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【孤独死をめぐるQ&A】Q23 死体検案、死体解剖の拒否についての記事です。
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【Q23】一人暮らしをしていたおじが自宅で死亡しているのが発見されました。
死因が分からないので解剖をすると言われたのですが、亡くなった後まで切り刻まれるのはしのびないです。解剖を拒否することはできるのでしょうか。
【A】残念ながら解剖の拒否はできない場合があります。
【解説】
1 司法解剖、行政解剖、病理解剖
① 死因が分からずに解剖をする場合としては、大きく分けて司法解剖、行政解剖、病理解剖があります。
② 司法解剖とは、一般に、犯罪性のある死体またはその疑いのある死体の死因などを究明するために行なわれる解剖を指します。
③ 行政解剖とは、犯罪性はないが死因が判明しない場合に、行政目的で解剖されることを指します。
④ 病理解剖とは、病気で死亡した人について臓器、組織、細胞を直接観察し、詳しい医学的検討を行うために解剖することを指します。
2 司法解剖について
① 死体解剖については、死体解剖保存法という法律で規制されています。
② 原則として、死体解剖をする場合には、解剖しようとする地の保健所長の許可を受ける必要があります(死体解剖保存法2条1項)。
③ しかしながら、2条1項各号に列挙されている解剖については、保健所長の許可は不要となります。死体解剖保存法2条1項4号に、刑事訴訟法129条、168条1項、225条1項の規定により解剖する場合が挙げられており、司法解剖について、保健所長の許可は不要です。
④ また、解剖については、原則として遺族の承諾が必要とされていますが、司法解剖については同法の規定により不要とされています。
⑤ これにより司法解剖は遺族の承諾なくして行われますので、遺族は解剖が嫌だとしても拒否はできません。
3 行政解剖について
行政解剖についても死体解剖保存法に規定されています。
⑴監察医による解剖
① まず、死体解剖保存法8条で監察医による解剖を定めています。
② これは、政令で定める地(東京23区、大阪市、横浜市、名古屋市、神戸市)、その地域内における伝染病、中毒又は災害により死亡した疑いのある死体その他死因の明らかでない死体について、その死因を明らかにするために行なう解剖をいいます。
③ 監察医による解剖も死体解剖保存法により遺族の承諾は不要とされており、遺族が拒否することはできません。
⑵食品衛生法による解剖
① 食品衛生法64条1項は、原因調査上必要があると認めるときは、食品、添加物、器具又は容器包装に起因し、又は起因すると疑われる疾病で死亡した者の死体を解剖することができると定めています。
② そして、同条2項は、死体を解剖しなければ原因が判明せず、その結果公衆衛生に重大な危害を及ぼすおそれがあると認められるときは、遺族に通知さえすればその同意を得ないでも解剖ができるとしています。
⑶検疫法による解剖
① 検疫法13条2項は、検疫感染症の検査のために必要があるときは死体の解剖を行うことができると定めています。
② そして、同条後段で、死因を明らかにするため解剖を行う必要があり、かつ、その遺族の所在が不明であるか、又は遺族が遠隔の地に居住する等の理由により遺族の諾否が判明するのを待っていてはその解剖の目的がほとんど達せられないことが明らかであるときは、遺族の承諾は不要としています。
⑷身元調査法による解剖
① 警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律6条1項は、死因を明らかにするため特に必要があると認められるときは、医師等の意見を聴いた上で、解剖を実施することができると定めています。
② そして、同条2項は、遺族の所在が不明であるとき又は遺族への説明を終えてから解剖するのではその目的がほとんど達せられないことが明らかであるときには、遺族の承諾は不要としています。
4 病理解剖
① 死体の解剖に関し相当の学識技能を有する医師、歯科医師などで厚生労働大臣が適当と認定した者が解剖をする場合、医学に関する大学の解剖学、病理学又は法医学の教授又は准教授が解剖する場合には、保健所長の許可は不要です。
② しかし、それら以外の者が病理解剖目的で解剖を行うには保健所長の許可が必要となります。
③ また、死体解剖保存法7条1項2号により、「2人以上の医師(うち一人は歯科医師であってもよい)が診療中であった患者が死亡した場合において、主治の医師を含む2人以上の診療中の医師又は歯科医師がその死因を明らかにするため特にその解剖の必要性を認め、かつ、その遺族の所在が不明であり、又は遺族が遠隔の地に居住する等の事由により遺族の諾否の判明するのを待っていてはその解剖の目的がほとんど達せられないことが明らかな場合」には承諾が不要とされています。
④ それ以外の場合には原則どおり遺族の承諾が必要です。
⑤ 遺族が判明しており明確に拒否をしていたら、解剖ができないことになりますので、病理解剖は遺族が拒否できることになります。
5 承諾を得る遺族
① 一般社団法人日本病理学会では、病理解剖に関する遺族の承諾書のモデル書式を公表しています。
② 承諾を得るべき遺族の範囲は明確ではないですが、死体解剖後の保存については、死体解剖保存法の遺族の承諾は公法的な意味での承諾であり、その際に、遺族と病院との間で遺体に関する寄付(贈与契約)または使用貸借契約が締結されていることが私法上の根拠になっているとされています。(東京地判)
③ このことからすれば、解剖や保存に関する承諾は、遺体の所有者となるべき者から得るべきと言えるかと思います。
④ 遺体の所有権は祭祀継承者が有すると考えても良いかと思いますので、遺体の解剖や保存についても、配偶者や親、子などの故人の祭祀継承者となるべき方から承諾をもらうのがよいと考えます。
6 遺体への礼意
① 死体解剖保存法20条は、「死体の解剖を行い、又はその全部若しくは一部を保存する者は、死体の取扱いに当たつては、特に礼意を失わないように注意しなければならない」としています。
② この点、司法解剖の際、体液漏れを防ぐために、使用済みコンビニエンスストアのレジ袋を遺体の頭部に被せるという処置をとった行為が、遺族に対する遺体の処置について礼意を失しないように注意する不法行為上の義務に反するとして損害賠償請求が認められた例もあります(神戸地判)。
③ このようなことからわかるとおり、遺体に礼意を失わないようにすることは単なる理念ではなく、法的な義務といえるでしょう。