【改正民法債権編】根保証

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【改正民法債権編】に関して、根保証について考えてみたいと思います。

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根保証

根保証に関する個人の保証人の保護を拡充

 

◆根保証とは
根保証とは、主債務者が継続的な取引について負担する債務を保証することをいいます。
根保証は、保証額の上限や保証期間を定める「限定根保証」とこれを定めない「包括根保証」に区分することができます。

たとえば、建物賃貸借契約の保証も、この根保証(包括根保証)に当たります。賃借人が、将来にわたって継続的に負担する賃料債務や明渡し時の原状回復費用などの不特定の債務を、包括して保証するものといえるからです。

 

◆根保証に関する個人の保証人保護の拡充
根保証は、時に保証人の予想をはるかに超える責任を負担させられる危険があり、社会的にも問題となる事例が少なくありません。

上述の建物賃貸借の例でも、たとえば、大学生になった子がマンションを借りる際に、親が連帯保証人になるケースはよくあります。
その子の火の不始末が原因で火災が発生し、建物や他の居住者に甚大な被害を与えてしまったような場合、もし賃貸人がその建物に火災保険等をかけていなければ、一個人ではおよそ負担しきれない責任を連帯保証人である親が、すべて背負わなければならないという事態に陥ります。

平成16年の民法改正では、借入金等を根保証の対象とする類型に限って、保証上限(極度額)を定めなければ無効としたり(旧法465条の2)、一定の保証期間が経過すると保証金額が確定(元本確定)するなどのルールが新設されて保護が図られました(旧法465条の3等)。ただ、このような保証人保護の要請は、前述の例で示したように、必ずしも借入金等を根保証の対象とする類型に限られないという指摘がありました。

そこで、今回の改正では、平成16年改正で新設されたルールの適用範囲を、広く個人による根保証契約一般に拡大することとされました(新法465条の2、465条の4)。

 

◆残された検討課題(特別解約権の明文化)
根保証をめぐる残された検討課題として、「特別の元本確定請求権(特別解約権)」を明文化するか否かが議論されています。

これは、平成16年の民法改正時から検討されていたもので、根保証契約の保証人は、一定の特別な事由がある場合には、元本の確定を請求できるとする考え方です。

特別の事情とは、たとえば以下のいずれかに著しい事情の変更があった場合をいいます。
①主債務者と保証人との関係
②債権者と保証人との関係
③主債務者の資産状態

判例等の考え方を踏まえた一般的な理解を明文化するものですが、考慮すべきさまざまな要素を的確に表現することが難しいという技術的な問題をクリアできず、今回も改正が見送られることになりました。

なお、この特別解約権は、実務でも確立した考え方として条文がなくても救済が図られていますので、従前の実務に与える影響は大きくないと言えるでしょう。

【改正民法債権編】保証人の求償権

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今回は、【改正民法債権編】に関して、保証人の求償権について考えてみたいと思います。

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保証人の求償権

求償権の範囲と保証人の通知義務に関する規定を整備

 

◆保証人の求償権
求償権とは、他人の債務をその人に代わって弁済した場合に、弁済した金額等をその人に対して請求(償還請求)できる権利のことです。
保証人も主債務者の債務を主債務者に代わって返済する立場にあるので、保証人が主債務を返済すれば、主債務者に対して求償権を取得します。

委託を受けない保証人と受けた保証人の求償権には違いがあります。
(1)委託を受けない保証人の求償権
主債務者から「保証人になって欲しい」と委託(保証委託)を受けなくても、債権者と保証人の合意だけで保証人になることはできます。
ただ、主債務者から委託を受けない保証人は、「弁済の当時、主債務者が利益を受けた限度」でしか求償することはできないので、法定利息や返済の費用等の請求まではできません(新法462条、459条の2第1項)。

また、保証人が主債務者の意思に反して保証をしていた場合は、さらに求償の範囲が制限されます。具体的には、求償時点で主債務者が「現に利益を受けている限度」でしか求償することができません(新法462条2項)。

(2)委託を受けた保証人の求償権
これに対して、主債務者から保証委託を受けた保証人は、法定利息や返済に要した費用など、委託を受けない保証人よりも広範囲の求償権(事後求償権)が認められます。また、保証委託契約も一種の「委任契約」(法643条)なので、受任者(保証人)の委任者(主債務者)に対する費用前払請求(法649条)としての「事前求償権」が認められています(法460条)。

ただ、常にこのような前払請求を認めてしまうと、保証人に保証を委託した意味がなくなってしまうので、旧法460条は3つの場合に限って事前求償を認めていました。
①主たる債務者が破産手続開始の決定を受け、かつ、債権者がその破産財団の配当に加入しないとき
②債務が弁済期にあるとき
③債務の弁済期が不確定で、その最長期も確定できないまま、保証契約の後10年を経過したとき(新法で削除)
この③は主債務の額が定まらないなどの問題から事前の求償にはなじまないという指摘を受けて、今回の改正で削除されました。
その代わりに、新法では以下の要件が加わりました。
「保証人が過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受けたとき」

また、旧法では、委託を受けた保証人が取得する事後求償権の範囲が必ずしも明確ではなかったことから、今回の改正によりこれが明確化されたほか(新法459条)、主債務の弁済期前に返済等(期限前返済等)が行なわれた場合の事後求償権の範囲を、委託を受けない保証人の事後求償権と同じ範囲に制限する改正も行われました(新法459条の2)。

 

◆保証人の通知義務
保証人が主債務者に代わって返済等する場合は、主債務者に不測の損害を与えないよう、事前に主債務者に確認(通知)してから行なうルールになっています(旧法463条1項、443条)。

ただ、委託を受けない保証人については、もともと事前の通知をしていても求償できる範囲が制限されるので(旧法462条1項、2項)、事前の通知を義務づける意義が乏しいなどの理由から、今回の改正では、委託を受けない保証人の事前の通知義務が廃止されました(新法463条)。

一方、保証人が主債務者に代わって返済等をした後に、その旨を主債務者に通知するルール(事後通知義務)は、旧法下のルールが維持されます。
また、主債務者の意思に反して保証をした保証人については、求償できる範囲が著しく制限されるので(法462条2項)、事前の通知や事後の通知をしてもしなくても、求償の範囲に差異が生じないことが条文上も明確にされました(新法463条3項参照)。

【改正民法債権編】保証債務

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保証債務

個人の保証人の保護強化と条文の整備を図る

 

・保証債務は、たとえば、お金を借りたいと思う人が、担保に差し入れることができる財産(自分名義の不動産等)を持たない場合に、その人の信用(返済能力)を補う手段として、実務上とても重要な意味(役割)を持つものといえます。

しかし、その一方で、個人の保証人が必ずしも想定していなかった多額の負債(保証債務)の支払いを求められて、生活の破綻に追い込まれたり、最悪のケースでは自ら命を絶ってしまうというような痛ましい事件も生じています。

そこで、今回の改正においては、特に個人の保証人をより一層保護する方策が盛り込まれました。
また、これまでの裁判実務で積み重ねられてきた一般的な理解(条文解釈をめぐる判例等の考え方)を具体的な条項として盛り込むなどの整理も行われました。

 

◆保証債務の付従性の改正
(1)保証債務の性質
保証債務に関する改正内容の説明に入る前に、まず、保証債務の一般的な性質について確認しておきましょう。

保証債務には、一般に、「付従性」「随伴性」「補充性」という3つの性質があるとされています。

①付従性
付従性とは、「主債務を担保するために存するという性質」であると説明されることがあります。
保証債務によって保証人が負担する債務のことを「保証債務」といいますが、保証人が保証する他人の債務を、保証債務との関係で「主たる債務」あるいは「主債務」といいます。

「主債務を担保するために存するという性質」とは、簡略化すれば、「主債務と運命を共にする性質」と言い換えることができます。
たとえば、主債務がないのに保証債務だけが成立することはないですし、主債務が消滅すれば保証債務も当然に消滅するという性質です。

なお、保証人の負担が主債務より重いときは、主債務の限度に減縮することを定めた旧法448条も、保証債務の付従性から当然に導かれる効果の1つであると理解されています。

②随伴性
随伴性とは、主債務が移転すると、保証債務も一緒に移転する(随伴する)と言う性質をいいます。

③補充性
補充性とは、主債務が履行されないときに初めて、(補充的に)保証人が履行しなければならなくなるという性質です。

(2)付従性に関する改正の概要
上記のように、保証債務には3つの性質がありますが、今回の改正では、付従性に関する新法448条(内容における付従性)の第2項として、以下の条項が追加されました。
「主たる債務の目的又は態様が保証債務の締結後に加重されたときであっても、保証人の負担は加重されない。」

旧法448条は、保証契約の締結時に保証人の負担が主債務より重いときにこれを主債務の限度まで軽くする旨だけを定めていました。今回の改正では、これに加えて、保証契約の締結後に主債務の内容が重くなった場合の一般的な理解についても具体的な条項が整備されました。

また、主債務者が債権者の請求に対して主張(対抗)できる権利等(抗弁)を有している場合について、現在、主債務者の相殺のみを定めている旧法457条2項が、次のように広く抗弁権を有している場合(全般)を対象とする条文に改められました。
「保証人は、主たる債務者が主張することができる抗弁をもって債権者に対抗することができる。」
この改正も、付従性に関する一般的な理解を具体的な条項として整備したものといえます。

 

◆連帯保証人について生じた事由の効力
連帯保証人とは、保証人が主債務者と連帯して債務を負担する保証のことをいいます。
通常の保証とは異なり、前記の3つの性質のうち「補充性」が認められません。そのため、主債務者よりも先に請求を受けた場合でも、これを拒むことができないという違いがあります。

ほかにも連帯保証と通常の保証とは違いがありますが、連帯保証も保証債務ですから付従性は認められます。
したがって、主債務者について生じた事由(時効の完成など)の効力は、連帯保証人にも効力が及びますが、連帯保証人について生じた事由の効力が主債務者に及ぶかという問題は、付従性の性質からは説明することができません。

そこで、その際のルールを明確にするために、新法458条が連帯債務に関する以下の規定を準用しています。
・新法438条(更改の絶対効)
・新法439条1項(相殺の絶対効)
・新法440条(混同の絶対効)
・新法441条(相対効の原則)

このように、連帯保証人に生じた事由の効力は、連帯債務者の1人について生じた事由の効力と同じ効果が及ぶと理解しておけばよいでしょう。

【改正民法債権編】多数当事者の債権債務

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今回は、【改正民法債権編】に関して、多数当事者の債権債務について考えてみたいと思います。

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多数当事者の債権債務

連帯債務における債権者の地位を強化、連帯債権を新設

 

◆多数当事者の債権債務とは
同一債権について、債権者または債務者が複数いる場合を、多数当事者の債権債務といいます。
新法では、多数当事者の債権債務について、新たな種類が設けられ分類が整理されたほか、当事者の一部に生じた事由の他の当事者への効力について改正されました。また、一部の債務者が弁済を行なった場合の当事者間での求償関係についても改正がなされました。

 

◆多数当事者の債権債務の種類
(1)多数当事者の債権関係
同一の債権について複数の債権者がいる場合として、次の3つが考えられます。

①債権の内容が可分である場合
たとえば、2人が共同で100万円を貸した場合、債権の内容である100万円の返還請求権は可分なので、特段の合意がなければ、2人は50万円ずつの返還請求権を有することになります。

②債権の内容が性質上不可分である場合
たとえば、1つの建物を2人で共同で購入した場合、債権の内容の1つである建物の引渡請求権は、性質上不可分です。

③債権の内容が性質上可分であるが、法令の規定ないし当事者の合意によって不可分である場合
たとえば、上記①の事例で、合意により不可分債権と定めた場合です。

旧法では、このうち①を可分債権、②と③を不可分債権としていました。
新法では、③について、連帯債権という新たなカテゴリーを設け、各債権者は、すべての債権者のために全部または一部の履行を請求できると規定しました(新法432条)。

(2)多数当事者の債務関係
同一債務について複数の債務者がある場合も、(1)と同じように、①性質上可分な場合、②性質上不可分な場合、③性質上可分だが法令の規定ないし当事者の合意により不可分である場合、の3つが考えられます。

①は可分債務、②は不可分債務とされるほか、新法では、③について、新たに連帯債務に分類することとし、債権者は、連帯債務者の1人に対し、あるいは同時もしくは順次すべての連帯債務者に対し、全部または一部の履行を請求できると規定しました(新法436条)。

 

◆一部に生じた事由の他の当事者への効力
債権債務に当事者が複数いる場合、一部の当事者間で生じた事由がどのように他の当事者に影響するかが問題となります。

たとえば、債務者AとBが、債権者に対して100万円の連帯債務を負っているとしましょう。債権者がAだけに対して、「もう返さなくていい」と債務を免除した場合、Bはまだ100万円を返さなくてはならないでしょうか。
Aに生じた事由がBにも効力を有する(Bは100万円を返す必要はなくなる)場合を「絶対的効力」、Bには効力を有さない(Bは100万円を返さなければならない)場合を「相対的効力」といいます。

債権債務ごとの絶対的効力を有する事由

・多数当事者の債権で不可分債権→弁済・履行の請求・相殺

・多数当事者の債権で連帯債権→弁済・履行の請求・更改・免除・相殺・混同

・多数当事者の債務で不可分債務→弁済・更改・相殺

・多数当事者間の債務で連帯債務→弁済・更改・相殺・混同

前述の例からわかるとおり、絶対的効力とされる事由が少ないほうが、債権者の地位は強くなります。

新法では、新設された連帯債権における対外的効力の規定を設けたほか(新法432条から435条の2)、複数当事者の債権関係、債務関係のそれぞれについて、対外的効力の規定が一部改正されました。
特に、連帯債務については、絶対的効力を有するとされていた事由のうち、履行の請求(旧法434条)、免除(旧法437条)、時効の完成(旧法439条)について、相対的効力とされ、概ね債権者の立場が強化されています。

なお、今回の改正で、連帯債務について、絶対的効力事由が減少し債権者の地位が強化された結果、共同不法行為における賠償義務も、明文上の連帯債務の規定が適用されることになると考えられています。

 

◆連帯債務者間の求償
AとBが100万円の連帯債務を負っている場合、AとBの内部では、特段の合意がなければ50万円ずつが自己負担分となります。
それでは、Aが40万円を弁済した場合、AはBに対して、負担率である2分の1の20万円の求償を求めることができるのでしょうか。それとも、自分の負担分である50万円を超えないと、Bに求償できないのでしょうか。

旧法では、この点が明確ではなく、また判例上、共同不法行為における不法行為者の賠償義務(不真正連帯債務)の場合には、事故の負担分を超えた場合に初めて求償できるとされていました。
新法442条1項は、この判例を変更し、連帯債務者の1人が弁済等で共同の免責を得た場合には、免責額が自己の負担部分を超えない場合でも、他の連帯債務者に対し、各自の負担部分に応じた求償権が発生することを規定しました。

 

【改正民法債権編】詐害行為取消権の効果

【改正民法債権編】詐害行為取消権の行使方法

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今回は、【改正民法債権編】に関して、詐害行為取消権の行使方法について考えてみたいと思います。

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詐害行為取消権の行使方法

裁判において被告になる者、具体的な行使方法等を規定

 

◆裁判における相手方
(1)「被告」になる者
裁判において訴える者を「原告」、訴えられた者を「被告」といいます。詐害行為取消権は、裁判所において行使する必要があるため、債権者は「原告」となって訴訟提起します。

このとき訴えられる者、つまり「被告」になるのは、受益者に対して詐害行為取消権を行使する場合は「受益者」、転得者に対して詐害行為取消権を行使する場合は「転得者」です(新法424条の7第1項)。
債権者は、受益者または転得者を被告として訴えるのであって、債務者は被告になりません。

(2)債務者に対する訴訟告知
詐害行為取消権を行使する裁判において、債務者は「被告」にはなりませんが、債権者は、債務者に対して「訴訟告知」をしなくてはなりません(新法424条の7第2項)。
訴訟告知を受けた債務者は、「原告」である債権者と、「被告」である受益者または転得者との裁判に参加することができ、債務者自身の主張等を行なうことができます。

 

◆詐害行為取消権の行使方法
(1)受益者に対する詐害行為取消権の行使
受益者に対して詐害行為取消権を行使する場合、債権者は、債権者が「原告」となり、受益者を「被告」として、裁判所に対し、次のことを求めることができます(新法424条の6第1項)。
①債務者が行なった詐害行為の取消し
②詐害行為によって受益者に移転した財産の返還

②の財産の返還は、実際に受益者に移転した財産そのものの返還(現物返還といいます)が原則です。
しかし、現物返還が困難な場合には、移転した財産の価額の償還(価額償還といいます)を求めることができます。

(2)転得者に対して詐害行為取消権を行使する場合、債権者は、債権者が「原告」となり、転得者を「被告」として、裁判所に対し、次のことを求めることができます(新法424条の6第2項)。
①債務者が行なった詐害行為の取消し
②転得者が転得した財産の返還
②の財産の返還は、受益者に対する詐害行為取消権の行使の場合と同様、現物返還が原則ですが、現物返還が困難な場合には、価額償還を求めることができます。

 

◆債権者への支払いまたは引渡し
債権者は、受益者または転得者に対して求める現物返還の内容が、金銭の支払いまたは動産の引渡しであるときは、自己(債権者)に対して直接、支払いまたは引渡しを求めることができます。受益者または転得者は、債権者に対して支払うか、または引渡した場合には、債務者への返還義務を免れます(新法424条の9)。
また、債権者が、受益者または転得者に対して現物返還ではなく、価額償還を求める場合でも、自己(債権者)への直接の支払を請求することができます。

 

◆取消しを請求できる範囲
詐害行為の内容が可分(たとえば、金銭の支払い)である場合には、債権者は、被保全債権の債権額の限度においてのみ、詐害行為の取消しを請求することができます(新法424条の8)。

また、債権者が、現物返還ではなく、価額償還を求める場合も、債権者は、被保全債権の債権額の限度においてのみ、詐害行為の取消しを請求することができます。
他方、詐害行為の内容が、不可分である場合には、債権者は、被保全債権の債権額にかかわらず、詐害行為全部の取消しを求めることができます。

【改正民法債権編】詐害行為の類型による要件の特則

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今回は、【改正民法債権編】に関して、詐害行為の類型による要件の特則について考えてみたいと思います。

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詐害行為の類型による要件の特則

問題となる行為を類型化し、類型ごとに特則を整備

 

◆詐害行為の類型化による要件の明確化
新法424条は、詐害行為取消権を行使できる要件を規定していますが、概括的・抽象的に規定されているため、債務者が行なった行為について、新法424条の要件に該当するのか判断が難しい事例が多数あります。

そこで、新法では、詐害行為取消権と同様の効果を有する他の権利(破産法上の否認権)や、詐害行為取消権に関する旧法下での判例等を参考にして、問題になる行為を類型化し、各類型に応じて詐害行為取消権を行使するための要件を明確化し、特則を定めました。

 

◆相当の対価を得て行なった財産処分行為
債務者が一方的に財産を失う行為(たとえば、贈与)の場合は、詐害行為と判断しやすいといえます。しかし、債務者が土地を売って相当の代金を得るような場合、その売買行為が詐害行為なのかどうかが判然としません。
そこで新法は、債務者が受益者から相当の対価を得る財産処分行為を行なった場合、以下の要件をすべて満たすと詐害行為取消権を行使できることを規定しました(新法424条の2)。ただし、この要件をすべて満たすことは実際には困難であり、行使できるケースは限られると思われます。

【相当の対価を得る財産処分行為の詐害行為取消権の要件】
①その行為(債務者の財産処分行為)が、財産の種類を変更することにより、債務者において隠匿、無償の供与等の債権者を害することとなる処分をするおそれを現に生じさせるものであること。
②債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
③受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。

 

◆特定の債権者に対する担保の供与等
(1)偏頗行為の場合
偏頗行為とは、支払い不能時に債務者が行なう、特定の債権者だけを利するような行為をいいます。

債務者が特定の債務について担保供与(たとえば、抵当権の設定)または債務消滅に関する行為(たとえば、弁済)を行なった場合、以下の要件をすべて満たすと詐害行為取消権を行使できます(新法424条の3第1項)。
①債務者の支払不能時にその行為が行われたものであること。
②債務者と受益者とが通謀して、他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。
支払不能時に偏頗行為を行なうことは債権者間の公平を欠くため、特則を定めたものです。

(2)非義務的行為の場合
債務者の担保供与や債務消滅に関する行為が、債務者の義務に属せず、または、その時期が債務者の義務に属しない場合、以下の要件をすべて満たすと詐害行為取消権を行使できます(新法424条の3第2項)。
①支払不能になる前30日以内にその行為が行われたものであること。
②債務者と受益者とが通謀して、他の債権者を害する意図をもって行なわれたものであること。

「債務者の義務に属せず」とは、たとえば、担保権(抵当権など)を設定することをあらかじめ合意していないにもかかわらず、債務者が債権者に対して自己の財産に担保権を設定する場合です。「その時期が債務者の義務に属しない」とは、たとえば、支払期限前の弁済です。
債務者が特定の債権者に対して義務ではない行為を行なって、その債権者だけを利することは債権者間の公平を欠くため、特則を定めたものです。

 

◆過大な代物弁済等の特則
債務者が債務の消滅に関する行為を行ない、受益者の受けた給付の価額がその行為によって消滅した債務額よりも過大である場合、その過大な部分について、詐害行為取消権を行使できます(新法424条の4)。
たとえば、100万円の債務を負っている債務者が、500万円の財産的価値がある動産で代物弁済する場合がこれに当たります。

【改正民法債権編】詐害行為取消権

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詐害行為取消権

要件、効果、適用範囲等をより詳細に規定

 

◆債権者代位権との共通点・相違点
詐害行為取消権は、債権者代位権と同じく、強制執行の引当てとなる債務者の財産を確保するための制度です。
債権者代位権は債務者が財産の減少を放置する場合に、債権者が債務者に代わって財産の減少を防止するものですが、詐害行為取消権は、債務者が財産を積極的に減少する行為をした場合に、債権者が債務者の財産減少行為を取り消して、財産の減少を回復させるものです。

 

◆詐害行為取消権の内容
債権者Aが、債務者Bに対して債権(被保全債権)を有している状態で、次のような行為が行われたとします。
・BがC(Cを受益者と言います)に対してBの財産を逸出させて、Aを害する(Aが満足な弁済を受けられなくなる)行為を行なった場合
・さらに、CがBから得た財産をD(Dを転得者といいます)に移転させた場合

詐害行為取消権は、このような行為が行われた場合に、AがB・C間の行為を取消して、その逸出した財産を受益者Cまたは転得者Dから取り戻す制度です。

●詐害行為の具体例
債権者Aは、債務者Bに1000万円を貸し付けている。500万円の土地がBの唯一の財産である状態において、BはBの経済状態をよく知る友人C及びDと相談し、B・C間で贈与契約を締結して土地を贈与し、さらにC・D間で贈与契約を締結して土地を贈与した。
この場合に、AはB・C間で行われた贈与契約を取消し、CまたはDに対して、土地または土地の価値である500万円の返還を求めることができる。

 

◆新法での改正点
詐害行為取消権は、受益者や転得者を巻き込んで行使され、さらに、その効果も債務者が行なった行為を取り消して、財産状態を元に戻すものなので、権利行使が与える影響は債権者代位権に比べて大きいと言えます。
しかし、旧法では、詐害行為取消権について、わずか3か条だけしか規定を置いていなかったため、詐害行為取消権の要件や効果が不明確であり、多数の判例や解釈によって補充されて運用されてきました。

新法では、旧法下での判例や解釈の蓄積を踏まえて、詐害行為取消権の要件、効果、適用範囲等について、15か条の規定を置いて、より詳細に規定しています。
なお、詐害行為取消権と似た制度として、破産法上の否認権という制度があります。新法では、否認権に関する条文を参考にして、詐害行為取消権の条文が規定されているところもあります。

 

◆詐害行為取消権の要件
(1)受益者に対する詐害行為取消権の要件
詐害行為取消権は、債務者が受益者との間で行った行為を取り消し、受益者から財産の返還を求めるという大きな効果を生じさせるものです。

そのため、債務者や受益者との利益調整の観点から、新法424条において厳格な要件が規定されています。
詐害行為取消権は、強制執行のための財産を回復させるための制度であることから、詐害行為は、財産権を目的とした行為(たとえば、贈与契約、弁済)に限られ、被保全債権は強制執行により実現できる権利(たとえば、金銭債権)であることが必要となります。

また、債務者の財産管理の自由と債権者保護の調整の観点から、被保全債権は、詐害行為の前に存在した原因から生じた債権であることが必要です。なお、被保全債権自体が詐害行為の前に生じている必要はなく、被保全債権を発生させる「原因」が詐害行為の前に生じていればよいとされています。

そして、詐害行為によって利益を得た受益者の利益と債権者保護の調整の観点から、債務者は自己の行為が債権者を害することを知っている必要があり(詐害意思)、受益者も詐害行為によって債権者が害されることを知っていることが必要となります。この知っていることを「悪意」といいます。他方、知らないことを「善意」といいます。
詐害行為取消権を受益者に対して行使する場合、以下の要件をすべて満たす必要があります。

【受益者に対する詐害行為取消権の要件】
①債務者が債権者を害することを知って行為を行なうこと(詐害行為)
②受益者が債権者を害することを知っていたこと
③詐害行為が財産権を目的とする行為であること
④債権者の債権(被保全債権)が詐害行為の前の原因に基づいて生じたものであること
⑤被保全債権が強制執行により実現できる権利であること

(2)転得者に対する詐害行為取消権の要件
詐害行為取消権を転得者に対して行使する場合、受益者に対する詐害行為取消権の要件をすべて満たしたうえで、さらに、下記の要件を満たす必要があります(新法424条の5)。
なお、詐害行為取消権の対象となる転得者が、受益者から財産を転得した者である場合か、受益者から財産を転得した者からさらに財産を転得した者である場合かによって、要件が異なります。

【転得者に対する詐害行為取消権の要件】
①転得者が受益者から財産を転得した者である場合
転得者が、転得の当時、債務者が行なった行為が債権者を害することを知っていたこと。
②転得者が他の転得者から財産を転得した者である場合
当該転得者とその前に転得したすべての転得者が、それぞれの転得の当時、債務者が行なった行為が債権者を害することを知っていたこと。

(3)裁判所に対する訴えによること
詐害行為取消権は、受益者に対して行使する場合であっても、転得者に対して行使する場合であっても、裁判所に訴訟を提起する方法でしか行使できません。
債権者代位権は裁判外で行使することができますが、詐害行為取消権は関係者に与える影響が大きいため、裁判上でしか行使できないよう規定されています。

 

◆詐害行為取消権の出訴機関の制限
詐害行為取消権は次のいずれかに該当すると、訴訟提起することができなくなります(新法426条)。
①債務者が債権者を害することを知って詐害行為を行なった事実を債権者が知った時から2年が経過した場合
②詐害行為の時から10年経過した場合
このような出訴期間の制限が設けられているのは、長期間にわたって債務者の行為や財産が逸出した状態を放置した債権者に詐害行為取消権を行使させて、現状の法律状態を変動させる必要性は乏しいという理由によります。

【改正民法債権編】債務者の処分権限

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【改正民法債権編】に関して、債務者の処分権限について考えてみたいと思います。

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債務者の処分権限

従来の判例のルールとは異なる定めを規定

 

◆債務者の処分権限
債権者が債権者代位権を行使した場合、債務者は自己の権利を行使することはできるのでしょうか。

旧法では、このような債務者の処分権限についての明文の定めがなく、解釈に委ねられていました。
債務者の財産管理の自由と、債務者の財産維持に利害関係を有する債権者の利益調整という見地から、債務者の処分権限をどのように考えるべきかが議論されていました。
債務者の自由を重視すれば、代位権行使とはまったく別に債務者が第三債務者に対して弁済を求める等の権利行使を認めるべきということになります。

一方で、債権者の利益という点を重視すれば、代位権行使後に債務者による権利行使を無制限に認めた場合、債権者による代位権行使が無駄になってしまうため、債務者の権利行使には一定の制限を設けるべきということになります。

 

◆旧法における判例の考え方
代位権行使後の債務者による債権処分についての判例は、債権者が債務者に代位の通知をするか、または債務者が債権者の代位を知ったときは、債務者は権利行使をすることができないとしています。

 

◆新法による判例ルールの変更
新法は、債権者が債権者代位訴訟をを提起したときは、債権者は遅滞なく、債務者に訴訟告知をしなければならないものと定めました(新法423条の6)。
この訴訟告知と旧法の判例の考え方からすると、新法の下では、債務者に対して訴訟告知がなされる結果として、少なくとも債権者代位訴訟が提起された場合には、債務者は代位の対象となる債権について処分権限を失うと考えることになりそうです。

しかしながら、新法は、債権者代位権の行使後も債務者は代位の対象となる債権について処分権限を失わず、債権者による代位権行使とは別に取立て等をすることができる旨を明文で定めました(新法423条の5)。
これは、債務者に代位が通知されたか、債務者が代位権行使を知った後は、債権の処分ができないとする従来の判例の扱いとは異なる定めということになります。

債権者代位権は、債務者が自ら権利行使しない場合に限って債務者の財産への干渉が認められる制度であり、本来債務者は自由に自己の財産を管理できるはずです。また、債権者により債権者代位権が行使されたことを契機として、債務者が権利行使するということは、債権者代位権制度の目的が達せられたともいうことができます。このような考え方の下、新法は従来の判例の解釈と異なる定めを規定しました。
さらに、同じ条文において、第三債務者も、債権者代位権が行使されている中で、債務者に対して債務を弁済できることも明記されました。

 

◆これまでと異なる対応の必要性
旧法の判例の下では、債権者代位権を行使した債権者は、債務者に対して行使の事実を通知すれば、債務者による権利行使を制限でき、債権者を差し置いて債務者が第三債務者から債権を取立てるような事態を防ぐことができました。
しかしながら、新法の下では、たとえ債権者が債務者に通知したとしても、債務者が第三債務者から取立てることや第三債務者が債務者に対して弁済することを防げません。

そのため、債権者代位権を行使した債権者としては、このような債務者による取立てや第三債務者による債務者への弁済を防ぐために、債権者代位権の行使と併せて、債務者の第三債務者に対する債権の仮差押えも考える必要が生じます。
これまでになかった対応であるため、実際に債権者代位権の行使を考える際には注意が必要です。

【改正民法債権編】債務者への訴訟告知

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【改正民法債権編】に関して、債務者への訴訟告知について考えてみたいと思います。

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債務者への訴訟告知

訴訟提起を債務者に告知する債権者の義務を追加

 

◆債権者代位訴訟の効果
債権者が、第三債務者に債務者の権利を代位行使して弁済を求めたにもかかわらず、第三債務者が弁済をしないような場合、債権者は第三債務者を被告として訴訟提起することになります。
このような訴訟を「債権者代位訴訟」と言います。

債権者代位訴訟において、債務者の第三債務者に対する債権が存在しないと判断されて債権者が敗訴した場合、この敗訴の効力が債務者に及ぶのかについて、旧法下で議論されました。

判例は、債権者代位訴訟の結果が勝訴であっても敗訴であっても、その判決の効力は債務者に及ぶとしています。
仮に、債務者に判決の効力が及ばないとすると、第三債務者は債権者代位訴訟において債権者に勝訴しても、その後、債務者に訴訟提起されれば改めて応訴しなければならず、第三債務者にとって酷な結論になってしまうためです。また、債務者が自ら権利行使しなかったために、債権者によって債権者代位訴訟が提起されるに至ったのであり、債務者は債権者による訴訟の結果を甘受すべきともいえます。

 

◆判例に対する批判
債権者代位訴訟の効果が債務者にも及ぶとする判例の見解には、従来から多くの批判がありました。
債権者代位訴訟は債権者と第三債務者の間で行われるため、債務者は債権者代位訴訟が係属していることを知る機会がありません。
旧法では、債権者または第三債務者に対して、債権者代位訴訟提起の事実を債務者に通知する義務がかされておらず、債務者の知らないところで債権者代位訴訟において債権者が敗訴するおそれがありました。

この場合にも債務者に判決の効果が及ぶとすれば、債務者の手続保障が不十分と言わざるを得ません。
判例の結論を批判する立場から、債務者が債権者代位訴訟に参加する機会が与えられていた場合に限って、訴訟の効力(債務者に不利な結果であっても)を債務者に及ぼすべきであるという見解もありました。

 

◆債務者への訴訟告知
新法は、債権者代位訴訟の結果が債務者に及ぶかという上記の議論に関連して、債権者が債権者代位訴訟を提起したときは、債権者は遅滞なく、債務者に訴訟告知をしなければならないと定めました(新法423条の6)。

これにより、債務者は、債権者からの訴訟告知により債権者代位訴訟が提起されたことを知ることができ、訴訟に参加する機会が与えられることになります。
訴訟告知とは、訴訟の当事者から、訴訟に参加することができる第三者にたいして訴訟が係属していることを通知する民事訴訟法上の制度です。

前記のとおり、旧法下における判例は、債務者に債権者代位訴訟の提起を知る機会が与えられていたか否かにかかわらず、訴訟の効力が及ぶという見解です。債権者による訴訟告知が義務付けられたことで、債務者に訴訟に関与する機会が与えられていたか否かを問わず債務者に判決の効力が及ぶのは不当であるという批判は、立法的に解決されました。
これにより、債務者には手続保障が与えられることになり、従来の判例の取扱いが係継続することが予想されます。