかったり、自身の相続分を0とする遺産分割協議をしたりしただけでは、相続放棄をしたことになりません。
【解説】
1 相続は負債も承継する
① 相続は、相続開始の時から、認知請求権など被相続人の一身専属権を除く、「被相続人の財産に属した一切の権利義務」を承継します。これを包括承継といいます。
② 相続は「一切の権利義務」を引き継ぐので、預貯金や不動産などの積極財産のみならず被相続人が負っていた借金などの債務も引継ぎます。また、契約上の賃料支払義務や賃貸借契約の原状回復義務など被相続人が締結していた契約から今後生じる義務も承継します。
③ 特定の財産のみを引き継ぐ特定承継と異なり、包括承継では、特定の財産や権利のみを引き継ぎ、特定の財産や権利・義務は引き継がないということを選べません。
④ 財産だけ承継して、負債は承継しないということはできないのです。
⑤ 相続によって承継した財産や負債は相続人の財産と混ざってしまいますので、もし承継した財産よりも負債の方が多い場合、相続人は元々有していた財産から相続した負債を返済する必要があります。
⑥ そのようなことにならないようにするためには、相続人が被相続人の権利も義務も一切受け継がないという相続放棄をするか、相続によって得たプラス財産の限度において、被相続人の債務などのマイナスの財産を相続するという限定承認をする必要があります。相続をしたくないという場合には相続放棄をすることになります。
2 孤独死の場合の相続放棄
① 孤独死した方の相続の場合、相続人はもともと生前に交流をしておらず、どのような財産があるのか、借金があるのかが分からないということも多くあります。
② そのような場合、財産の有無や負債の有無を調査することすら面倒なので、さっさと相続放棄をしてしまいたいという方もいます。
③ また、孤独死の場合、遺品整理や賃貸物件の原状回復など面倒な作業を伴うことがあり、そのような面倒な作業で精神的に辛くなるから相続放棄をしてしまいたいということもあります。
3 相続放棄の仕方
① 相続放棄をするには、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に対して後記の相続放棄申述書を提出する必要があります。
② 遺産分割で自身の相続分を0とする合意をしたり、相続するつもりがないから相続手続きをしなかったりしても、それでは相続放棄をしたことにはなりません。
③ 相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月(熟慮期間)以内にする必要があります。3か月以内に相続放棄をするか決められない場合は、熟慮期間の伸長を申立てることもできます。
④ また、相続放棄の申述をする前に、相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときは法定単純承認となり、相続放棄をすることはできなくなります。
4 相続放棄手続きの効果
① 相続放棄の申立てをすると、通常、家庭裁判所から申立人に対して照会書が送られてきます。照会書は、裁判所により異なるかと思いますが、死亡日から3か月以内の相続放棄の場合の照会書、死亡日から3か月経過してから申し立てた場合の照会書など複数の種類があるようです。
② その照会書を返送し、特に申し立て内容に問題がなければ、相続放棄申述受理通知書が送られてきます。
③ 家庭裁判所が相続放棄申述を受理したとしても、それにより相続放棄の効果が確定するわけではありません。相続放棄申述受理は、あくまで家庭裁判所が申立人の相続放棄の申述を受理したということを示すのみで、相続放棄の有効性には影響がありません。
④ 債権者は、法定単純承認事由があった、3か月の熟慮期間を経過してからの申立てであるなどを理由に相続放棄の効力が生じないとして争うことは可能です。
5 相続放棄をした後のこと
1) 相続放棄申述受理通知
① 相続放棄の申述をし、家庭裁判所が相続放棄申述を受理すると相続放棄申述受理通知書が送られてきます。
② 債権者がいる場合、債権者に対し相続放棄をした旨を連絡すると、相続放棄申述受理通知書の写しを送るように依頼されることが多いので、写しを送付して下さい。そうすると債権者が相続放棄を争わない限りは、催告は停止するはずです。
③ なお、債権者は、相続放棄申述が受理されていても、単純承認事由の存在や熟慮期間経過を理由に相続放棄の効力が生じないとして争うことは可能です。
④ 相続放棄申述受理通知書には申述を受理した日の記載がありますが、これは裁判所が申述をした日であり、実際に申述をした日とは異なります。3か月以内に申述をしていればよく、裁判所が申述を受理した日が死亡から3か月経過していたとしても問題はありません。
⑤ 家庭裁判所で相続放棄の申述が却下され、抗告により高等裁判所が申述を受理する決定をした場合、家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が来ないようです。その場合、家庭裁判所に相続放棄申述受理証明書の申請をすれば、相続放棄申述受理証明書を発行してもらえます。
2)管理義務
① 相続放棄をしたとしても、放棄した財産を一切関知しないでよいというわけではありません。他の相続放棄をしていない相続人が相続財産の管理を始めることができるようになるまで、「自己の財産におけるのと同一の注意をもって」相続財産を管理しなければなりません。
3)後順位相続人への連絡
① 子が相続放棄をしたような場合、次順位の相続人がいることがあります。そのような場合、後順位の相続人に対し、相続放棄をしたことを伝えておいた方がよいでしょう。
② 必須というわけではありませんが、先順位の相続人が相続放棄をし、自身が相続人になったことを知らずに、債権者からの連絡でその事実を知った場合、「あなたが相続放棄をしたせいで余計なトラブルに巻き込まれた」と後順位の相続人から感情的な攻撃が来ることもあります。
③ なお、第2順位の相続人である父母が双方相続放棄した場合、祖父母が存命だと第3順位の相続人に移る前に祖父母が相続人になります。
④ 子や兄弟姉妹が相続放棄をしても代襲相続人である、孫や甥・姪が相続人になることはないのですが、父母の場合は、相続放棄をすると祖父母が相続人となります。
⑤ 自殺や過労死での突然死のように比較的若年での孤独死の場合、故人の祖父母が存命ということもありますので、注意が必要です。
4)相続人の不存在
① 相続放棄をした場合、最初から相続人にならなかったとみなされます。全員が相続放棄をした場合は、相続人がいないことになります。
5)法改正・相続放棄後の管理責任
① 所有者不明土地問題解決を図る民法う・不動産登記法等の改正に伴い、相続放棄後の管理責任が減縮されます。
② 現在は、相続放棄をした者も、放棄後に事故の財産におけるのと同一の注意義務が課せられていますが、改正民法では、相続放棄時に現に占有していた場合のみ、その財産を保存しておく義務を負うのみとなります。そのため、相続放棄がしやすくなります。
③ 改正民法は令和5年4月1日から施行されます。