世田谷区砧で子供のいないご夫婦、おひとり様の遺言書作成、相続手続き、戸籍収集支援、任意後見、死後事務委任に詳しい行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。
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【終活・遺言・相続相談】相談例39 自筆証書遺言についての記事です。
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【相談内容】
相談者(77歳男性)から、便箋に鉛筆で書いた自筆証書遺言の案を見せられ、「市販の指南書を手掛かりに、このとおり遺言書を書いてみた。これでよければ清書するが、問題があれば教えて欲しい」と相談された。
【検討すべき点】
このようなケースの相談も良く見受けられます。相談者の中には自信満々の方もいらっしゃり、どこから指摘するか迷う程の場合もありますが、遺言の方法に関しては、自筆証書遺言の短所を説明して、公正証書遺言を勧め、自筆証書遺言に固執されるなら、自筆証書遺言書保管制度を利用するように勧めます。短時間ですべてを説明することは難しいので、遺言内容は要点のみを指摘し、失礼の無いように再考を促します。
【1】自筆証書遺言の形式的要件の確認
① 民法968条による自筆証書遺言の形式的要件(全文自書・日付・署名・捺印)や相続財産目録の添付方法や加除等の変更について説明し、持参された遺言書案が無効にならないかを確認します。
② なお、指南書を手掛かりに遺言書を書くほどの方ならば、遺言能力は問題ないでしょう。
【2】自筆証書遺言の短所の説明
① 自分一人で作成するため、形式的要件を誤解したり、書き損じると、遺言が無効になってしまう。
② 内容についてもチェックしてくれる人がいないので、必要なことを書き漏らしたり、矛盾する内容だったり、意味が明確でない遺言書となったりすると、思い通りの効果を得られない。
③ いったん書いた遺言書を誰かに偽造、変造、隠匿される危険性がある。
④ ③の危険性を避けようと思えば、隠して保管する必要があるが、そうすると相続開始後に発見されない(あるいは発見が遅れる)可能性がある。
⑤ 検認手続きに1~2か月の時間を要する。特に、封印した遺言書は検認まで内容を知ることができないので(民法1004条3項)、相続手続きの初動が遅れる。
【3】自筆証書遺言が好まれる理由
① 後期高齢者(75歳以上)を対象にした平成29年度の法務省調査によれば、「遺言書を作成したことがある」と答えた方(11.4%)のうち、自筆証書遺言は6.4%、公正証書遺言は5.0%でした。
② また、同じ調査で、「作成したい」と回答した方(38%)のうち、自筆証書遺言を選ぶ方が25.3%、公正証書遺言を選ぶ方が12.7%でした。
③ つまり、現実には、公正証書遺言より自筆証書遺言を選択したいと考えている方が多いわけで、この事情を踏まえて、自筆証書遺言保管制度が創設されました。
④ 自筆証書遺言に根強い人気があるのは、自分だけで手軽に作成できる、費用がかからない、極めて私的なことなので誰かにとやかくいわれたくない、家族にも知られずに作成できるといったことが理由と思われます。最近では、指南書の類が多く出版されていることも一役買っているのでしょう。
⑤ したがって、「自分で書いてみた」という自筆証書遺言案を持ち込まれる方に対しては、無理に公正証書遺言を勧めるのではなく、自筆証書遺言保管制度の利用を紹介した方がよいと思われます。
【4】遺言の指南書
① 一般向けの遺言の指南書としては、遺言書キットやエンディングノートがあります。
② 遺言書キットは、自筆証書遺言の書き方を指南した冊子と、遺言用便箋、封筒、台紙をセットにしたもので(書籍と文具の双方の性格を持つようです)、今では、多くの会社から類似の商品が販売されております。
③ 指南の内容は典型的な数例を挙げているだけですので、一般の方が、これを参考にして、個別の事案にカスタマイズすることは容易ではありません。
④ 上記の特徴からすると、これらの指南書を利用して「書いてみた」という遺言書案については、相談者の意図や想いが正確に反映されていない可能性があります。
【5】内容に関するチェックポイント
① 相談者が持参された遺言書案については、形式的要件のほか、以下の点を確認します。
1. 遺言者の意思は明確になっているか(遺言者の意思解釈が問題にならないか)
2. 「相続させる」「遺贈する」「取得させる」等の使い方は適切か
3. 特定財産承継遺言(民法1041条2項)なら、その財産は特定されているか
4. 相続分の指定になっていないか。なっていれば遺産分割協議を容認する趣旨か
5. 一部遺言ではないか、包括条項が記載されているか
6. 将来の変化に対応した予備的遺言(条件付遺言)は必要ないか
7. 遺言執行者の指定と権限の内容
8. 相続債務や葬儀費用等について配慮されているか
9. 遺留分権利者の遺留分を侵害する可能性はあるか
10. 相続人の気持ちを逆なでする記載がないか
② もっとも、法律相談で問題を発見してもそのすべてを正確に説明する時間はないでしょうし、相談者の方も、短時間での指南を咀嚼して理解することは困難です。
③ 相談を受ける士業としては、「ここも違う」「この表現は問題になる」など、粗さがしのようになり安い場面ですが、相談者の気持ちを損ねないよう配慮しながら、的確に問題点を指摘するにとどめ、それでも迷うようであれば、有料の相談で時間を十分に取りお越しいただくように勧めるべきです。