【孤独死をめぐるQ&A】Q51 家族信託について

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【Q51】高齢者の財産管理に家族信託という方法があると耳にしました。家族信託とはどのようなものでしょうか。

【A家族信託は、信託銀行や会社ではなく、家族や知人・友人に信託の受託者になってもらい、信託の目的に沿って信託した財産を管理、処分してもらう方法です。
遺言や成年後見に比べて自由度が高いため注目を浴びています。

【解説】

1 信託とは
① 「信託」とは、信託契約や遺言等の方法により「特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすること」をいいます(信託法2条1項)。
② 平成19年の信託法改正により、信託契約は自由度が高くなり、とても使いやすくなりました。信託契約であれば、契約の仕方によって内容を自由に決めることができ、遺言や成年後見制度と比べて自由度が高いことから、信託契約を高齢者の財産管理に使う方法が広まってきています。
③ 信託の引き受けを業とするには信託業免許(又は登録)が必要ですが、業としてするのではなく、家族や知人・友人のために1回受託するだけであれば、特に信託免許はいりません。
④ 信託銀行や信託会社に信託すると費用がかかってしまうため、親族や知人、友人と信託契約をする家族信託が活用されています。
⑤ 家族信託契約は公正証書で作成する必要はありません。もっとも、信託契約に基づき信託口の預金口座を設けたり、不動産の売却をしたりすることもあります。その際に、ただの私文書ですと信用力が弱く、金融機関や不動産業者から疑義を持たれる可能性もあります。そのため、家族信託契約は公正証書で作成しておくことをお勧めします。

2 家族信託の活用方法

1 成年後見制度の代用として
① 家族信託は成年後見の代わりに用いられることがあります。成年後見制度は裁判所が関与し報告義務が課せられます。任意後見制度であっても、裁判所から任意後見監督人が選任され、その行動が監督されることになります。親族間のことなので公的な目が入ることを嫌がるという方もいます。
② また、成年後見人は本人のために行動しなければならず、推定相続人の利益のため本人の財産を処分するということは原則として認められません。
③ よく問題視されるのが相続税対策です。相続税対策のために資産を売却したり、相続税評価が低い財産に組み替えたいという高齢者がいるとします。
④ 本人の判断能力がある間に行えば何の問題もないのですが、不動産には売り時、買い時がありますので、もうしばらく待ってから対策をしたいという場合もあります。しかし、その間に本人が認知症になってしまえば、もう本人は不動産売買契約を締結できません。
⑤ それでは成年後見人を選任すれば成年後見人が節税対策のために不動産を処分できるかというと、節税対策は推定相続人の利益にしかならず、本人にとってメリットがないので成年後見人は節税対策ができないと考えられています。
⑥ それにくらべて、民事信託契約(家族信託契約)であれば、信託の目的に相続発生後に推定相続人が承継できる資産を増やすこともうたっておけば、受託者は相続対策のための不動産売買契約が可能になります。

2 遺言の代用として
① 遺言は撤回が可能です。本人の明確な意思で撤回をするのであれば問題はないのですが、中には高齢になり判断能力が乏しくなったことに乗じて、遺言の書き換えをそそのかされ、つい遺言を書き直してしまうという可能性もあります。
② そのようなことを防ぎたい、今、決定したとおりに亡くなった後に財産を処分してほしく、将来的に遺言内容を変更したくないという場合、信託契約を用いて、委託者といえども自由に信託の変更ができないような内容にしておけば、事実上撤回できない遺言のような使い方もできます。

3 受益者連続型信託
① 例えば、財産は面倒を見てくれている兄弟にあげたいが、その兄弟が亡くなった場合、兄弟の子とは疎遠なので、他の人にあげたいという希望の場合、遺言でそれを実現するのは非常に困難です。
② 信託契約であれば、受益者の死亡により他の者が新たに受益権を取得する指定ができますので、後継ぎを指定することができるのです。

【孤独死をめぐるQ&A】Q50 死後事務委任契約について

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【Q50】私には一応甥・姪はいるのですが、まったく付き合いはありません。亡くなった後のことで面倒をかけるのは申し訳ないので、葬儀や納骨、諸手続きなどをあらかじめ第三者にお願いしておこうと思います。
死後事務委任契約という契約があると聞いたのですが、どのような契約でしょうか。契約締結に当たり注意する点はありますでしょうか。

【A】死後事務委任契約は、死後も契約が終了せずに葬儀、納骨、埋葬に関する事務等亡くなった後の諸手続等を依頼するという契約です。
ただ、財産の処分に伴うものについては、遺言を作成し、遺言執行者に執行してもらった方が確実なので、あくまで死後の事務に関するものを依頼するようにした方がよいでしょう。

【解説】

1 死後事務委任契約とは
① 死後事務委任契約とは、委任者が第三者に対して、葬儀、納骨、埋葬に関する事務等亡くなった後の諸手続等に関する代理権を付与して、死後事務を委任する契約をいいます。
② 生前の委任契約は、委任者の死亡により終了します。また成年後見人も任意後見も被後見人の死亡により終了します。成年後見人は、裁判所の許可を得て、一定の事務を行うことができますが、例えば火葬、埋葬はできますが、葬儀は出来ないなど、制限があります。
③ そこで、委任者が亡くなった後も委任契約が終了しないという特約をつけて、死後の事務を委任するという死後事務委任契約が用いられています。

2 死後事務委任の有効性
① 前述のとおり民法上、委任契約は委任者の死亡によって終了するとされています(民法653条1号)。
② もっとも、民法653条1号の規定は任意規定であり、委任者が死亡しても委託関係が終了しないという特約は有効です。
③ 大判昭和5年5月15日が「自己の手もとにおいて養育することができないため、生後間もなく、幼児の養育を委託した場合には、受任者が幼児を養育する限り、委任者の死亡により委託関係を終了させない特約があるものと認めるのを相当」としており、死後のことを委任するという契約自体は、相当昔から活用されていたことが伺われます。
④ そして、葬儀、法要等について委任するといういわゆる死後事務委任契約についても、最三小判平成4年9月22日において、委任者が、受任者に対し、入院中の諸費用の病院への支払、自己の死後の葬式を含む法要の施行とその費用の支払、入院中に世話になった家政婦や友人に対する応分の謝礼金の支払を依頼する委任契約は、委任者の死亡によっても契約を終了させない旨の合意を包含しており、民法653条はかかる合意の効力を否定するものではないと判示し、死後事務委任契約の効力を肯定しました。

3 死後事務委任の相続人からの解除
① 死後事務委任契約が死亡によって終了しないとしても、相続は包括承継ですので、相続人は委任者としての地位も相続します。
② 委任者はいつでも委任契約を解除できますので(民法653条1項)、委任者の相続人は、いつでも委任契約を解除できるのではないかとも考えられます。
③ この点、東京高判平成21年12月21日は、死後事務委任契約の「委任者は、自己の死後に契約に従って事務が履行されることを想定して契約を締結しているとして、委任者の地位の承継者が委任契約を解除して終了させることを許さない合意も包含すると判示しています。
④ なお、同判決は「その契約内容が不明確又は実現困難であったり、委任者の地位を承継した者にとって履行負担が加重であるなど契約を履行させることが不合理と認められる特段の事情」がある場合には、解除が認められるとしています。
⑤ ただ、通常の死後事務委任契約において、委任者の履行負担が加重になることは考えづらいので、契約内容が明確で実現可能なものにしておくことだけ気を付けておけばよいのではないかと考えます。
⑥ 相続人からの解除が制限されるという裁判例がある以上、もともと死後事務委任契約において相続人の解除権を制限する特約をすることもできると考えられますので、そのような規定を設けておく方がよいでしょう。

4 死後事務委任契約による預貯金払戻し
① 死後事務委任契約は、納骨、埋葬に関する事務等亡くなった後の諸手続などの事務を主眼にするのが通常ですが、死後事務委任契約により財産の処分はできるのでしょうか。
② 相続人ではない死後事務委任契約の受任者が預金を払い戻した事案(高松高判平成22年8月30日)で、預金払戻しに応じた金融機関の責任について死後事務委任契約の受任者は「被相続人名義の預金の管理処分権を有しており、上記預金の全部について払戻しを受ける権限があるから、被控訴人の要求に応じて被控訴人銀行が上記預金の払戻しをしたことによって、上記預金債権はすべて消滅している。」と判断しており、死後事務委任契約の受任者による預貯金払戻しは有効だと判断しています。
③ ただ、同判決に関する論評として、「委任契約の成立について争いはないとしても、相続人の同意を得て払戻しを行った方が無難」との意見もあります。
④ 死後事務委任契約の解除に制限があるとしても、相続人が解除の意思表示をしていた場合、解除の有効性を金融機関側で判断することはできません。また、当然のことながら、委任者は死亡しているため、本人に確認することもできません。そのような事情からすれば、金融機関として、相続人の同意を求めるという運用にはやむを得ない側面もあります。
⑤ このように死後事務委任契約の受任者の受けた払戻しが有効か無効かと実際に銀行が払戻しに応じてくれるかどうかは別問題であり、金融機関によっては、相続人の同意を求める可能性があります。そうであるとすれば、財産の処分を伴うものについては、遺言書を作成し、遺言執行者として行ってもらう方が確実なのではないかと思います。

5 死後事務委任契約に基づく費用の預かりと信託業法
① 死後事務委任契約に基づく預貯金払戻しは速やかに応じてもらえるかは不安が残ります。そうしますと、死後事務に関する費用は、事前に預かっておくことになります。
② では、死後事務に要する費用は事前に預かっておくことに信託業法免許はいらないのでしょうか。信託法2条1項において、「信託」は「特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきもの」としています。死後事務委任契約の預かり金は、委任者の死後事務に用いるという目的で管理し、委任者の死亡後は目的達成のためにその財産を処分するので、一見「信託」にあたり、それを業として行うには信託業法免許が必要とも思えます。
③ しかし、信託業法2条1項、信託業法施行令1条の2第1号は「弁護士又は弁護士法人がその行う弁護士業務に必要な費用に充てる目的で依頼者から金銭の預託を受ける行為その他の委任契約における受任者がその行う委任事務に必要な費用に充てる目的で委任者から金銭の預託を受ける行為」は信託業法の対象外としています。
④ ここでいう弁護士や弁護士法人は例示であり弁護士以外でも「委任契約における受任者が委任事務に必要な費用に充てる目的で金銭の預託を受ける行為」が信託業法の適用除外とされています。

【孤独死をめぐるQ&A】Q49 認知症に備えてー成年後見、任意後見

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【孤独死をめぐるQ&A】Q49 認知症に備えてー成年後見、任意後見についての記事です。

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【Q49】一人暮らしの高齢者です。認知症になった場合、自分の財産が管理できなくなるのではないかと不安です。
後見という制度があると聞いたのですが、後見制度の概要や注意点を教えてください。

【A】後見制度には、後見、保佐、補助の3つの制度があります。判断能力の程度に応じて、財産管理を任せたりサポートしてもらったりすることができます。
また、任意後見契約という制度を利用すれば、あらかじめ後見人となって欲しい人を指定しておくことができます。ただし、任意後見契約をお願いする人は、財産管理を委ねるに足るだけの信頼ができるような方でないといけないので、注意が必要です。

【解説】

1 成年後見制度とは
① 成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などによって、判断する能力が欠けているのが常態化している方について、申立てによって、家庭裁判所が「後見開始の審判」をして、本人を援助する人として成年後見人を選任する制度です。判断能力の程度に応じて、後見、保佐、補助の3つの区分があります。
② 成年後見人が選任されると、成年後見人は、後見開始の審判を受けた本人に代わって契約を結んだり、本人の契約を取り消したりすることができるようになります。
③ 成年後見人申立てに当たり、特定の候補者を推薦して申立てをすることは可能です。法定相続人全員の承諾があるような場合は、候補者が選任されることが多いかと思いますが、法定相続人間で誰を候補者にするか争いがある場合や財産が多い場合には、家庭裁判所が職権で後見人を選任することもあります。
④ その結果、候補者が選任されない場合があります。その場合、多くは被後見人が必要とする支援の内容に応じて、弁護士、司法書士、行政書士、社会福祉士等の専門職が成年後見人に選任されます。
⑤ 申立人が推薦した候補者以外が成年後見人に選任されたとしても、その点については不服の申立てはできません。
⑥ このように成年後見人は、必ずしも申立人が成年後見人に就任して欲しい人が選任されるわけではない点に注意が必要です。

2 成年後見人の費用
① 推薦した候補者が成年後見人になる場合、一定程度の人的関係があるので無償で引き受けてもらえることも多いかと思います。
② しかし、専門職が後見人に就任する場合は、成年後見の報酬が発生するのが通常です。
③ 報酬額は裁判所が決定します。その目安として東京家庭裁判所の発表によれば、基本報酬として原則月2万円。管理財産額(預貯金及び流動資産の合計額)が高額な場合、管理財産額が一千万円超五千万円以下の場合、月額3~4万円。
④ 管理財産額五千万円超の場合、月額5~6万円となっております。これとは別に付加報酬が加算されることもあります。
⑤ 成年後見は、一度手続きが開始すると、判断能力が回復するか亡くなるまで手続きが終了しません。認知症の場合、判断能力が回復するということは通常ないので、亡くなるまでの間、上記の基本報酬額が発生し続けることになります。

3 任意後見契約
① 上述のとおり、成年後見人は誰が選任されるかは確実ではありません。これに対して、任意後見契約を締結しておけば、後見人選任が必要になった場合、必ずその人に後見人になってもらえます。
② 任意後見契約は、任意後見契約に関する法律により、公正証書で行い、その旨が登記されることになります。
③ 本人の判断能力が不十分な状況になった場合、任意後見監督人選任の申立てを行います。任意後見監督人が選任されると、任意後見契約の効力が生じ、契約で定められた任意後見人が、任意後見監督人の監督の下、契約で定めた内容の後見業務を行うことができるようになります。
④ なお、任意後見監督人にも報酬が発生します。前掲の東京家庭裁判所のめやすでは、管理財産額が五千万円以下の場合には月額1~2万円、管理財産額が五千万円超の場合月額2万5千~3万円となっております。

4 任意代理契約(委任財産管理業務)
① 上記のように任意後見契約は、判断能力が低下した場合に備えた契約なので、判断能力が低下する前には効力が発生しません。
② そうしますと、判断能力はあるものの、寝たきりになってしまい、外出ができなくなってしまったような場合には、任意後見契約では財産管理を任せることができません。
③ そのような事態に対応するため、任意後見契約と同時に、財産管理に関する通常の委任契約を締結することがあります。このような契約を任意代理契約や財産管理契約、委任財産管理契約などと呼びます。

5 後見人が行なえる死後事務について
① 被後見人が死亡した場合、成年後見は終了します。
② そのため、原則として、成年後見人はその権限を行使することはできなくなってしまいます。
③ ただし、必要がある場合、被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除いて、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、被後見人が所有していた建物を修理したり(特定の財産に対する保存行為)、支払いを求められている被後見人の医療費等を支払ったりすること(弁済期が到来した債務の弁済)ができます。
④ また、下記のような本人の死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為については、裁判所の許可を得て、行うことができます。
⑴ 被後見人の死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結(葬儀に関する契約は除く)
⑵ 債務弁済のための被後見人名義の預貯金の払戻し
⑶ 被後見人が入所施設等の残置していた動産等に関する寄託契約の締結
⑷ 電気・ガス・水道の供給契約の解約など
なお、成年後見人が後見業務の一環として行えるのは火葬、埋葬に関する契約のみであり、被後見人の葬儀を執り行うことは法律上認められていません。
⑤ このように死後の事務については、原則として成年後見人は行うことができないため、死後の事務まで委任したい場合には、死後事務委任契約を締結する必要があります。

【孤独死をめぐるQ&A】Q48 身元保証サービスの注意点

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【Q48】一人暮らしをしており、頼れる親族もいません。自宅で孤独死をすることを防ぐため、高齢者施設に入所をしようと申し込みをしたら、身元保証人がいないと入所できないと断られてしまいました。
身元保証サービスを利用しようと思いますが、注意点を教えてください。

【A】介護保険施設については、身元保証人がいないという理由で利用を拒むことはできないとされています。その旨を伝えて改めて交渉してみてください。
もし、身元保証サービスを利用する場合、安心できる会社を選ぶようにしてください。また高額な入会金や、途中解約時の返金をめぐるトラブルも起きていますので、内容をよく確認してから契約をするようにしてください。

【解説】

1 身元保証サービスとは
① 身元保証サービスとは、病院に入院する際や、老人ホームなどの施設に入居する際、身元保証人を要求され、それを依頼する人がいない方を対象に、身元保証(費用についての連帯保証人、身元引受人、緊急連絡先等含みます)を提供するサービスです。
② 消費者委員会が平成29年1月31日に公表した「身元保証等高齢者サポート事業に関する消費者問題についての建議」において、「厚生労働省は、高齢者が安心して病院・福祉施設等に入院・入所することができるよう、以下の取り組みを行うこと」として、「病院・介護保険施設の入院・入所に際し、身元保証人等がいないことが入院・入所を拒否する正当な理由には該当しないことを、病院・介護保険施設及びそれらに対する監督・指導権限を有する都道府県等に周知し、病院・介護保険施設が、身元保証人等のいないことのみを理由に、入院・入所等を拒む等の取扱いを行うことのないよう措置を講ずること。」を要請しています。
③ もっとも「病院・施設等における身元保証等に関する実態調査」によりますと、契約書や利用約款等で身元保証人等を求めている病院は95.9%、施設等は91.3%に達しており、身元保証人等がない場合に入院・入所を認めないとしたものは、病院で22.6%、施設等で30.7%に上るとの結果も出ています。
④ 身元保証人、連帯保証人がいない場合、施設は、入所者が亡くなった場合に支払いをどうするか、私物の引取りをどうするかなどの問題に直面します。
⑤ 相続人がいない場合や、相続人が相続放棄をしてしまったような場合、施設側からしてみると、未払金の回収や私物の引き取りが進まず、法的手段をとるにしても費用や時間がかかってしまうことになり、過度な負担となってしまいます。
⑥ このように、施設側が身元保証人をつけてもらうには、それなりの必要性がありますので、何らかの制度的な手当てができない限り、施設が入院や入所に際して身元保証人、連帯保証人を要するという習慣はなかなか減らないと思います。
⑦ なお、医師法は、正当な事由なく診察治療の求めを拒んではならないことを定めていますし、また、各介護保険施設の基準省令においても、正当な理由なくサービスの提供を拒んではならないことが定められています。
⑧ 入院・入所希望者に身元保証人等がいないことは、上記の「正当な事由・理由」に該当しないと考えられており、身元保証人がいないことを理由に断られた場合には、上記の点を指摘し、身元保証人なしで入院・入所を認めるように交渉をするとよいでしょう。

2 身元保証会社をめぐるトラブル
① 身元保証会社をめぐるトラブルについては、独立行政法人国民生活センターが「身元保証などの高齢者サポートサービスをめぐる契約トラブルにご注意」を公表し、消費者に注意を呼び掛けています。
② 相談例としては、
・預託金を支払うように言われているが、詳細な説明がない
・契約内容がよく分からず、高額なので解約したい
・事業者に勧められるままにサービスを追加して思ったより高額な契約になった
・契約するつもりがなかったサービスも含まれていた
・約束されたサービスが提供されないので事業者に解約を申し出たところ、説明のないまま精算された
などが、挙げられています。
③ 身元保証会社が預託金を流用した結果破産してしまい、身元保証サービスの提供ができないばかりか、葬儀費用等として預けていた金銭が一部しか返還されなかったという消費者被害も現に生じており、安心できる身元保証サービス提供会社を選ぶ必要があります。

3 高額な初期費用と解約時の不返還条項
① 国民生活センターが指摘しているように身元保証会社の中には初期費用として高額の預託金を要求する団体があります。
② この点について、適格消費者団体である特定非営利活動法人京都消費者契約ネットワークでは、身元保証サービスを提供する団体に対し、消費者との間で、身元保証支援、日常生活支援、金銭管理支援などを義務内容とする入会契約を締結する際、入会金を支払う旨を内容とする契約条項及び契約を解除された場合に既に支払った入会金の一部を返還しない旨を内容とする契約条項が消費者契約法10条により無効であるから使用をやめるよう差止めを求めた例を公表しています。
③ 同差止め請求は、訴訟を経た上で令和元年12月26日、
・身元保証支援、日常生活支援、金銭管理支援等を被告の義務内容とする入会契約を締結するに際し、「入会金」を支払う旨を内容とする意思表示を行わない
・身元保証支援、日常生活支援、金銭管理支援などを被告の義務内容とする入会契約を締結するに際し、入会契約の解約に当たり、消費者がすでに支払った「入会金」の一部を返還しない旨を内容とする意思表示を行わない
との内容の和解が成立したと公表しています。
④ 身元保証サービスについても、消費者契約法は適用されますので、身元保証契約締結の際には、サービスに見合わない高額な初期費用が設定されていないか、契約を解約した場合にどの程度返金がされるのか確認してから契約を締結するようにしてください。

【孤独死をめぐるQ&A】Q47 納骨堂の事前購入の注意点

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【孤独死をめぐるQ&A】Q47 納骨堂の事前購入の注意点についての記事です。

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【Q47】私には子もおらず、亡くなったとしても墓を継ぐ人はいません。かといってきちんと供養はしてもらいたいので、納骨堂を事前に購入しておこうと思っています。
納骨堂の事前購入に当たって何か気を付ける点はありますでしょうか。また、事前購入した後、不要になった場合にはキャンセルできるものでしょうか。

【A】機械搬送式納骨堂は、運営維持コストがかかります。納骨堂の運営主体が安心かどうかについて、より一層厳しく確認する必要があります。
購入をする際には、キャンセルを禁止する内容の契約になっているかの確認が必要です。禁止する規定がないのであれば、キャンセルは認められるのが通常です。
キャンセルできない、キャンセルしても一切お金が帰ってこないという内容の規定の場合がありますが、そのような規定は消費者契約法上無効の可能性もあります。

【解説】

1 納骨堂の事前購入
① 自身が亡くなった後に遺骨を納骨するために、生前に納骨堂を購入しておくという方もいます。
② 納骨堂の購入の場合、葬儀や遺品整理の事前予約と異なり、事前に納骨堂の区画を購入し、その購入代金を全て支払うという契約が一般的です。
③ 葬儀や遺品整理の生前予約は、事前予約からサービス提供までの期間が長いといっても、生前予約から生前予約者が亡くなるまでの期間です。
④ これに対して、納骨堂は、購入者が亡くなった後もお付き合いをすることになります。また、最近主流の機械搬送式の納骨堂は、維持コストや修繕コストもかかります。
⑤ そのため、葬儀や遺品整理の生前予約よりも、より一層安定した運営主体を選択する必要があります。

2 納骨堂購入後のキャンセル
① 納骨堂を購入した後、実際に自分が亡くなり、遺骨を納骨するまでの間には期間が空きます。その間に納骨堂を必要とする事情がなくなってしまった場合、解約はできるのでしょうか。
② この点、納骨堂の使用関係について特に細則や利用規約が定められていない事例ですが、契約後、死亡前に永代供養、納骨壇使用契約を解除し、事前に支払った永代供養料、納骨壇申込金の返還を求めて争われた訴訟があります。
③ 同判決は、永代供養契約は供養という事実行為の準委任契約であり、別段の合意がない限り、民法656条、651条1項の規定により、各当事者は本件永代供養契約をいつでも解除することができるとしました。
④ そして、「被供養者の死亡によって初めて委任事務が開始されるものとされていることが認められるから、永代供養契約が被供養者の死亡前に解除された本件では、いまだ被告の負担する債務の既履行部分はない」とし、契約解除に伴う原状回復義務として永代供養全額の返還義務を認めています。
⑤ また、納骨壇使用契約については、納骨壇使用契約は建物賃貸借契約の性質を中心としつつ、準委任契約の性質を併せ有する混合契約であり、使用者は、いつでも本件納骨壇使用契約の解約の申入れをすることがでい、解約申入れの日から3ヵ月経過後(民法617条1項2号)に同契約は終了するとしました。
⑥ そして、納骨壇使用契約を解除した場合、納骨壇申込金の扱いについて、「納骨壇使用契約の締結から上記解約まで、5年7カ月~7年7カ月程度の期間が経過しており、その間はいずれの納骨壇においても実際に遺骨は収蔵されていないものの、被告において、原告のために各納骨壇を割り当て、碑銘を入れた金属プレートを納骨壇の扉に取り付ける等して、原告らによる使用に委ねていたのであり…、これに見合う対価相当部分は返還義務の対象とならない」としながらも、現実に遺骨を収蔵するという納骨壇としての本来的な意味での使用はいまだ開始していないこと、半永久的とされる期間を合理的に画して仮に100年だとしても、経過期間は5~7%にすぎないことなどを理由に納骨壇申込金の1割に相当する金額を控除してこれを返還させるのが相当という判断をしました。
⑦ この裁判例の判断によれば、規約がない場合、納骨堂を購入しても実際に遺骨が収蔵されるまでキャンセルは可能と言えます。

3 納入された費用は返還しないという条項について
① 納骨堂の使用契約も、事業者と消費者との契約ですから、消費者契約法が適用される可能性があります。適用される場合、消費者契約法9条1号により、事業者と消費者との契約において、違約金が解除の事由、時期等の区分に応じ、当該事業者に生ずべき平均的な損害を超える額を超える場合、超える部分は無効となります。
② この点について、適格消費者団体である公益社団法人全国消費生活相談員協会では、納骨堂を購入する契約において、既に納入した使用権料及び管理費の返還は請求することができないという使用規定について差止めを申入れ、その結果、当該条項が修正されたという事例を公表しています。
③ 納骨堂の使用契約については、「墓地経営・管理の指針等について」(平成12年12月6日生衛発1764号)において、埋蔵管理委託型標準契約約款が公表されています。 
④ この埋蔵管理委託型標準契約約款8条は、使用者からの解除について定めています。同条の解説の中で、「墓石の設置も焼骨の埋蔵もしていない、つまり実質的に何ら墓地を使用していない場合においてまで高額な負担を全額負わせることは妥当ではないと考えられる」との指摘はされております。

4 キャンセルできるとしても契約は慎重に
① このように納骨堂を事前購入し、その後、キャンセルをしようとする場合、訴訟で争えばキャンセルが認められ、一定程度の申込金が戻ってくる可能性は高いと思われます。
② しかし、納骨堂の運営主体にとっては、事前購入し実際に遺骨が収蔵されるまでは比較的自由にキャンセルができ、かなりの金額を返金することとなると、購入者は、亡くなるまでの間に新たな納骨堂ができてしまうと、キャンセルをしてそちらを購入するということが容易になってしまいます。そのため、キャンセルや返金については争いになることが予想されます。
③ また、上記裁判例や適格消費者団体の指摘を受けて、もし、納骨堂契約が解約されても可能な限り返金する金額が少なくなるよう工夫している例もあります。
④ 購入後に返金をめぐってトラブルになることを避けるためにも、納骨堂の購入は慎重に吟味して決定した方がよいでしょう。

【孤独死をめぐるQ&A】Q46 葬儀等の生前予約の注意点

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【Q46】亡くなった後に親族に迷惑をかけないように、葬儀や遺品整理などについて生前予約をしておこうかと思います。
生前予約に当たって何か気を付ける点はありますでしょうか。

【A】内容が明確になっているかを確認してください。また、実際に費用まで前払いしてしまうときには、その業者の経営が安心か、生前契約の内容、特に契約の見直し、死亡時の連絡、契約の終了などが適切な内容になっているかなどを確認してください。

【解説】

1 生前予約とは
① 葬儀社や遺品整理業者の中には、亡くなった後に備えて、葬儀や遺品整理について生前に契約を締結しておく、生前予約サービスを提供している業者がいます。
② このような生前予約をしておけば、葬儀や遺品整理がいくらくらいかかるかが分かるし、基本的には自身の希望通りの葬儀や遺品整理をしてもらえます。
③ 葬儀は、亡くなった後すぐに手配をしなければならず、検討や準備のための時間があまりありません。そのため、思っていたのと費用や内容が異なり、葬儀社とトラブルになるということもまま生じてしまいます。
④ 国民生活センターが発表している「大切な葬儀で料金トラブル発生!後悔しない葬儀にするために知っておきたいこと」においても、後悔しない葬儀にするために知っておきたいこととして、「事前に相談できる葬儀社を見つけてみましょう。もしもの時に慌てないように、事前に相談をしてみましょう。」
⑤ 「あらかじめご遺体の搬送や葬儀の依頼をする葬儀社を決めておくと安心です。葬儀社を決めていれば、もしもの時に落ち着いて準備をすることができます。」と挙げています。葬儀の事前相談は、国民生活センターもお勧めしています。

2 内容の明確化
① 生前予約をする場合、その内容や金額が明確でないと、結局は後々トラブルの火種が残ってしまいます。
② そのため、しっかりと希望している内容を伝え、費用を見積もってもらうことが重要です。ただ、生前予約の場合、予約をした人がいつ亡くなるか分からず、実際に葬儀や遺品整理などのサービスが提供される時期が生前予約のために見積もった時期からずいぶんと期間が空くということも想定し得ます。
③ その間に物価が急激に変動してしまえば、当時の料金ではサービスの提供ができなくなってしまうという可能性もあります。
④ そのような場合に備えて、生前予約するときには、例えば、長生きをしたらどの程度、料金が変動する可能性があるのかの目安など聞いておいた方がよいでしょう。

3 契約の見直し
① 葬儀や遺品整理の生前予約の場合、いつ亡くなるのかが分からず、生前予約からサービスの提供までに長い期間が空く可能性があるという特殊な事情があります。
② その間に、もともと生前予約を必要としていた理由がなくなることもあり得ます。例えばですが、生前予約した時点では親族と仲違いをしていて親族に依頼ができなかったが、亡くなるまでの間に仲直りをして必要性がなくなるということもあり得ます。
③ そのような場合、生前予約の内容を変更したり、キャンセルしたりする可能性があります。それに備えて、生前契約が生前予約内容の変更やキャンセルができるような規定になっているか確認した方がよいでしょう。
④ なお、サービス提供前にも関わらず、キャンセルができないという内容の契約や多額のキャンセル料がかかるという内容の契約は認められません。
⑤ 消費者契約法9条1号は、事業者と消費者との契約において、違約金が、解除の事由、時期等の区分に応じ、当該事業者に生ずべき平均的な損害を超える額の場合、超える部分は無効としています。
⑥ 葬儀や遺品整理の生前予約の場合、結婚式や旅行などと違い、サービスの提供日があらかじめ決められておりません。そのため、ある客が予約していたことにより、サービス提供日に他の客の予約を受けられずに機会損失となったという損害は発生し得ません。
⑦ そうなると、生前予約の変更やキャンセルによって事業者に生じる損害は、せいぜい事務手数料程度と考えられ、高額なキャンセル料が認められることはないと考えます。
⑧ この点については、大阪高判平成25年1月25日の判例では、会員制の冠婚葬祭業者と会員との間の契約の途中解約における解約返戻金を制限する条項について、月掛金の振替費用、会員向けニュースや入金状況通知の作成・送付費用のみが平均的な損害であり、それを超える部分は消費者契約法9条1号により無効と判断しています。

4 死亡時の連絡確保
① 葬儀や遺品整理の生前予約をしたからといって、葬儀社や遺品整理業者が自ら申込者が亡くなったことを把握して、自主的にサービスを提供するわけではありません。
② 生前予約が実現されるには、生前予約者が亡くなったことを把握して、葬儀社等に連絡する人を確保する必要があります。
③ 通常は親族や友人を想定しますが、協力を求めることができない場合、遺言に記載して遺言執行者に葬儀社等への依頼をしてもらう、葬儀等の手配について死後事務委任契約を締結しておくなどの準備が必要となります。

5 契約の終了
① 生前予約をしていても、実際には、遺族の希望により、生前予約をしていた葬儀や遺品整理が実行されない場合があります。そのような場合も、キャンセルと同様に考えることになります。
② また、遺族が生前予約の存在を知らずに業者に連絡がこないというケースや、遺族が生前予約の存在は知っていても依頼するつもりがなくあえて連絡をしてこないというケースも想定できます。
③ そのような場合に備えて、いつまでに連絡が来ない場合にはキャンセルとして扱うというような条項が定められているのかどうかを確認することが必要です。
④ また、連絡が来ないことによるキャンセルに備えて、あらかじめ返金先口座を指定しておいた方がよいでしょう。もちろん、連絡が来ない場合のキャンセル料についても、平均的な損害額を超えることはできません。

6 生前予約においてお金を支払う場合
① 生前予約は、単なる予約の場合から予約申込金や予約事務手数料として数万円だけ支払っておく場合、見積金額の全てを先に支払っておく場合など様々です。
② 独居の高齢者の中には、お金を先に支払っておいた方が安心するから先に支払いたいと希望する方も一定数います。しかし、先に支払ってしまう場合には注意が必要です。
③ 葬儀は数十万円から数百万円もする高額なサービスです。そのような高額な費用を一民間会社である業者に支払っても、実際にその業者が生前予約者が亡くなるまでの間存続しているとは限りません。もし生前予約した業者が倒産してしまえば、支払ったお金はほとんど戻ってこないことになります。
④ 現に、高齢者から将来の葬儀代として預託金を集めていた公益財団法人が、預託金を流用した結果、破産をしたという事件もありました。破産した法人は、預託金については弁護士ら第三者の事務所で預託金を管理するとうたいながら、実際にはそうした管理をせずに流用していたと報じられています。
⑤ 本当に、前払いしたお金が保全されているかを外から確認することは困難です。特に規制がされていない現状では、生前予約はしても、費用全額の前払いはしない方がよいといわざるを得ません。
⑥ この点、千葉県消費者行政審議会が公表している「前払い型生前契約による葬儀サービスに係る消費者被害防止に向けた提言」においても、「生前契約は、契約当事者の死亡後履行されるものであり、履行の時期が不確定であり、一括前払いによる契約は、消費者のリスクが高いのではないか。」と前払い型の生前予約のリスクの高さを指摘しています。

【孤独死をめぐるQ&A】Q45 エンディングノートを書く際の注意点

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【Q45】一人暮らしの高齢者はエンディングノートを書くとよいと聞きました。
どのようなエンディングノートを選べばよいのでしょうか。また書く時の注意点はありますでしょうか。

【A】市販のエンディングノートの中から簡単に書けそうなものを選んで書いてみるということで良いかと思います。
書く際は、最初からすべてを埋めようとせず、書ける部分から書いていくとよいでしょう。ただ、解説に紹介した項目については、できるだけ書いておいてもらえると、残された人が迷うことが少なく助かります。
エンディングノートには法的拘束力がないので、財産の分け方など法的拘束力を持たせたい事項については、遺言を作成して下さい。

【解説】

1 エンディングノートとは
① エンディングノートとは、特に決まった定義があるわけではないですが、大辞林によれば、「自分の終末期か死後について、その方針などを書き留めておくノート」とされます。その歴史は平成15年頃から使われ始めたようです。
② 平成23年に「エンディングノート」というタイトルの映画が公開されたことや、平成24年に「終活」という言葉が新語・流行語大賞のトップテンに選出されたことなどから、同年頃から急速に存在が知られ、世間に広まりました。

2 エンディングノートにはどのようなことを書けばよいか
① エンディングノートは、様々な事業主体が発行しており、発行主体により記載内容は少しずつ異なっています。
② 人生を振り返って見つめ直すような内容も多く、頭から書いていくと結構悩んでしまって、エンディングノートを書こうと思って購入したが、なかなか筆が進まないという声も多く聞きます。
③ エンディングノートは、もともとは、家族が困らないようにするために書いておくものです。意思能力がなくなってしまったり、亡くなってしまうと、残された家族や友人は、どのようなことを希望していたかを聞くことができません。
④ そうなると、本当はどのように考えていたのだろうと悩んだり、必要な情報がどこにあるか探したりと苦労をかけることがあります。
⑤ そのため、介護が必要になった場合にどのような施設を希望するのか、延命治療はするのかしないのか、どのような葬儀を希望するのか、葬儀には誰を呼んでほしいか、お墓はどうしたいか、どのような遺産があるかなどをあらかじめ分かるようにしておき、存命中や死後の負担をできるだけ減らすということがエンディングノートのそもそもの趣旨です。
⑥ その趣旨からすれば、エンディングノートに色々な項目があったとしても、介護や終末期治療、葬儀、墓、遺産などについて優先的に記載した方がよいかと思います。
⑦ また、全てのエンディングノートに項目があるか分かりませんが、ペットや遺品、デジタルデバイスやSNSなどについても記載しておくことが望ましいと考えます。

Ⅰ 看護・介護・告知・終末医療について
① 告知、延命治療の方針、臓器提供の希望など終末期における介護、治療の方針について記載します。
② また介護について、誰に又はどのような業者に依頼したいか、介護方針はどのようなものを希望するか、アレルギーの有無などを記載します。
③ これらの項目は、介護が必要になった時点ですでに希望を第三者に伝えることができない状態になっていることがあるため、希望をまとめておいた方が、周りの人が助かります。

Ⅱ 葬儀のこと
① 葬儀について、どのような葬儀を希望しているのかを予算感とともに書いておくと、残された人たちが迷わずに済みます。
② また、一人暮らしの場合、交友関係が分からないことが多いため、亡くなったことを誰に伝えて欲しいかを書いておくとよいでしょう。
③ 誰にも伝えなくてよいという場合も、その旨書いておくと周りの人は迷わずに済みます。
④ 葬儀の生前予約や生前相談をしている場合、その旨も書いておいてください。残された人が生前予約を知らないで他の葬儀社に依頼してしまうこともあり得ます。

Ⅲ お墓のこと
① お墓の有無、お墓に関する事前準備の有無、事前に準備をしていない場合、墓地、納骨堂、合祀墓、散骨などどのような遺骨の供養方法を希望するのか、予算感とともに書いておくとよいでしょう。

Ⅳ 財産
① 相続財産の調査はとても難しいのが現状です。一生懸命調査はしますが、正直に申し上げて全部見つけられているかどうかわかりません。
② 相続財産については、リスト化してもらえると漏れがなくなり、スピーディーに遺産調査ができます。特に、ネット上の預金口座や証券口座については、把握するのが困難なので、存在することを記しておくとよいでしょう。
③ 不動産については、自宅不動産は把握しやすいですが、それ以外の場所にある不動産は存在を知らないと把握しにくくなります。特に、先の相続手続が行なわれず、共有状態の不動産や私道持分などは相続手続が漏れやすいので、記載しておくとよいでしょう。
④ 借金も相続の対象になります。借金があることを知らずに相続してしまうと、相続人は自身の財産からその借金を返済する必要が生じます。
⑤ 金融機関や消費者金融、カード会社の債務については、信用情報を調査すれば存在が分かりますが、連帯保証については、調査が困難です。
⑥ 覚えている限り連帯保証をしている債務についても記載して下さい。漏れやすいのは身元保証や賃貸借契約の保証人ですので、誰かの連帯保証人になっていないか思い出して下さい。

3 エンディングノートには拘束力がない
① 勘違いしてはならないのは、エンディングノートには法的拘束力は一切ないということです。
② 例えば、父親が亡くなり、エンディングノートに自宅は長男が相続すると書いてあったとしましょう。当然、長男は、父親の希望通りに自宅は自分が相続したいと主張してくるでしょう。
③ しかし、遺産がそれしかなかった場合、次男はそれでは納得できないかもしれません。次男がきちんと平等に分けるべきだと主張してくれば、エンディングノートに書いてあっても、何の法的な拘束力はないので、「長男に自宅を相続させる」ということは実現できません。
④ 長男としては、父親の意思を次男のわがままでかなえることができなかったと次男に対する悪感情が生じますし、次男としては、自分は父親から愛されていなかったと悩んでしまうかもしれません。
⑤ エンディングノートに相続についての希望を書いておいたことで、かえって兄弟仲を裂いてしまい、相続紛争を助長するだけになることもあります。
⑥ エンディングノートは、あくまで残された者の負担を軽減するためのものです。自分の希望をかなえて欲しい、相続トラブルを防ぎたいというのであれば、エンディングノートではなく、遺言を書いておく必要があります。

【孤独死をめぐるQ&A】Q44 遺言② 遺言の執行

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【孤独死をめぐるQ&A】Q44 遺言② 遺言の執行についての記事です。

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【Q44】おひとり様から遺言執行者になるように依頼され、遺言執行者に指定されています。
遺言では、慈善団体に寄付をするとの内容になっています。おひとり様の遺言の執行者として特に気を付けておかなければいけないことを教えてください。

【A】おひとり様が慈善団体に寄付をするという遺言の場合、遺産を換価して現金化してから寄付をするといういわゆる清算遺贈の執行になることが想定されます。清算型の遺言執行は、登記変更や税金など気を付けなければならないことが多いので、専門家の助言を受けながら進めることをお勧めします。
また、遺言者が死亡した場合に、きちんと連絡が来るための工夫も必要です。

【解説】

1 財産処分の公平性
① 清算型遺言執行の場合、不動産を換価するという業務が発生することが多くあります。また、不動産に限らず、資産性の高いものを売却することになります。
② その際、遺言執行者の知り合いの業者に安値で売却するなどしたら、当然、遺族や関係者から疑念の目で見られることになります。
③ 複数業者に見積もりを取る、不動産を売却する場合、多数の不動産業者に声を掛けて一番高い不動産業者に売却する入札方式を採るなど、売却先や売却金額が公正であることを担保する方法を採用することをお勧めします。

2 遺留分への配慮
① 相続人に遺留分権者がいる場合、遺留分権者に連絡をし、遺留分を精算してから寄付することをお勧めします。
② そうしないと、寄付を受けた慈善団体が遺留分権者との間で紛争を抱えることになる可能性があるからです。
③なお、遺言執行者を業として行っている方もいます。その場合、遺言執行者と言えども、遺留分をめぐる紛争に関与すると非弁行為(弁護士法72条違反)に該当する可能性があります。

3 登記について
① 清算型の遺言執行において、遺言執行者が不動産を売却することは可能です。
② ただし、移転登記には注意が必要です。まず、死者である被相続人から直接買主に移転登記をすることはできません。いったん、法定相続人名義の登記に法定相続分の登記をし、それから買主への移転登記をすることになります。
③ この相続登記は、遺言執行者が単独で申請することができるので、相続人の協力は不要です。(昭和45年10月5日民事甲4160号民事局長回答)
④ 相続人が不存在の場合には、相続財産は法人となりますので、いったん相続財産法人への名義人表示変更登記を行うことになります。

4 譲渡所得税について
① 不動産の売却により不動産譲渡所得税が発生する場合、法定相続人に不動産譲渡所得税が課せられてしまいます。
② そのため、不動産譲渡所得税の発生の有無を確認し、不動産譲渡所得税が発生する場合、その分はあらかじめ控除して第三者への遺贈を実行する必要があります。
③ また、不動産売却に先立ち、相続人に連絡をし、税務署からのお知らせが来る可能性があることなどを相続人に伝えておいた方がよいでしょう。
④ 自らが取得したわけではないのに課税されたり、税務署からお知らせが来る可能性があることを知らなければ、感情的になることが予想されます。
⑤ この点東京地裁の判決では、遺言執行者が相続人に事前通知することなく不動産を処分したことにつき、相続人から遺言執行者への損害賠償請求を認めたものがあります。
⑥ また、遺言執行者が不動産譲渡所得税を控除することを失念して第三者に遺贈してしまった場合、不動産譲渡所得税を納税した相続人から求償される可能性があります。

5 遺言執行者への連絡の確保
① 遺言執行者を選任しておいても、亡くなった後、すぐに遺言執行者に連絡が来なければ故人の希望尾がかなえられない可能性があります。
② 病院に入院していて死亡するような場合、本人が病院に伝えていたり、入院した時点で連絡がきたりするので、亡くなった場合でも把握はしやすいと言えます。
③ しかし、自宅や外出先で亡くなってしまった場合、遺言者が死後事務まで依頼していることをすぐに周りが把握できず、遺言執行者に連絡が来ない可能性もあります。
④ 同居人がいる場合、同居人に伝えておけばよいでしょうし、親しい親族がいる場合、その人に伝えておけばよいでしょう。
⑤ ただ、死後の事務も含めて遺言を残しておきたいという場合、同居人や親しい親族がいないということもあり、工夫が必要です。
⑥ おひとり様の作成した遺言の遺言執行者に選任されている場合、遺言執行者宛の連絡依頼カードを作成して、遺言を書いた方に渡すとよいでしょう。
⑦ カードは名刺サイズで、ラミネート加工します。最低3枚渡しており、1枚は財布の中に入れてもらいます。外出先で亡くなった場合、身分確認で財布の中は確認されるはずです。
⑧ もう1枚は冷蔵庫に貼ってもらいます。自宅で亡くなった場合、冷蔵庫に貼って有れば、物に埋もれることはありません。
⑨ そして最後の1枚は、信頼できる友人や親族に渡しておいてもらっています。

【孤独死をめぐるQ&A】Q43 遺言① 遺言の作成

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【Q43】私には、相続人もおらず、交流している親族もいません。私が死んだら、遺産は寄付をしたいのですが、遺言を書く際にどのような点に気を付ければよいでしょうか。
また、私が死んだ後の葬儀や納骨について、遺言に書いておくことはできるのでしょうか。

【A】遺言は公正証書遺言で作成することをお勧めします。寄付をしたい団体に事前に寄付の受付の有無などを問い合わせるようにしてください。
遺言で葬儀や納骨について記載することは可能ですが、その実効性確保のためには工夫が必要です。

【解説】

1 おひとり様の場合は公正証書遺言がよい
① 遺言には大きく分けて自筆証書遺言と公正証書遺言とがあります。秘密証書遺言は、実務上ほとんど使われていません。
② 自筆証書遺言は、紙とペンと印鑑があればすぐに作れます。特に費用もかからず、手軽です。
③ しかし、おひとり様が遺言を作成する場合、次の理由から自筆証書遺言ではなく、公正証書遺言を作成することをお勧めします。
④ 1点目は、公正証書遺言は検認が不要であり、すぐに遺言執行ができるということです。検認が必要となる場合、裁判所での手続きに1~2カ月かかるため、すぐに遺言執行をすることができないというデメリットがあります。
⑤ この点、自筆証書遺言も法務局に預けた場合には検認が不要になりました。ただ、遺言書内容の証明書を取得するには、相続人が確定する戸籍を添付するか法定相続情報一覧図を添付する必要があるため、その取得までの間、遺言書内容の証明書の発行が受けられないというタイムロスが生じます。
⑥ おひとり様の遺言の場合、葬儀や埋葬方法などすぐに遺言通りに行って欲しい事態が生じますので、すぐに執行できるというのは、公正証書遺言のメリットの一つです。
⑦ 2点目は、信用性の高さです。公正証書遺言の場合、遺言者がその遺言書を作成したことが公証されており、信用性が高いと言えます。財産処分以外の事実上の内容を記載していた場合、公正証書遺言に書いてあるからとその意を汲んでもらえることがあります。この点からも、おひとり様の遺言については、公正証書遺言をお勧めします。

2 遺言による寄付の注意点
① 遺言で相続人以外に寄付をするということは可能です。遺贈という扱いになります。
② 遺言で団体に寄付をしようとする場合、対象と考えている団体に寄付の受け入れをしているか確認をした方がよいでしょう。団体によっては寄付を受け入れていないことがあります。
③ また、寄付は現金のみで受け付けており、不動産では受付けていないということもあります。亡くなってから寄付を受付けていないことが判明したのでは、最後の遺志である遺言が実現できなくなります。
④ 遺贈による寄付という思いが実現できるよう、対象と考えている団体に受け入れの有無や寄付の対象について事前に確認することが重要です。
⑤ なお、相続人がいる場合、全額寄付をすると、相続人によっては遺留分があり、寄付の受け入れ団体側がトラブルを回避するために、寄付の受け入れを拒否することもあります。

3 清算型遺贈
① 遺言により寄付する場合、遺産を換価して現金化してから寄付することが多いかと思います。そのような場合、遺言に、遺言執行者を置いて、遺産の全部を換価し、被相続人の債務など必要な支払いをしたうえで、残ったお金を遺贈するという清算型遺贈をすることになります。
② 清算型遺贈の場合、遺言執行者が必要になりますので、あらかじめ遺言書で遺言執行者を定めておいた方がよいでしょう。

4 葬儀や納骨に関する記載
① 私がおひとり様から依頼されて遺言書原案を作成する場合、遺言者の希望があれば、葬儀や遺品整理、納骨等について遺言書に記載するということをしています。
② 死後事務委任契約を作成するのではなく、遺言に記載をするという方法もあります。葬儀の主催や遺品整理について、どの業者に依頼するということをあらかじめ記載し、その依頼について遺言執行者が行うように記載します。
③ また、遺体を引き取る親族がいない場合、遺体の引取りについても記載するようにしています。
④ 遺言には遺産をどう分けるかなどの法で定められた事項(遺言事項)にのみ法的効力があり、それ以外の事項については付言事項といい、法的な効力は生じません。
⑤ これまでのところ、公正証書遺言を作成する際には、葬儀の主催に関する指定を記載することで祭祀承継に関連する事項として、付言事項ではなく、遺言の本文として記載してもらえています。

【孤独死をめぐるQ&A】Q42 孤立死の防止

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【Q42】一人暮らしの高齢者です。自宅で死ぬ可能性があることはある程度受け入れているのですが、誰にも気づかれずに腐敗してしまうという事態は避けたいです。
いわゆる孤立死を防止するためには、どのような方法があるでしょうか。

【A】一人暮らしである以上、自宅で一人で亡くなってしまうという孤独死を完全に回避することはできないかと思います。
ただ、万一、自宅で亡くなってしまった場合、誰にどのように発見してもらうかを具体的に考えて準備しておくとよいでしょう。
最近では、独居の高齢者同士が知り合いを作りやすい企画が用意されたり、見守りサービスも提供されていたりしますので、検討しても良いでしょう。

【解説】

1 新たな縁を作る
① 一人で生活している以上、居室内で亡くなってしまう可能性を完全に排除するということは不可能と思われます。
② それよりも、異常があった場合にはなるべく早く気付いてもらい、もし居室内で死んでしまったとしても、早い段階で発見してもらえるようにしておくというのが対策だと思います。
③ 人は、生まれてから死ぬまでずっと一人であるということはありません。血縁、地縁、社縁等の縁が必ずあります。ただ、高齢になっていくと、様々な事情からそれらの縁が機能しなくなってしまう方がいるのも事実です。死んでも誰にも気づいてもらえないと不安な方は「結縁」を試みてください。
④ もともと「結縁」は仏教用語なのですが、ある住職さんが新しい縁を作ることによって孤立することを防ぐための活動という意味でつかわれています。
⑤ 「墓友」が遺体を見つけてくれたというケースがあります。納骨堂や合祀墓を事前購入する場合、同じような境遇、つまり一人暮らしで墓の面倒を見てくれる人がいない方々が集まっていることが多く、事業者によっては、そのような方が横のつながりを持てるようなイベント等を開催しています。
⑥ そこで友人になった人が、イベントに参加していない方を不審に思い、自宅迄確認に来てくれて遺体が発見されたという経緯です。
⑦ その他、終活バスツアーなどを企画している旅行会社もあり、高齢者の一人暮らしの方々が新たな縁を作る機会が増えています。

2 見守りサービス
① 親族はいるけど、遠くに住んでいるし、働き盛りで忙しいからなかなか連絡は取れないと不安を抱かれる方もいます。
② そのような不安を解消するために、最近では自治体や企業が高齢者の見守り・安否確認サービスを提供しています。
③ 例えば、郵便局も「みまもり訪問サービス」を提供しています。ガスの利用状況を遠くの家族に配信するというサービスやインターネットにつながっているポットが、離れている家族にポットの利用状況を知らせるサービス等もあります。
④ このようなサービスを利用することで、高齢者の方がもし動けなくなったとしても、すぐに気づいてもらえます。
⑤ また、見守り契約というサービスを提供している会社や士業もあります。見守り契約は行政書士や司法書士等が、任意後見契約などと一緒に提供していることが一般的です。
⑥ 上記のようなITを用いた遠隔確認サービスも万が一の際にその連絡を受ける人がいないのであれば、利用できません。
⑦ そのような場合、連絡を受ける人についても死後事務委任契約を締結している方や、遺言執行者に指名している方などと見守り契約を締結し、連絡の受取先になってもらうのも一つの解決方法でしょう。