【終活・遺言・相続相談】相談例64 所有者不明土地と令和3年改正

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【相談内容】
相談者(65歳男性)から、「7年前に死んだ父(当時82歳)の葬儀のとき弟(62歳)と喧嘩になり、それ以来顔を見るのも嫌で、遺産分割も手をつけていない。ただ、亡父名義の郷里の土地建物の固定資産税の請求書が来るので、私がずっと支払ってきた。法律が変わって国に土地を引き取ってもらえると聞いたが、どうすればいいのか」と相談された。

【検討すべき点】
令和3年4月、所有者不明土地の発生の予防と利用の円滑化を目的として民法などの大幅な改正が行われましたので、今後、このような相談が増えると予想されます。施行は令和5年4月27日です。

【1】所有者不明土地

① 「所有者不明土地」」とは。所有者を知ることができず、又は所有者の所在を知ることができない土地のことで、共有土地の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地の共有持分を含みます。
② 少子化や過疎化の進行により、特に地方では所有者不明土地が増え、その総面積は平成28年の時点で、九州の面積(約367万ha)を超えているそうです。
③ 所有者不明土地が増える原因としては、被相続人が亡くなっても遺産分割されないケースがあること、遺産分割でも相続人が郷里の不動産を引取りたがらないこと、引き取っても管理も処分も出来ず固定資産税が課されること、相続登記や住所変更登記が義務ではないことなどが考えられます。
④ そうして遺産分割から外され相続登記も放置された不動産は、数次の相続を経るうち所有者不明土地に変わります。
⑤ しかし、所有者不明土地の増加は、隣接住民に迷惑をかけ、不動産の有効利用を阻害し、税収の阻害要因になります。

【2】所有者不明土地の利用の円滑化に関する特別措置法等

① そこで、平成30年11月15日、まず、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法が施行され、同法では、「所有者不明土地」とは、相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索を行ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない一筆の土地をいうとされ、国が相続人等を探索する方針を示しました。
② 続いて、令和元年11月22日に施行された表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律で、所有者不明土地に関して、登記官が職権で長期間相続登記未了であることを登記に付記し、相続人に対して、直接登記手続を促すことにしました。
③ そして、令和3年4月21日、民法等の一部を改正する法律及び相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(以下相続土地国庫帰属法)が成立して、所有者不明土地への対策は一段落しました。

【3】令和3年民法改正(所有者不明土地)内容

【3-1】令和3年民法改正の概要

① この改正の趣旨は、1.所有者不明土地の発生予防と2.土地利用の円滑化も2点にあるといわれます。
② このうち1.発生予防については、不動産登記制度の見直しによって、相続登記・住所変更登記の申請が義務化される一方、相続土地国庫帰属法の制定により、条件次第では不要な土地を国庫帰属させることができるようになりました。
③ また、2.土地利用の円滑化に関しては、共有制度の改正、所有者不明土地管理制度等の創設、遺産分割の見直しなどが盛り込まれました。
④ 令和3年民法改正の内容は多岐にわたり、この改正に関する詳細な文献が続々と発刊されていますが、ここでは、重要な改正点を挙げるにとどめます。

【3-2】共有に関する改正

① 第一に、共有物の管理・処分に関して、共有者が不明又は行方不明の場合(以下、所在等不明共有者)、他の共有者全員の同意があれば共有物に変更を加える旨の裁判ができることになりました。共有物の管理に関しても同趣旨の規定が置かれています。これにより、所在等不明共有者がいる共有地の管理や変更ができるようになりました。
② 第二に、共有物の分割に関して、相続財産に属する共有物の分割は遺産分割によるべきであり、民法258条による共有物の分割請求ができないことを確認する一方(改正民法258条の2第1項)、相続開始後10年を経過したときは、すでに遺産分割の請求をしていた相続人から異議がない限り、同条による分割請求ができることになりました(同条2項)。なお、以上は不動産・動産のすべてに適用されます。
③ 第三に、共有不動産において所在等不明共有者がいる場合、他の共有者の請求によって、所在等不明共有者の持分を取得させる裁判ができることになりました。ただし、遺産分割すべき場合には相続開始10年経過していることが必要です。もちろん、所在等不明共有者は持分を取得した共有者に対して持分の時価相当額を請求できます。これによって不動産の共有解消のための新たな方法が生まれました。
④ 第四に、共有不動産において所在等不明共有者がいる場合でも、他の共有者全員が協力して、所在等不明共有者の持分を含めた共有物全体を第三者に譲渡することができることになりました(改正民法262条の3)。これによって、共有不動産そのものの処分が可能になります。なお、以上は、土地・建物の双方に適用されます。

【3-3】所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令

① 改正民法では、第2編(物権)第3章(所有権)の第3節(共有)の後に第4節(所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令)として、264条の2から264条の8までの条文を追加しました。
② 具体的には、所有者不明土地について、必要があるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る土地又は共有持分を対象として、所有者不明土地管理人による管理を命ずる処分(所有者不明土地管理命令)をすることができるとされ、選任された管理人は、裁判所の許可を得れば、保存行為や土地の性質を変えない範囲内で、利用又は改良を目的とする行為以外についても、管理・処分する権限を与えられました。なお、所有者不明土地管理命令の効力は、対象土地にある動産にも及びます。
③ また、所有者不明建物についても、利害関係人の請求によって下された所有者不明建物管理命令による所有者不明建物管理人が、建物・建物内の動産、敷地に関する権利を管理・処分する権限を持つことになりました。
④ これにより、所有者不明土地や所有者不明建物の近隣住民等の利害関係人は、所有者不明土地管理人や所有者不明建物管理人による隣地・隣家の適切な管理が期待できるようになりますが、利害関係人には費用(予納金)負担のリスクがあること、どの程度の事情で要件を充足するのか、土地と建物の所有者が異なる場合の処理などの問題については運用を待たざるを得ません。

【3-4】管理不全土地管理命令及び管理不全建物管理命令

① この制度についても条文が追加されました。具体的には、所有者による土地や建物の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該土地や建物を対象として管理不全土地管理人や管理不全建物管理人による管理を命じる処分をすることができるようになります。
② なお、土地や建物の所分は所有者が知れているケースですので、所有者の合意がないと裁判所は処分を許可しません。

【3-5】相続法改正

① 相続法でもきわめて重要な改正がありました。第一に、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分をずることができるとされました。
② 「いつでも」というのは意味深で、もちろん唯一の相続人が単純承認したときとか、相続人が数人の場合に全部の遺産が分割されたときなどを除くとされていますが、相続人による相続財産の放置を看過しないとの態度が見て取れます。なお、この管理人には、不在者財産管理人の権限・義務等に関する民法27条から29条までが準用されます。
③ 第二に、相続開始後10年を経過して相続人が遺産たる共有物の分割請求をする場合には、民法900条から902条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有分とするとされましたので、特別受益や寄与分を主張できなくなります。
④ 第三に、相続開始後10年を経過して遺産分割する場合でも、特別受益に関する民法903条から寄与分に関する民法904条の2までの規定は、原則として適用しないものとされました。つまり、相続開始後10年を過ぎると、共有物の分割請求の場合も遺産分割の場合も、特別受益や寄与分を主張できなくなることになります。
⑤ 第四に、これまで相続人のある事が明らかでないときに選任されていた相続財産管理人は、第一で述べた相続財産管理人と区別するため、相続財産の清算人と名前を変えます。しかし変わったのは名称だけではありません。
⑥ 従前の相続財産管理人制度では、選任の公告に2か月、債権者受遺者への請求申出の公告に2か月、相続人捜索の公告に6か月を要していた手続きを改め、相続財産清算人の選任公告と同時に、相続人があるならば一定の期間(6か月を下ることができない)内にその権利を主張すべき旨を公告するものとし、その期間内に満了する期間を定めて相続債権者や受遺者に対する請求申出を公告するとし、相続人捜索公告の条文を削りました。これによって、公告期間は6か月で済むことになり、相続財産清算人の手続きは従前に比べて各段に速くなります。

【3-6】不動産登記法の見直し

① 不動産登記法の改正では、所有権の登記名義人について相続の開始があったとき、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならないとされました。遺産分割の場合も同様です。
② また、登記名義人の名称又は住所変更についても、変更から2年以内に変更登記を申請する義務が課されました。なお、これらに違反した者には、10万円以下又は5万円以下の過料に処せられます。

【3-7】相続土地国庫帰属制度の創設

① 今回の改正では、相続によって土地を取得した相続人が土地所有権を国庫に帰属させることができる制度も創設されました。以下、注意点を述べていきます。
② 第一に、土地の所有者(相続等によりその土地の所有権の全部又は一部を取得した者に限る)は、法務大臣に対し、その土地の所有権を国庫に帰属させることについての承認を申請することができるとされました。「相続等」とは相続又は相続人に対する遺贈に限られます。
③ 第二に、その承認申請は、1.建物の存する土地、2.担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地、3.通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地、4.土壌汚染対策法2条1項に規定する特定有害物質により汚染されている土地、5.境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地のいずれかに該当するものであるときは、することができないとされました。
④ 第三に、法務大臣は、6.崖がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの、7.土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他有体物が地上に存する土地、8.除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地、9.隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの、10.前6.~9.に掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるものについては、承認しなくてもよいとされました。
⑤ このように条件が厳しく、管理も財務省や農林水産大臣が行ないますが、国としては不要な土地の国庫帰属は多くの場合認めないと推測されます。したがって、国庫帰属の法制度が用意されたからと言って、相談者に安易に、認められると説明することは避けなければなりません。
⑥ 第四に、承認申請のためには、事前の手数料のほかに、承認された場合には約10年分の管理費用に相当する負担金の納付が必要です。法務省民事局では、負担金の目安として、粗放的管理で足りる原野は約20万円、市街地の宅地200㎡では約80万円の金額を挙げています。

【4】相談者への回答

① 以上から、相談者に対しては、前記の令和3年民法改正の概略を説明したうえで、1.亡父の相続開始後3年以内に相続登記をしていなければ過料に処せられる可能性があること、2.それを避けるには、相続人である旨の申出をする方法があること。
② 3.相続開始後10年が経過すれば、遺産分割や共有物分割の手続きで特別受益や寄与分を主張できなくなるので、早目に遺産分割を行うこと、4.遺産分割の結果、相談者が郷里の不動産を取得して、その不動産の国庫帰属の承認申請をすることができる可能性はあるが、種々の厳しい条件をクリアできるか検討すること(亡父の土地に建物がある場合は解体、隣接地との筆界特定も必要になる場合もある)。
③ 5.さらに、国庫帰属の要件を満たしても負担金の納付が必要になること、6.亡父名義の郷里の不動産を放置していると、所有者不明土地管理命令や管理不全土地管理命令が下される可能性があることを説明します。なお、支払い済みの固定資産税は遺産分割の中で勘案(清算)してもらうことになるでしょう。
④ 要するに、相続開始後10年経過する前に遺産分割の調停を申し立てるべきですが、相続土地国庫帰属法によって、相続した不動産を簡単に国庫に帰属させることができるようになったわけではないことに注意が必要です。