世田谷区砧で子供のいないご夫婦、おひとり様の遺言書作成、相続手続き、戸籍収集支援、任意後見、死後事務委任に詳しい行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。
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【終活・遺言・相続相談】相談例35 遺言の要否についての記事です。
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【相談内容】
相談者(78歳男性)から、「もし私が死んだら、相続人は「妻(60歳)と、離婚した前妻との間に出来た長男(50歳)の2人になる。2人は仲も良いし、大した財産もないので、大丈夫だと思うが、それでも遺言書を作っておくべきなのか」と相談を受けた。
【検討すべき点】
遺言を残すべきケースと残さなくても良いケースがあります。後妻と前妻の子が共同相続人になる場合は、遺言が必要となる代表例です。両者が表面的に上手くいっているように見える場合でも、遺言書を作成するようお勧めします。
【1】後妻と前妻の子
① 後妻(及びその子)と前妻の子が相続人の場合の遺産分割は高確率でもめます。と申しますのも、多くの場合両者は没交渉で、とても話合いができるような関係にないからです。
② とりわけ後妻が前妻との離婚原因に関与していた場合(不倫、略奪婚)や、被相続人が高齢になってから再婚した場合(財産目的と思われる場合)には、前妻の子は、後妻に対して、極めて厳しい感情を抱きます。
③ そこで、現在の妻とどのようにして結婚に至ったのか、その結婚について長男の同意を得ていたのかといった事情まで相談者にお聞きすることになります。
④ 後妻と前妻の子の間に波風が立ったことがなくても、例えば、相談者がワンマンの会社経営者だったりすれば、2人とも相談者の機嫌を損ねたくないため、表面上は仲良くやっているのかもしれません。しかし、そうであれば相談者がいなくなれば、不仲が表面化するでしょう。
⑤ したがって、後妻と前妻の子の関係は、それ自体がリスク因子ですから、共同相続人のためにも、遺言を勧めます。
【2】大した財産がない
① 相談で遺言を勧めたときに、「私には大した財産がないから」と言われることは多くあります。
② 相談者が謙遜されている可能性もありますが、多くは、はじめての経験に対する警戒や逡巡があるからではないかと思います(大した財産はないと言いながら、数千万円の財産があることがほとんどです)。
③ それに、遺産が数十万円、数百万円でも争族(相続紛争)になることはありますし、そもそも紛争になるかどうかは、遺産の額ではなく、むしろ共同相続人の感情や生活状態によるところが大きいので、遺産が少なければ紛争にならないということにはなりません。
④ 尻込みしている相談者を理屈で説得しようとしても、納得してもらえなければ意味はありません。この相談者は迷っておられるのだなと、考えて、財産額の話は追及しないほうがよいと思います(資産の多寡に関する評価や受け止め方は、個人差が大きい事柄です)。
【3】遺言が必要な類型
① 後妻と前妻の子というパターン以外にも、特に遺言をお勧めする類型があります。第一に、子のいない夫婦の場合、一方配偶者(被相続人)が死亡すると他方配偶者のほかに兄弟姉妹(又は甥・姪)が相続人として舞台に登場します。
② しかし、他方、配偶者と被相続人の兄弟姉妹や甥・姪は、もともと疎遠であることが珍しくなく、ときには面識すらない疎遠な者同士で遺産分割協議することは甚だやりにくいものですから、遺言を残すべきです。
③ 第二に、内縁の夫婦の場合、ほかに一人でも相続人がいれば、内縁の配偶者には何も残りません。したがって、相続開始後の内縁配偶者の生活を守りたいと言うならば、そしてそのために生前贈与を選択しないならば、遺言書は必要不可欠です(配偶者居住権も内縁の配偶者には適用されません)。
④ 第三に、婚外子や半血の兄弟姉妹がいる場合は、相続人の間に信頼関係がないことが多いと思われます。そうすると感情的なもつれが生じやすいので、遺言が必要です。
⑤ 第四に、、養子縁組をしている場合、実子と養子の間でもめることが少なくありません。特に、被相続人が養子縁組をしたことを実子に知らせていないケースでは、「なぜ君がここに座っているのか」というところから話が始まります。
⑥ 第五に、共同相続人の中に、高齢で意思能力に問題があったり、海外在住している者がいたり、音信不通(行方不明)の方がいる場合は、すぐに遺産分割協議が行なえないため、円滑に相続手続きを行うためには遺言書が不可欠ですし、あわせて遺言執行者も指定しておくべきです。
⑦ 第六に、すでに相続人同士が反目している場合や、相続人間で不公平が生じやすい場合には、遺言が必要です。たとえば、相続人の内、一人だけが被相続人を介護している場合(寄与分)、相続税対策によってすでに推定相続人間に不均衡が生じている場合(特別受益)、遺産の評価が問題になったり、遺産を分配しにくい場合(自宅不動産や自社株式など)、賃貸不動産の承継、負債の承継などが絡む場合などは、迅速かつ円満な遺産分割を期待できませんから、遺言が必要でしょう。
【4】遺言が不要なケース
① これに対して、親一人子一人の家族構成ならば、親の財産はそのまま一人の子に相続されるので、基本的に遺言は不要です。両親と子一人の家族構成の場合も、やがては子が両親の財産を承継するので、格別の事情がない限り、遺言は不要です。
② これに対して、子が複数の場合は、争族の可能性はないと言い切れる場合は別ですが、原則として遺言をお勧めします。
③ なお、若くして遺言を作成された場合、その後の人生の状況に変化が生じ、その都度、遺言内容の見直しや場合によっては、新たに作成することが必要になってきます。
【5】相談者に対するアドバイス
① 相談例ですが、家庭の内情は不明ですし、遺言書作成について必ずしも積極的ではありません。ただし、後妻と前妻の子のケースでは遺言書を書いていただくべき典型例ですので、相談者のご家庭の事情をよく伺いながら、これから先に起こるであろうことを一緒に想像し、遺言で何ができるのかを説明することになります。
② 相談者は今のままで何不自由ないかもしれませんが、遺言を残すことは、妻のためにも子のためになもなることを理解してもらえればと思います。また、妻と前妻の子の直接対立を避けるために、遺言執行者の指定を勧めるべきではないでしょうか。