【成年後見制度について】成年後見人は葬儀もしてくれるの?「後見人ができる死後の事務の範囲」

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は後見制度に関して、「成年後見人は葬儀もしてくれるの?後見人ができる死後の事務の範囲」について考えてみましょう。

【Q】はなこさんは85歳です。はなこさんには、遠方に住んでいる妹はおりますが、ずっと疎遠のままです。はなこさんは、夫と一人息子を早くに亡くして以来、一人暮らしをしてきましたが、最近認知症がかなり進んで日常生活も困難になってきましたので、成年後見人を付けてもらうことになりました。成年後見人ははなこさんが死んだ後葬儀等の事務についても対処してくれるのでしょうか?

【A】◆原則は相続人

成年被後見人になったはなこさんが亡くなると、同時に成年後見は当然に終了して、成年後見人の権限もなくなるのが原則です。それは、成年後見制度が、支援を必要とする認知症や精神障害・知的障害のある被後見人の生存中、身上監護や財産管理をして支援していく制度だからです。はなこさんが亡くなると、はなこさんの権利義務は全て相続人である妹さんが受け継ぎます。お尋ねの葬儀などを含めて、はなこさんの死後事務は、通常すべて相続人の妹さんが行うことになります。

◆成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律

しかし、実務上は、遠方に住んでいて、ずっと疎遠だった妹さんが、はなこさんの事後事務を行えない場合等には、成年後見人が、成年被後見人が死亡した後も、一定の死後事務を行う必要が出てきます。はなこさんが亡くなった場合の死後事務として、概ね次の事柄が考えられます。

①はなこさんの死亡診断書(事故死や死因不明の場合には、死体検案書)を入手して死亡届を役所にだすこと、②病院の診療費・入院費の支払いと入院預託金の清算など、③病院から遺体を引き取って、埋葬までの遺体の安置・保存と埋葬を葬儀社に依頼すること、④火葬・埋葬の許可申請と発行される許可証を受け取ること、⑤葬儀社へ火葬・埋葬を依頼すること、⑥病院に残置された私物の引き取りと不用品の廃棄処分の依頼などです。

このように、成年後見人には成年被後見人の死亡後も一定の死後事務をすることが期待されます。このうち死亡届については、後見人(保佐人。補助人。任意後見人)も独自の権限で届出ができます。

では、その他の死後事務についてはどうでしょうか。成年後見人の死後事務については、「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」は平成28年10月13日に施行されて、成年後見人は、成年被後見人の死後も、一定の範囲の事務を行うことができることとされました。ただし、この死後事務を行うことができるのは成年後見人だけであり、保佐人や補助人・任意後見人は含まれません。

改正法(民法873条の2)により、一定の要件のもとに成年後見人がその職務として行うことができるとされた死後事務は次のとおりです。

①個々の相続財産の保存に必要な行為

例えば、相続財産に属する債権について、時効が間近に迫っている場合に、時効の中断を行うことや、相続財産に属する建物の壁が剥がれているのを修繕する等の行為

②弁済期が到来した債務の弁済

例えば、成年被後見人の(生前にかかった)医療費・入院費や公共料金の支払い

③成年被後見人の遺体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産全体の保存に必要な行為

例:遺体の引き取りや火葬・埋葬に関する契約の締結。成年後見人が管理していた成年被後見人所有の動産について、トランクルームに預ける契約の締結。成年被後見人の居宅の電気・ガス・水道等の供給契約を解約すること。債務弁済のために、成年後見人名義の預貯金口座を払い戻すこと。

◆死後事務の要件

成年後見人が死後事務を行うためには次の要件が必要となっています。これは、本来成年被後見人の死後は、その権利義務は全て相続人に引き継がれて、成年後見人の権限は失われるのが原則だからです。

①成年後見人がその死後事務を行う必要があること

②成年被後見人の相続人が、相続財産を管理することができる状態に至っていないとき

③成年後見人が当該死後事務を行うことについて、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかな場合でないこと

④民法873条の2第3号の死後事務(前記遺体の火葬・埋葬の契約など)を行う場合は、さらに家庭裁判所の許可が必要

◆成年被後見人の葬儀

では、改正法(民法873条の2第3号)によって、成年後見人は成年被後見人の葬儀を執り行うことはできるでしょうか。

葬儀社との間で、遺体の火葬・埋葬の契約をすることは、家庭裁判所の許可を得れば行えますが、改正法でも成年後見人に葬儀を執り行う権限までは与えていません。葬儀には、宗派や規模等によって様々な形態があり、その施行方法や費用の負担などを巡って成年後見人と相続人の間にトラブルが発生するおそれがあるためです。

このように、成年後見人が事後事務の一環として成年被後見人の葬儀を執り行うことはできませんが、後見事務とは別に、個人として参加した人が出した会費により無宗教でお別れ会や偲ぶ会を催すことは制限されないと考えられます。

◆保佐人、補助人、任意後見人の死後事務

では、改正法で死後事務を行うことができる者に含まれていない保佐人や補助人・任意後見人は、被保佐人や被補助人・任意被後見人等の死後事務の必要性が出てきた場合、どうすればいいのでしょうか。

被保佐人や被補助人・任意被後見人本人が亡くなった場合は、成年後見と同じように保佐・補助・任意後見は当然終了して、保佐人や補助人・任意後見人の権限が亡くなるのが原則です。被保佐人や被補助人・任意被後見人本人が死亡した後に、相続人と連絡がとれなかったりしたときなど、一定の死後事務を行う必要が出てくる場合がありますが、死後事務が一切認められないとすると、困ってしまいます。

成年後見人(保佐人・補助人・任意後見人・任意後見監督人)には、「急迫な事情のあるとき」には、例外的に、被後見人等の死後も必要な処分をする応急処分義務(善処義務)の規定(民法874条・876条の5・876条の10・任意後見契約法7条・民法654条)がありますので、急迫な事情のある場合、例えば、被保佐人・被補助人の権利が時効で消滅しそうなとき等、相続人が対応できないときには、死後事務として必要な処分をする義務で対応することが考えられます。

しかし、応急処分義務で成年後見人等(保佐・補助を含む)が行うことができる事務の範囲は必ずしも明確ではありません。葬儀については、成年後見人などの応急処分義務には含まれませんので、この規定を使って成年後見人などが葬儀をすることは勿論できません。

なお、相続人が死後事務を行えない場合は、事務管理(民法697条)として、死後事務を行うことも考えられます。

コメントを残す