【終活・遺言・相続相談】相談例42 遺言書の内容

世田谷区砧で子供のいないご夫婦、おひとり様の遺言書作成、相続手続き、戸籍収集支援、任意後見、死後事務委任に詳しい行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。
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【終活・遺言・相続相談】相談例42 遺言書の内容についての記事です。

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【相談内容】
相談者(80歳女性)から、「夫が急逝して1年たつので遺言書を書きたい。まず、世話になった私の妹(75歳)に2,000万円を遺贈し、長女(55歳)には自宅を取得させ、次女(53歳)と三女(50歳)には残りの財産を半分ずつ相続させたい。他には長男(48歳)がいるが、長男は夫の相続のときに十分にもらっているので何も相続させたくない。遺言書にはどう書けばいいのか」と相談された。

【検討すべき点】
相談者の意向ははっきりしていますが、そのまま遺言書に反映させると問題が起きる可能性も高いので、アドバイスが必要です。遺言書の内容を考える際に注意すべき点は、①遺言の内容が一義的で内容を確定できること(確定性)、②相続人たちにとってそれなりに公平であること(公平性)、③その遺言の履行が担保されていること(履行の確保)の3点だと思います。

【1】遺言の確定性

【1-1】明確性

① 遺言書の記載内容が一義的でない場合には遺言者の意思を解釈する必要が生じますが、それ自体が紛争の種になるので、解釈の余地がないようはっきりと記載するべきです。自筆証書遺言では、なおさら注意が必要です。
② 相続人に対しては通常「相続させる」と表現しますが、遺贈の意思がある場合「遺贈する」と表現します。
③ 遺贈の場合、包括遺贈なのか、特定遺贈なのか判然としない場合もあります。さらに遺言の各条項の関係が矛盾・抵触していたり、複数の読み方ができることがあるので、注意して下さい。

【1-2】相続分の指定

① 「相続分の指定」とは、遺言で共同相続人の相続分を指定することです。相談例では「次女と三女に半分ずつ」というのがこれに当たります。
② しかし、相続分の指定は、どの遺産を誰に与えるかを決めていないので、相続財産は共有状態になり、改めて遺産分割が必要になります。
③ したがって、相続人の間ですんなり遺産分割が成立しない可能性があるなら、相続分の指定はお勧めできません。この問題を回避するためには、特定財産承継遺言か清算型遺言を用いることを勧めます。
④ なお、割合的包括遺贈は、遺言で遺産の一部の割合を遺贈することですが、誰がどの遺産を取得するかが確定しないので、相続分の指定と同様の問題が生じます。

【1-3】特定財産承継遺言

① 「特定財産承継遺言」とは、遺産の分割の方法の指定として、遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言です。
② 相談例では「長女に自宅を相続させる」というのがこれに当たります。この方法では、対象財産がその相続人に帰属することが確定するので、紛争を避けるために合理的です。
③ もっとも、この場合でも、法定相続分を超える部分の取得を第三者に対抗するためには登記、登録その他の対抗要件を具備することが必要です。遺言執行者は対抗要件を具備するために必要な行為をすることができます。

【1-4】清算型遺言

① 「清算型遺言」とは、遺産を売却換価して現金化し、それを分配する内容を含んだ遺言です。
② 相談例のように「次女と三女に半分ずつ相続させる」としたのでは、なお遺産分割協議が必要ですが、現金化してその割合を分けるのなら問題は起きません。したがって、紛争を予防するために清算型遺言が多用されています。
③ ただし、清算型遺言を用いる場合には、誰が売却換価等の手続を行うのかという問題があり、その手続きを確実なものにするため、第三者の遺言執行者を指定しておくべきです。
④ また譲渡所得税についても、気を付ける必要があります。売却換価する際に不動産の名義を被相続人から相続人に代えなければ売却できません。その売却の際の名義人に、譲渡所得税が課税されますので、その課税額の負担も考慮する必要があります。

【1-5】一部遺言

① 「一部遺言」とは、遺産の一部の処分のみを定めた遺言のことです。包括条項(その他の遺産は○○が取得するとか、本書に定めていない遺産が判明した場合には、○○に相続させるといった条項)が欠けている遺言も、一部遺言になってしまう可能性があります。
② 一部遺言は多くみられ、遺言で処分を決めていない遺産については、改めて遺産分割協議が必要になります。
③ 全遺産を網羅した遺産目録を作成して、誰がどの遺産を取得するのかを決めればいいように思いますが、せめて重要な遺産は特定財産承継遺言で確定させ、残りの遺産は包括条項で処分方法を決めておくべきです。

【1-6】予備的遺言

① 「予備的遺言」とは、将来、遺言の前提条件が変化した場合(多くは受遺者の先死亡)の遺産の処分方法を決めておく遺言のことです(公証人により、補充遺言と記載されることもあります)。
② 仮に、特定財産承継遺言を利用しても、受遺者が遺言者よりも先に死亡した場合には、その遺産は宙に浮き、原則に戻って遺産分割協議が必要になります。したがって、受遺者が先に死亡した場合に、その遺産をどのように処分するかを決めておく必要があります。
③ 相談例で見ますと、遺言者の妹が先に死亡する可能性は無視できません。そもそも、妹が2,000万円の遺贈を放棄すれば、遺贈対象の2,000万円は改めて遺産分割協議が必要になります。
④ したがって、少なくとも妹への遺贈について「妹の先死亡又は遺贈放棄の場合」の処分を予備的に決めておくべきです。また、長女、次女、三女に対する相続についても、それらの子が先死亡した場合の遺産の処分方法を決めておいた方がよいでしょう。

【1-7】条件付遺言

① 遺産の処分に停止条件又は解除条件をつけた遺言もあります。予備的遺言とほぼ同じですが、公正証書遺言では予備的遺言との表題を付けないようなので、ここでは区別して、「条件付遺言」とします。
② たとえば「受遺者の結婚を条件として不動産を遺贈する」といった条項です。このような条件がありますと、相続開始時までに条件が成就していれば無条件となります。
③ しかし、相続開始時に成就・不成就が確定しなければ、混乱の原因となります。というのも、相続開始後にその条件が成就する場合も、その条項が有効になるからです。したがって、「相続開始時において結婚していれば」とか、「相続開始後1年以内に結婚すれば」というように、条件を明確にすべきです。
④ なお、「弟の面倒をみるのなら不動産を遺贈する」という内容だったとすると、条件なのか、負担付遺贈なのか遺言の解釈が問題となります。

【1-8】相続債務の承継

① さて、相続債務は法定相続分に応じて相続人が承継しますが、遺言者は、遺言により、特定の相続人にその債務を承継させることができます(相続分の指定)。
② 不動産売買の借入金債務や賃貸物件の敷金返還債務などはその不動産と密接に関連しますから、それを相続する者に承継させるべきですし、遺言にはそれを必ず記載しておくべきです。
③ しかしながら、相続債権者は、各共同相続人に対して、相続分の指定にかかわらず、法定相続分に応じて権利を行使することができますが、他方、共同相続人の一人に対しての相続分の指定(指定相続分)を承認したときは、指定相続分に従った権利しか行使できません。
④ したがって、この承認があれば、他の共同相続人は、免責的債務引受けと同じ効果を受けられます。
当然のことですが、相続債権者がこの指定相続分を承認しなかった場合、共同相続人はその法定相続分の債務を負担することになります。
⑤ なお、被相続人の医療費・施設利用費・介護費用等といった相続債務は、少額かもしれませんが、遺言で相続財産から負担すると確定した方がよいでしょう。
なお、葬儀費用も、厳密には相続債務ではありませんが、遺言で相続財産から支出すると定めておくことをお勧めします。

【2】遺言の公平性

【2-1】遺留分への配慮

① まず、相談者から推定相続人その他の者に対する生前贈与の内容を確認し、将来、遺留分侵害額請求権を行使される可能性を検討します。ここで注意すべき点は以下の3点です。
第一に、相談者は、すでに生前贈与した財産には関心がなく、積極的に生前贈与の事実を告げてくれるわけではありません。そこでこちらから積極的に生前贈与を確認する必要があります。
第二に、相談者から生前贈与の事実を確認したら、それを現有の相続財産に当てはめて、遺留分侵害額請求権行使の可能性を確認します。
第三に、現時点の試算で安心することなく、相続開始までに相続財産は変動するはずですから、相続開始時点における遺産も予想して計算する必要があります。

【2-2】一次相続の修正

① 相談例では、1年前に亡くなった夫の遺産分割の内容が不明です。仮に亡き夫の遺産分割の結果に問題があれば、相談者の相続(二次相続)では子らの利害が対立しますので、一次相続の結果も加味して、遺言の内容を決めるべきです。
② ちなみに、相談者は、長男は一次相続で十分にもらっているので、二次相続では何も相続させないとの意向ですが、そのような事情があっても、二次相続で長男の遺留分侵害額請求が否定されるものではありません。

【2-3】寄与分への配慮

① 相談例では不明ですが、相談者も子らの誰かに介護してもらうことになるかもしれませんし、その場合には寄与分が問題になることもあります。
② 寄与分とは、「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者」がいる場合において、遺産からその者の寄与分を差し引いたものを遺産分割の対象とし、寄与者には寄与分を加えてその者の相続分とする制度ですが、「特別の寄与」や「財産の維持又は増加」の要件が厳しく、1割程度しか認められないと覚悟する必要があります。
③ 寄与分が認められにくいのであれば、介護で疲弊した相続人がある場合は、遺言でそれなりの傾斜をつけるのは当然とも思えます。

【3】履行の確保

① 遺言内容を確実に履行させるには、第三者の遺言執行者を指定するべきです。
なお、相談例では妹への遺贈がありますが、何も相続させないとしている長男の協力がなければ遺贈は履行されません。よって遺言執行者の指定は不可欠でしょう。また、清算型遺言の場合も同様です。

【4】相談者への対応

① 主に遺言の確定性について整理しましたが、あまりに説明事項が多く、「どう書けばよいか」と相談されても、30分や1時間程度ですべてに行き届いた処方箋を差し上げるのは不可能です。よって最初は問題点の指摘にとどまるでしょう。