世田谷区砧で子供のいないご夫婦、おひとり様の遺言書作成、相続手続き、戸籍収集支援、任意後見、死後事務委任に詳しい行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。
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【終活・遺言・相続相談】相談例26 養子縁組についての記事です。
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【相談内容】
相談者(57歳男性)から、「先日の検査結果で、入院中の父(88歳)がステージⅢの肺がんだと分かった。父の相続人は自分と次男(54歳)だけだが、相続税対策として私の息子(22歳)を父の養子にしておきたい」と相談された。
【検討すべき点】
養子縁組には一定の節税効果はありますが、法定相続分の変更を意味しますから、これによって影響を受ける他の推定相続人の反発が予想されます。養親の相続開始後には養子縁組無効確認訴訟に発展することもありますので、養子縁組は慎重に行うべきです。
【1】養子縁組の節税効果
① 相談例で父と相談者の子が養子縁組すれば、父の相続開始後に法定相続人が1人増え、基礎控除額が600万円増えます。
② 具体的には、父の遺産が1億円だった場合、相続人が2人なら基礎控除額は4,200万円で課税相続財産は5,800万円、相続税総額は770万円になりますが、養子が1人増えれば、基礎控除額は4,800万円で課税相続財産は5,200万円、相続税総額は630万円となり、先程との差額140万円が節税効果と見込まれます。
【2】縁組を契機とする紛争
① 法定相続分(と遺留分)が減ってしまう推定相続人にとって縁組は心外でしょう。特に、高齢の被相続人と孫との縁組(成年養子)は、被相続人の判断能力の減退に乗じて行なわれたと思われがちですし、縁組の事実をすぐに公表しなかったとか、相続開始後にはじめて養子縁組が判明したといった場合は、なおさら疑問を招きます。
② したがって、縁組無効確認訴訟(民法802条)を招きかねませんし、遺産分割調停では縁組の有効性が前提問題となって紛糾することもあります。
【3】縁組無効確認訴訟での争点
① 縁組無効確認訴訟でもっとも争点になりやすいのは縁組の実質的意思の存否です。もちろん養子縁組の動機としては、養親子関係を創設したいという目的の他に、相談例のような節税対策目的や、特定の推定相続人の法定相続分や遺留分を圧縮したいとか、円滑に事業承継させたいといった目的も考えられます。
② そうした事例に関して、縁組が単にほかの目的を達成するための便法として仮託されたものであり、真に養親子関係の創設を欲する効果意思がなかった場合には無効となるとする判例や、他の目的があっても当事者間に真実に養親子関係を成立させる意思がある場合には有効とする判例、さらに、相続税の節税のために養子縁組する場合であっても、直ちに「当事者間に縁組しようとする意思がないとき」に当たるとすることはできないとして判例があります。
③ したがって、養親子関係の創設以外の目的があっても、真に養親子関係を構築する意思(実体的意思)を否定できなければ縁組は有効となると考えられ、この点をめぐって、縁組時における当事者の言動、縁組後の養親子間の関係、相続開始後の養子の行動などが立証活動の焦点となりますので、これらを考えて縁組の是非を検討することになります。
④ なお、縁組時の高齢者の意思能力についても問題となり得ますが、縁組は身分行為に関するものなので、財産処分に関する遺言能力に比べれば、若干緩やかなもので足りると考えられます。
【4】縁組に関するその他の問題
① 配偶者のある者が縁組をするには、配偶者とともに縁組をする場合、又は配偶者がその意思を表示することができない場合を除き、養親になるにも養子になるにも、その配偶者の同意を得なければなりません(民法796条)。
② したがって、仮に父に妻がいればその同意も必要で、相談者の息子に妻がいれば、その同意も必要です。ただし、養子縁組という微妙な問題については、それぞれの配偶者の同意が得られない可能性もあります。
③ 次に、家業や家名を継ぐ目的で、早々に未成年の孫を祖父母の養子にすることもありますが、その養子が、両親に捨てられたとか、兄弟と差別されたとの気持ちを抱き、その不満が数十年後の祖父母や両親の相続で噴出することもあります。
④ また、養親としては遺産の受継者として選んでやったつもりでも、養子はそれほど感謝していないこともあります。結局、実子も不満、養子も不満という縁組だと意味がありませんので、縁組は、養親や実親の都合だけでなく、実子や養子となる者の気持ちに十分配慮して検討すべき事柄です。
【5】相談者へのアドバイス
① 相談者に対しては、後々養子縁組の有効性が問題になる可能性を指摘し、できれば事前に次男にも相談することを勧めます。また、それが叶わず、将来的に縁組無効を争われる可能性があるなら、父と相談者の息子を引き合わせて直接縁組意思を確認させ、その場で縁組届を作成し、それを写真やビデオに収めるなどして証拠化し、縁組成立後も相談者の息子には父の見舞いにいかせるなどして、真の養親子関係を形成するようにアドバイスします。