【相続・遺言について】事業承継に関する制度

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、事業承継に関する制度について考えてみたいと思います。

世田谷の相続・遺言・成年後見は090-2793-1947までご連絡を

 

【Q】中小企業ですが、株式会社の社長をしております。今後長男を後継者にと考えており、仕事を引き継がせたいと指導中です。私には長男の他に嫁いだ娘が2人います。
①私の死後、会社をうまく長男に引き継がせるためには、民法上どのような制度が利用できますか?
②遺留分に関する特例とはどういったものですか?
③もし、長男を後継者にできなければ、娘たちには会社は引き継がせられません。同業他社に引き継いでもらえるならそれもよいかと思っています。会社法上どのような制度が利用できますか?

 

【A】◆1.事業承継に関する民法上の諸制度
あなたの死後、長男が会社を引き継ぐための民法上の制度としては、生前贈与や遺言と言った制度が利用できます。

円滑な事業承継を行い、承継後の経営を安定させるためには、後継者(長男)に自社株式や事業用資産を集中させることが重要です。あなたが生前に何の対策もしないまま死亡した場合、あなたの所有している自社株式や事業用資産は他の相続人に分散してしまいます。

このような事態を防ぐためには、生前にあなたが所有している自社株式や事業用資産を徐々に長男に贈与したり(生前贈与)、自社株式や事業用資産を長男に相続させる旨の遺言書を作成することが必要です。

しかし、あなたの相続財産の大半が自社株式や事業用資産である場合、長男への生前贈与や遺言は他の相続人の遺留分を侵害する可能性があります。その場合、他の相続人から長男に対する遺留分侵害差額請求がされた結果、遺産相続が紛争化してしまうおそれがあります。

特に自社株式の生前贈与を行った場合、死亡する10年以内になされた生前贈与は特別受益として遺留分算定の基礎財産に加えられることになります。さらに遺留分算定の基礎財産に加えられる金額は、贈与された時点での自社株式の時価ではなく、相続開始時点での時価額となるため、贈与を受けてから相続開始時までの間に評価額が上昇していれば、上昇後の評価額が贈与額として基礎財産に算入されてしまいます。

このような遺留分についての問題が生じることを防ぐため、あなたが生きているうちに、長男以外の相続人に遺留分を放棄してもらう制度があります。
この場合には、長男以外の相続人全員が、家庭裁判所に申し立てを行い、許可を受ける必要があります。
家庭裁判所は、事前放棄を申し立てた相続人が十分な見返りとなるものを受け取っているかなどを確認します。場合によると許可をしないこともあります。
また、申し立てをする相続人にしてみれば、何らのメリットもなく、家庭裁判所での手続きをするという負担を被ることになります。

 

◆2.遺留分に関する民法の特例
このように事業承継における遺留分の問題については、民法上の制度だけでは対応することが困難でした。そのため平成20年5月に中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)が成立し、遺留分に関する民法の特例が出来ました。

この特例では、現経営者の遺留分を有する推定相続人全員において、現経営者から後継者に生前贈与や遺贈等された自社株式等について、遺留分算定基礎財産に算入しない旨の合意をすることができます(除外特例)。
また、現経営者から後継者に生前贈与等された自社株式等について、遺留分算定の基礎財産に算入する際の価額を当該合意時の価額に固定する旨の合意をすることもできます(固定合意)。
なお、除外特例と固定特例は併用することもできます。例えば、後継者が現経営者から贈与等により取得した1000株のうち、500株を除外特例の対象とし、残りの500株を固定合意の対象とすることもできます。

これらの特例を利用するためには、
①会社が中小企業であり、3年以上継続して事業を行っている非上場会社であること
②現経営者が過去又は合意時点において会社の代表であること
③後継者が合意時点で会社の代表者であること
④現経営者からの贈与等によって株式を取得したことにより会社の議決権の過半数を保有していること
⑤現経営者の遺留分を有する推定相続人全員の合意があること
といった要件を満たす必要があります。

そして、上記要件を満たしている場合に遺留分を有する相続人間全員で合意書を作成し、経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可を受けることで初めて当該合意は効力を生じます。

合意書には、
①合意が会社の経営の承継の円滑化を図ることを目的とすること。
②後継者が現経営者からの贈与等により取得した自社株式についての除外合意または固定合意(もしくはその両方)。
③後継者が合意した対象の株式を処分した場合や現経営者の生存中に後継者が会社代表でなくなった場合に非後継者が取ることができる措置の定め(例えば、非後継者は他の非後継者と共同して当該合意を解除できる等)
が必ず記載されていなければなりません(必要的記載事項)。

また、後継者が現経営者からの贈与等により取得した事業用資産などの自社株式以外の財産や非後継者が現経営者からの贈与等により取得した財産を遺留分算定の基礎財産から除外する旨の合意や推定相続人間の公平を図るための措置(後継者は非後継者に一定の金銭を支払う等)について記載することもできます(任意的記載事項)。

そして合意書の作成から1ヶ月以内に、経済産業大臣の確認を申請しなければならず、経済産業大臣の確認を受けてから1ヶ月以内に家庭裁判所の許可の申立てをしなければなりません。

 

◆3.会社法上の諸制度の利用
同業他社にあなたの会社の事業を引き継いでもらう方法としては、M&A(企業の合併や買収)により会社そのものを売却するなどして経営を引き継いでもらうことが可能です。M&Aでは、合併、株式交換、株式移転、会社分割、株式譲渡、事業譲渡といった会社法上の制度が利用されています。

①合併
合併とは、会社の全資産・負債・従業員等を丸ごと他の会社に承継する手法です。実務上は2つの会社の一方が解散し、その資産や負債・人材・技術などの経営資源をもう一方の存続会社が吸収して引き継ぐ形の合併(吸収合併)がなされることがほとんどです。

②株式交換
株式交換とは、株主総会の特別決議によってあなたの会社の全株式と他社株式等を交換することです。この場合、あなたの会社は交換先会社の100%子会社(完全子会社)になり、あなたが保有していた自社株式が交換先会社の株式や現金に変わります。

③株式移転
株式移転とは、事業承継する会社が完全親会社となる持ち株会社を設立し、事業承継する会社もあなたの会社も新設された持ち株会社の完全子会社となる方法です。

④会社分割
会社分割とは、あなたの会社の事業部門のうちの一部門を切り出して、他の会社に承継する方法です。事業譲渡との違いは、買い手企業側は事業承継の対価として現金ではなく株式を利用できるということにあります。

⑤株式譲渡
株式譲渡とは、あなたが所有している自社株式を事業譲渡する会社等に売却することです。

⑥事業譲渡
事業譲渡とは、あなたの会社の事業の一部を他の会社に売却することです。事業譲渡の場合、会社分割に比べてより個別の事業単位での売却が可能です。

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