【孤独死をめぐるQ&A】Q13 相続財産の調査③ 負債の調査

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【Q13】相続財産の調査③ 負債の調査

遠方の地方に住んでいるおじが亡くなりました。
私が相続人になるらしいのですが、おじには小さな自宅がある以外に特に財産があるかは分かりません。相続は故人の借金も引き継いでしまうと聞いており、もしおじに借金があったら、自宅はそこまでの価値がないので相続放棄をした方がよいのではないかと考えています。
借金の有無を調べることはできるのでしょうか。

【A】すべての借金を調べることはできませんが、信用情報の照会によって、金融機関等からの借入額は調べることができます。

【解説】

1 債務調査の必要性

① 相続は、預貯金や土地などの積極財産も借金などの消極的な財産も全てまとめて承継することになります。
② もし、遺産を相続した結果、故人が多額の債務を負っていることが判明した場合、債務を相続したことによって、相続人がもともと持っていた財産を手放し、最悪は破産を余儀なくされるという可能性もあります。
③ 生前関わっていない方の遺産を相続する場合、負債の調査は必須と考えます。

2 不動産登記の確認

① 故人が不動産を所有していた場合、不動産登記を取得します。金融機関から借り入れをしている場合、所有不動産に抵当権を設定されることがありますので、不動産登記を見て抵当権設定の有無を確認します。
② 登記の乙区に抵当権が設定されており、債務者が故人名であった場合、故人の債務があることになりますので、債権者に連絡し、借入残高を照会します。
③ また、まれに甲区に仮差押えや滞納処分の登記がされていることもあります。その場合も仮差押債権者に対して債務を負っていたり、租税を滞納している可能性がありますので、仮差押債権者や租税債権者に対して、債務の有無、残高を確認します。

3 団体信用生命保険適用の確認

① 住宅ローンなどは、故人の死亡により団体信用生命保険(団信)の保険金で完済されていることもあります。
② 不動産登記を調べてみたら、故人を債務者とする抵当権が設定されていたので債務があると思ったら、団体信用生命保険が適用され、債務はなかったというケースもあります。
③ また逆に、団体信用生命保険で住宅ローンが完済されていると思っていたら、保障金額の上限や保障期間の上限により、団体信用生命保険が適用されず、住宅ローンが残っていたということもあります。
④ 前者の場合、一度借金があると思って相続放棄をしてしまうと、相続放棄は撤回できませんので、後で実は住宅ローンはなかったと気が付いても、もう相続することはできません。
⑤ 後者の場合も、もう住宅ローンはないと思い込んでいたとしても、相続手続をしてしまったり、相続放棄の熟慮期間を経過してしまったりすると、もはや相続放棄は出来なくなりますので、債務を引き継ぐことになってしまします。
⑥ 故人の債務が判明している場合、必ず債権者に連絡をして、借入残高があるか、団体信用生命保険の適用があるかについて、実際に確認してみることをお勧めします。

4 信用情報機関に対する調査

金融機関やノンバンク、カード会社や消費者金融などから借入をした場合、信用情報機関に登録されます。
故人について信用情報機関に登録された情報を確認すれば、金融機関やノンバンク、カード会社や消費者金融などに対する負債を確認することができます。
信用情報機関には、全国銀行個人信用センター(KSC)、株式会社日本信用情報機構(JICC)、株式会社シー・アイ・シー(CIC)があります。相続人であれば、いずれの信用情報機関に対しても故人の信用情報を照会する事ができます。

(1)全国銀行個人信用情報センター(KSC)
① 全国銀行個人情報信用センターへは銀行、信用金庫、JAバンクなどの金融機関からの借入れや金融機関系列の保証会社を利用したときに情報が登録されます。
② 登録情報の開示は、センターへの郵送による申込みでのみの受付となっております。登録情報開示申込みはHPからダウンロードできます。
③ 開示対象者が死亡していることを証する資料、開示請求者が法定相続人であることを証する資料、免許証などの本人確認書類を添付して、開示の申込みをします(これは他の信用情報機関でも同じことです)。
④ 登録情報開示報告書の履歴の残高額の欄から負債の有無や金額が分かります。

(2)株式会社日本信用情報機構(JICC)
① JICCは、消費者金融会社、流通系・銀行系・メーカー系クレジット会社、信販会社、金融機関、保証会社、リース会社などが加盟しており、それらを利用した場合に情報が登録されます。
② JICCの信用情報の開示は、相続人の場合、窓口、郵送、インターネットで申請することが可能です。開示申込書はHPからダウンロードできます。
③ 亡くなった方の信用情報については、法定相続人、配偶者又は二親等内の血族が開示手続きを行うことができます。
④ 信用情報記録開示書のファイルDには、主に貸金業者からの借入情報やキャッシング契約が記載されます。ファイルMには、主にクレジットカードや金融機関などの契約内容が記載されます。
⑤ ファイルDの債権情報の残高の欄やファイルNのトータル残高金額、割賦残高金額、キャッシング残高などの欄から負債の有無や金額が分かります。

(3)株式会社シー・アイ・シー(CIC)
① CICは、貸金業者やクレジット業者が加盟しており、それらを利用した場合に情報が登録されます。
② CICの信用情報の開示は、窓口、郵送、インターネットで申請することが可能です。開示申込書はHPからダウンロードできます。
③ 亡くなった方の開示申込み手続きができるのは法定相続人に限られます。なお、窓口での申請の場合は、配偶者、子及び法定代理人のみに限定されます。それ以外の相続人は郵送により申請をする必要があります。
④ 信用情報開示報告書はクレジット情報、申込み情報、利用記録から成りますが、クレジット情報にクレジットやローン等の契約内容や残高に関する情報が載っています。
⑤ クレジット情報の支払の状況の残債額、割賦販売法の登録内容の割賦残債額、貸金業法の登録内容の残高の欄から負債の有無や金額が分かります。

5 故人が会社を経営したり事業を営んでいた場合

① 故人が会社を経営したり事業を営んでいた場合、従業員がいるのであれば経理担当の従業員に会社の取引銀行や負債の状況を尋ねてみてください。
② 決算書がみられる場合には、決算書の勘定科目明細で会社の負債の状況が分かります。
③ 金融機関からの借入やリース会社との取引の際、会社の代表者が連帯保証をしているケースが多いので、金融機関やリース会社に故人の連帯保証の有無を確認することになります。
④ 故人や故人の経営していた会社が所有している不動産がある場合は、登記を確認して、差押登記や抵当権設定登記の有無も確認してみてください。
⑤ なお、会社の代表者が金融機関からの借入を連帯保証していても、全国銀行個人信用センターに登録されていないというケースは散見されます。KSCの開示に金融機関からの借入れに関する連帯保証が登録されていなくても、会社が借入をしている金融機関が判明しているのであれば、代表者である故人の連帯保証の有無を確認した方がよいでしょう。

6 個人間での借金や連帯保証など

① 信用情報機関を利用していない取引により負った債務や個人間の借入れ、個人間での連帯保証(友人の借入の連帯保証や友人の賃貸借契約の連帯保証など)については、故人が亡くなり、契約書等も手元にないとなると調査をすることは事実上困難です。
② 相続放棄の熟慮期間は3ヶ月ですが、家庭裁判所に延長を申立てることも可能です。債権者の中には、亡くなった後3ヶ月を過ぎてから請求してくるという方もいるので、債務の有無が分からない場合、念のため熟慮期間を延長してみるというのも一つの方法です。
③ また、一定程度の相続財産があることが分かっているので相続をしたいが、どうしても債務があるか不安があり単純承認はしたくないという場合は、極めて使いづらい制度ですが、相続財産の限度で債務を相続するという限定承認という制度の利用を検討するのも一つの方法です。

【孤独死をめぐるQ&A】Q12 相続財産の調査② 有価証券、保険の調査

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【Q12】相続財産の調査② 有価証券、保険の調査

おじが亡くなり、私が相続人になるようです。不動産や預貯金の調査は終わったのですが、おじは投資をしていたとも聞いています。有価証券や保険などの資産はどのように探せばよいでしょうか。

【A】郵便物や名刺などから取引をしている証券会社や保険会社に当たりがつくのであれば、各会社に問合せをすることになります。
上場株式等については、証券保管振替機構に照会するという方法もあります。

【解説】

1 有価証券の調査

(1)取引会社が判明している場合

① 自宅への郵便物や預貯金の取引履歴などから取引をしている証券会社が判明している場合、証券会社に対して、取引記録を取り寄せることになります。
② 金融機関と同様ノベルティグッズや担当者の名刺などから取引している証券会社が判明することがあります。
③ 取引履歴の取寄せ方法は証券会社により異なりますので、証券会社のHPを見るか、問い合わせをしてみて下さい。

(2)取引会社が判明していない場合

① 大手証券会社、信託銀行などに当たりをつけて照会する方法
大手証券会社や地場で有名な証券会社などに対して、口座照会をします。相続人であれば、応じてもらえます。

② 証券保管振替機構への照会
有価証券等の取引をしている場合、株式を持っている可能性もあります。
上場株式等を保有している場合、証券保管振替機構(ほふり)に対して、登録済加入者情報を請求すると、口座が開設している証券会社、信託銀行等が判明します。相続人であれば、この請求ができます。
登録済加入者情報通知書の名寄せされている加入者の口座の欄に口座を開設している口座管理機関の名称が記載されます。
これにより個人の口座開設先が判明するので、その情報を利用して、それぞれの証券会社、信託銀行に対し、取引の内容を照会する事ができます。
これによって上場株式等以外の投資資産が判明することがあります。

③ 証券代行業者への照会
流通性のある非上場株式については、証券保管振替機構に対する登録済加入者情報通知書では確認ができません。
この場合、証券代行業務を行っている信託銀行や東京証券代行株式会社日本証券代行株式会社、株式会社アイ・アールジャパンなどの証券代行会社に株を保有していないか照会をすることも考えられます。

④ ネット証券
ネット証券などを利用した取引については、郵便物ではなく電子メールで届いている可能性もあり、気付きにくいというのが実情です。
もし、故人の電子メールが閲覧できるのであれば「証券」や「口座」「FX」などのキーワードで受信フォルダを検索しても良いかと思います。

2 保険について

(1)保険会社が判明している場合
① 保険証券や生命保険料控除証明などから加入している保険会社が判明します。
② また、金融機関の取引履歴から保険料の支払や保険金の振込があり、保険会社が判明することもあります。
③ 故人の源泉徴収票や納税証明から保険料控除をしているか確認し、保険加入の有無を判断するという方法もあります。
④ 金融機関と同様、担当者の名刺や保険会社のノベルティグッズから当たりを付けるという方法もあります。

(2)保険会社が判明しない場合
① 加入している保険会社が分からない場合、従前は個々の保険会社に問合せていました。
② 令和3年7月から一般社団法人生命保険協会に対して、生命保険協会に加盟している会社において被相続人が保険契約者または被保険者となっている生命保険契約があるかについて調査依頼ができるという生命保険契約照会制度が始まりました。
③ そのため、保険契約の有無が分からない場合には、一般社団法人生命保険協会に照会するとよいでしょう。

【孤独死をめぐるQ&A】Q11 相続財産の調査① 不動産、預貯金の調査

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【Q11】相続財産の調査① 不動産、預貯金の調査

おじが亡くなり、私が相続人になるようです。
おじがいることは知っていましたが、生前まったく交流がないので、おじにどのような遺産があるのか見当もつきません。
故人の遺産は、どこから調査に手を付ければよいのでしょうか。

【A】不動産は登記制度があるので、比較的容易に判明します。
次は、預貯金の取引履歴や郵便物などから財産にあたりを付け、判明したものから各所に照会をしていくことになります。

【解説】

1 不動産の調査

(1)登記の調査

① 自宅を所有していることが分かっている場合、自宅の不動産の登記(全部事項証明)を取得します。登記は誰でも法務局で取得することが可能です。
② 土地の登記を取得するための地番を特定する必要がありますが、地番と住居表示は異なることがあります。地番が分からない場合、土地の所在地を管轄する法務局に問い合わせると教えてもらえます。

(2)名寄帳の取寄せ

① 名寄帳は、その自治体に所有している固定資産(土地・家屋)すべてを把握するためのもので、自治体ごとに所有者単位で所有する全ての資産の所在地や面積、評価額などを記載したものです。
② 相続人であれば名寄帳を取得することができ、名寄帳を取得できれば被相続人がその自治体内で所有している不動産の一覧を取得することが可能です。
③ 名寄帳は、市区町村単位で作られますので、自宅が所在する市区町村の他、不動産を所有しているであろう市区町村に対して、名寄帳の取寄せを申請します。
④ 名寄帳は郵送でも申請することができ、申請用紙は各自治体ホームページから取得できることが多いと思います。被相続人が死亡したこと、申請者が相続人であることを示す書類(戸籍謄本や法定相続情報一覧)を添付する必要があります。
⑤ なお、自治体によっては、名寄帳ではなく、「土地家屋課税台帳」「固定資産課税台帳」という名称のこともあります。

(3)登記簿図書館による検索

① 民間会社が提供しているサービスですが、「登記簿図書館」というサイトでは、所有者名で不動産登記の検索をすることが可能です。同姓同名の人が所有している不動産も出てきてしまいますし、全ての不動産登記を網羅しているわけではないので、必ずしも正確ではありません。
② しかしながら、このサービスで検索をしたことによって、居住している市区長損以外に所有していた不動産の存在が判明することもあります。
③ 生前、どこかに土地を持っていたと言っていたような気がするがどこだか分からないというような場合、念のため登記簿図書館で検索をしてみるとよいかもしれません。

(4)固定資産税がかかっていない不動産に注意

① 自治体により扱いが異なりますが、共有している私道など非課税の不動産については、名寄帳に記載されないことがあります。
② 私道がありそうな場合には、公図を参考に、該当しそうな土地の登記事項証明書を取得して調査した方がよいかもしれません。

2 預貯金の調査

預貯金を調査すると預貯金の流れから他の財産が見つかったりします。そのため、遺産の有無が全く分からないという場合、預貯金から調査することをお勧めします。

(1)相続人の1人からの取引経過の照会

① 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った日から3か月以内に相続放棄をするか単純承認、限定承認をするか決める必要があります。
② そのためには、相続財産がどの程度あるのか知っておく必要があるので、相続人は相続財産を調査することができます(民法915条2項)。
③ 最高裁の判例でも、「共同相続人の1人は単独で相続預金の取引き経過開示請求ができる」と判示し、相続人の1人からの取引履歴の照会を肯定しています。
④ このように相続人であれば、他の相続人の承諾なくして、金融機関に取引履歴を開示するよう請求できます。

(2)取引金融機関が判明している場合

① 故人の財布の中のキャッシュカード、貴重品が入っている引き出しの中に保管されていた預貯金通帳、金融機関からの郵便物などから取引していた金融機関が判明します。
② また、それ以外にも、カレンダーやメモ帳、ボールペンなど金融機関のノベルティグッズから取引金融機関が判明することもあります。
③ 判明した場合には、当該金融機関に対し、取引経過を照会します。必要書類などは金融機関により異なりますが、所定の用紙に記入し、また免許証などの本人確認書類、自身が故人の相続人であることを示す戸籍や法定相続情報一覧などを添付するのが一般的です。

(3)取引金融機関が分からない場合

① 取引先金融機関が分からない場合、メガバンク、ゆうちょ銀行、故人が住んでいた地方の有力地方銀行、住所近辺や勤務先近辺の銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、JAバンクなどを万遍なく回って取引の有無を照会することになります。
② 取引先金融機関が判明している場合と同様、自身が故人の相続人であることを示せば、通常は取引の有無を教えてもらえます。
③ 必要な手続きは金融機関によりことなりますが、取引の有無だけの照会であれば窓口で教えてもらえることもありますので、事前に調査したい金融機関に問い合わせておくとよいでしょう。
④ なお、同じ金融機関の他の支店と取引をしている可能性もありますので、取引の有無を照会する場合、必ず他の支店での取引がないかを確認するようにしてください。

(4)ネット銀行について

① ネット銀行等を利用している可能性もあります。ネット銀行での取引については、金融機関からのお知らせが郵便物ではなく電子メールで届いている可能性もあり、気付きにくいというのが実情です。
② もし個人の電子メールが閲覧できるのであれば、「銀行」「口座」等のワードで受信フォルダを検索しても良いかと思います。
③ また、もしネット銀行で取引をしている可能性があるのであれば、ネット銀行に対して取引の有無の照会をかけることになります。

(5)取引履歴を調査する

① 金融機関は少なくとも過去10年間の取引履歴を保存しています。そのため調査に余裕があるのであれば、過去10年分の取引履歴を取得するとよいのですが、取引履歴の取得には手数料がかかります。
② 手数料は金融機関ごとに違います。
・三井住友銀行:(5年以内)1100円/1年分 (5年超)5500円+550円×月数
・みずほ銀行:330円/月
・UFJ銀行:330円/月
・りそな銀行:220円/月
・ゆうちょ銀行:520円/10年まで
③ 取引履歴を見ると他の金融機関への振込、保険料や貸金庫費用の引落し、地代、家賃の入金、配当収入など故人の資産に関わる様々な情報が判明します。それらの情報により、他の金融機関、証券会社や保険会社との取引が判明していきます。

【孤独死をめぐるQ&A】Q10 遺言書の探し方③ 自筆証書遺言の探し方、貸金庫の開扉 

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【孤独死をめぐるQ&A】Q10 遺言の探し方③ 自筆証書遺言の探し方、貸金庫の開扉についての記事です。

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【Q10】遺言書の探し方③ 自筆証書遺言の探し方、貸金庫の開扉

一人暮らしをしていたいとこが孤独死をしました。いとこには相続人がいないのですが、いとこと私は生前仲がよかったので、もしかしたら遺言を書いているかもしれません。
公正証書遺言も法務局に預けた自筆証書遺言もなかったのですが、他にはどのような場所を探せばよいでしょうか。

【A】自筆証書遺言は、金融機関の貸金庫や自宅の金庫に保管されていることもあります。
その他、自宅の貴重品が入っている引き出しの中、仏壇や神棚の周辺、本棚、タンスの中、化粧台などに入っていたこともあるので、遺品整理の際に細かく探してみてください。

【解説】

1 金融機関の貸金庫の場合

(1)相続人の場合

① 金融機関との間の貸金庫契約は、「当該貸金庫の場所(空間)の賃貸借」とされます。
② 賃貸借契約ですので、死亡に因っては当然に終了せず、貸金庫契約上の地位は相続人全員で準共有されているという状態になります。
③ 貸金庫契約上の地位は、相続人全員で準共有している状態ですので、相続人全員の同意があれば、遺産分割未了の間であっても、金融機関は内容物の確認をさせてくれます。
④ 他方で、相続人全員の同意がない場合、内容物の確認が拒否されるというケースもあります。この点、貸金庫内の遺産がどのようなものか判明しなければ、相続をするかしないかの判断ができない場合もあり得るので、相続人の遺産の調査権(民法915条2項)に基づき、一部の相続人からだけであっても、内容物の確認を要求できてもよいとも思えます。
⑤ しかしながら、多くの金融機関では、貸金庫の開扉を認めると内容物を持ち出されてしまうおそれがあることから、全相続人の同意を要求するという内規にしており、一部の相続人のみでの貸金庫内の内容物の確認は拒否されることが多いというのが実情です。
⑥ ただ、相続人の人数が多い、相続人の一部が行方不明などの状況により相続人全員の承諾が直ちにもらえないということもあります。
⑦ そのような場合、相続人に遺産調査権があることを前提に、全相続人の同意を直ちにもらえない事情を金融機関に説明すれば、金融機関職員立ち会い、弁護士の立会い、公証人を立ち会わせて内容物の確認について事実実験公正証書を作成するなど内容物の持ち出しがされないような条件を付けたうえで、一部の相続人の同意のみで貸金庫の内容物の確認を認めてくれることもあります。

(2)相続人ではない場合

① 相続人がいない場合、いとこなどの親族は貸金庫契約者の地位を相続していません。金融機関から見れば貸金庫契約の契約者でもないただの親族であり、貸金庫の内容物を確認させる必要はありません。
② したがって、相続人ではない親族は、原則として内容物の確認はできません。
③ しかし、貸金庫内にもし自筆証書遺言があれば、自身が受遺者になっている可能性もあります。また、相続人がいない場合には相続財産管理人選任申立てをすることになりますが、申立には高額な予納金が必要なことが多いのが実情です。
④ 相続財産管理人を選任してもらい、相続財産管理人が貸金庫を開扉したら自筆証書遺言が見つかったとなると、せっかくの相続財産管理人申立費用も無駄になってしまいます。
⑤ このように貸金庫内の他の内容物は確認できなくてよいので、貸金庫内に自筆証書遺言があるかだけでも知りたいという実情があります。
⑥ 原則として相続人でない親族は、貸金庫内の内容物の確認はできないのですが、諦めずに交渉をした結果、貸金庫内に自筆証書遺言があるかだけは確認させてもらえたというケースはあります。
⑦ 相続人以外の場合、原則としては貸金庫内の内容物の確認は困難ですが、諦めずに金融機関と交渉をした方がよいでしょう。

2 自宅を調べる場合

① 自筆証書遺言が自宅で保管されているか否かは、とにかく故人の自宅内を探してみるしかありません。
② 貴重品が入っている引き出しに一緒に保管されているほか、仏壇や神棚、化粧台なども調べてみてください。また、自宅に金庫があるという方もいます。
③ 自宅金庫の中に自筆証書遺言が保管されている可能性があるので開けたい場合、多くの金庫は暗証番号を入れたり、ダイヤルを回したりする必要があります。
④ 故人が予期せず亡くなった孤独死のケースでは、誰も自宅金庫の開け方を教えてもらっておらず、開け方を控えてもいないので、開けたくても開けられないということも多いかと思います。
⑤ 何度かそのような場面に遭遇したことがありますが、いずれのケースでも鍵業者に依頼し、開扉してもらえました。

【孤独死をめぐるQ&A】Q9 遺言の探し方② 自筆証書遺言保管制度について

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【Q9】遺言の探し方② 自筆証書遺言書保管制度について

一人暮らしをしていたいとこが孤独死をしました。いとこには相続人がいないのですが、いとこと私は生前仲が良かったので、もしかしたら遺言を書いているかもしれません。
公正証書遺言はなかったのですが、生前にいとこは自筆証書遺言を法務局に預けるという制度が始まったということを話しており、その制度を利用しているかもしれません。
自筆証書遺言書が法務局に預けられているか調査する方法を教えて下さい。

【A】法務局に対して、「遺言書保管事実証明書」の請求をすれば、故人が請求者を受遺者に指定している遺言を作成していたか調査することができます。

【解説】

1 自筆証書遺言書保管制度

① 令和2年7月から法務局で自筆証書遺言を預かるという自筆証書遺言書保管制度が始まりました。(遺言書保管法)
② 自筆証書遺言書保管制度を利用すると、
・遺言書の画像情報
・遺言書に記載されている作成の年月日
・遺言者の氏名、生年月日、住所、本籍
・遺言書に受遺者がある場合には受遺者の氏名、住所
・遺言書で遺言執行者を指定している場合は、その者の氏名、住所・遺言書の保管を開始した年月日
・遺言書が保管されている遺言書保管所の名称及び保管番号
などの情報が法務局で記録されることになります。

2 自筆証書遺言書保管の調査

① 故人が自筆証書遺言書保管制度を利用して自筆証書遺言を法務局に預けていたかについて、相続人や受遺者、遺言執行者などの立場にある人(相続人等といいます。)は、全国の遺言書保管所(法務局)で調査をすることが可能です。
② 遺言書が存在した場合、相続人等は、遺言書の内容の証明書の交付を請求したり、遺言書の原本の閲覧、遺言書のモニターによる閲覧をすることができます。
③ なお、遺言書保管官は、遺言書情報証明書を交付し又は相続人等に遺言書の閲覧をさせたときは、速やかに、当該遺言書を保管している旨を遺言者の相続人、受遺者及び遺言執行者に通知することになっています。

3 遺言書保管事実証明書

① 遺言者が死亡した後であれば、誰でも、法務局に対して「遺言書保管事実証明書」の請求をすることにより、故人が自筆証書遺言を保管しているか否かの確認をすることができます。
② この制度により自分が受遺者になっているかもしれないという程度の利害関係でも、自分に関係がある自筆証書遺言が保管されているか否かを確認することができます。
③ いとこでありもしかしたら受遺者に指定されているかもしれないという場合、遺言書保管事実証明書の申請をすれば、自身に関係がある自筆証書遺言が保管されているか否かが明らかになります。
④ 自身に関係がある自筆証書遺言が保管されていなければ、「(あなたに関係のある遺言書は)保管されていない」という証明書が発行されます。
⑤ なお、遺言書保管事実証明では遺言書の内容を知ることはできません。遺言書保管情報証明書を請求し自筆証書遺言が保管されていることが判明したら、次は遺言書情報証明書の交付請求や遺言書の閲覧請求を行い、遺言書の内容を確認する必要があります。

4 請求先

① 遺言書保管事実証明書は、実際に遺言書を保管している遺言書保管所に限らず、どの遺言書保管所に請求しても構いません。
② 窓口で請求する場合には、免許証などの写真付きの公的身分証明証が必要になるので、忘れずにお持ちください。
③ なお、窓口の請求ではなく、郵送による請求をすることも可能です。

【孤独死をめぐるQ&A】Q8 遺言の探し方① 公正証書遺言の探し方

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【Q8】遺言の探し方① 公正証書遺言の探し方

一人暮らしをしていたいとこが孤独死をしました。いとこには相続人がいないのですが、いとこと私は生前仲が良かったので、もしかしたら遺言を書いているかもしれません。
亡くなった人が、公正証書遺言を作っていたかを調べる方法があれば教えてください。

【A】遺言には大きく分けて公正証書遺言と自筆証書遺言があります。
公正証書遺言の原本は公証役場で保管されています。
自筆証書遺言については、法務局で保管されている場合と、自宅や金融機関の貸金庫等法務局以外で保管されている場合があります。それぞれ探し方が異なります。
公正証書の場合、公証役場で遺言の有無を調査可能ですが、調査をしてもらうには利害関係人であることが必要になります。いとこであるという程度だと利害関係が認められず、調査の受付をしてもらえない可能性があります。

【解説】

1 遺言検索システム

① 平成元年以降に作成された公正証書遺言であれば、全国の公証人が利用できる「遺言検索システム」により調べることができます。
② 遺言検索システムを利用するには、公証役場に用意されている申請用紙で申請を行います。遺言検索はどこの公証役場でも申請することができ、遺言検索だけであれば手数料はいりません。
③ 遺言者の存命中は、遺言者本人以外は遺言の存否を確認することはできません。
④ 昭和63年以前に作成された公正証書遺言を探したい場合、故人の自宅周辺の公証役場に個々に問い合わせをする必要があります。

2 利害関係人とは

① 遺言者が亡くなった後であれば、相続人、受遺者、遺言執行者、相続財産管理人などの利害関係人が公正証書遺言の検索をすることができます。
② 利害関係人が遺言検索をするには、遺言者の死亡を証する除籍謄本のほか、申請者と遺言者の関係を証する資料、免許証などの本人確認書類、印鑑が必要になります。
③ 利害関係を示す資料としては、相続人であれば戸籍の全部事項証明書などで相続人であることを示すことになります。
④ 受遺者や遺言執行者の場合、どのような書類であれば利害関係を認めてくれるかは、公証役場の判断になるので、公証役場に事前に確認してください。
⑤ たとえば、先に書いた自筆証書遺言があり、それで自己が受遺者や遺言執行者になっているのであれば、その遺言書の写しを持参することになります。また、遺言者からの手紙に受遺者にしたなどと記載されていればその手紙を持参することになります。

3 公正証書遺言があった場合

① 遺言検索により公正証書遺言が存在した場合、保管場所となっている公証役場、遺言の作成年、証書番号を教えてもらえます。
② 公正証書遺言が保管されている公証役場に対して、遺言者の謄本の交付を請求すれば遺言を手に入れることができます。
③ 公証役場が遠方の場合、平成31年4月1日から郵送で取得することも可能になりました。

4 利害関係人による遺言検索システム利用の困難さ

① 受遺者が遺言検索システムを利用するには、自分が受遺者であることを推定されるような資料が必要となります。自身が受遺者になっていると思われるという程度では利用できません。
② 本事例のように、ただ、「いとこ」である程度の利害関係では、遺言検索システムを利用できる利害関係人には当たらないと判断される可能性が高いです。
③ 仮に、故人が生前、自分が亡くなったら財産はいとこにあげると言っていたなどの事情があれば、それを陳述書にして公証役場に提出して、公証役場の判断を仰ぐことになります。

5 遺言検索システムが利用できない場合

① 故人に相続人がおらず、遺言検索システムを利用しようとしたが公証役場が利害関係があると認めてくれないという場合、それでも公正証書遺言の有無を調査するのであれば、相続財産管理人選任申立てを検討することになります。
② 相続財産管理人に選任されれば、相続財産管理人が公正証書遺言の有無を調査してくれます。

【孤独死をめぐるQ&A】Q7 相続人の一人が認知症の場合(成年後見)

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【Q7】相続人の一人が認知症の場合(成年後見)

一人暮らしをしていたおじが亡くなり、私が相続人になります。相続人調査の結果、私以外にも相続人がいることが分かりましたが、その相続人が認知症であることが判明しました。相続人の一部が認知症になっていた場合、遺産分割はどのようにすればよいですか。

【A】認知症により「事理を弁識する能力を欠く常況にある」場合には、成年後見人を選任してもらい、成年後見人を交えて遺産分割協議をする必要があります。

【解説】

1 老々相続

① 孤独死の場合、配偶者や子はおらず、既に両親が亡くなっていることから、兄弟姉妹が相続人になることが多くなります。
② そして、故人が高齢により亡くなっている場合、その相続人となる兄弟姉妹も高齢者であることが多く、相続人が認知症で判断能力がないということもまま生じます。

2 後見人の選任

① 認知症により判断能力がないという場合、遺産分割協議に応じることができないので、後見開始の申立てをし、成年後見人に就任してもらい、成年後見人を交えて遺産分割協議をすることになります。
② 後見開始申立ては、本人、配偶者、四親等内の親族などが行うことができることになっています。
③ 四親等内の親族が申立て可能ですので、相続人同士であれば後見開始申立ては可能です。
④ ただ、本人の財産目録や診断書を提出する必要があり、特に診断書は本人と同居していない者が取得するのは事実上困難です。
⑤ そのため、認知症になっている相続人の配偶者や子などに後見開始申立てをするように依頼してみるというのが通常です。

3 親族の協力がない

① もっとも後見申立てをするように依頼しても、親族の協力が得られず、申立てがされない場合もあります。
② 成年後見人が選任されてしまうと、被後見人の財産管理に家族以外の第三者が関与することになり財産管理に不都合を感じていない親族からすれば成年後見人の選任に協力するメリットがありません。
③ また、親族以外の第三者が成年後見人に選任された場合、成年後見人の報酬も発生するため、ゆくゆくは親族が相続するであろう被後見人の財産も目減りしてしまいます。
④ そのため必ずしも親族が後見申立てに協力してくれるとは限らないのです。
⑤ その場合、任意での協議ではなく、特別代理人を選任し、遺産分割調停や遺産分割審判で遺産分割を求めていくことになります。

【孤独死をめぐるQ&A】Q6 相続人が生死不明の場合(失踪宣告)

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【Q6】相続人が生死不明の場合(失踪宣告)

おじXが亡くなり、甥であるYが相続人調査をしました。戸籍調査によるとおじには兄Aがいることになっているのですが、Aの存在など聞いたことがなく、Aの戸籍上の年齢は122歳なので、おそらくすでに亡くなっているのに死亡届が出ていないのだと思います。
Xには他に相続人はなく、Aにも相続人になるような親族はY以外にいません。
このように相続人の一部がすでに亡くなっているはずなのに戸籍上は亡くなったことになっていない場合、どのような手続きをすればよいでしょうか。

【A】生死不明から7年以上経過していれば失踪宣告を申立てることになります。

【解説】

1 失踪宣告とは

① 失踪宣告とは、一定期間以上行方不明になっており、生きているのか死んでいるのか分からない状況の人に対して、法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度のことです。
② 生死が7年間以上明らかでない場合(普通失踪)、戦争、船舶の沈没、震災等の死亡の原因となる危難に遭遇し、その危難が去った後、生死が1年間以上明らかでない場合(危難失踪)に申し立てることができます。

2 失踪宣告の手続

(1)管轄

① 失踪宣告の申立ては不在者の従来の住所地又は居所地の家庭裁判所に対して行います。
② 従来の住所地も居所地も分からない場合は、東京家庭裁判所に申し立てを行うことになります。

(2)申立権者

① 失踪宣告を申立てることができるのは利害関係人に限られます。
② ここでいう利害関係人は、事実上の利害関係では足りず、配偶者、父母、相続人などの法律上の利害関係があることが必要です。

(3)失踪宣告手続

① 失踪宣告の申立てがされると、多くの場合、家庭裁判所調査官による調査が行われます。
② その後、裁判所が定める期間(普通失踪の場合は3カ月以上)に、不在者の生存を知っている人はその届出をするように官報や裁判所の掲示板で催告します。
③ その期間内に届出などがなかったときに失踪の宣告がされます。

3 失踪宣告の効果

① 普通失踪の場合、失踪期間7年間が満了した時に死亡したものとみなされます。
② 失踪宣告の審判が出て確定した場合、申立人は、10日以内に失踪宣告審判書謄本、確定証明書を添付して不在者の本籍地又は申立人の住所地の役場に対して失踪届を出さなければなりません。
③ 失踪届が出されると戸籍に失踪宣告が反映されますので、それを取得して相続手続きをすることになります。

4 失踪宣告の申立例

(1)失踪日の重要性

① 普通失踪の場合、失踪した日から失踪期間である7年間が満了した時に死亡したとみなされます。
② そのため、失踪した日を特定する必要があります。失踪者が死亡したとみなされる日によっては失踪者の相続関係が変動する可能性もあり、失踪者がいつ失踪したかは重要な問題になります。

(2)一切の交流がなく失踪した日が分からない場合

① 孤独死の場合、故人との交流が一切なく、失踪した他の相続人についても一切の事情が分からないということもあります。
② 存在そのものを知らず、戸籍上のみ存命していることになっているというケースの失踪宣告もあります。
③ 失踪者について一切の事情が分からないので、形式的なものに依拠するほかなく、戸籍上の身分事項の最後の記載がある日や戸籍の附票上の住所が職権で消除された日を失踪日と申立てその旨で審判が出されたケースもあります。

(3)失踪していることの説明

① 失踪していることの説明として、失踪者と連絡が取れず、失踪者の行方を知っている親族がいないことの他、失踪者が平均寿命を超える年齢であること、高齢であれば介護保険や健康保険を利用するはずですが住民登録がされていないので介護保険や健康保険が使えないことを補充的に説明しています。

5 高齢者消除との関係

① 100歳を超えて所在不明の方について、市町村長が法務局長の許可を得て、戸籍を消除することが認められています。これを高齢者消除といいます。
② この高齢者消除は戸籍の整理にすぎないので、その人が死亡したことにはなりません。家庭裁判所の審判で、「単に戸籍行政上の便宜にもとづくものであつて、失踪宣告の如き法的効果を生ずるものでない」としています。相続手続からその人を除くには、やはり失踪宣告を申立てる必要があります。
③ 戸籍の高齢者消除がされている場合、失踪届を出した後、消除の取消しをした後で戸籍に反映されるため、通常より戸籍取得に時間がかかる点に注意が必要です。

5 失踪宣告と不在者財産管理人の選択

① 行方不明者が7年間生死不明であっても、失踪宣告を申立てず、行方が分からないという理由で不在者財産管理人を選任し、遺産分割協議をすることは可能です。
② では、7年間生死不明の行方不明者がいるばあい、失踪宣告と不在者財産管理人選任申立てとどちらを選べばよいのでしょうか。
③ 考えるポイントはスピードと相続分です。
④ 不在者財産管理人選任申立てと失踪宣告では、不在者財産管理人選任申立ての方が解決のスピードが速いと思われます。失踪宣告は、家庭裁判所調査官による調査、3か月以上の催告期間が必要ですが、不在者財産管理人選任の場合、催告期間は必要ありません。
⑤ 次に相続分です。不在者財産管理人が選任された場合、不在者の不利になるような遺産分割は許可されません。そのため、不在者の法定相続分は確保されることになります。
⑥ 他方で、失踪宣告の場合、失踪者は法律上死亡したものとみなされます。失踪者に相続人がいれば、その相続人がXの遺産分割協議に参加することになるので、失踪者の相続分は、失踪者の相続人が相続することになります。
⑦ しかし本事例のように失踪者にY以外の相続人がいないのであれば、遺産分割協議に参加する人数が減る結果、その分Yの相続分が増えることになります。そうなると自身の相続分が増えるので、時間がかかっても失踪宣告を利用する方が経済的メリットがあるということになります。

【孤独死をめぐるQ&A】Q5 相続人が行方不明の場合 不在者財産管理人

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【孤独死をめぐるQ&A】Q5 相続人が行方不明の場合 不在者財産管理人ついての記事です。

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【Q5】相続人が行方不明の場合 不在者財産管理人

一人暮らしをしていたおじが亡くなり、私が相続人になります。
相続人調査の結果、私以外にも相続人がいることが分かりましたが、住所を調べても行方が分かりません。相続人の一部が行方不明の場合、どうすればよいですか。

【A】生死不明で7年間経過している場合には、家庭裁判所に失踪宣告を申立てます。特定の外国に住んでいるらしいが住所が分からないという場合には、当該国の総領事館に所在確認をしてみます。それ以外の場合には、不在者財産管理人の選任申立てを行い、不在者財産管理人が行方不明の相続人の代理人となって遺産分割手続きを進めていきます。

【解説】

1遺産分割協議は全ての相続人が参加する必要がある

① 遺産分割協議は一部の相続人だけで行うことはできず、相続人全員で行う必要があります。
② 相続人が行方不明の場合、相続人探し出す、行方不明の相続人を死亡したことにして相続手続から除外する、行方不明の相続人の代理人を立ててその者と遺産分割協議をするなどの方法をとる必要があります。

2孤独死の方の相続の特徴

① 配偶者や子がいる方の孤独死もありますが、やはり多いのは配偶者も子も親もいないという方かと思います。
② そのような場合、兄弟姉妹がいれば兄弟姉妹が相続人になります。高齢な故人の兄弟姉妹が相続人になる場合、兄弟姉妹も高齢です。兄弟姉妹が高齢だと認知症を患っており、既に意思能力がないという問題が生じることもあります。
③ また、高齢者の方は、兄弟姉妹の人数が多いという方も多いかと思います。そして、兄弟姉妹が先に亡くなっている場合、甥・姪が相続人になります。
④ もともと、兄弟姉妹が多いところにその甥・姪まで相続人になるので、相続人が多くなることもあります。相続人の人数が多くなれば、行方不明の方がいることもあるのです。
⑤ 相続人が行方不明ということなどあるのかと思われるかもしれませんが、典型的なのは相続人の一人が海外に行ってしまったというケースです。外国には日本のように住民票という制度がない国もあります。
⑥ 国外に転出した際には最初は住所を伝えていたが、その後、外国内で引越しをしたらしく、郵便物が届かず、どこに住んでいるのか分からないということがままあるものです。

3国外に住んでいる住所不明な相続人がいる場合

① 国外に転出した場合、転出先の国が住民票の除票に記載されます。転出先の国は分かりますが、外国には日本のような住民票がない国があり、国外に転出した方のその後の住所が分からないことがあります。
② また、一度転出した後で、また他の国に引越しをしていた場合、もう住民票では追えなくなります。そのような場合、滞在している外国の日本領事館に所在確認の手続き(外務省が実施する「所在調査」)を依頼することができます。
③ この所在調査は滞在している国が判明している場合のみ利用可能で、不明な場合は調査することができません。所在調査は三親等内の親族のみ利用が可能で、所在調査申込書を記入して依頼します。
④ 本事例でいえば、行方不明者が他のおじ、おばであれば三親等ですので、所在調査を利用できます。しかし、いとこの場合は四親等になるので、所在調査は利用できません。
⑤ アメリカ合衆国限定ですが、居住者データベースサイトも存在し、全員が登録されているわけではありませんが、行方不明者の探索の端緒になる可能性はあります。

4行方不明の方が生死不明の場合

① 行方不明となった相続人が生死不明であり、生死不明になった時から7年間経過している場合、家庭裁判所に「失踪宣告」の申立てをすれば死亡したものとみなされます。
② この場合は、行方不明者以外の相続人で手続きを進めていくことができます。行方不明の者に子がいた場合は、代襲相続して子が相続人となります。
③ なお、生死不明になった時から7年間経過していても、失踪宣告を申立てずに不在者財産管理人選任を申立てることも可能です。

5行方不明の方が生死不明ではない又は生死不明になってから7年間経過していない場合

① 住民票や戸籍の附票を取りよせても所在が確認できず、又は生死不明な状態から7年間は経過していないという場合、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任申立てを行い、管理人に行方不明者の相続人の代理人となってもらって相続手続きを進めていくことになります。

1)不在者財産管理人とは

① 不在者財産管理人とは、従来の住所又は居所を去り容易に戻る見込みのない者(不在者)の財産を管理する人をいいます。
② 遺産分割において行方不明となっている相続人がいる場合、裁判所に行方不明の相続人の不在者財産管理人を選任してもらい、不在者財産管理人を交えて遺産分割協議を行うことになります。
③ 不在者財産管理人選任の申立ては、不在者の従来の住所地又は居所地の家庭裁判所に対して行います。不在者財産管理人の申立ては、利害関係人(不在者の配偶者、相続人に当たる者、債権者など)と検察官が行なうことができます。
④ 本ケースのように遺産分割の相手方が行方不明という場合には、他の相続人は利害関係人として不在者あ財産管理人選任の申立てができます。

2)不在者財産管理人選任の手続き

① 家庭裁判所は、申立書や所在不明となった事実を裏付ける資料を確認した上で、申立人から事情を聴いたり。不在者の親族に照会したりして、所在不明かを判断します。
② 所在不明であり、不在者財産管理人を選任する必要があると判断した場合、不在者財産管理人選任の審判をします。
③ 不在者財産管理人は、不在者財産管理人選任申立書に申立人が候補者を推薦することは可能です。しかし、申立人が推薦した候補者が必ず選任されるわけではありません。不在者との関係や利害関係の有無などを考慮して、適格性が判断され、場合によっては、弁護士、司法書士などの専門職が選ばれます。

3)不在者財産管理人との遺産分割協議

① 遺産分割協議のために不在者財産管理人を選任してもらうのですが、不在者財産管理人は不在者の財産を管理する権限しかないので、遺産分割協議により財産を取得するには、権限外行為許可を得る必要があります。
② この点、不在者の不利になるような遺産分割協議をすることは許可されませんので、不在者の法定相続分を確保した遺産分割協議を行う必要があります。

4)不在者財産管理人選任申立ての管轄について

① 不在者財産管理人選任の申立ては、原則として不在者の従来の住所地を管轄する家庭裁判所になります。
② しかし、不在者財産管理人を交えて遺産分割調停を行うことが必要なケースもあります。現に遺産分割協議が遠方の家庭裁判所で行われているような場合、不在者の住所地の家庭裁判所管内で不在者財産管理人が選任されると、遺産分割調停の出席のために遠方の家庭裁判所に出かけるなどして交通費などがかかってしまうこともあります。
③ そのような場合、遺産分割調停が行なわれている家庭裁判所に管轄外申立てをすることを検討しても良いかもしれません。
④ 裁判所によっては、遺産分割調停が係属しているような紛争性が高い案件ついては、申立人が推薦する候補者を選任しない運用をしているところもあるようです。
⑤ そのような場合、不在者の従来の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てても、家庭裁判所から、管轄内での不在者財産管理人選任は不都合なので、遺産分割調停が係属している家庭裁判所に移送申立てをするように促されることもあります。

【孤独死をめぐるQ&A】Q4 相続人の調査② 第三者による戸籍の調査

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【孤独死をめぐるQ&A】Q4 相続人の調査② 第三者による戸籍の調査ついての記事です。

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【Q4】相続人の調査② 第三者による戸籍の調査

賃貸アパートを高齢者に貸していたのですが、入居者が部屋で孤独死してしまいました。
相続人に死亡後の賃料や原状回復費を請求したいのですが、亡くなった人の相続人が誰かわかりません。
親族でない第三者が契約の相手方の相続人を調査することもできるのでしょうか。

【A】第三者が戸籍を取得して相続人の調査をすることはできますが、戸籍を取得する必要があるということを説明する必要があります。

【解説】

1第三者による戸籍の取得

① Q3のとおり、戸籍は個人情報の塊ですので、戸籍を取得することができる場合は制限されています。
② 本事例のように、孤独死した方が入居していた住居の賃貸人など、相続人以外が故人の相続人を調査する必要がある場合があります。
③ 戸籍を取得できるのは以下の場合に限定されます。
・自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために必要がある場合
・国又は地方公共団体の機関に提出する必要がある場合
・戸籍の記載事項を利用する正当な理由がある場合
④ 戸籍を請求しようとする者は、自身が上記の事由に該当することを資料の提出などにより明らかにする必要があります。
⑤ 本事例のように孤独死した方が入居していた住居の賃貸人であれば、賃料請求権や原状回復請求権という賃貸人の権利行使のために必要があると言えます。
⑥ 例えばですが、故人との間の賃貸借契約書を添付した上で、賃借人が死亡したので賃料や原状回復を相続人に請求する必要があるなどと記載して、自己の権利を行使するために必要であることを示して戸籍を請求することになります。

2 相続人の住所調査

① 相続人が判明したら、次は相続人に連絡を取るために住所を調査することになります。相続人の住所を調べるには、戸籍の附票を取り寄せます。
② 戸籍の附票とは、住民基本台帳法に基づき市町村と特別区で作成される該当市区町村に本籍がある者の住所履歴に関する記録を言います。戸籍の附票を取ると、対象者の住所履歴が分かります。
③ まれに戸籍の附票に住所地が記載されていなかったり、戸籍の附票が取れなかったりするケースもあります。その場合、住所を調べるのは難しいということになってしまいます。
④ また、住民登録をしている住所が判明しても、実際にはその場所に住んでいないという方もいます。そのような場合、現地調査をして、近隣の方に事情を聞いてみたりすることもありますが、住民登録をしている住所に住んでおらず、郵便物を送っても届かないという場合には、実際に居住している住所を調べるのは難しいのが実情です。
⑤ 住所調査をしても相続人の調査ができず、相続人が生死不明、行方不明という場合には、不在者財産管理人、失踪宣告などを検討することになります。

3 専門家への依頼

① 戸籍を遡り相続人を調査する場合、自分で戸籍を調査してみても、身分関係が複雑であったりして相続人の範囲が確認できなかったり、大量の戸籍を調査する必要があり手間がかかったりすることがあります。
② 子のいないおば夫婦が順次亡くなり相続手続未了のような場合には、おばの配偶者の甥が遺産分割の相手方となり、縁が遠すぎて自治体から戸籍の取得を拒否されてしまうケースもあります。
③ そのような場合、弁護士、司法書士、行政書士、税理士などの専門家に相続人の調査を依頼することも可能です。
④ それらの専門家は、職務上必要がある場合には戸籍謄本を取得することが認められています。