【終活・遺言・相続相談】相談例17 財産管理契約・見守り契約

世田谷区砧で子供のいないご夫婦、おひとり様の遺言書作成、相続手続き、戸籍収集支援、任意後見、死後事務委任に詳しい行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。
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【終活・遺言・相続相談】相談例17 財産管理契約・見守り契約についての記事です。

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【相談内容】
相談者(80歳女性)から、「終活セミナーの講師から、任意後見契約をするなら、財産管理契約や見守り契約を公正証書で作っておけば安心ですよと勧められた。財産管理契約とか見守り契約も、結んでおいた方がよいのでしょうか」と相談された。

【検討すべき点】
任意後見契約と財産管理契約、見守り契約はよくセットでの利用が推奨されています。任意後見契約については前回述べましたので、今回は、財産管理契約と見守り契約について説明します。
財産管理契約にも任意後見契約と同じいくつかの問題点があります。事案に応じてカスタマイズする必要があり、場合によっては見守り契約やホームロイヤーの利用をお勧めします。

【1】財産管理契約

① 財産管理契約(財産管理等委任契約とか任意代理契約ともいわれます)は、文字通り、委任者が受任者に対して委任者の財産の管理を委託する契約です。しかし、自分で財産管理できるなら、それを人に任せる必要はありません。
② したがって、委任者は、現に財産管理できない状態にあるか、その状態が予想される状態にある方で、通常は初期の認知症だったり、介護を必要とする高齢者です。
③ これに対して、受任者は、財産管理を業務として扱う専門職やコンサルタントとなることが多いはずです(親族が受任者となる場合でも、専門職がサポートすることが多くなるでしょう)。
④ そうすると、契約内容に関する委任者の理解が十分でないまま、受任者側が主導して財産管理契約を締結させる可能性がありますから、受任者側による不当な勧誘がないかには注意が必要です。

【2】財産管理契約の問題点
財産管理契約に関する問題点は以下のとおりです。

【2-1】授権の範囲

① 財産管理契約における授権の範囲は広く設定されがちです。たとえば、財産管理契約の公正証書に添付される「代理権目録」のひな型には、「不動産、預貯金、動産等すべての財産の管理、保存、処分」など一切の行為を含む代理権が挙げられていますが、本当にそれが必要なのか疑問です。
② 移行型の財産管理契約締結の際には、「認知症等によって任意後見契約が必要になる前でも、身体が不自由になって動けなくなった場合に備えて、財産管理の事務について代理権を与える契約が必要だ」と説明されるようです。
③ その目的は入通院、介護サービス等を含む日常生活に必要な事項(いわば保存行為)に限られ、全ての財産の処分に関する代理権までは不要ではないでしょうか。

【2-2】財産管理の始期

① そもそも自立している高齢者が誰かに財産管理を任せる必要はありません。であれば、高齢者本人が財産管理できなくなった時点からの財産管理契約が望まれるはずですから、即効型でない限り、どのような状態になったら財産管理契約を発効させるのか始期を明らかにすべきです(将来型)。
② たとえば、委任者が同契約の発効を希望し、かつ、委任者が要介護1又は2の要介護認定を受け、親族の指定者や担当する介護関係者が同意した場合といった具体的な条件を設定するべきでしょう。

【2-3】財産管理契約の終期

① 財産管理契約と任意後見契約を併用する場合(移行型)、多くの財産管理契約では、「任意後見監督人選任の審判が確定したとき」(任意後見契約の発効時)を財産管理契約の終期としてあげます。連続性を確保するために、この規定は合理的です。
② しかし、任意後見契約では、任意後見受任者(財産管理受任者兼任)の任意後見監督人選任の請求については、「判断能力が不十分な状況になったときは、すみやかに任意後見監督人選任の申立てを行うものとします」といった緩やかな規定しか置かれず、適時における任意後見監督人選任の請求が確実に行なわれるとまでは期待できません。また、財産管理の始期のおいて明晰であった委任者も、その終期においては判断能力が低下しているはずですが、これを数値化することはできません。
③ そこで、任意後見契約や財産管理契約の中で、たとえば、3ヶ月に1度はかかりつけ医を受診して長谷川式簡易知能評価スケールを行ってもらい、「同検査の結果が2回連続で20点を下回った場合、又は医師が重要財産の処分に関する意思決定ができないと判断した場合は、1ヶ月以内に家庭裁判所に対して任意後見監督人選任を求める」といった具体的基準を取り入れることが必要ではないかと考えます。
④ もちろん、そうして行なわれた任意後見監督人選任請求が要件を満たさないとして、あるいは、本人の同意を得られない(任意後見契約に関する法律4条3項)として却下される可能性はありますが、それはそれで正常な過程だと思います。

【2-4】財産管理者の義務

① 一般に、財産管理契約のひな型では、財産管理受任者は、定期的に財産目録、会計帳簿、預貯金目録等を作成し、委任者に報告するといった規定が置かれています。しかし、委任者が完全な事理弁識能力を保持しているなら問題はありませんが、そうでなければ委任者は報告を受けても内容が理解できませんし、監督者も不在ですから、この義務が確実に履行されるかは甚だ疑問です。
② せめて代理出金機能付信託のように、委任者以外の第三者(子や親族)への報告義務を課すべきでしょうし、専門家が財産管理の監督者になることも推奨されるべきでしょう。

【3】見守り契約

①「見守り契約」とは、高齢の委任者が、受任者に対して、面会等の適宜の方法による定期的な様子伺いを依頼し、それによって委任者の健康状態(事理弁識能力を含む)や生活ぶりを確認し、必要に応じて委任者の生活に関する相談にのる契約のことです。そして、財産管理契約でカバーしきれない病院、施設、介護事業者との契約の事務処理や保証人への就任などについても対応できるとして、任意後見契約や財産管理契約とセットで推奨されます。
② 見守り契約は高齢者のサポートのために有益だと思いますし、費用面でのハードルはありますが、高齢者も歓迎してくれるはずです。財産管理受任者や任意後見受任者が、同時に見守り契約の受任者を兼ねることが通常です。見守り契約の受任者を別の専門家(弁護士)などにすることも可能です。その場合、先程の財産管理受任者が義務を果たすように、監督機能を持たせる契約にすることができると思います。

【4】相談者へのアドバイス

① 相談者に対しては、財産管理契約、任意後見契約、見守り契約、死後事務委任契約などのセット活用が推奨され、入院・入所時の保証人サービスから、葬儀・埋葬までワンストップで引き受けると謳われるケースがあるけれども、全てを同一人物に頼るワンストップ・サービスでは監督者がいないので、不祥事を防止するには十分ではないことも説明します。
② 相談者から「全部やって欲しい」と頼まれた場合、財産管理契約と任意後見契約、見守り契約と遺言書作成や死後事務委任契約等を複数の専門職が受任する等して、不祥事防止の体制を構築することが大切でしょう。

【終活・遺言・相続相談】相談例16 任意後見契約

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【終活・遺言・相続相談】相談例16 任意後見契約についての記事です。

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【相談内容】
一人暮らしの相談者(81歳男性)から、会社を経営している甥(65歳)から、「おじさんは今後のことを考えて財産管理契約と任意後見契約をしたほうがいい。自分が引き受けるから」と繰り返し勧められている。よくわからないので、詳しいことを教えて欲しいと相談された。

【検討すべき点】
任意後見契約では、法定後見と違い、本人が信頼できる人を後見人に指名できる利点がありますが、実際には多くの問題があり、あまり活用されていない実態もあります。任意後見契約のどこに問題があり、その結果どのようなことが起きているかを相談者に説明します。

【1】任意後見契約

① 任意後見契約に関する法律は、成年後見制度と同じく、平成12年に施行されました。
② 任意後見契約は、委任者(本人)が、受任者(任意後見受任者)に対し、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状態における自己の生活、療養監護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部をあらかじめ委託し、代理権を付与する旨の委任契約で、任意後見監督人が選任された時からその効力を生じます(任意後見契約に関する法律3条、4条1項)。
③ 成年後見と異なる任意後見契約の最大のメリットは、委任者が元気なうちに自分の意思で任意後見受任者を指名できることです(委任できる権限の範囲も必要に応じて決められます)。成年後見制度の様々な問題を回避するための便法としても用いられてきました。

【2】任意後見契約の利用実態

① 弁護士、司法書士、公証人らが任意後見契約の長所を強調し、同契約を推奨してきたこともあり、令和元年の任意後見契約の新規登録件数は14,102件、同年7月29日時点での累計登録件数は120,962件にのぼりました(令和2年日本弁護士連合会・任意後見制度の利用促進に向けた運用の改善及び法改正の提言)。
② ところが、登記された類型120,962件のうち、本人死亡により閉鎖された登記を除く、100,504件の中で、「任意後見監督人の選任登記」がされたのは3,510件(約3%)しかありませんでした。
③ 任意後見契約を締結(登記)する人は多いけれども、多くの任意後見契約では、任意後見監督人が選任されず(したがって契約も未発効)、事実上、任意後見契約は利用されていません。

【3】任意後見契約の問題点

【3-1】委任者側の理解能力

① 令和元年12月の法務省調査では、任意後見契約時の委任者の平均年齢は80歳で、もっとも契約締結件数が多いのは83歳でした。この年代になると多かれ少なかれ判断能力が衰えますから(80歳~84歳の認知症有病率は21.8%)、委任者は任意後見契約の内容を正確に理解していない可能性があります。
② もともと高齢になると理解不足を疑われるのが嫌で、「わかった」といいがちですし、特に任意後見契約については「まだ先のことだ」を考えて同意しやすいのです。
③ したがって、任意後見契約は、もっぱら受任者側の主導によって取り決められやすいと言えます。

【3-2】財産管理契約との併用

① 任意後見契約の利用形態としては、即効型、移行型、将来型の3種類がありますが、令和元年のそれぞれの利用割合は1%、75%、24%でした(法務省民事局調べ)。つまり、任意後見契約が締結される4件のうち3件は、同時に財産管理契約が締結されているのです。
② しかし、このようなケースでは、財産管理受任者は、広範な権限に基づいて委任者の財産を管理しますから、本人の事理弁識能力が低下しても、わざわざ任意後見監督人による監督を求める必要がありません。むしろ、任意後見監督人がいない方が融通が利き、都合がよいのです。

【3-3】任意後見受任者の属性

① 法務省の調査によれば、任意後見受任者の割合は、親族70%、専門職17%、知人等6%、その他6%でした。しかし、もともと法律や経理に疎い親族が、財産管理受任者及び任意後見受任者としての職務を果たせるとは思えません。
② 専門職(弁護士、司法書士、税理士、コンサルタント)が親族に助言を与えて財産管理受任者に就任させ、その職務を代行しているのではないかと思われます。そうであれば、それら専門職にとっては家庭裁判所が選任する任意後見監督人は不要の存在です。

【3-4】任意後見監督人選任の請求権者

① 家庭裁判所に任意後見監督人を請求できるのは、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者ですが(任意後見契約に関する法律4条1項)、事理弁識能力の低下した本人、高齢者の配偶者、近くにいない親族などにこの役割を期待することは難しいと思われます。
② そうすると、本人(委任者)の状態をよく知っている任意後見受任者自身が任意後見監督人の選任を請求するしかありませんが、財産管理受任者を兼ねている任意後見受任者なら、その必要を感じないでしょう。

【3-5】任意後見契約に対する無理解

① 任意後見監督人が選任されなければ、任意後見契約が発効しないというのは(任意後見契約に関する法律2条1号)、弁護士や司法書士、行政書士にとっては常識ですが、世間ではそうではありません。
② そのため、代理権目録を添付した任意後見契約の公正証書と登記事項を見せられると、多くの方が(任意後見監督人選任前でも)成年後見人と同じ権限を持っていると誤解します。
③ 財産管理契約では認めないはずの出金を認める金融機関もあるそうです。そうした意味でも、任意後見受任者は、任意後見監督人選任の必要を感じません。
④ 任意後見受任者(=財産管理受任者)は、第三者(任意後見監督人)の監督を受けないまま、財産管理契約に基づいて本人の財産を管理するという状態が続き、任意後見契約はいつまでたっても日の目を見ないことになります。

【3-6】適時における任意後見監督人の選任

① 任意後見監督人選任の申立てをする時期についても、任意後見監督人選任の要件である、「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況にあるとき」(任意後見契約に関する法律4条1項)の判断は容易ではありません。
② 事理弁識能力は法律行為の結果が自己にとって有利か不利かを判断する能力であり、それが「不十分である」とは、民法13条1項規定の需要な財産行為について自分一人で行うことは不可能ではないが、適切に行えないおそれがあるため、他人の援助を受けていていた方が安心であるといった程度の判断能力をいうとされます。
③ この要件は、補助開始の要件とほぼ同じであるので、後見開始の要件や保佐開始の要件よりは手前の状態で足り、「一人にしておけない」「判断が危なっかしい」と思われる状態であれば該当するはずです。
④ ただし、客観的な判断と委任者本人の認識は往々にして食い違い、その意味でも任意後見監督人の選任請求の判断は遅れがちになります。

【3-7】本人の同意

① 任意後見監督人を選任するには本人の同意が必要です(任意後見契約に関する法律4条3項)。しかし、本人は自分の事理弁識能力の低下を認めませんし、財産にも執着しますから、「任意後見監督人の選任を申立てて財産管理に着手しますが、いいですか」と問われて素直に承諾するとは限りません。
② なお、本人の同意が得られない場合でも「本人がその意思を表示することができないとき」であれば任意後見監督人を選任できますが(同項但書)、家庭裁判所の調査官調査時にはっきり「いやだ」といわれてしまうとそれまでです。
③ そうなると、例外的に「本人の利益のため特に必要があると認められるときに限り」の要件を満たすものとして、家庭裁判所に後見開始の審判を求めるしかなくなります(同法10条1項)。

【4】相談者へのアドバイス

① 相談者は、甥から任意後見契約と財産管理契約の併用(移行型)を勧められているわけですが、甥に何か思惑がありそうな場合には、移行型には濫用の危険性があることを説明して、慎重に判断するようにアドバイスします。
② 弁護士が相談者の代理人として、これらの契約締結交渉を担当することができることも説明するとよいかもしれません。
③ 相談者から相談を受けた弁護士や行政書士に対して任意後見契約の受任者になるように求められた場合には、●任意後見契約に関する相談者の理解を確認し、●財産管理契約を伴わない将来型の任意後見契約を検討し、●任意後見監督人の選任申立てに関する具体的基準を相談者と協議して、●その申立てに対して同意しない場合は任意後見契約を解除することを確認する(任意後見契約に関する法律9条1項)などの手順で引き受けるべきだと考えます。

【終活・遺言・相続相談】相談例14 判断能力に疑問がある高齢者と金融機関

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【相談内容】
相談者から「これまで父(85歳)の生活費を父名義の預金口座からカードで引き出してきたが、預金残高が少なくなったので、父と一緒に銀行へ行って1年前に契約した投資信託の解約を銀行に申し込んだ。ところが、待たされた末、銀行は成年後見人をつけないと解約に応じられないという。銀行を訴えられないか」と相談された。

【検討すべき点】
銀行が成年後見人の選任を求めたのは、預金名義人(父)の認知判断能力に疑問を持ったからでしょう。銀行を訴えたとしても、解約に応じるよう銀行に命じる判決が出る可能性は低そうです。父の投資信託を解約するためには後見開始を申立てるしかないと思われます。なぜそのようなことが起きるのか、これからどうすればよいかについて、相談者に説明します。

【1】高齢者に対する金融機関の対応

① 金融機関にとって高齢者は投資信託等金融商品売り込みのターゲットですが、逆に、高齢者による預金の引き出しや投資信託の解約は難題の一つです。
② 認知判断能力が低下したと思われる高齢者との取引に応じたのでは、後日、金融機関の責任を追及されかねないからです。預金名義人のキャッシュカードと暗証番号を利用してATMから出金される場合はともかく、やや頼りない高齢の預金名義人が直接窓口に来られて多額の預金や投資信託の解約を申し込まれた場合には、この問題が顕在化します。
③ 金融機関は預金名義人の認知判断能力に疑問があれば、受領権者としての外観を有する者への弁済(民法478条)の要件を満たさない可能性があるため、ほぼ例外なく、「成年後見人を付けてください」という対応をとります。
④ 相談者としては、後見開始を申立て、成年後見人から金融機関に対して投資信託の解約を申し入れるしかありません。
⑤ 最高裁判所事務総局家庭局作成の「成年後見関係事件の概況」によれば、法定後見の審判の申立ての動機として、「預貯金の管理・解約」を挙げるものが37.1%で最多です。つまり、金融機関がこのように対応するため、認知判断能力に疑いありと見受けられる場合には成年後見等を申立てせざるを得ない状況です。
⑥ しかし、相談例では、1年前に投資信託契約を締結しているので、相談者が納得できないものも当然です。

【2】金融機関の取り組み

① このような問題に対応するため、金融庁は、令和2年7月、高齢者に金融商品を頻繁に売買させて手数料を稼いだり、投資信託を勧誘する場合に他の商品と比較させないといった金融機関の手法を問題視するとともに、高齢者の預金の引き出しについても、それが医療や介護など明らかに預金名義人本人のための支出であれば柔軟な対応が望ましいとして、行政指導に乗り出しました。
② 全国銀行協会も、令和3年2月18日、認知判断能力が低下した高齢者らに代わって親族などが預金を引き出すことを条件付きで認めるとの見解を発表しました。
③ これによると、預金引き出しには原則として預金者本人の意思確認は必要で、依然として認知判断能力に問題がある場合には法定後見制度の利用を促すものの、医療費や介護施設の費用の支払など預金者本人の利益になることが明らかな場合には、引き出しにも柔軟に応じるよう全国の銀行に促すようです。
④ そうだとしても、診断書や主治医の意見書は必要か、医療機関等への直接振込に限って認めるのか、投資信託などの金融商品の解約はどのような条件下で認めるのか等の詳細はまだ決まっていません。

【3】代理出金機能付信託

① 金融機関でも、認知判断能力が減退した高齢者の預金の出金について、代理出金機能付信託という商品を用意しています。
② 「代理出金機能付信託」とは、預金契約者の認知判断能力が低下した場合に備え、契約者が金融機関に預金を信託し、契約者が指定した家族等の代理人が契約者の信託預金を引き出せるという信託商品です。
③ 大手銀行のどの信託も仕組みはほぼ同じですが、契約者は一定額以上の預金を信託銀行に信託し、その際に信託額の1~2%程度の管理手数料を支払い、出金の権限を持つ代理人と閲覧者を指定します。信託された預金を引き出せるのは代理人のみで、閲覧者が監視するというシステムで、代理人が預金を引き出した際には、閲覧者に通知されるため、不正の防止に役立つとされています。
④ このシステムを導入すれば、契約者が自分の意思を表示できず預金を引き出せなくなっても、代理人が生活費などを契約者の口座から支払うことができるということになります。

【4】代理出金機能付信託の問題点

① 代理出金機能付信託は契約行為ですから、その契約を行う時点では、預金契約者に契約を締結する意思能力が備わっていることが前提です。したがって、父の言動が怪しくなってきたと気づいたときには手遅れかもしれません。
② 代理出金機能付信託の長所は、後見開始の申立てと比べれば、比較的簡単であり、長男が代理人、次男を閲覧者と指定すれば、、家族の中で完結することです。それは専門職後見人や成年後見監督人に介入されることがないことを意味しています。
③ 受託者である銀行に対しては管理手数料を支払う必要がありますが、月額の利用料は少額に抑えられるので、専門職後見人等に支払う報酬に比べれば割安と思われます。
④ しかし、代理出金機能付信託は、家族の中で完結するが故に心許ない点があります。出金されたお金の使途は限定されませんので、閲覧者(次男)にも、代理人(長男)が出金したお金を何に遣ったかはわかりません。また、閲覧者に指定されなかった推定相続人(たとえば三男)には、出金の事実は通知されないので、蚊帳の外に置かれるような状態になります。このことが将来の争族(相続紛争)の原因になる可能性があります。

【5】相談者への説明

① 今回の相談例では、父に認知判断能力に問題があると思われる事情があるなら、銀行の言う通り、後見開始の申立てをするしかないと説明せざるを得ません。
② 仮に医師の診断書などで、父の認知判断能力が投資信託の解約に必要な判断能力を保持しているとされた場合は、その診断書などで金融機関と交渉することになります。

【終活・遺言・相続相談】相談例13 「借家人がおひとり様」大家さんの悩み

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【相談内容】
相談者(41歳男性)から「父が亡くなり、祖父の代から部屋を貸している長屋を相続したが、借家人の1人(88歳女性)は身寄りがなさそうだし、認知症が始まっている感じもするので、先のことを心配している。今のうちにできることはないか」と相談を受けた。

【検討すべき点】
高齢者に部屋を貸している貸主もサ高住のケースと立場が似ています。ただし、サ高住の場合、入所者の生活を観察・把握しているのに対して、高齢の借家人は孤立しており、貸主も気づかないうちに孤独死されていることもあります。さらに、古くからの借家の場合は契約書がないことも多く、貸主は相続開始後の対応に苦労します。

【1】貸家の相続

① 昭和20年代は戦災で住居を失った方々の多くが長屋(木造1階建て壁共通の建物)の借家人になりました。都市開発により少なくはなってきましたが、今でも長屋は残っており、賃貸人も借家人も代替わりして借家契約が存続している例があります。
② このような借家契約は・「建物賃貸借契約書が見当たらない」・「契約書があり連帯保証人の署名と押印があるが、その保証人はすでに他界している」・「賃貸人と借家人の相続が繰り返されることにより両者の関係が疎遠になっている」・「不動産管理業者に借家の管理を委託せず、賃貸人が自ら集金する形態が多い」・「借家人が高齢化し孤独死の可能性が高くなる」等の問題が予想できます。

【2】借家人の死亡に関する問題

① 相談例の場合で建物賃貸借契約書が見当たらず、かつ、何も対策を講じないまま借家人が死亡した場合には、以下の問題が生じます。
第1 借家人(被相続人)の相続人が不明で、親戚・縁者にも連絡がつかなければ、相談者は葬儀、火葬、埋葬について対応できません(無縁仏になる可能性が高いでしょう)。
第2 借家人が死亡しても借家契約は相続人に承継されますし、厳密にいえば借家契約の合意解除には相続人全員の同意が必要ですから、弁護士や司法書士などによる相続人調査(職務上請求)が必要です(借家契約は一代に限るという契約書があれば別です)。
第3 借家契約を解約できても明渡しや原状回復の問題は残ります。サ高住のような介護施設の貸室ならば部屋も狭く動産も限られますから、貴重品を役所や警察に預かってもらって現状回復ができますが、長年の借家で荷物が多ければ遺品整理業者に原状回復を依頼するため数十万からの費用がかかります。
第4 借家人に相続人がおらず、又は相続人全員が相続放棄をすれば、相続財産管理人の選任申立てが必要になり、この申立てにも予納金が必要です。
したがって、相談者が貸家を相続した直後なら、この機を逃さず、新たな借家契約を締結し直すべきでしょう。

【3】孤独死

① 「孤独死」とは、一人暮らしの者が誰にも看取られることなく、自宅での突発的な事故や疾病により、助けを呼ぶこともできないまま死亡することを言います。
② 借家人が孤独死された場合は発見が遅れるため、ご遺体は腐敗や腐乱が進み、部屋そのものにダメージが及びます。したがって、家主は腐敗後の痕跡を消し、死臭を消臭するなどのため特殊清掃業者にクリーニング(特殊洗浄)を依頼せざるを得ず、全面改装が必要になることもあります。
③ 孤独死のあった部屋を新たに賃貸する場合、それが心理的瑕疵に当たるほどのものなら、貸主は告知義務を、仲介業者は重要事項として説明する義務を負いますので、次の借り手を探すのは困難です。したがって家主は借家人がどうやって生活しているのか気になって当然ですし、頻繁に借家人の安否を確認しなければなりません。

【4】借家人とのコミュニケーション

① 建物賃貸借契約書と連帯保証人を確認します。次に借家人から四親等内の親族を聞き出し、一度連絡を取って借家人の状態を知らせておくべきでしょう。また、借家人の認知症が進行するようでしたら、成年後見人をつけてもらうようお願いします。
② もちろん88歳の借家人が41歳の家主に親族を教えてくれるとは限りませんが、借家人も、常に孤独死の恐怖を感じておられるはずです。そうであれば、相談者自ら足しげく借家人を訪問し、思い出話などを交えて健康を気遣えば心を開いてくれるかもしれません。
③ 機械警備を行っている警備会社も、一人暮らしの高齢者の異変を察知できる見守りサービスを展開しています。これは、高齢者が体調の異変を感じたときに警備会社を呼び出したり、高齢者からの通報がなくとも、人感センサーなどを設置して緊急事態を感知するといったサービスで、月額数千円程度の基本料金がかかりますが、借家人やその家族のみならず、家主にとっても利用価値があるサービスです。

【終活・遺言・相続相談】相談例12 おひとり様の入所者の終活

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【終活・遺言・相続相談】相談例12 おひとり様の入所者の終活に関する相談についての記事です。

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【相談内容】
サービス付高齢者向け賃貸住宅(サ高住)の担当者から、「身寄りがなく認知症の入所者(95歳女性)の病気が進行し、余命いくばくもないと分かった。連帯保証人がいないので、これから先の、財産の管理、延命治療、ご遺体の引取り、葬儀埋葬、賃料の請求、貸室の明渡し等について、どうすればいいかわからず困っている」と相談を受けた。

【検討すべき点】
介護施設も、身寄りのない入所者にもしものことがあった場合には、対応に苦慮します。認知症が進行して事理弁識能力がないなら、財産管理契約も遺言もできません。利害関係人である施設は、後見開始の申立権者ではありませんので、本人申立てを検討します。

【1】サ高住の実情

① サ高住は高齢者の居住の安定確保に関する法律によって創設された民間施設で、比較的健康な高齢者向けの住まいとしてスタートし、特別養護老人ホーム待機者の受け皿として発展してきました。
② 様々な業者が参入して過当競争状態になり、令和元年度は53施設が倒産又は廃業しました。サ高住は賃料だけでは経営が成り立ちにくいので、約8割の施設が訪問介護ステーションやディサービスを運営し、これらのサービスと併せて収益を上げています。

【2】介護施設の立場

① サ高住の経営的な視点だけで考えれば、要介護度が高く、自社が提供する介護サービスで売上を稼ぐことができ、かつ、手のかからない高齢者で部屋が埋まっているのが理想です(介護サービスが不要な自立した方は割に合いません)。その上、入所契約の際に保証人(推定相続人)がいれば安心できます。
② しかし、空室が多いと経営が苦しくなるので贅沢は言えず、保証人がなく、身寄りもない高齢者でも生活保護受給者でも、とりあえず入所させることがあります。そのような入所者が死亡した際には、ご遺体の引取り、賃料等の請求、貸室の明渡しなどの処理に窮します。
③ ちなみに、縁者がいないケースでは、市町村長に申告することによって無縁仏として処理してもらえますが、財産はあるが、相続人が不明な場合、その後の処理も問題になります。

【3】成年後見の活用

① 認知症の入所者について後見が開始すれば、施設(サ高住)は成年後見人に入所者の財産管理を任せることができます。
② 入所者死亡時には、成年後見人が死亡届を提出し、火葬及び埋葬に関する契約の締結に関する家庭裁判所の許可を得て、火葬、埋葬手続きを行うこともできます。
③ しかし、被後見人の葬儀については民法873条の2第3号に例示されておらず、成年後見人が葬儀を執り行うことまでは認められていませんので、葬儀は直葬になります。
④ 被後見人の相続開始後、成年後見人は貸室の明渡しや入院費通院費の支払いも弁済期の到来した債務の弁済(民法873条の2第2号)として行うことができます(残置物の廃棄や保管のための寄託契約の締結は「その他相続財産の保存に必要な行為」(同条3号)として、家庭裁判所の許可を得て行ないます)。
⑤ 成年後見人には延命治療の同意権はありませんが、相続開始すれば相続人に管理財産を引き渡す義務があるので、事前に入所者の戸籍を調べて親族(推定相続人)の有無や所在を確認し、連絡を取ってくれると期待できます。そうすれば、延命治療、葬儀及び埋葬などについて、親族の意見を伺うこともできます。このように身寄りのない入所者の成年後見人が選任されることは施設(サ高住)にとっては好都合になります。

【4】後見開始の申立て

① 後見開始の申立ては、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人等に限られており、介護施設などの利害関係人は含まれません(民法7条、11条、15条1項)。そこで、身寄りのない入所者でも、多少なりとも事理弁識能力が残っているなら、その入所者本人からの後見開始の申立てを試みることになります。
② しかし、入所者が意思表示できなかったり、あるいは「自分はまだ大丈夫だ。金を他人に任せる気はない。」と主張するならば、この方法は使えません。そうなると、四親等内の親族を探し出し、事情を説明して後見開始の申立てをお願いすることになります。
③ 四親等の親族も判明しないときは、市町村長から後見開始の申立てをお願いするしかない(老人福祉法32条)ので、市区町村の老人福祉課に相談することになります。

【終活・遺言・相続相談】相談例11 施設入所に関する相談

世田谷区砧で子供のいないご夫婦、おひとり様の遺言書作成、相続手続き、戸籍収集支援、任意後見、死後事務委任に詳しい行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。
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【終活・遺言・相続相談】相談例11 施設入所に関する相談についての記事です。

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【相談内容】
相談者(55歳女性)から、「同居している母(82歳)が転倒した際に腰椎を骨折し、介護が必要になった(要介護3)。母は自宅から離れたくないというが、自分たち夫婦にも仕事があるので、母の面倒を見るのが難しい。在宅介護するべきか施設入所させるべきか迷っている」と相談された。

【検討すべき点】
高齢者や家族にとって在宅介護か施設入所かは喫緊の課題です。できればケアマネジャーとも相談して解決方法を探します。在宅が無理ならば介護施設のパンフレットを取り寄せ、各施設のサービスの内容、費用、環境、本人の意思との適合性を考え、実際に現地を見学することも必要です。

【1】在宅介護の可能性

① 高齢者の家族から「親を施設に預けたい」と聞くことはよくありますが、ほとんどの高齢者は住み慣れた自宅を出て施設に入所することを希望されません。
② そこで、まずは、在宅のまま、介護サービスを受けて対応できないかを検討します。在宅の場合の介護サービスとしては、訪問型サービスと通所型サービスがあります。
③ まず、自宅への訪問型サービスとしては、訪問介護、訪問看護、訪問入浴、訪問リハビリなどの方法があります。また、施設への通所型サービスとしては、ディサービス、ショートステイ、等の方法があります。
④ それぞれのご家庭によって組み合わせは異なりますが、たとえば、月・水・金曜日は日中ディサービスを利用し、火・木曜日は在宅で訪問介護を利用し、平日の夜と週末は子が親と一緒に過ごすというパターンなどをとるご家庭もあります。それでも、高齢の親が一人で過ごす時間帯が残ります。

【2】在宅介護の危険性

① 在宅における介護者の負担は、重くなることはあっても軽くなることはありません。そして、その状態が長く続くと、介護者も被介護者とともに高齢になって「老々介護」や「認認介護」(認知症患者が認知症患者の介護をする状態)を招きます。
② そして、介護者が自分の役目をこれ以上果たせないと悲観して、自殺や心中などの結末に至ることもあります。そのような悲劇を避けるためには、いずれ、施設入所を決断するしかないでしょう。
③ 住み慣れた家から離れたくない、子と一緒にいたいといった親の気持ちや、頼りにしてくる親を見捨てられないという子の気持ちは理解できますが、共倒れは避けねばなりません。

【3】介護施設の種類

① 相談者の母親の状態、相談者の家族や仕事の負担などをケアマネジャーに説明し、在宅介護で対応できないなら、介護施設への入所を検討します。以下に介護施設の概要を記します。
●【特別養護老人ホーム】入居対象(要介護3以上):「特徴」終身対応可能な公的施設。認知症患者も受け入れ可。費用が安いので、入居待ちが多く、入所まで待たされる。
●【介護老人保健施設(老健)】入居対象(要介護1以上):「特徴」リハビリ目的の公的施設。費用が安く、認知症患者の受け入れも可。入所待ちが多く、入所まで待たされる。終身を予定していないため、帰宅可能になると退所を促される。
●【介護療養型医療施設】入居対象(要介護1以上):「特徴」公的施設。認知症患者も受け入れ可。現在このタイプの施設は廃止される流れである。
●【軽費老人ホーム】入居対象(自立~要介護3):「特徴」公的施設。認知症患者も事情によって受け入れるが、入所まで待たされる。
●【ケアハウス】入居対象(自立~要介護3):「特徴」公的施設。認知症患者も事情によって受け入れるが、入所まで待たされる。
●【介護付有料老人ホーム】入居対象(自立~要介護5)「特徴」民間施設で認知症患者も入所可。ケアマネジャー他のサービスを提供するが、通常その施設指定の介護サービス以外選択できない。
●【住宅型有料老人ホーム】入居対象(自立~要介護5)「特徴」民間施設で、認知症患者も事情により受け入れる。
●【グループホーム】入居対象(要支援2~要介護5)「特徴」民間施設で認知症患者も入所可。9人を1ユニットとして集団生活をさせる。
●【サービス付高齢者向け住宅(サ高住)】入居対象(自立~要介護3)「特徴」2001年施行の高齢者の居住の安定確保に関する法律により創設された民間施設。ケア専門家が常駐するバリアフリー構造の賃貸住宅。認知症患者の受け入れは要相談。入居まで待たされる傾向。国土交通省管轄で厚生労働省管轄の住宅型有料老人ホームと区別されるが、内容はほぼ同じ。
●【健康型有料老人ホーム】入居対象(自立のみ)「特徴」民間施設。認知症患者は入所できない。
●【シニア向け分譲マンション】入居対象(自立~要介護5)「特徴」民間施設。認知症患者も事情により受入可。設備が充実しているものは高額。売却時にはかなり値下がりする。

【4】施設の検討(費用の比較)

① 施設入所に当たっては、施設入所にかかる費用を検討します。施設利用料には、入居一時金、月額費用(施設利用料、食費、介護費用、管理費など)があります。
② いくつかの施設の10年間でかかる費用を比較します。なお、受給年金額での変動費や都市部での割増、個室使用料、医療費介護費用の変動などは考慮していません。
【特別養護老人ホーム】入居一時金0円、月額費用10万円、10年間費用1,200万円
【グループホーム】入居一時金20万円、月額費用18万円、10年間費用2,180万円
【サ高住】入居一時金20万円、月額費用18万円、10年間費用2,180万円
【介護付き有料老人ホーム】入居一時金200万円、月額費用27万円、10年間費用3,440万円
③ 特別養護老人ホームの安さが目立ち、希望者が殺到して順番待ちになる理由がわかります(公的施設は入居一時金がないことが多く、月額利用料も数万円に抑えられ、特養は最後まで面倒を見てくれます)。
④ 民間施設である「介護付き有料老人ホーム」などの「有料老人ホーム」は、入居一時金が高く設定される傾向があり、サービスが充実しているので、月額利用料であまり差がないように思えても、10年も利用すれば大きな差が出ます。
⑤ 最近主流になりつつある「サ高住」や「グループホーム」では、入居一時金を比較的安く設定され、賃料以外も含めた月額費用は約20万円が目安です。
⑥ 検討すべき点は、この費用を利用者本人の年金収入で賄えるのかという点です。相談例での母の年金収入が、老齢基礎年金と亡夫の遺族厚生年金だけであるとすれば、月額約12万円程度でしょう。サ高住やグループホームを利用すると、確実に赤字です。収入と施設利用料の差額を利用者の現有資産で賄えるのかが問題です。
⑦ 同居の親子でも、子が親の資産(預貯金額等)を把握しているとは限りません。「親の為だから、自分が負担すればいいや」という考えも浮かぶでしょうが、共倒れは避けねばなりません。

【5】施設の検討(費用以外の要素)

① 入所候補の施設が清潔で、職員を含め雰囲気が良いかどうかも検討すべき点です。経営がしっかりしていなければ、介護施設の倒産もあり得ます。
② 相談例の母がその施設を気に入るかどうか、家族が訪問しやすいかどうかも検討します。家族はケアマネジャーと相談して候補となる施設を選び、パンフレットなどを取り寄せ、実際に母と一緒に施設見学に行きます。もっとも、高齢者は、いろいろと気に入らない理由をつけて施設入所を拒む傾向があり、家族やケアマネジャーが協力して説得することになります。
③ なお、成年後見人に選任されている弁護士や司法書士が、家族やケアマネジャーから施設入所について相談された際、「身上監護には関知しない」と突き放すような対応があると批判されていますが、後見人も下見に同行して被後見人の説得に当たるべきです。

【終活・遺言・相続相談】相談例10 介護に関する相談

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【終活・遺言・相続相談】相談例10 介護に関する相談についての記事です。

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【相談内容】
母親(79歳女性)と同居している相談者(46歳男性)から、「母に認知症の症状が出始め、一人で外出することも危なくなってきた。妻(40歳)にも仕事があり、2人の子ども(9歳・6歳)もいるので、これ以上、家族で母の面倒を見るのは難しい。どうすればいいか。」と相談された。

【検討すべき点】
同居している親が自分のことを自分で出来なくなり、家族による介護も限界を迎えれば、介護サービスを利用するしかありません。また、親の介護と子の養育が重なる場合は、仕事との両立も困難です。相談者に対しては介護サービスの内容を説明します。

【1】介護保険

① 介護保険は、平成9年(1997年)に制定された介護保険法により、平成12年(2000年)4月1日に始まった社会保険制度で、高齢者が尊厳を保持し自立した生活を営むことができるよう保険医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うものです(財源は公費と介護保険料と自己負担で賄われます)。
② 寝たきりや認知症等で常時介護を必要とする「要介護状態」になった場合や、家事や身支度等の日常生活に支援が必要とする「要支援状態」になった場合に、介護給付や予防給付を受けて、介護サービスを利用することができます(介護保険法1条、2条)。

【2】地域包括支援センター

① 介護保険の適用を受けるため、相談者に、市区町村の介護保険課や地域包括支援センターへの相談を勧めます。
② 地域包括支援センターは、地域住民の保健・福祉・医療の向上、虐待防止、介護予防マネジメントなどを総合的に行う機関で、保健師、主任ケアマネジャー、社会福祉士などが置かれ、専門性を活かして連携しながら業務に当たります(介護保険法115条の46)。
③ 地域包括支援センターは、地域ごとに置かれており(中学校区などに一つ程度)、高齢者にとっては「駆け込み寺」ないし「なんでも相談所」の役割を担いますので、介護保険に関する事以外でも、日常生活の支障に関することなら地域包括支援センターに相談できます。

【3】地域包括支援センターに置かれる専門職

① 「保健師」とは、看護師資格を持ったうえで国家試験を受け、厚生労働大臣の免許を受けて保健指導に従事する者(保健師助産師看護師法2条)、約5万人が稼働しています。なお、助産師は約4万人、看護師は約121万人、准看護師は約30万人です。
②「ケアマネジャー」(介護支援専門員)とは、介護保険制度においてケアマネジメントを担当する有資格者(介護保険法7条5項)で、要支援・要介護認定者とその家族から相談を受け、介護サービスの給付計画を作成し、自治体や他の介護サービス事業者との連携や調整を行ってくれます。平成28年時点で約66万人が合格しています。
③ 「社会福祉士」とは、日常生活を営むのに問題がある人からの相談に対して助言や指導、援助を行う専門職の国家資格で、全国で約25万人が登録し、成年後見人にもよく選任されています。

【4】介護保険適用の流れ

① 地域包括支援センターでケアマネジャーに相談し、要介護認定(要支援・要介護)を受けて、ケアプラン(介護サービス計画書)を作成してもらいます。要支援・要介護の認定者は、全国で約700万人います。介護認定を受けると、原則1割の自己負担で、介護サービスを受けることができます。
② 介護サービスの対象となる要介護状態や要支援状態にあるかどうか、該当するならどの程度かの判定を行うのが「要介護認定」で、保険者である市区町村に設置される介護認定審査会が判定します。
要介護認定は、介護サービスの給付額に反映されるため、その基準は全国一律です。そこで、保険・医療・福祉の学識経験者により構成される介護認定審査会が、高齢者の心身の状況調査に基づくコンピューター判定結果(一次判定)と主治医意見書などに基づいて、審査判定(二次判定)を行います。
③ なお、この過程で認知症と診断されることもありますが、介護保険の適用に関しての調査ですので、その判断をもって、遺言能力等の有無を判断する決定的な材料とすることはできません。

【5】要介護認定の基準

① 要介護認定は「介護の手間」を表す「ものさし」としての時間である「要介護認定等基準時間」を、所定の事項にあてはめ、さらに認知症高齢者の指標を加味して実施するもので、「要介護認定等に係る介護認定審査会による審査及び判定の基準等に関する省令」として定められています。

【終活・遺言・相続相談】相談例9 親との同居

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【終活・遺言・相続相談】相談例9 親との同居についての記事です。

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【相談内容】
相談者(62歳男性)から、「田舎で一人暮らしをしている母(86歳)が認知症のようなので、心配している。弟(次男59歳)もいるが、私は長男だし、私の2人の子も就職して家を出たので、母を引き取って、妻(60歳)と3人で暮らそうと思うが、どうだろう」と相談された。

【検討すべき点】
子が認知症の親を引き取って面倒を見るというのは美談とも言えるいい話です。しかし、実際の世話をするのが息子ではなくその配偶者であれば、その配偶者の理解は不可欠ですし、先々のことも考えておかなければなりません。また、兄弟姉妹への配慮や田舎の実家の処分も検討材料です。善意だったとしても、それが仇にならないように、将来を予測したアドバイスが必要になります。

【1】親と同居のパターン

① 別々に暮らしていた子が高齢の親と同居して面倒を見るパターンとしては、概ね以下の4つに分類されます。
(1)子が親を田舎から呼び寄せる「引取り」
(2)子が実家に戻って親と同居する「実家での親との同居」
(3)複数の子が持ち回りで親を預かる「ローテーション」
(4)子が自宅と実家を行き来する「半同居」
相談例はこのうちの(1)のパターンです。

【2】当事者の心理

① 一般的に高齢の親は住み慣れた自宅から離れたいとは思わないので、母の気持ちを考える必要があります。それでも、母が長男の申出に応じたのなら、自宅で自立して暮らす自信がなくなり、地元の施設にも入りたくない(大勢の前で恥をかくのが怖い)といった気持があるからかもしれません。
② 長男としては、長男の責任を果たしたい(在宅介護してあげたい)という気持ちが強いのだろうと思います。男性で単身の子が親を引き取るというパターンはあまり見られないので、配偶者(妻)が母の面倒を見てくれるだろうという、甘い考えがありそうです。
③ しかし、相談者の妻としては、義母との同居は歓迎できることではないケースが圧倒的です。そうであれば、同居すれば義母の資産を流用させてもらえるとの期待を抱くことは当然あり得ますし、いざとなれば施設に入居してもらうという考えもあり得ます。
④ 一方、次男は母の介護問題から逃げられるので、あまり文句を言わないでしょう。長男一家が母の財産を多少流用することも想定範囲かもしれません。しかし、母の財産が一気に減少したり、母から長男一家への恨みつらみを聞かされたり、長男が母を引き取って間もなく施設に入所させたりといった事情が生じれば、「親孝行は口先だけ」と長男夫婦を非難し始めるでしょう。

【3】同居と介護

① 親との同居は、もちろん在宅介護を意味しますが、在宅介護のたいへんさは経験してみないとわかりません。介護サービスを利用するとしても、徘徊、癇癪、愚痴、下の世話などを経験し、それまでの生活が制約され、認知症が進んだ親から感謝されなくなれば、やがて我慢の限界を迎えます(認知症の見当識障害から、排泄物を弄んだり壁に塗りたくる等の症状も見られますので、そうなると一層我慢することが辛くなります)。そうなると施設への入所を選択せざるを得なくなります。
② 母の他界後、遺産分割の段階になれば、長男夫婦には「介護の苦労はどう評価してくれるのか」という気持ちが生じます。
③ 寄与分(民法904条の2)には、「特別の寄与」との厳しい要件があり、よほどのことがなければ認められません(上記のような症状の親の面倒を見る程度では、認められません)。
④ 平成30年民法改正では、配偶者の苦労に配慮して、相続人ではない親族(相続人の妻など)が被相続人に対して無償で療養看護などの労務を提供した場合には、特別寄与料が認められることになりました(民法1050条)が、寄与分と比べて要件が大幅に緩和されたわけではありません。実際どのような場合に請求が認められるかも、まだ判例がなく不透明です。
⑤ したがって、相談者は、同居後に在宅介護が不可能な状態になったらどうするのか、また、在宅介護は特別の寄与に認められにくいということを考えなければなりません。

【4】親の財産管理

① 親と同居するには、他の兄弟姉妹から親の資産の流用を疑われないように、親の財布と子の財布を完全に分ける必要があります。具体的には、親子双方が別の家計簿をつけ、親の出費は出来る限り口座引き落としや振り込みを利用し、ATMからの現金出金を避け、1年に1度は他の兄弟姉妹に預金通帳の写しや収支の明細を送ることを勧めます。日常生活を写真や動画に写しそれを送るなどの工夫が大切です。
② このことは、長男が母の成年後見人になったとした場合に必要となる行為でもあり、成年後見を申し立てない場合でも、任意財産管理契約を締結したのと同じ運用と報告をすべきだということです。
③ よく問題となるのは、孫の入学や卒業の祝い金、結婚祝、出産祝、新築祝等の現金出金ですが、兄弟姉妹の各ケースを同額としておくなど、事前に話し合いで決めておけば、紛争を回避できます。
④ また、母を迎え入れるのに、バリアフリーなどのリホームや階段風呂場トイレなどに手すりを設置する等の工事を行う場合も、事前に兄弟姉妹の同意を得て、領収書を保存することが大切です。
⑤ 母の住んでいた田舎の実家は、帰る予定がないならば、空家問題を避けるためにも早めに処分すべきです。これは相談例では弟がいますので、よく話し合って決める必要があります。
⑥ 相談例でいう弟の立場の人から相談を受けた場合のアドバイスとしては、長男に母の生活費を教えてもらい、その一部でも分担して母名義の口座に仕送りすることをお勧めします。これは長男の浪費の抑止にもつながります。

【5】他の同居のパターン

① 相談例とは違うケースですが、【1】同居のパターンの(2)「実家に子が同居」のケースについて、子が身軽な単身者である場合が多いようです。この場合、非同居の兄弟姉妹からは、同居の子が自分の都合で親に寄生しているとみられるリスクが高くなります。このケースは親の預金の流用や自宅相続などの問題でもめやすいため、親の財産管理は【1】(1)の「呼び寄せて同居」パターンより気を使い厳格にすべきでしょう。
② これに対して【1】(3)の複数の子が持ち回りで親を預かる「ローテーション型」のパターンは、たとえば2か月ごとに、長男や次男・長女や次女の家を行ったり来たりするもので、あまり多くは見られませんが、高齢の親にとっては移動が負担になり、頻繁な環境の変化は認知症の進行にも悪影響を与えるので、あまりお勧めはできません。
③ また、【1】(4)の「子が実家と自宅を行き来する半同居」は、子が金曜の夜から日曜日まで実家に戻り親の介護をするといった方法です。その子にとっても大きな負担になることは自明なので、兄弟姉妹の仲がこじれることは少ないのですが、二重生活の為、費用面でも、体力面でもこの負担が重くなり、長続きしないケースが多くなります。

【6】親の言動についての注意

① 同居の場合に限定されませんが、認知症が進んだ高齢の親は、子どもの気を引きたいがゆえに、目の前の子に迎合する言動が多くみられ、目の前にいない子の悪口を言う傾向があります。
② 例えば、次男に「長男夫婦にご飯を食べさせてもらえない」「長男に預金通帳を取り上げられた」といい、長男には「頼りになるのはおまえだけだ」「次男は私の財産を狙っている」などと媚びるのです。高齢者として自然ともいえる行動ですが、子どもらがその言動を真に受けると、確実に争族の種になります。これを避けるためには親に「子供の悪口は言わない」ことを約束してもらうことと、兄弟姉妹間で話合い、親の言動を真に受けないとしておくことですが、実際は難しいところです。

【7】相続開始前の紛争(前哨戦)

① 親と同居していること非同居の子の対立が深まれば、相続開始前でもトラブルが生じます。
② 長男が親が「次男の顔も見たくない」と言っているとして、次男との面会を遮断することがあります。実際、親が同居の子の顔色をうかがってそのような発言をすることもありますが、非同居の子からすれば、それは許せるものではありません。そこで、自宅に押し掛け、警察を呼ばれ、弁護士に依頼して面会交流を求める親子関係調整調停事件に発展することもあります。
③ しかし、子に「親との面会を求める権利」はありません。「親が会いたくないといっている」として調停期日の出頭を拒否されると打つ手がありませんし、人身保護法2条の申立ても要件が厳しく、うまくいく見込みはあまりありません。
④ そこで、腹に据えかねた非同居の子が、ディサービスの帰りに親を連れ去るといった自力救済も起こり得ます。これに対して、同居の子が親の取返しを図ろうとすると、今度は非同居の子が「親は家に帰りたくないといっている」と主張します。
⑤ さらに、親を確保した子が、遺言書を書かせ合うといったこともあります。離婚事件の子供の取り合いに似ていますが、こうなると手の施しようが有りません。
⑥ その他、非同居の子が、同居の子が親の財産を費消することを予防するために後見開始を申し立てることも頻繁に見受けられます。そして、同居の子は家庭裁判所からの意見照会で後見開始の申し立てを知ることになりますが、例外なく激怒し紛糾します。
⑦ 相続前でもこれだけもめていれば、相続発生後に紛争になるのは必至です。親との同居はその遠因となるかもしれませんので、相談者には以上のリスクをお伝えし、十分に検討していただくようお勧めします。

【終活・遺言・相続相談】相談例8 ゴミ屋敷

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【相談内容】
相談者(55歳女性)から、「一人暮らしの叔母(84歳)の家に行ってみたところ、ゴミで足の踏み場がなく、玄関外にもごみが散乱していた。隣近所の人からもなんとかしてと言われたが、私がゴミを整理しようとすると叔母が怒り出し、どうすればよいか困っている」と相談された。

【検討すべき点】
高齢者の一人暮らしの家がゴミ屋敷と呼ばれ、近隣住民が迷惑しているというニュースをよく見るようになりました。ただし、本人が「ゴミ」と思っていなくて、ゴミではないと言い張ると、有効な手段がないのが現状です。令和3年民法改正により、管理不全土地管理命令や、管理不全建物管理命令の制度が新設されましたが、ゴミ屋敷問題の解決には、まだまだ難しい問題が残されています。

【1】ゴミ屋敷とは

① 高齢になると、どうしても物忘れが多くなり(認知症が加わればなおさら)、さっきまで手元にあった物がどこに行ったか分からなくなります。間違えて大切なものを捨ててしまったらたいへんだと思い、部屋に物があふれます。
② たまにゴミをだそうと思うものの、分別収集日は覚えていないし、燃えるゴミ、燃えないゴミ、資源ごみ、ペットボトル、紙パック、粗大ごみなど、の分類なんてできるはずもありません。重いゴミ袋を抱えて階段を上り下りするのも一苦労ですし、ゴミ集積所で分類ミスを近所の人に指摘され怒られるのも嫌でたまらず、だんだんとゴミ出しが億劫になってきます。
③ さらに、必要なときに目的のものが見当たらないと、認知症や物忘れだとは認めたくないので、「盗まれた」と言い出します。「盗んだ」と疑われるのは、様子を見に来る家族や訪問介護のヘルパーで、「盗まれたもの」は、通帳や印鑑などに限らず、眼鏡だったり、野菜だったり、下着だったりします。
そして「そんなものは誰も盗みませんよ」といわれると、「じゃあ、私への嫌がらせに違いない」とひとを遠ざけるようになります。
④ さらに高齢者は「頼れるものは金しかない」という感覚に陥りがちです。そこで、手元に現金を置いて見せびらかし、家族や知人の関心を引こうとすることがあります。ところがその現金を誰かが狙っている気がして、家の中のあちらこちらに隠します。そしてその隠し場所を忘れてしまうので、なおさら物が捨てられなくなります。そんなタイミングで誰かが「整理しよう」と声をかけると、現金を狙っているとしか思えなくなり、極めて強い拒否反応(怒り出す)を示します。
⑤ このような背景で、高齢者の一人暮らしの場合はかなりの確率で、屋内は足の踏み場もない状態になっているという印象です(屋外までゴミがあふれているのは末期症状です)。

【2】ゴミ屋敷の解決方法

① このような傾向が進行すると、やがて玄関外にもゴミがあふれ、異臭がしたり、害虫が発生したり、景観や通行を害したりするようになります。この段階でようやく近隣からのクレームで「ゴミ屋敷」と認識されます。しかし、本人が「これはゴミではない」と言い張る限り、それをゴミとして撤去する方法はありませんでした。
② 横浜市や大阪市など地方自治体によっては、相談窓口を設けて、指導・勧告・命令・代執行を内容とする条例を定めて取り締まろうとする動きがありますが、再発防止が保証できないことや強権的な措置には馴染まない面もあり、難しい問題に違いありません。
③ なお、居住空間に価値のない大量の商品を度を越して収拾することにより、著しい苦痛や不全を起こすことは、近年「強迫的ホ―ディング」(ためこみ症)とよばれる精神疾患と分類されるようになりましたが、薬物療法や認知行動療法が採られるケースもあるようですが、すぐに寛解するような有効な治療法は見つかっていません。高齢者には片付ける気力も体力もない場合が多いので、家族としては、高齢者の気持ちをなだめて一緒に片付けようと提案する程度のことしかできないのが実情です。

【3】管理不全土地管理命令及び管理不全建物管理命令

① 令和3年民法改正の一環として、相続時の登記の義務化などが規定されましたが、同時に、管理不全土地管理命令及び管理不全建物管理命令の制度が設けられました。施行日は令和5年4月1日です。施行後はこの制度によってゴミ屋敷問題は対応ができる可能性があります。
② 概要としては、所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは利害関係人の請求により、当該土地を対象として管理不全土地管理人による管理を命ずる処分(管理不全土地管理命令)をすることができ(改正民法264条の9第1項)、その効力は対象土地にある動産に及びます(同条2項)。
③ また、管理不全建物についても、利害関係人の請求により、当該建物を対象として、管理不全建物管理人による管理を命じる処分(管理不全建物管理命令)ができるようになりました(同法264条の14第1項)。
④ しかし、この改正法によるとしても、相談者(姪)自身は申立権者たる利害関係人に当たらない可能性があること、申立人は予納金を負担させられること、戸外のゴミについては管理不全土地管理命令によってある程度は片付けられるかもしれないが、屋内のゴミはそのままとなり、やがて元の木阿弥になる可能性があるなどの問題があります。
⑤ したがって、管理不全土地管理命令などの運用が不明である現時点では、相談者に対しては、できる範囲で叔母を説得すべきであるものの、最終的には行政対応に任せ、大きな荷物を背負い込まないようにアドバイスすることになると思います。

【終活・遺言・相続相談】相談例6 一人暮らしの親について子供からの相談

世田谷区砧で子供のいないご夫婦、おひとり様の遺言書作成、相続手続き、戸籍収集支援、任意後見、死後事務委任に詳しい行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。
パスポート申請、車庫証明申請も多く手掛けております。

【終活・遺言・相続相談】相談例6 一人暮らしの親について子供からの相談についての記事です。

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【相談内容】
相談者(女性50歳)から、「母親(82歳)が田舎で一人で暮らしているが、認知症が始まってきているように感じて、振り込め詐欺や悪質商法の被害に遭わないか不安です。同居することはできませんが、何か良い方法はありませんか」と相談を受けた。

【検討すべき点】
「おひとりさま」の問題の一つとして、特殊詐欺や悪質商法の被害に遭いやすいということが言えます。一度そうした被害に遭うと、その情報が流通して、何度も特殊詐欺や悪質商法のターゲットとなることがあります。
ハード面の対策として、固定電話の見直しなどが挙げられます。ソフト面でも、高齢者の寂しさを癒すために接触の機会を増やすことで、話す時間を作っていくことが大切です。

【1】特殊詐欺等への対策

① 令和元年の調査によると、振り込め詐欺の認知件数は約17,000件で、被害総額は約315億円、検挙率は約40%です。また、振り込め詐欺の進化形としてアポ電強盗やアポ電空き巣も増えています。
② 「アポ電強盗」とは警察官等を装った電話で、自宅にある金銭の額や在宅のタイミングを聞き出し、強盗に入る手口です。「アポ電空き巣」は同様に金銭の金額を聞き出し、電話で呼び出して、そのすきに空き巣に入る手口です。アポ電の認知件数は、令和元年4月から6月の3か月間で約35,000件でした。
③ これらの犯罪の9割以上は、一人暮らしの高齢者の固定電話を利用しています。
④ そこで、これらの犯罪に合わないようにするには、「固定電話を解約して、家族などとの連絡を携帯電話に代えること」が有効です。
⑤ また、「固定電話に録音予告をする機能を付けた防犯装置を設置」する。もしくは、知らない電話番号からの電話には、「出ないで留守電で対応」する、「いったん切って、かけ直す」癖をつける、「通話してもお金に関する話はしない」、「家族とは合言葉を決めておく」などの対策が有ります。

【2】悪質商法

① 一人暮らしの高齢者は、そのほかにも、マルチ商法、利殖商法、アポイントメント商法、点検商法などの悪質商法のターゲットです。これらの商法は、訪問販売や電話勧誘により、高齢者の興味を引きやすい健康や趣味に関する話題や、老後資金の不安につけ込んだ儲け話をきっかけにしたり、家屋の状態が緊急の修繕が必要などと誤解を誘い、同情をひきだし、ときには居座り恫喝するなどして、不要な高額商品を売りつける点に特徴があります。
② これらの商法に騙されないための第一は最初の勧誘を拒絶することです。電話の勧誘に関しては、特殊詐欺の対策と同じ方法が適当であります
③ 訪問による販売に関しては、知らない人が訪ねて来ても玄関を開けないといった習慣が必要です。また、契約をする前に(書類にサインをする前に)、家族に相談する癖をつけることも重要になります。

【3】高齢者の話し相手

① 高齢者が特殊詐欺や悪質商法の被害に遭う背景には、高齢者が家族や社会と疎遠になっている事情があります。
② 高齢者は年を経るにつれて、体力・気力が落ち、食欲がなくなり、物忘れが増え、目や耳が不自由になり、膝の痛みで歩けなくなるなどして、次第に、それまでできていたことができなくなります。親しい友人・知人も施設に入所したり他界したりしていなくなり、話し相手を見つけることができません。若い人とは話題も合いません。それが、特殊詐欺や悪質商法の被害に遭う遠因となります。
③ たとえば、相談者が実家に帰った際には、家の中に見慣れない物がないか注意を払うようにします。到底消費できない大量の商品(トイレットペーパーや布団、野菜など)がある場合は黄色信号です。
④ 「こんなに買ってどうするの」と咎めると、「ないと困るから買ったんじゃない」と言い返されますが、じつは、その商品の販売員とのわずかな時間の会話が、目的である場合が多くみられます。
⑤ こうした物品の購入は、悪質商法とまでいかなくても、よくない兆候です。
⑥ 金融機関も、こうした高齢者に、株式、投資信託、保険を売り込んでいます。散らばった書類の中に、金融商品の分厚いパンフレットや取引結果報告書がないか探します。
ただし、取引に気づいた子供が金融機関に文句をつけても、「ご本人が希望されたことです」とか、「価値ある商品をお買い求めいただいているので、そのまま資産として保有されれば如何でしょうか」と体よく追い払われます。
⑦ 要するに、高齢者自身は、社会とのかかわりを求めていて、その販売員と話ができるのがなによりも楽しみになっているのです。

【4】対策

① したがって、相談者に対して、母と頻繁に会えなくても、こまめに連絡して話し相手になるようにアドバイスします。その際の注意点として、「何か買ったんじゃないでしょうね」などと詰問調になることなく、「最近、話し相手になってくれる人はいるの」と優しく尋ねることの方が有効で、その話し相手がどのような属性かが重要です。「○○さんが、よくしてくれるの」と知らない名前が出てきたときは、要注意です。
② 相談者の母親の年齢(82歳)からすれば、田舎にはまだ多くの親戚や知人がおられるはずです。里帰りのときには、その方々を回って、何かあればすぐに連絡するようにお願いしておくことも重要です。
③ さらに介護認定を受ける状態になれば、ケアマネジャーにも相談しておきます。地区の担当する民生委員や地域包括支援センターにも相談しておくことが重要です。
④ なお、すでに大量の商品を売っている店や、株式取引で頻繁に自宅を訪問している金融機関がある場合には、弁護士などに依頼して、代理人としてその店や金融機関に対し、母に対する販売活動を中止するように申し入れることを検討する必要もあるかもしれません。
⑤ また、判断能力に問題がない場合は、任意後見契約と委任財産管理契約を、判断能力が不十分な状態であれば、成年後見制度を利用して、それらの店や金融機関に対して、取引の中止を求める方法も検討する必要があります。