【相続・遺言について】遺留分制度の概説

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、遺留分制度の概説について考えてみたいと思います。

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【Q】父が死亡した後、遺言が発見されました。その遺言には「すべての財産は、長女に相続させる」と記載されていました。しかし、次女の私には、遺留分の権利があるので、遺産を全くもらえないわけではないと聞きました。父の相続人は、母と長女と私です。遺留分について教えてください。

 

【A】◆1.遺留分制度とは
遺留分とは、相続のとき、一定の相続人のために一定割合の相続財産を確保する制度です。被相続人は、遺言や贈与などによって、遺産を誰に与えるかを自由に決めることができます。しかし、本来相続権のある相続人の生活を保障し、家族財産を公平に配分するという点も無視できません。そこで、民法では、一定の相続人に対しては、被相続人の遺言や贈与などによっても奪うことのできない最低限の取り分を遺留分として保護しています。遺留分制度は、被相続人の財産処分の自由と、相続人の保護という2つの要請を調整したものといえます。

◆2.遺留分権利者
遺留分の権利を持つ相続人を遺留分権利者といいます。遺留分権利者は、兄弟姉妹以外の相続人です。具体的には、被相続人の配偶者、子(胎児も生きて生まれれば含まれます)、直系尊属が該当します。ちなみに、子の代襲相続人も、被代襲者である子と同じ遺留分を持ちます。

◆3.遺留分の算定方法
遺留分がどの程度の割合で認められるかについては、相続人が誰かによって異なります。相続人が直系尊属だけの場合は全相続財産の3分の1、それ以外の場合は2分の1とされています。そして遺留分権利者が複数いる場合には、この割合にそれぞれの遺留分権利者の法定相続分を乗じて算出します。
質問のケースでは、あなたの遺留分は「1/2×1/4(法定相続分)=1/8」になります。

◆4.遺留分の算定の基礎となる財産
遺留分の算定の基礎となる財産は、被相続人が相続開始時に有していた積極財産(祭祀財産は除きます)に、「贈与」した財産を加え、債務の全額を引いて算定します。
ここでの「贈与」とは、相続開始前1年間になされた贈与(贈与の相手は問いません)と、相続開始前10年間になされた相続人への特別受益になります。平成30年の改正によって、遺留分の算定の対象となる特別受益に期間の制限が設けられました。これにより、相続開始の10年以上前になされた特別受益は、遺留分の算定の基礎には含まれなくなりました。
なお、遺留分の算定の基礎となる財産の評価は、客観的基準である取引価格により、評価の基準時は相続開始の時とされています。

◆5.遺留分の請求
自己の遺留分を侵害された遺留分権利者は、受遺者または受贈者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の請求ができます。以前は遺留分の権利を行使すると遺贈又は贈与された財産を共有する状態になっていたのですが、平成30年改正により、遺留分の権利は金銭債権とされました。遺留分侵害額は個別的遺留分から遺留分権利者が相続財産から取得または取得できる財産があればそれを控除し、相続した債務があればそれを加えて算定します。
遺留分請求権の行使は、受遺者または受贈者に対する一方的な意思表示でよく、裁判や調停を起こすことが必要なわけではありません。ただし、立証の観点からすると、配達証明付き内容証明郵便によって意思表示をすべきでしょう。

◆6.遺留分侵害額の負担と順序
遺留分侵害額の請求を受けた受遺者または受贈者は、遺贈または贈与の目的の価額を限度として遺留分侵害額を負担します。ただし、受遺者または受贈者が相続人の場合には、遺贈または贈与の目的の価額からその人の遺留分を控除した金額が負担の限度となります。
遺留分を侵害する遺贈や贈与が複数ある場合には、どのような順序で遺留分を負担するかが定められています。遺贈と贈与がある場合は、遺贈を受けた者が先に遺留分侵害額を負担します。複数の遺贈または贈与が同時になされている場合には、その目的の価額の割合に応じて負担します。贈与が複数ある場合には、後のもの(相続開始時に近いもの)から先に負担します。

◆7.受遺者または受贈者による相続債務の弁済
遺留分侵害額の請求を受けた受遺者または受贈者が、遺留分権利者が相続した債務を弁済等によって消滅させた場合には、遺留分権利者に意思表示をすることで、消滅させた債務の限度で遺留分侵害額を支払わなくてよくなります。この規定は平成30年改正で加えられたものです。

◆8.相当の期限の許与
遺留分侵害額を負担することになった受遺者または受贈者は金銭を支払わなければなりませんが、遺贈や贈与を受けたのが金銭以外の財産だった場合には、すぐに金銭を支払うことが困難な場合があります。このような点に配慮して、受遺者または受贈者は、遺留分侵害額の支払いについて、相当の期間の許与を裁判所に求めることができるようになりました。この規定も平成30年改正で加えられたものです。

◆9.消滅時効
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと時効によって消滅します。また、相続開始の時から10年を経過したときも同様とされています。

◆10.遺留分の放棄
遺留分の放棄は、相続開始後はいつでもできます。しかし、相続開始前の場合は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生じます。なお、共同相続人の1人が遺留分を放棄しても、ほかの共同相続人の遺留分には影響を与えません。

◆11.相続税の還付・納付
遺留分侵害額を負担することになった受遺者または受贈者は、既に相続税の納付をしていた場合には、遺留分侵害額分として支払う金額が確定した日の翌日から4か月以内に更生の請求をして、納付済みの相続税の還付を受けることができます。一方遺留分権利者は、相続税の期限後申告や修正申告をして、遺留分に対応する相続税を納付することになります。

◆12.事業承継と遺留分
中小企業の経営者が、後継者に自己が持つ株式を集中して承継させようとしても、遺留分制度があるために自社株式が分散してしまうなど、事業承継にとって大きなマイナスとなる場合があります。また、後継者に株式を生前贈与していた場合、贈与を受けた後継者の貢献により株式の評価が高くなったのだとしても、遺留分の評価は相続開始時点でなされるため、不公平な結果になる場合もあります。これらの問題に対応するため、「中小企業における経営の継承の円滑化に関する法律」では「遺留分に関する民法の特例」が規定されています。具体的には、後継者に贈与等がなされた自社株式について、遺留分算定の基礎財産から除外する「除外合意」や基礎財産に算入する価額を合意時の時価に固定する「固定合意」があります。

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