【終活・遺言・相続相談】相談例61 遺留分侵害額請求権と特別受益

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【相談内容】
相談者(55歳女性)は、「亡くなった母(88歳)は、すべての遺産を私に相続させるという公正証書遺言を残してくれたが(積極財産8千万円。なお、相続債務は1千万円)、それを知った姉(57歳)から遺留分侵害額請求の通知が届いた。姉も、20年前に母から自宅購入の資金として2千万円の贈与を受けていたはずなので、納得できない」と相談された。

【検討すべき点】
かつての遺留減殺請求権は、平成30年の相続法改正により遺留分侵害額請求権に変わりました(令和元年7月1日以降に相続開始した場合に適用)。遺留分侵害額請求は著名な論点の一つですし、相談者の方もある程度の知識を仕入れてきますから、おぼろげな知識で対応するのは危険です。一つずつ条文に当たりながら検討しましょう。

【1】遺留分侵害額請求権

① 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む)又は受贈者に対し、遺留分侵害に相当する金員の支払を請求することができるとされます。
② しかし、この権利は、遺留分権利者が自分のために相続が開始したことと遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと時効によって消滅します(相続開始から10年間の除斥期間が経過したときも同じです)。
③ したがって、姉からの遺留分侵害額請求の通知が、以上の要件を満たしているかを確認します。
④ つぎに、遺留分侵害額請求の額を計算しますが、この点はたいへん間違えやすいので、条文に沿って見ていきます。

【2】遺留分の基礎財産の計算

【2-1】遺留分の基礎財産

① まず、「遺留分を算定する貯めの財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする」とされます。
② この条文だけで言えば、相談例の遺留分の基礎財産は8千万円+2千万円-1千万円=9千万円です。

【2-2】遺留分の基礎財産に組み入れられる贈与

① もっとも、「贈与は相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を参入する」とされ、これが第一準則です。
② しかし、姉に対する2千万円の贈与は20年も昔のことですから、この規定では、遺留分の算定に算入できません。
③ また、例外的に、「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする」とされ、これが第二準則です。
④ しかし、母から姉への2千万円の贈与が20年前なら、その当時母がどの程度の資産を持っていたかを知らべて主観的要件を主張立証しなければなりませんから、第二準則によって姉への生前贈与を基礎財産に組み入れるのは困難です。

【2-3】相続人に対する贈与の組み入れ

① さらに、相続人に対する贈与については原則が修正されます。すなわち、「相続人に対する贈与についての第1項の規定の適用については、同項中「1年」とあるのは「10年」と「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る)。」とする」とされました。これが第三準則です。
② なお、この条項は、持戻し免除の意思表示を素通りしていますので、この計算においては持戻し免除の意思表示の有無は無視して結構です。
③ そうすると、相続開始前10年間に行った被相続人から相続人に対する贈与は、それが特別受益と同様の要件を満たすなら遺留分の基礎に入りますが、相談例では姉に対する贈与は約20年前なので、この要件も満たさず、遺留分の基礎財産に算入できません。
④ 以上から、相談例では、第一乃至第三準則によっても遺留分の基礎財産は、8千万円-1千万円=7千万円となると思われます(第二準則の悪意を立証した場合のみが例外です)。

【3】遺留分侵害額請求権の額の計算

【3-1】遺留分侵害額と請求額

① そうすると、姉(相続人は姉と相談者の二人とします)の遺留分は、7千万円の1/4(1/2×1/2)である1,750万円であり、遺留分を侵害している額も同額で、姉は相談者に対して1,750万円を請求できるかのように見えます。
② しかし、遺留分侵害額として請求できる金額についても、修正が図られています。すなわち、遺留分権利者が請求できる遺留分侵害額については、「第1042条の規定による遺留分から第1号及び第2号に掲げる額を控除し、これに第3号に掲げる額を加算して算定する」とされるので(民法1046条2項)、今度はこの点を検討しなければなりません。

【3-2】遺留分侵害額請求権の修正

① まず、民法1046条2項1号では、「遺留分権利者が受けた遺贈又は第903条第1項に規定する贈与の価額」とされますので、特別受益に該当する生前贈与は、遺留分侵害額請求の額から控除されます。
② そして、同条項は、上記で述べた民法1044条3項の規律(10年間の期間制限)をスルーしていますから(相続人の公平を図る趣旨)、10年以上前の生前贈与も、遺留分侵害額請求権から控除されます。
③ その結果、姉が遺留分侵害額請求できる金額は1,750万円-2千万円=-250万円となり、姉は遺留分侵害額請求権を行使できません。

【3-3】その他の修正

① なお、民法1046条2項2号では、「第900条から第902条まで、第903条及び第904条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額」とあり、これも遺留分侵害額請求の額から控除されます。
② これは遺産分割の対象となる遺産がある場合で、その相続分については遺産分割で取得するべきなので遺留分侵害額請求の額から控除されるのですが、相談例では、姉が取得する遺産はなさそうです。
③ また、民法1046条2項3号により、「被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、899条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第3項において「遺留分権利者承継債務」という)の額」が遺留分侵害額に加算されますが、相談例の遺言は、相続債務もすべて相談者に承継させる内容と解釈されますので、加算されるべき金額はありません。

【4】結論

① 以上のとおり、相談例では、母から姉に対して20年前に行われた2千万円の生前贈与(特別受益)は、遺留分の基礎財産にこそ算入されませんが、遺留分侵害額請求の額の算定においてはマイナス要素として考慮され、その結果、姉は遺留分侵害額請求権を行使できません。
② これに対して、もし、行政書士や弁護士などが、20年前の相続人に対する贈与も遺留分の基礎財産に含まれると誤解していれば、姉には9千万円×1/4-2千万円=250万円の遺留分侵害額請求権が認められると説明してしまうかもしれません。
③ また、遺留分侵害額請求権の修正を忘れていれば、遺留分の基礎財産は7千万円だから、7千万円×1/4=1,750万円の遺留分侵害額請求権が認められると説明してしまうかもしれません。いずれも明白な誤りです。
④ なお、相談者が、対立する兄弟姉妹の特別受益を主張しながら、自分の特別受益については忘れていたり、隠していたりする場合があります。後日相手方にそれを指摘されると一気に守勢に回りますので、あらかじめ、依頼者にこの点について確認する必要があります。

【終活・遺言・相続相談】相談例60 遺言無効

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【相談内容】
相談者(54歳女性)から、「入院中の病院で母(85歳)が亡くなったが、昨日、検認手続きで見た母の自筆証書遺言では、「姉(60歳)にすべての財産を相続させる」とされていた。私は母の介護をしていたので、母がそんな遺言を残すはずがない。絶対におかしいので、遺言を無効にできないものか」と相談された。

【検討すべき点】
この相談内容も、行政書士が業務として取り扱える内容ではありません。提携している弁護士の先生にお取次ぎする形になります。
検認は遺言の有効性を確認するものではないので、まず、遺言書を見せていただき、日付などの形式的要件を確認する必要があります。次に、遺言者の遺言作成時における状況を聞き取り、遺言無効の可能性を吟味し、遺言無効確認訴訟の手続を説明します。ただし、相談者は怒り、悔しさなどで興奮されていることが多いので、短時間で必要な情報を聞き出すことは困難です。まずは気持ちを落ち着けてもらい、後日事務所などでゆっくりお話しを伺うべきでしょう。

【1】形式的要件の不備による遺言無効

① 相談例では、自筆証書遺言を保有していた姉が検認を申立てたと思われますので、その遺言書原本は検認済証明書が付されて姉に返されたはずです。したがって相談者は手元に遺言書の写しがない可能性がありますので、検認調書を取り寄せてもらいます。
② つぎに、遺言書を確認できたとして、自筆証書遺言の形式的要件を満たさなければ、その遺言書は無効です。日付、捺印、署名がないといった場合は、一見して無効と判断できますが、よくあるのは「これは母の字ではない」という偽造の主張です。
③ もちろん、自筆かどうかを判断するために筆跡鑑定という方法があるものの、1.私的な筆跡鑑定には30万円から50万円の費用がかかること。2.相談者自身が母の筆跡も一部混在しているようだと認める場合は奏功しない可能性が高いこと。
④ 3.筆跡鑑定の資料として対照できる母の自筆の書面をできる限り多く用意する必要があること。4.筆跡鑑定には確立された方法論がないので、裁判所が私的な筆跡鑑定書を有力証拠として取り上げてくれるかは疑問であることを指摘し、偽造を立証するためには、筆跡の不自然さだけでなく、客観的に「母がそんな遺言書を書くはずがない」といえる具体的な事情を立証する必要があることを説明します。
⑤ なお、公正証書遺言の場合に形式的要件を欠くことは稀ですが、公証人による遺言書案の読み上げに対して、遺言者が「うん、うん」と言っているだけでも公正証書遺言が出来上がることがありますので、口授の態様などによって、公正証書遺言も無効となる可能性があります。

【2】遺言能力の欠缺

① 遺言書作成当時において遺言者に遺言能力がない場合も、遺言は無効となります。そこで、相談者に対しては、遺言者の入院歴、要介護度、認知症の有無、介護の状況を聞き出し、遺言者や相談者の日記やメールのやりとりが手元にないか確認します。
② 具体的には、入通院していた各病院の診療記録、介護施設や介護事業者の業務日誌や介護記録を入手してもらいます。前者では看護記録などで遺言者と看護師との会話やせん妄などの状態がわかりますし、後者では施設での遺言者の言動がわかります。それに、介護認定の調査票や主治医意見書には認知症についての記載もあるはずです。
③ そして、これらの記録を分析すれば、認知症の進行やまだら呆けなど経時的な状況が判明しますので、それをもとに遺言時の遺言能力の程度を判断します。
④ 遺言無効の調停や裁判では、この経過を時系列一覧表にまとめ、遺言者の遺言能力の減退を主張することになるでしょう。なお、遺言書の内容が複雑な場合は、遺言者にそれが理解できていたのかという疑問が残るので、遺言無効主張の補強材料となる可能性があります。

【3】遺言無効の主張

① 検討の結果、遺言無効の可能性があり、相談者も希望されるのなら、弁護士に依頼をして遺言無効確認請求事件として正式に受任してもらい、相手方に対して遺言無効を主張する旨の受任通知を送ってもらうことになります(予備的に遺留分侵害額請求も行ってもらいます)。
② そして交渉による解決が難しく、かつ、遺言無効の可能性が高いと判断すれば、遺言無効確認請求訴訟を提起します。
③ この場合の管轄は、被告の普通裁判籍の所在地か、相続開始時の被相続人の普通裁判籍の所在地の地方裁判所です。
④ もっとも、遺言無効確認には調停前置主義が適用されますので、提訴しても調停に付される可能性があります。なお、遺言無効確認調停事件の管轄は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所なので、余計な手間と時間がかかるかもしれません。
⑤ 遺言無効確認請求訴訟で勝訴が確定しても、そこから遺産分割が始まるので、全体の解決には長い時間がかかります。したがって、遺言無効で勝訴する見込みが低く、相談者の関心も遺言の有効性よりも取得できる財産の多寡にあるなら、まずは遺言無効確認調停を申立て、その中で遺留分侵害額請求や寄与分などを主張し、実利を図った方がよいかもしれません。

【4】依頼人との関係

① この類型で難しいのは、相談者が、経済的利益には目もくれず、どうしても遺言の有効性を認めたくないと主張される場合です。相談者にすれば、母が自分ではなく姉を選んだことがどうしても許せない、しかし、母はもうこの世にはいないので、遺言を無効にしなければ死んでも死にきれないという気持ちになるのです。
② もちろん相談を受けた行政書士や、その提携先の弁護士は、こうした相談者の気持ちをよく理解しなければなりません。ただし、調査や資料の分析を通じて、この遺言書は母の真意だったかもしれない(遺言無効確認請求訴訟では勝訴できない可能性が高い)との心証に至ることもあるでしょう。
③ この場合の相談者の説得は容易ではありませんが、遺言がある場合でも遺産分割協議は出来ますので、遺言の無効(又は存在)を確認しつつ遺留分侵害額請求の金額に近い形での遺産分割を成立させるといった工夫を検討すべきではないかと思います。
④ このように、すべての相続人が、少しでも多くの遺産を取得しているわけではなく、面子や気持ちの折り合いの問題があることを頭の片隅に置くべきでしょう。

【終活・遺言・相続相談】相談例59 相続税申告

世田谷区砧で子供のいないご夫婦、おひとり様の遺言書作成、相続手続き、戸籍収集支援、任意後見、死後事務委任に詳しい行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。
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【終活・遺言・相続相談】相談例59 相続税申告についての記事です。

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【相談内容】
相談者(64歳男性)から、「3ヶ月前に父(89歳)が他界したが、少し調べたところ、2億円を超える遺産がある。今から、妹(58歳)と遺産分割の話をするが、相続税はどうすればいいのだろうか。また、税理士はどうやって選べばよいのか」と相談された。

【検討すべき点】
相続税の申告は税理士に任せるべきですが、遺産分割の相談でも相続税の話は避けて通れません。相続税申告の基本的な事項を理解し、申告期限、未分割申告の効果、税理士への依頼方法なども押さえてください。

【1】相続税申告

① 相続税は、相続開始後10か月以内に、被相続人の住所地を所轄する税務署長に対して申告・納付します。よほど自信がない限り、相続税申告は税理士に任せるべきです。
② 相続税の申告をしないでいると、数か月後に、税務署から「無申告理由のお尋ね」が送られてくることがあります。これを無視した結果、調査され、申告漏れを発見されると期限後申告・決定となり、延滞税や加算税が課されます。
③ 遺言がなく、遺産分割協議もまとまらないまま相続税の申告期限を迎えてしまった場合は、課税相続財産を法定相続分に応じて相続したものと仮定して相続税を申告・納付します(未分割申告)。未分割申告では、その時点では配偶者税額軽減や小規模宅地の特例の適用を受けられませんが、3年以内に遺産分割協議を成立させれば適用を受けられます。もっとも、逆に遺産分割が成立した場合でも、相続税申告(ゼロ申告)をしないでいると、これらの特例の適用を受けられません。

【2】準確定申告

① 相続税申告と一緒に語られることの多いものに、準確定申告があります。「準確定申告」とは、年の途中で死亡した被相続人の相続人(包括受遺者を含む)が、本来であれば被相続人が行なうべきであった所得税の確定申告を被相続人に代わって行うもので、申告・納付期限は相続開始を知った日の翌日から4ヶ月以内です。
② たとえば、令和4年2月5日に死亡した被相続人が、令和3年分の確定申告をしていなかった場合には、相続人は、令和4年6月5日までに、被相続人の令和3年(令和3年1月1日から同年12月末日まで)の所得に対する所得税の準確定申告と、令和4年の所得(令和4年1月1日から同年2月5日まで)に対する所得税の準確定申告をすることになります。
③ なお、準確定申告をすることにより、被相続人が納めていた予定納税や、給与所得や雑所得における源泉徴収分の所得税が還付されることがあります(還付金は相続財産となります)。
④ そして、相続開始後、もっとも早くやってくるのが準確定申告の申告納付期限ですから、税理士への依頼や遺産調査の契機にもなります。

【3】相続税の計算

【3-1】相続税の計算方法

① 相続税の計算方法は以下のとおりです。
a.相続財産の総額を計算する(みなし相続財産なども含む)
b.債務、税金、葬儀費用、基礎控除額を控除する(課税相続財産とよぶ)
C.相続人が法定相続分どおりに相続したと仮定して、各相続人の取得財産を計算する
d.相続人ごとに相続税率を乗じて仮の相続税額を算出して合計する(=相続税の総額)
e.遺言や遺産分割などにより実際に分けられた財産(具体的相続分)の割合に応じて、各相続人に相続税の負担額を割り振る(=各人の相続税額)
f.個別の事情により税額の軽減又は控除を行う(配偶者税額軽減、未成年者控除など)

② 注意を要するのは、いったん相続税の総額を算出してから。各相続人の具体的相続分に割り振って各相続人の負担額を算出する点です。

【3-2】課税相続財産

① 課税の対象となる相続財産(課税相続財産)としては、まず。被相続人の不動産、預貯金等の金融資産、自動車や貴金属などの動産、貸付金や交通事故死の場合の損害倍書請求権などの債権が挙げられます。
② 次に、相続以外の原因、すなわち遺贈、死因贈与、みなし相続によって相続人や受遺者が財産を取得する場合も、その財産は課税相続財産に含まれます。
③ 相続税法上の「みなし相続財産」とは、相続等によって取得した財産とは言えないが実質的にこれと同視して課税対象とするもので、具体的には、死亡保険金、死亡退職金が挙げられます。
④ また、相続開始前3年以内の生前贈与は、相続税法上の「みなし相続財産」ではありませんが、相続税の課税財産に算入されます。
⑤ なお、遺産分割で「みなし相続財産」といわれるのは、特別受益・寄与分による具体的相続分の修正要素であり(生前贈与が特別受益に当たるときはこれに該当します)、相続税法上の「みなし相続財産」とは一致しません。

【3-3】課税相続財産の評価方法

① 現金以外の相続財産の評価方法は以下のとおりです。
② 土地の評価は、相続開始年度の「路線価」によります。路線価は、宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している路線(道路)ごとに付した1㎡あたりの標準金額で、国税庁が7月に公表します。
③ 宅地の価額は、宅地の形状などに応じた各種補正率で補正し、面積をかけて算出します(地価公示法に基づく公示地価の8割程度)。路線価がない地域では固定資産税評価額に一定の倍率をかけて評価します(倍率地域)。
④ 家屋は固定資産税評価額で評価し、預貯金については相続開始時の残高が課税評価額となります。
⑤ 上場株式は、相続開始日、相続開始前3ヶ月の平均額などを参照し、もっとも低い価額で計算します。取引相場のない株式は、会社の大小・株主構成により、同族株主等は、1.類似業種比準方式、2.純資産価額方式、3.両者の併用方式により、非同族株主等は配当還元方式によって計算されることが多いです。

【3-4】相続財産からの控除

① 墓所、霊廟、祭具などは、非課税財産です。この規定を悪用して黄金製の仏壇を作り、非課税にしようとして否認された例は有名です。
② 民法上は相続債務も相続財産ですが(民法896条)、相続税法では、積極財産だけが課税相続財産となり、相続債務は債務控除として処理されます。なお、連帯保証債務はほかに主債務者がいるので確実な債務とはいえず、原則として債務控除の対象とならないことに注意が必要です。

【3-5】基礎控除

① 改正相続税法の施行により、平成27年1月1日の相続から、基礎控除額は、3000万円+600万円×法定相続人の人数となりました。なお、平成26年末までに相続が開始した場合の基礎控除額は、5000万円+1000万円×法定相続人の人数でしたから、相続税法改正により、相続税が課税される相続案件の数は倍増したと言われています。

【4】税理士の関与

【4-1】税理士による相続税申告

① 相続税は相談者から税理士に依頼していただくのが基本です。しかし、税理士なら誰でも相続税申告に精通しているわけではありません。
② 税理士登録者は全国で約75,000人といわれますが、そのうち税理士国家試験合格者は約45%、免除者(税務署出身者)が約40%、公認会計士とのダブル登録が10%、弁護士が約0.7%です。
③ ただし、税理士国家試験合格者の選択科目は、消費税法、法人税法、相続税法などであり、相続税を選択せずに国家試験に合格される税理士も少なくありません。また、国税庁(国税庁・税務署含む)職員約5万人の内、相続税・贈与税を担当する資産税部門の人員は約4000人しかいないので、税務署OBの税理士が相続税に精通しているとも限りません。
④ 我々行政書士は、相続税をよく取り扱っている税理士と提携し、いつでも税理士の相談し、あるいは依頼者に税理士を紹介できるよう準備しております。

【4-2】税理士による遺言書作成

① 被相続人が税理士に遺言書の作成を頼むケースも少なくありません。特に、被相続人が会社経営していたり、不動産収入があった場合、顧問税理士に法人税や所得税の申告を任せている場合には、毎月顔を合わせている顧問税理士を信頼し、「遺言も頼むよ」となるのは自然な流れです。
② しかし、税理士にとって、遺言書作成は日常業務ではありませんし、相続税申告がない場合の遺言書の作成については、税理士は関与できません(弁護士法・行政書士法)。
③ 一方、相続税申告がある場合の遺言について、顧問先の要望に「できません」とは答えにくいのも事実でしょう。こうして作成された遺言書では、節税については考慮されていますが、遺言の確定性などについて問題があることがあります。

【4-3】税理士による遺産分割

① 会社経営者の相続開始後、その跡を継ぐ相続人が、顧問税理士に遺産分割のとりまとめを任せることがあります。なるほど顧問税理士であれば会社や被相続人の所得税申告を引き受けていたでしょうし、遺産の内容や生前贈与のみならず、相続人の人間関係も掌握されているでしょう。
② ただし、会社の顧問税理士は完全に中立な立場ではなく、後継者たる相続人の意向を忖度しがちです。また、税理士は遺産分割の専門家ではありませんし、顧問税理士自身が高齢になっておられることもあります。
③ そうすると包括条項が抜けていたり、計算が合わなかったりという可能性が生じます。したがって、遺産分割交渉は弁護士が、遺産分割協議書の作成は行政書士が、顧問税理士の意見を伺いながら担当する事が重要です。

【4-4】複数の税理の関与

① 相続人の全員が一人の税理士に相続税申告を依頼すれば、遺産の範囲に関しては、相続人のコンセンサスを形成しやすくなります。
② これに対して、相続人同士の中が険悪な場合など、ある相続人が依頼した税理士は信用できないと、別の税理士に相続税申告を依頼することもあります。この場合、税理士同士の間でトラブルが生じることもあります。
③ 相続人間で遺産の範囲や生前贈与、名義預金などについて合意できなければ、それぞれの税理士は依頼人たる相続人の意向に従わざるを得ないので、その結果、異なる内容の複数の相続税申告書が税務署に提出されることになり、税務署の興味を引くことに繋がります。
④ それぞれの相続人が自分の主張を税務署にすることに繋がり、税務署は税務調査を通じて実態の確認を行い、往々にして税額が上がることに繋がります。したがって、依頼人には一人の税理士に全員が依頼するように助言することになります。

【終活・遺言・相続相談】相談例58 相続放棄と限定承認

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【相談内容】
相談者(55歳女性)から、「音信不通だった父(77歳)が半年前に亡くなったらしいと、伯母(80歳)から聞いた。父は事業に失敗し、貸金業者に多額の債務がある可能性がある。私は相続放棄できるのだろうか。相続放棄できても、自分の息子(23歳)や伯母に借金を継がせることにならないだろうか」と相談された。

【検討すべき点】
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に行う必要があるので、いつ、父の死亡を知ったのかを確認します。また、相続放棄した場合は初めから相続人でなかったことになるので、相談者の子に債務は引き継がれませんが、次順位の相続人として伯母が繰り上がる可能性があります。

【1】相続放棄の手続

① 相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続開始地の家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出して申し立てします。なお、相続放棄の年間件数は約20万件です。
② 相談例では、伯母から父が死んだらしいと聞いただけですので、相談者としては、除籍謄本を入手して父の死亡を確認すべきですし、その確認をした時から3か月間は相続放棄できます。
③ なお、家庭裁判所は、熟慮期間(3か月)経過後の申述も受理します。相続債権者が熟慮期間経過後の相続放棄の効果を争う可能性がありますが、通例、相続債権者は相続放棄受理証明書を確認すれば法人内で損金処理できますので、その可能性は低いでしょう。

【2】相続債務の確認

① 相続債務の内容が不明のままでは相続放棄を決断できません。したがって、亡父の債務を調査することを勧めます。
② なお、相続債務の確認に時間がかかるなら、相続放棄期間伸長の申立てを勧めます。伸長期間は3か月が原則ですが、音信不通だった等の事情により、再度の伸長が認められることもあります。

【3】相続放棄の効果

① 相続放棄をすれば、初めから相続人にならないので、相談者の息子も債務を承継しません。ただし、同順位の相続人(子)全員が相続放棄すれば次順位の者(この場合は伯母)が繰り上がります。
② そこで、相談者が相続放棄した後、繰り上がる相続人(伯母)にもその旨を連絡し、相続放棄をしてもらうべきかという問題が生じます。
③ 相続放棄は債権者から催告が来てからでも遅くないので、伯母には相談者が相続放棄した事実を連絡しなくても良いとも言えます。
④ しかし、相談者が心配されるならば、繰り上がり相続人(伯母)に連絡して、相続放棄を勧めることが望ましいと思われます。
⑤ なお、相談例とは異なりますが、両親の片方が亡くなった場合に、子が相続放棄をすると、被相続人の兄弟姉妹が相続人に繰り上がるので、注意が必要です(「相続分の譲渡・放棄」と「相続放棄」はまったくの別物です)。

【4】相続放棄と遺贈

① 被相続人に相続債務がある場合、遺産の一部を死因贈与契約や特定遺贈で相続人や孫に贈与・遺贈しておき、その相続人が相続放棄するという方法もあります。
② この方法によれば、相続債務を承継することなく特定の財産を手元に残すことができそうですが、不動産の死因贈与の受贈者である相続人が限定承認した場合において、信義則上、不動産所有権を相続債権者に対抗できないとして最高裁判例もあり、安心はできません。

【5】限定承認

① 限定承認とは、相続人が、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して相続の承認をすることです。
② たしかに、遺産の範囲でのみ債務を負担すればよいというのは合理的に思えますので、遺産や相続債務の内容が判然としない場合に、限定承認を希望される相談者も少なくありません。
③ しかし、第一に、限定承認は、1.共同相続人全員が共同して行い、2.相続債権者らに対する公告が必要で、弁済のための相続財産の換価は競売によることとされ、3.相続人が複数の場合は、相続人の中から相続財産管理人の選任を要するとされるなど、厳格な手続きが予定されています。
④ 第二に、限定承認では相続不動産の値上がり益が確定したものとして、自動的に被相続人に対してみなし譲渡所得の課税が行なわれ、相続開始後4か月以内に準確定申告しなければなりません。したがって、相続不動産の相続時評価額が取得額等を上回る場合や、取得額が売買契約書等によって明らかにならない場合には課税リスクがあります。
⑤ 第三に、限定承認の中に、相続財産の債務超過が明らかになった場合、限定承認者や相続財産管理人は相続財産の破産を申し立てることができますが、これは義務ではありません。したがって、破産を申立てないなら、債権者を説得して按分弁済による任意整理を行うことになりますが、債権者はこれに同意する義務はありませんので、暗礁に乗り上げるリスクがあります。
⑥ 第四に、限定承認者や相続財産管理人の責任は重いにもかかわらず、相続財産の中から当然には報酬を得られません。
⑦ 以上から、相談者に限定承認を勧めると思惑違いになりかねませんので、事前に、問題点を説明しておく必要があります。

【終活・遺言・相続相談】相談例57 使途不明金の扱い

世田谷区砧で子供のいないご夫婦、おひとり様の遺言書作成、相続手続き、戸籍収集支援、任意後見、死後事務委任に詳しい行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。
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【終活・遺言・相続相談】相談例57 使途不明金の扱いについての記事です。

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【相談内容】
相談者(62歳女性)から、「1年前に施設で亡くなった母(90歳)の遺産が預金300万円だけだったので、おかしいと思って取引履歴を調べたら、相続開始の4年前に窓口で定額預金1000万円を解約し、3か月前に50万円ずつ14回にわたって700万円の普通預金ATMで引き出されていた。相続人は私と弟(59歳)だけで、かつて母と同居していた弟が預金を抜き取ったに違いない。そこで、(弁護士には委任せず)出金された1700万円を遺産に含めて遺産分割調停を申し立てたが、弟は「しらない」の一点張り。調停委員も「その問題は遺産分割調停では扱えない」といって取り合ってくれない。どうすればいいだろうか」と相談を受けた。

【検討すべき点】
使途不明金(不正出金)の問題は、遺産分割の付随問題の典型例で、相続分野におけるもっとも難解な論点の一つです。相談者の現実的な選択肢としては、調停不成立として審判を求めるか、調停を取り下げて不当利得返還請求又は損害賠償請求の訴訟を提起するしかなさそうですが、提携先の弁護士を紹介する等します。

【1】遺産分割の付随問題

① 「遺産分割の付随問題」とは、遺産分割の当事者などとの間で発生する種々の法律問題のうち、遺産分割審判の対象外の事項とされ、別の法的手段により解決せざるを得ない問題のことです。
② 具体例としては、使途不明金の他に葬儀・埋葬の関連費用、祭祀承継、遺産管理費用及び収益の分配、相続債務の整理・分配などが挙げられます。
③ ことに相談例のような場合、相続開始時に残っていた預貯金の額よりも使途不明金の額の方が大きいので、相談者とすれば、使途不明金を含めた分割でなければ納得できず、遺産分割調停での当事者の主張は先鋭に対立します。

【2】調停委員会の対応

① 付随問題は、もともと遺産分割の対象ではありません(この点で前提問題と異なります)。もちろん相談者が使途不明金に関する主張を諦め、現存する預金300万円のみを対象とする遺産分割で我慢するなら別ですが、それは難しいでしょう。
② そこで、遺産分割調停の2、3回目の期日までに使途不明金の扱いについて当事者が合意できる見通しがなければ、調停委員会は、調停を不成立として遺産分割審判に移行するか、遺産分割調停を取り下げるかを選択するように求めます(当事者が前提問題について合意できる見込みがない場合も同様です)。

【3】相談者の選択肢

① このような場合、相談者としてはどのように対応するべきでしょうか。
② 第一に、現存遺産(300万円)のみを対象とする遺産分割調停を成立させ、その後に、弟に対する不当利得返還請求や不法行為による損害賠償請求の訴訟を提起することが考えられます。
③ しかし、その訴訟で、弟が一転して使途不明金は母から贈与されたと主張するかもしれません。そこで、この方法を選択する場合には、一部分割である旨、あるいは使途不明金は贈与(特別受益)ではないことを確認しておくべきでしょう。
④ 第二に、調停を不成立として審判に移行した場合、使途不明金は遺産分割の対象ではないため、現存遺産のみを対象とする審判が下されるはずです。
⑤ そしてその後の不当利得返還請求等の訴訟で弟が使途不明金を特別受益と主張した場合は先程と同じ問題になりますが、その場合には審判をやり直すことができません。
⑥ また、遺産分割の調停や審判で時間を空費した後、しばらくしてから不当利得返還請求等の訴訟を提訴する場合は時効を援用される可能性もあります。
⑦ 第三に、調停委員会の勧めに従って調停を取下げ、不当利得返還請求等の訴訟により、遺産分割に先行して使途不明金の問題を解決する方法もあります。手戻りになるので、相談者としては不本意でしょうが、負担になるのは相手方(弟)も同様です。
⑧ 展開次第では訴訟中の和解による(遺産分割を含めた)解決もあり得ますので、これを勧めるのも選択肢の一つになります。
⑨ ところで、以上の選択肢は、いずれも不当利得返還請求等の訴訟を予定するものです。しかし、不当利得返還請求等の訴訟で勝訴できなければ、絵に描いた餅にすぎません。そこで、不当利得返還請求等の訴訟において勝訴の見込みがあるか否かを検討し、その見込みが薄いのなら、第四の方法として、譲歩の姿勢を見せながら少しでも有利な条件の下で遺産分割調停を成立させるべきでしょう。

【4】別訴における勝訴の見込み

【4-1】出金者の特定

① 通帳や取引履歴によって、被相続人名義口座からの相続開始前の出金が見つかっても、それだけでは誰が出金したのかわかりません。
② 相談例では、4年前の窓口での定額預金解約の際には本人確認されたはずですが、弟が母に同行し、出金伝票に代書して出金している可能性もあります。そこで、(弁護士照会制度を利用して)出金伝票を入手し、その筆跡・印影や本人確認書類によって弟との関与があったか否かを確認します。
③ 他方、当時の母の介護認定の調査票、主治医の意見書、介護記録などによって、母の健康状態や認知症の程度を調査し、母自身の意思によらない出金の可能性があるかを検討します。
④ 次に、相続開始3か月前のATMでの出金については、弟がキャッシュカードのありかや暗証番号を知っていた蓋然性があること、当時母が施設に入所していたことに加え、出金したATMが被相続人が入居していた施設から遠く、弟の生活圏(自宅や勤務先の最寄り駅)にあるといった事実が認められれば、弟が母のキャッシュカードを利用して出金できたと推定できそうです。

【4-2】出金の使途

① 弟が出金への関与を認めざるを得なくなっても、弟は、その使途について、1.母に出金金額を手渡した、2.母の生活費や自宅改修費用等に使った、3.母から贈与された、4.母から借りた(預かった)と反論する可能性があります。
② しかし、1.については、母に多額の出費を要する事情が見つからず、入所中の施設でも多額の現金を保管できなかったといった事情があれば弟の主張は不合理ですし、2.についても使途や領収証が明らかにならなければ同様で、不当利得返還請求等が、認められる可能性が高くなります。
③ また、3.の贈与を主張するなら(持戻しの免除の問題はあるとしても)特別受益として遺産分割で考慮されるべきことですし、4.については、貸金返還請求や預託金返還請求となるだけです。
④ こうしてみると、弟の側も使途不明金の説明に窮しますので、調停では「知らない」の一点張りということが起こります。しかし、不当利得返還請求等の民事訴訟になれば、何らかの説明が求められますから、これらの訴訟を利用した方がよい場合があると思います。

【4-3】遺産分割調停における方針

① 以上からすると、係属中の遺産分割調停においては、弟に証拠を突き付けて使途不明金への関与を認めさせ、それが贈与(特別受益)でないことを書面によって明らかにさせるべきです。
② 一方、母の認知症が軽度で、ある程度の意思能力が維持されており、むしろ母は傍にいる弟を頼りにしていた(生活費の出金を任せていた)等の事情があって、一部でもそれなりの領収証が提出されるなら、弟に対する包括的委任関係が認められ、不当利得返還請求等が棄却される可能性が出てきます。したがって、そのような場合は、無理をせず遺産分割調停の中で問題を解決すべきでしょう。
③ 以上のように、使途不明金の問題の解決には、事実の調査、法的評価や手段選択についての専門的な知見が必要ですので、弁護士への委任は不可欠と考えられます。

【4-4】相続税との関係

① 使途不明金については、税務面での問題があります。まず、相続開始3か月前の700万円の出金は、それが贈与だったとしても遺産とみなされ、相続税の課税相続財産に含まれます。
② 次に、4年前の1000万円の出金は、税務調査の末、弟名義の預金口座への同時期、同額の入金が確認できれば贈与とみなされ、弟に対して、多額の贈与税や無申告加算税が課税される可能性があります。そして、弟がその負担を免れるためには、税務署に対して、これは預かり遺産だと主張せざるを得ません。
③ しかし、その場合には全体の相続税額が変更されるため、弟のみならず、相談者も修正申告が必要になります。したがって相談者としては、弟が遺産分割調停で、使途不明金につき特別受益と持戻し免除を主張した場合でも、贈与税課税の可能性を指摘し、あるいは、やがて生じる相続税申告との矛盾を指摘して交渉できる可能性があります。
④ なお、同様のことは名義預金に関しても言えます。このように、使途不明金、生前贈与(特別受益)、名義預金等に関しては、課税上の問題を指摘して、遺産性を認めるように相手方を説得できる可能性があります。

【終活・遺言・相続相談】相談例56 調停不成立と遺産分割審判

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【相談内容】
相談者(52歳男性)から、「亡母(享年83歳)の相続の件で弁護士に依頼し、長女(55歳)と次女(53歳)を相手方として遺産分割調停を申し立てたが話し合いがまとまらず、調停委員から、このままでは次回調停期日に調停を不成立とし、後は審判で判断してもらうことになると言われた。今の弁護士は信用できないので、審判になったらどうなるのか教えて欲しい」と相談された。

【検討すべき点】
この相談内容も行政書士や司法書士では対応できない、弁護士さんの独占業務の内容ですが、関連する相談として取り上げます。
遺産分割調停を不成立として、遺産分割審判に移行するとなった段階で、依頼人がようやく思惑通りにいかないと気づくことがあります。そうすると依頼人が依頼していた弁護士に対して不満を持ち、このような相談に来られることがあります。こういう事態を避けるためにも、遺産分割調停が不成立になり、遺産分割審判に至った場合を予想して、弁護士の先生方は依頼人に、説明しておく必要があります。

【1】遺産分割審判の説明

遺産分割の審判について相談者に説明すべき点は、概ね以下のとおりです。

【1-1】遺産分割審判の進行

① 遺産分割調停が不成立になれば、自動的に遺産分割の審判に移行します。遺産分割の審判は、裁判官が一切の事情を斟酌して遺産の分割方法を決める手続きです。
② 遺産分割調停の申立てから調停成立や遺産分割の審判迄の平均審理期間は、約12か月とされています。審判手続きでも、当事者の意見を聞き、あるいは立証を尽くさせるために審問が開かれることはありますが、調停事件で提出した書面や資料で十分と判断されたときには審問は開かれません。したがって「第一審がダメならば、第二審で最初から」という考えは通用しません。
なお、審判に対しては、2週間以内に即時抗告できます。

【1-2】遺産分割審判の対象となる遺産

① 遺産分割の対象となる遺産については、相続開始時点に存在していても、審判時に現存しないものは、審判の対象にはなりません。ですから、相続開始後に処分されてしまった遺産も対象にはなりません(民法906条の2第1項によって遺産とみなされるものは例外です)。
② また、審判では、当然分割される不当利得返還請求権や損害賠償請求権などの債権も、当事者間が審判対象とすることに合意していなければ対象外です。その結果、審判対象は、主として、審判時に現存する不動産と預貯金と株式になります。

【1-3】遺産の評価

① 遺産の評価については、特別受益や寄与分の計算では相続開始時の評価が基準になり、遺産分割の審判では分割時における評価が基準になります。
② 不動産については、固定資産税評価額、相続税評価額(路線価)、実勢(鑑定)価格とするのかなどといった問題があるため、裁判所の手間を省くためにも、遺産分割調停の段階で、当事者にどの評価方法を採るのか合意しておくべきです。
なお、不動産や非公開株式の評価に関しては、抗告審での再燃を防ぐために鑑定が推奨され、費用を予納すれば鑑定はほぼ認められます。

【1-4】不動産の処分

① 審判は後見的立場からの具体的妥当性を重視するので、当事者の意図したとおりの分割にならないこともあります。たとえば、ひきこもりの相続人を自宅から追い出したいといった主張は、かえって裁判官の心証を害することになりかねません。
② また、遺産の価値の大半を自宅が占めるような場合は代償分割の審判が合理的ですが、相続人に代償金を払うだけの資力がないなどの事情を勘案し、当事者が望まなくても、自宅の任意売却や競売による換価を命じたり、共有分割の審判が下されることもあります。

【1-5】寄与分を定める処分の審判

① 特別受益の主張に関しては遺産分割審判の中でも考慮されますが、寄与分は、審判に移行した後、改めて家庭裁判所が定める期間内に寄与分を定める処分の審判を申立てる必要があり、それを怠ると遺産分割の審判の対象外とされることがあります。

【2】審判の予想

① 相談例では、相談者が申し立てた遺産分割調停の争点が明らかになっていません。そこで、相談者からこれまでの遺産分割調停の経過について事情を聞き、審判に移行することが相談者にとって有利か不利かを考えます。
② たとえば、相談例において、相談者が長女や次女の特別受益(あるいは使途不明金や名義預金)を問題にしたのに、長女や次女がこれを否定し、調停委員会もそれを追求してくれないというパターンが考えられます。
③ もちろん相手方に特別受益があることは相談者の側で主張立証しなければならず、それが奏功しないなら、特別受益がないものとして審判される可能性が高いでしょう。そうすると、調停不成立にするよりはむしろ調停で妥協を図った方が相談者の利益になるでしょう。
④ また、相談者の言い分が、自分は長男だし両親の面倒をみてきたことが評価されないのはおかしいとか、亡父の一次相続では長女や次女が得をしたので、今回は譲れないといった程度の主張であれば、審判でそれらの主張が認められる可能性は少ないので、調停不成立は避けたほうがよいと思われます。
⑤ 逆に、長女や次女の特別受益等については十分な主張立証があるものの、長女や次女が頑なにそれを認めない場合や、調停にも出頭しないような場合も考えられます。この場合にはむしろ審判を下してもらった方がよいでしょう。
⑥ なお、家庭裁判所は、調停が成立しない場合でも、調停に代わる審判をすることができます。これは、他の相続人は同意しているのに相続人の一人だけが調停案を頑固に拒んでいる場合や、調停期日に出頭しない場合に用いられます。
⑦ 相談例でも、調停委員会は、調停不成立とするのではなく調停に代わる審判を下す可能性がありますが、これによってある程度審判の結果を予想できること、調停に代わる審判に対しても異議を申し立てれば、審判に移行することを説明します。

【終活・遺言・相続相談】相談例55 遺産分割調停の申立て

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【終活・遺言・相続相談】相談例55 遺産分割調停の申立てについての記事です。

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【相談内容】
相談者(54歳男性)から、「近くに住んでいた伯母(86歳)が亡くなり、伯父(81歳)と私を含む甥・姪7人の合計8人が相続人になった。しかし、従兄弟たちの一部とは伯母の遺産に関する認識がかみ合わないので調停が必要だと思うが、どうすればいいか」と相談された。

【検討すべき点】
相談者が、自分で申立てるつもりで遺産分割調停の一般的な手続きについて質問されているのなら、その手続きを説明します。しかし、遺産分割調停の過程では、前提問題をはじめ様々な専門的知識が必要になりますから、最初から弁護士が受任するということが相談者のためになることが多いものです。
したがって、事案の内容を伺いながら、調停で問題になりそうな点を指摘して、紛争性があると判断すれば、弁護士への委任を勧めることになります。

【1】遺産分割調停手続きに関する説明

【1-1】管轄

① 遺産分割調停を申し立てる場合の管轄は、「相手方の住所地を管轄する家庭裁判所」又は「当事者が合意で定める家庭裁判所」になります。
② 相談例の場合、相手方は7人いるので、その相手方の住所地としていくつかの家庭裁判所を選択できますが、相続人全員の便宜を考えて決めるべきでしょう。
③ なお、最初から遺産分割の調停ではなく、遺産分割の審判を申立てることも可能です。遺産分割審判の管轄は、被相続人の住所地(相続開始地)を管轄する家庭裁判所又は合意管轄裁判所ですから、相談者は、相続開始地を選択して遺産分割審判を申立てることもできます。
④ ただし、審判の申立てを受けた家庭裁判所が事件を家事調停に付すると判断すれば、結局は調停管轄権を持つ家庭裁判所に移送されますので、かえって時間を無駄にすることになりかねません。

【1-2】申立書等

① 相談者は調停申立ての具体的方法を知りたいのかもしれませんが、その説明には時間がとられますし、相談者も具体的な内容は覚えられません。したがって、調停申立書の書式、提出書類、提出方法、申立費用等の情報は、家庭裁判所のHPで入手できることを説明した上で、特に気にされる点について回答します。
② そして、時間があるなら、申立書の写しは相手方に送付されるので、相手方の感情を害するような記載を控えること(または非開示を希望すること)、戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本などの取り寄せや遺産に関する資料の整理や提出に手間取ること、法定相続情報一覧図を提出した場合でも追加して戸籍謄本等の提出を求められる可能性があることなどを指摘します。それが煩わしいと思う場合は、司法書士や弁護士に依頼することを勧めます。

【1-3】遺産の特定

① 遺産をできる限り明らかにしてから調停を申し立てるべきであり、家庭裁判所が後見的立場から遺産や特別受益を調査してくれると期待すると当てが外れます。この点を誤解している方が多いので、説明が必要になります。
② なお、相談例の相談者は被相続人の近くにお住まいで、被相続人の通帳などを保管している可能性があるので、それを取りまとめて(家庭裁判所の書式に従った)遺産目録を作成するように説明します。

【1-4】調停期日

① 調停を申し立てた後、2か月程度で第1回の調停期日が指定され、以後、1ヶ月から2ヶ月に1度の割合で調停が開かれること、調停には調停委員会を構成する調停委員2名と対面して遺産分割の内容を協議することなどを説明します。
② また、調停委員の関心は、遺産の範囲の確定、特別受益や寄与分をどのように取り扱うか、どのような調停案が適切か、調停不備の場合に審判に移行するべきかにあるので、当事者が調停期日で延々と心情を訴えてもあまり効果がないことを指摘し、もし、主張したいことがあるなら書面にまとめるべきと説明します。

【1-5】調停の結末

① 相続人全員が同意すれば遺産分割調停が成立します。当事者が多数になる場合には、調停期日に不出頭となる当事者が予想されますが、その場合でも、1.電話会議システム又はテレビ会議システムの利用、2.調停条項の書面による受諾の方法、3.調停に代わる審判の利用などの方法により、調停を成立させることができます。
② これに対して、数回の調停期日を経ても調停成立の見込みがないときは調停不成立となり、自動的に遺産分割審判に移行します。なお、相続人の範囲や遺産の範囲などに問題があると、調停の取下げを求められることもあります。

【2】前提問題

① 遺産分割調停を申し立てるに当たって、遺産分割の前提問題の確認は避けて通れません。遺産分割とは、相続人に遺産がどのように分配するかの問題ですから、法定相続人が確定し、遺産の範囲が確定し、かつ、遺言や遺産分割協議によって遺産の分配方法(各相続人の具体的相続分)が決まらない場合にはじめて、遺産分割に適した状態になります。
② したがって、1.法定相続人に関して認知、廃除、縁組無効や親子関係不存在、相続欠格等の争いがある場合、2.遺産分割時に存在する遺産の範囲に争いがある場合(名義預金や使途不明金)、3.遺言や遺産分割協議の有効・無効が争われている場合には、これらの問題を先に片付けておかなければ、遺産分割に適した状態になりません(遺産分割の前提問題)。
③ 前提問題が未解決でも、調停委員会は当事者全員が合意すれば遺産分割調停を成立させることができますし、調停不成立後に家庭裁判所は遺産分割審判を下せますが、その審判には既判力がないので、結論に不満のある当事者は別途の訴訟などでその判断の当否を争うことができ、紛争の一回的解決の要請(訴訟経済)に反します。
④ そこで、一般に、遺産分割の前提問題は、遺産分割を行う前に訴訟など(認知と相続人廃除等の効力は別途の審判手続きによります)で解決しておくことが望ましいとされ、遺産分割調停中に前提問題に関する合意が難しいと判明した場合には、調停委員会から、調停を取下げて訴訟などで前提問題を解決するよう求められることがあります。
⑤ したがって、遺産分割調停を申し立てる前に、前提問題がないかを相談者に確認し、もし前提問題があるなら、調停の中で合意できる見込みはあるのか、それが難しいなら遺産分割調停前に訴訟などによって前提問題を解決しておくべきではないかと検討を促します。

【3】遺産分割の対象となる遺産

① 相談者によると、「遺産に関する認識がかみ合わない」とのことですので、遺産分割の対象となる遺産について整理しておきます。
② 「遺産分割の対象となる遺産」とは、1.相続開始時に存在し、2.分割時にも存在し、3.未分割の遺産であると考えられています。ただし、以下の点に注意が必要です。
③ 第一に、不動産、株式、現金、借地権などは相続開始後は共有状態ですから、3.の要件を満たし、1.2.の要件も揃えば遺産分割調停及び同審判の対象となります。
④ 第二に、債権は、相続によって当然分割となるから共有状態が解消され、3.の要件を満たしません。ただし、最高裁は、投資信託受益権や個人向け国債、投資信託受益権から相続開始後に発生した元本償還金又は利益分配金について、当然分割債権にならない旨を判示し、普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権についても、遺産分割の対象となる判断をしましたので、これらの債権を対象とした遺産分割の調停や審判は可能です。
⑤ これに対して、貸金債権、賃料債権、不当利得返還請求権や不法行為による損害賠償請求権は当然分割債権となるので、3.の要件を満たしませんが、相続人全員が同意する場合には遺産分割調停及び同審判の対象とすることができます。
⑥ 第三に、相続開始前に出金された預貯金(使途不明金)は1.の要件を満たさず、相続開始後に出金された預貯金(同)は2.の要件を欠きますが、相続人全員が合意すれば遺産分割調停及び同審判で対象とすることができます。
⑦ なお、後者に関しては、平成30年相続法改正により、相続開始後かつ遺産分割前に財産が処分された場合であっても、共同相続人全員の同意があれば、その遺産を遺産分割の対象とすることができ、共同相続人が財産処分をした場合には、その共同相続人の同意は不要とされました。
⑧ 第四に、相続開始前の相続債務や相続開始後の葬儀費用や遺産管理費用は、遺産分割調停の中で負担割合を協議することはできますが、1.から3.までの要件を満たさないので、遺産分割審判で対象とすることはできません。
⑨ 最後に、遺産の一部についての遺産分割も有効です。したがって、遺産性に争いのある部分や引き取り手のない遺産(山林・農地など)は、遺産分割の対象から外すことができます。

【4】遺産分割調停の申立てについての注意

① まず、相談例のように、多数の相続人(相手方)がいる場合は、申立前に、相続人間で相続分の譲渡(民法905条1項)や相続分の放棄を試み、当事者の人数を減らしておくべきです。
② もっとも、1.相続分の譲渡や相続分の放棄は「相続放棄」とは違い、譲渡者・放棄者は相続債務を免れないこと、2.相続分の譲渡は相続人以外に対しても行えること、3.相続分の譲渡や放棄は印鑑証明書を付した家庭裁判所所定の書面によること、4.相続分の譲渡や放棄には遡及効がないこと、5.相続分の譲渡や放棄後に遺産分割が成立する場合、司法書士に相続登記手続の方法を確認する必要があること、6.相続分の譲渡や放棄により対価を得た場合には相続税が課税されること、7.遺産分割調停申し立後に相続分全部を譲渡した当事者は手続きから排除されることなどに注意が必要です。
③ 次に、相続人の中に意思能力に問題がありそうな高齢者がいる場合には、あらかじめ成年後見人を選任してもらっておくべきです。
④ また、被相続人の先代や先死亡した配偶者名義の不動産などが残っていたということもあり、一次相続と二次相続の二軒の遺産分割調停を申し立てることがあります。古い日付の一次相続では法定相続分が異なる場合もありますので(昭和22年5月2日以前に相続開始した場合は家督相続、昭和55年12月31日以前に相続開始した場合は配偶者の相続分が少なくなっています)、相続開始の日付に注意して下さい。

【終活・遺言・相続相談】相談例54 遺産分割と遺産整理

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【終活・遺言・相続相談】相談例54 遺産分割と遺産整理についての記事です。

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【相談内容】
相談者(54歳男性)から「3か月前に母(77歳)が亡くなり、相続については相続人である次男(51歳)・長女(50歳)とほぼ合意できた。今後、どのように手続きを進めればよいか」と相談を受けた。

【検討すべき点】
遺産分割について合意出来たのなら、遺産分割協議書を作成して遺産の処分を始めます。遺産分割協議書は、不動産の所有権移転登記の原因証書となり、預貯金・株式・投資信託の名義変更・解約・売却などに必要な重要書類ですから遺漏ないよう正確に作成する必要があります。遺産の処分手続きも煩雑なことが多いので、双方とも行政書士等士業に任せるのが堅実です。

【1】遺産分割協議書の作成

【1-1】遺産分割協議書の作成

① 遺産分割協議がまとまれば、すべての相続人が署名・捺印して遺産分割協議書を作成します(通常は相続人全員分の遺産分割協議書を作ります)。
② 捺印する印鑑は実印を用い、作成する遺産分割協議書全通に作成日付から発効後3ヶ月以内の印鑑証明書を添付して綴じるようにします。また、契印をお願いします。
③ なお、相続人全員が一堂に会して遺産分割協議書を作成することが困難な場合(相続人が遠隔地に散らばっている場合など)に、一人ずつが署名捺印した同一の内容の遺産分割協議書を全員から集める方法もあります。
④ また、相続人を確定できる戸籍謄本も用意しておき、他の相続人から求められれば写しを差し上げます。
⑤ 平成29年5月29日から、全国の法務局において各種相続手続きに利用することができる法定相続情報証明制度が始まりました。法務局に戸除籍謄本等の束と併せて相続関係を一覧に表した図(法定相続情報一覧図)を提出すれば、登記官がその一覧図に認証文を付した写しを無料で交付してくれます。そして、その後の相続手続きには法定相続情報一覧図の写しを利用でき、戸除籍謄本等の束を何度も出し直す必要がなくなります。

【1-2】遺産分割協議書作成の注意点

遺産分割協議書を作成する際に見落としがちな点は、以下のとおりです。
① 遺産分割協議成立後に見つかった遺産の処理についての取り決め(包括条項)は忘れずに記載して下さい。実際、遺産分割後に株式配当金や還付金などが明らかになることが少なくありません。
② 相続財産からの果実(相続開始前後の賃料など)の帰属者を誰にするか、相続債務(ローン、医療費、葬儀費用など)を誰が支払うかなども(債権者には対抗できませんが)、遺産分割後に争いになりやすい問題ですので、遺産分割協議書に記載するよう勧めます。譲渡所得税や固定資産税の負担についても同様です。
③ 海外資産、ゴルフ会員権、郷里の山林・田畑など換価困難が予想される遺産は、できる限り、相続人の一人に単独取得してもらうことを勧めます。
④ 令和3年の不動産登記法の改正により、遺産分割から3年以内の所有権移転登記が義務付けられ、過料もあります。したがって、相続人の誰もが欲しがらない不動産でも処分を決めなければなりません。
⑤ 相続土地国庫帰属法によって不要な土地を国庫に帰属させる方法も創設されましたが、要件が厳しく、どのように運用されるかまだ未知数です。したがって、現状では、最も多くの遺産を取得する相続人にそれらの遺産を取得させるしかないと思われます。

【1-3】行政書士の関与

① 相談例では、相続人間の話し合いによって、ほぼ遺産分割の合意ができたとのことですから、その内容をむやみに変更することは差し控えます。ただし、、相続人漏れ、遺産漏れ、名義変更や換価・分配などの手続の確認、課税リスクなどには注意が必要です。
② 遺産分割が成立しても、その後の処理に難渋することが予想されるならば、遺産分割協議書の作成にのみを受任するのではなく、遺産分割の履行(遺産整理)も含めて受任すべきです。

【2】遺産別の相続手続き

【2-1】不動産の所有権移転登記

① 不動産につきましては、遺産分割協議書を原因証書として取得者から所有権移転登記を申請します。ただし、当事者の表示や不動産の特定等に瑕疵がある場合は登記できませんので、遺産分割協議書案の段階で、司法書士に対して記載に問題がないかを照会した方がよいでしょう(未登記や非課税の不動産が抜けていないかも確認しましょう)。

【2-2】預貯金の名義変更・解約払い戻し

① 預貯金について、従前は相続人から法定相続分の預金払い戻し請求ができるとされていましたが、平成28年12月19日最高裁判決により、現在は遺産分割の対象です。したがって、遺産分割により、相続人の一人が単独で預貯金を相続する場合には、遺産分割協議書等を金融機関に提示して名義変更を求めます。
② また、遺産分割で預貯金を解約して払戻金を分配すると決めた場合も、同様の手続によります(遺産分割協議書に代えて、代表相続人の届を提出して解約する方法もあります)。

【2-3】株式・投資信託

① 株式・投資信託なども、遺産分割協議書などを提示してそれを取得する相続人に名義変更しますが、売却換価した代金を分配する場合(清算型)には、以下の注意が必要です。
② まず、株式等の共有もあり得ますが、手続が複雑になるので推奨はできません。したがって、相続人の一人が代表相続人として名義変更し、代表相続人が売却を指示する方法をとります。
③ もっとも、代表相続人がその金融機関に口座を持っていなければ、新規に口座を開設しなければなりません。また、株式等は値段が上下して損益が出ますので、遺産分割で代表相続人に名義移転した場合には直ちに売却するよう取り決めておきます。

【3】遺産分割の履行(遺産整理)

【3-1】遺産整理

① 「遺産整理」とは、成立した遺産分割に従って遺産を処分することです。もともと遺産整理という法律用語はなく、金融機関が遺言信託に基づかない(遺言がない)場合に相続手続きを代行する商品(サービス)を表すものとしてこの名称が用いられてきました。
② 遺産分割成立後の手続は前述のとおりですが、煩雑で手間がかかります。特に、不動産や株式・投資信託等を売却し、あるいは預貯金を解約し、払い戻して、その結果得られた金員を相続人間で分配(清算)するとの内容を含む場合、その処理に当たる代表相続人を選ぶのが原則ですが、代表相続人に何らかの障害が生じると手続きがストップします(放置・延滞リスク)。
③ そして、そのまま時間が経過して、その間に遺産分割協議書や印鑑証明書の原本を紛失すれば、再度これらの書類を徴求しなければならなくなります(保管リスク)が、遺産分割の内容に不満を持つ相続人がいれば、応じてくれるとは限りません(居直りリスク)。
④ さらに、代表相続人が払戻しを受けた預貯金や株式等の売却代金を勝手に費消してしまうリスクもあります(横領リスク)。
⑤ したがって、遺産分割の内容を迅速かつ確実に履行するためには、相続人ではない専門職である第三者の関与(遺産整理受任者の選任)が望ましいと言えます。

【3-2】行政書士による遺産整理

① 金融機関が遺産整理業務を行っていることは前述のとおりですが、行政書士も遺産整理業務の受任者として適任です。

② 弁護士や司法書士も遺産整理業務を行いますが、利益相反にならないように注意が必要です。行政書士はそもそも紛争性がある場合は受任できませんし、誰か一人の相続人の代理人になることもありませんので、権利義務に関する書類の作成とその密接関連付帯業務として遺産整理業務が行政書士法上の業務になります(監督官庁である総務省の正式な解釈です)。
③ 相続人との契約で、行政書士が遺産整理受任者となり、成立した遺産分割に従って遺産を処分すること、換価・売却によって得た遺産は預かり口座で保管し、相続人からの照会に応じること、株式や投資信託は遺産整理受任者名義の口座に移管後直ちに売却すること、不動産売却の方法や期限などを記載します。特に清算型遺産分割では、相続人に安心してもらうためにこうしたルールが必要です。

【終活・遺言・相続相談】相談例53 不動産の相続

世田谷区砧で子供のいないご夫婦、おひとり様の遺言書作成、相続手続き、戸籍収集支援、任意後見、死後事務委任に詳しい行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。
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【終活・遺言・相続相談】相談例53 不動産の相続についての記事です。

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【相談内容】
相談者(60歳男性)から、「半年前に母(85歳)が亡くなり、長男の私と次男(56歳)、三男(53歳)の3人が相続人となった。遺産としては、母が住んでいた自宅くらいしかない。ずっと独身の三男は、1年前から自宅に居候していて、「母から頼まれたから、自宅は俺が相続する」と言って言うことを聞かない。どうすればいいだろうか」と相談を受けた。

【検討すべき点】
不動産が遺産に占める割合は4割を超えるといわれ、遺産分割でもかなりの割合で不動産の評価と分割方法が問題になります。特に、被相続人の自宅が遺産のほとんどを占め、しかも相続人が居住している場合には、自宅を誰が相続するかで意見対立が生じやすくなります。

【1】不動産の遺産分割の方法

一般に、不動産の分割方法としては、現物分割、代償分割、換価分割、共有分割があります。

【1-1】現物分割

① 現物分割は、遺産中に複数の不動産がある場合に複数の相続人が別々の不動産を取得する分割方法です。兄が3000万円のA不動産を取得し、弟が6000万円のB不動産を取得し、その差額を調整するため、弟が兄に代償金1500万円を支払うというように、代償分割と組み合わせて行なわれることが多いです。
② なお、相続不動産が自宅兼テナントビルの1棟だけという場合、兄が1階から3階部分の区分所有権を取得し、弟が4、5階の区分所有権を取得するといった現物分割の方法もありますが、後々、その建物の権利でもめます(たとえば、雨漏りの修繕やエレベータの保守点検など共有部の管理費で対立します)。
③ したがって、現物分割でうまくいくのは、相続人の数に応じた独立の不動産がある場合になります。

【1-2】代償分割

① 代償分割は、相続人の一人が遺産である不動産を相続し、他の相続人に対して代償金を支払う分割方法です。相続不動産は取得者の単独所有となるので後顧の憂いはありませんが、代償金の金額(不動産の評価)をめぐって対立しやすく、また、取得者に代償金を支払うだけの資力や信用がなければ成立しません。
② なお、相続不動産を取得する相続人が、代償金の支払に代えて自己所有不動産や持分を他の相続人に譲渡する場合には譲渡所得税を課税されることがあるので、等価交換の特例を検討します(税理士への相談は不可欠です)。

【1-3】換価分割

① 換価分割は、相続不動産を売却して、その代金を相続人間で分配する方法です。市場で売却するため代償分割と比べて不動産の評価については問題が起こりにくく、相続人間の関係を公平に清算できる点で理想的です。
② ただし、当該不動産の承継に固執する(売却に反対する)相続人がいれば、この方法では解決できません。
③ また、換価分割では不動産を処分するため、相続税の他に譲渡所得税が課税されます。したがって、換価分割による代金を得る場合は、代償分割で代償金を得る場合と比べると、譲渡所得税が課税される分だけ手取り額が下がるという短所があります。
④ 換価分割の具体的方法についても注意が必要です。たとえば、3人の子が換価分割する場合、持分3分の1ずつの所有権移転登記を経由し、3人が売主となって不動産を売却することになるのが原則です。
⑤ しかし、遠方居住の子がいる等の事情により、手続を簡略化するために、一人の子の単独名義で登記した上で、その名義人が不動産を売却して、他の相続人に分配金を支払うという方法が採られることが少なくありません。
⑥ しかし、思ったような金額で売れず、もう少し、もう少しと躊躇しているうちに長期間が経過することがあります。ところが、ようやく不動産を売却した後、名義人(売主)の子にだけ譲渡所得税が課税され、分配金の支払いを受けた他の子には贈与税が課税される可能性があります。
⑦ これを避けるためには、遺産分割協議書の中で、名義人の子はあくまで換価分割のために不動産を単独取得し、その後売却して代金を分配することが明らかになるように記載する必要があります。また、相続人間では、売却の時期や値段もはっきりと決めておくべきでしょう。

【1-4】共有分割

① 共有分割では、遺産分割協議の結果、各相続人が不動産の共有持分を取得する分割方法です(各相続人の持分が法定相続分通りとか限りません)。
② 遺産分割が成立しなくても、相続不動産は各相続人の共有に属しますから、遺産分割での不動産の共有分割は問題の先送りに過ぎないと思えます。
③ しかし、遺産に関しては分割の方法や分割の禁止が定められていますので、相続人が遺産の分割を求めるためにはまず遺産分割によるべきであり、いきなり共有物の分割請求(民法256条、258条)を求めることはできないと解され、令和3年民法改正でも、相続財産に属する共有物の分割は遺産分割によるのが原則で、民法258条による分割請求ができないことが確認されました(改正民法258条の2第1項)。したがって、共有分割の遺産分割は、共有物の分割請求の条件を整える必要があります。
④ したがって、延々と時間をかけて遺産分割協議や遺産分割調停を続けるよりは、法定相続分通りで相続不動産を共有分割してしまい、その後の共有物分割請求訴訟で分割を求める方が早道になる可能性があります。
⑤ 共有物分割請求訴訟においては、競売や任意売却による処分も考えられますし、全面的価格賠償の判決を得て、適切な相続人が相続不動産の所有権を手に入れることができるかもしれません。

【2】自宅の処分

① 相談例の場合、複数の不動産はないので、現物分割は不適です。三男が自宅の承継に固執するなら、相談者と次男は、三男に対して代償金を支払うよう求めることになりますが(代償分割)、三男の資力が乏しければそれも期待できません。三男が「自宅を退去しない」「絶対に売らない」と主張する以上、換価分割もできません。
② このような場合、相談者としては、遺産分割調停を申立て、調停委員会による三男の説得を期待しますが、三男が(共有分割も含めて)自宅の処分に同意しなければ、調停の成立は期待できません。
③ したがって、調停は不成立として遺産分割審判に移行してもらい、遺産の競売や任意売却による換価(家事事件手続法194条)又は代償分割(同法195条)の審判を期待することになります。なお、換価分割ですら相当でない場合は共有分割の審判が下されることもあるようです。

【3】譲渡所得税

① 遺産を処分する場合(換価分割や清算型遺言など)には、譲渡所得税が問題になります。譲渡所得税とは不動産などの資産を売ったときの譲渡所得(譲渡所得=譲渡価額-取得費-譲渡費用-特別控除)に対して、事業所得や給与所得とは分離して課税される(分離課税)所得税の一種です。
② その税額に関しては、譲渡日の属する年の1月1日において所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得として所得税15%、住民税5%及び復興特別所得税2.1%(計22.1%)が課せられ、所有期間が5年以下の場合は、短期譲渡所得として、所得税30%、住民税9%、復興特別所得税2.1%(計41.1%)が課税されます。
③ 例えば、亡母が昭和62年に6500万円で買った不動産を相続し、令和3年に5000万円で売却した場合には、譲渡価格<取得費ですから、課税すべき譲渡所得がなく、譲渡所得税はかからないはずです。ところが、取得費の金額を証明するためには昭和62年当時の売買契約書等が必要で、契約書等によって取得費を証明できないときは、取得費は譲渡価格の5%(250万円)しか認められません。そうすると(5000万円-250万円)×0.221(長期譲渡)=10,497,500円の譲渡所得税が課税されます。
④ 便宜上、ここでは復興特別消費税や特別控除、減価償却を無視していますが、いずれにしろ、30年前の売買契約書などがあるかないかによって、換価による手取り額にはかなりの差が出るのです。
⑤ ちなみに、譲渡所得税の申告期間は譲渡日の翌年の2/16から3/15ですから、令和4年2月に相続不動産を売却したら、申告期限を過ぎた場合、令和5年の初夏に税務署から「譲渡所得」に関する問い合わせのお手紙が来ます。
⑥ なお、税務面としては、そのほかにも、居住用財産の特例など各種特例の適用の可否、遺産分割に関する士業報酬を譲渡費用として控除できるかなどの問題もあります。最初から税理士の相談することが大切で、いつでも相談できる税理士を探しておくことが大事になってきます。

【終活・遺言・相続相談】相談例52 一次相続と二次相続

世田谷区砧で子供のいないご夫婦、おひとり様の遺言書作成、相続手続き、戸籍収集支援、任意後見、死後事務委任に詳しい行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。
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【終活・遺言・相続相談】相談例52 一次相続と二次相続についての記事です。

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【相談内容】
相談者(52歳男性)から、「父親(84歳)が死去し、遺言はなかったが、母(83歳)がすべての遺産を相続するといっている。子は兄(長男54歳)と私(次男)の2人だけだが、兄はすでに母の意見に賛成した。ここは私も譲って、母の言う通りにした方がいいだろうか」と相談を受けた。

【検討すべき点】
夫婦の片方が亡くなった場合(一次相続)、他方配偶者が全財産を相続するケースが多く見受けられます。しかし、複数の子がいる場合に、他方配偶者も死亡した場合(二次相続)のことを考えると、諸手を挙げて賛成できるわけではありません。今後、どのような問題が生じるかを想像して、一時相続でもそれなりの遺産分割を行うことを勧めます。

【1】配偶者の不安

① 高齢でも夫婦そろっていれば、愚痴や不満を口にしながらも自然と助け合って生活しているものですが、片方が亡くなると、残された配偶者は一気に不安になります。
② そして「お父さんの財産は、2人で築き上げてきたものだから、私がもらう」といった言い分で遺産の単独取得にこだわりがちです。なお、一人っ子の場合には、残された配偶者と子の関係がよほど悪くなければ親子2人だけで話合えることなので、大きな問題になることは稀です。

【2】子らの思惑

① 高齢の親世代と子世代の間には、経済的格差が生じており、40代から60代にかけての子世代は、教育資金で財産が減り、年金の受給年齢も気になるところです。資産を増やす方法といっても、退職金を除けば、株式投資や暗号資産などリスク性向の高いものか宝くじ以外に見当たりません。
② ですから、子らも、一時相続の際にいくばくかの財産を相続させてほしいというのが正直な気持ちです。しかし、複数の子がいる場合には、お互いに相手の出方を見てしまいますし、自分だけが反対して母の機嫌を損ねたくないという迷いが生まれます。
③ 下手に権利を主張して母の介護を任されても困ると思うかもしれません。そうして、二次相続の際には法定相続分をもらえるはずだからと考え直して、母の言い分を認める流れになりがちです。

【3】一次相続で配偶者に相続財産を集中させることの問題点

① 遺産を配偶者に集中させると以下のような問題を生じます。
② 一次相続において遺産の取得を我慢した子らは、二次相続では、必ず、相応のものを相続したいと考えます。
③ したがって、父の遺産を吸収した母の財産の目減りが気になりますし、ほかの兄弟も母の財産を狙っているのではないかと疑心暗鬼になりがちです。
④ 自分以外の兄弟が母と同居をし始めたと聞くと、親を取り込まれたと感じ、知らないうちに遺言書を作成されて自分は相続から外されるのではないかと不安に思います。そうして、後見開始の申立て、親の取り合いや遺言書の書かせ合いなどに発展することもあります。
⑤ 母が死亡すれば(二次相続)、もう気を遣うべき親は存在しませんから、子らは、相続人としての権利を主張します。遺言書があっても、遺言無効を主張し、遺産分割になれば特別受益や寄与分を主張して紛糾する可能性が高くなります。
⑥ そうした紛争リスクを減らす方法の一つは、一次相続でも子らに相応の遺産を分配しておくことです。

【4】配偶者税額軽減のフル活用

① 配偶者が遺産を総取りする理由として、配偶者税額軽減を利用できるからとよく言われます。そこで、その合理性を検討してみます。

【4-1】一次相続での相続税の課税

① 例えば、遺産が1億6000万円で、妻、長男、次男の3人が相続人だとします。
② 簡略化(負債などなし、各種特例もなし)して計算しますと、課税相続財産は1億1200万円。
③ 法定相続分に応じた各相続人の負担額は、妻が980万円、子らは370万円となります。
④ 相続税の総額は、1720万円で、これを法定相続分通りで遺産分割すれば、長男と次男は430万円の税額になります。
⑤ 妻は、配偶者税額軽減により、課税されません。
⑥ これに対して、被相続人の妻が遺産全部を相続するなら、長男と次男は相続税は0円となり、妻も、相続税は0円です。
⑦ したがってこの時点で課税されませんから「せっかくお父さんが貯めた遺産を税金に取られるのはもったいない」という目的を果たしたことになります。

【4-2】二次相続での相続税の課税

① しかし、二次相続迄考えると、合計の税負担は増える可能性があります。
② 前述の例で、一次相続では法定相続分通りに遺産分割し、その直後に母が他界した(二次相続)としましょう。そして母にはもともと1億円の固有財産があったと仮定します(母の遺産は1億8000万円)。
③ 子の母の遺産を二人の子が相続すると、課税相続財産は、1億3800万円。法定相続分に応じた相続税額は各1370万円になります。
④ 相続税の総額は2740万円となり、二人の子らは、一次相続と二次相続を併せて3600万円の相続税負担をすることになります。
⑤ これに対し、一次相続では母が遺産を単独相続していた場合(母の遺産は2億6000万円)、課税相続財産は2億1800万円、法定相続人の法定相続分に応じた各相続人の相続税額は2660万円となり、相続税額の総額は5320万円となります。
⑥ そうすると、一次相続こそ相続税が課税されずに済みましたが、二次相続では5320万円の相続税を負担することになり、一次相続で法定相続分通りに相続した場合に比べると、1720万円多く相続税がかかることになります。

【4-3】数字のトリック

① 以上の試算は、もちろん仮定に仮定を重ねたものです。母の固定資産は5000万円かもしれませんし、2億円かもしれません。83歳の母の平均余命は約10年ですが、その間、介護付き有料老人ホームに入所していれば、その費用だけで優に3000万円以上の出ていくことになるでしょう。
② このように考えてみると、一次相続で母に遺産を集中させることは、母の財産が少なく、母が高額の施設に入所して長生きする場合には節税に寄与します。
③ 逆に、母の蓄えが多く、早くお亡くなりになる(又は倹約する)と想定すれば、より高額の相続税を招く可能性があるのです。
④ したがって、配偶者税額軽減をフルに活用できることは、二次相続での紛争のリスクを冒してまで配偶者が遺産を全部取得する決定的な理由にはなりません。