【終活・遺言・相続相談】相談例55 遺産分割調停の申立て

世田谷区砧で子供のいないご夫婦、おひとり様の遺言書作成、相続手続き、戸籍収集支援、任意後見、死後事務委任に詳しい行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。
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【終活・遺言・相続相談】相談例55 遺産分割調停の申立てについての記事です。

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【相談内容】
相談者(54歳男性)から、「近くに住んでいた伯母(86歳)が亡くなり、伯父(81歳)と私を含む甥・姪7人の合計8人が相続人になった。しかし、従兄弟たちの一部とは伯母の遺産に関する認識がかみ合わないので調停が必要だと思うが、どうすればいいか」と相談された。

【検討すべき点】
相談者が、自分で申立てるつもりで遺産分割調停の一般的な手続きについて質問されているのなら、その手続きを説明します。しかし、遺産分割調停の過程では、前提問題をはじめ様々な専門的知識が必要になりますから、最初から弁護士が受任するということが相談者のためになることが多いものです。
したがって、事案の内容を伺いながら、調停で問題になりそうな点を指摘して、紛争性があると判断すれば、弁護士への委任を勧めることになります。

【1】遺産分割調停手続きに関する説明

【1-1】管轄

① 遺産分割調停を申し立てる場合の管轄は、「相手方の住所地を管轄する家庭裁判所」又は「当事者が合意で定める家庭裁判所」になります。
② 相談例の場合、相手方は7人いるので、その相手方の住所地としていくつかの家庭裁判所を選択できますが、相続人全員の便宜を考えて決めるべきでしょう。
③ なお、最初から遺産分割の調停ではなく、遺産分割の審判を申立てることも可能です。遺産分割審判の管轄は、被相続人の住所地(相続開始地)を管轄する家庭裁判所又は合意管轄裁判所ですから、相談者は、相続開始地を選択して遺産分割審判を申立てることもできます。
④ ただし、審判の申立てを受けた家庭裁判所が事件を家事調停に付すると判断すれば、結局は調停管轄権を持つ家庭裁判所に移送されますので、かえって時間を無駄にすることになりかねません。

【1-2】申立書等

① 相談者は調停申立ての具体的方法を知りたいのかもしれませんが、その説明には時間がとられますし、相談者も具体的な内容は覚えられません。したがって、調停申立書の書式、提出書類、提出方法、申立費用等の情報は、家庭裁判所のHPで入手できることを説明した上で、特に気にされる点について回答します。
② そして、時間があるなら、申立書の写しは相手方に送付されるので、相手方の感情を害するような記載を控えること(または非開示を希望すること)、戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍謄本などの取り寄せや遺産に関する資料の整理や提出に手間取ること、法定相続情報一覧図を提出した場合でも追加して戸籍謄本等の提出を求められる可能性があることなどを指摘します。それが煩わしいと思う場合は、司法書士や弁護士に依頼することを勧めます。

【1-3】遺産の特定

① 遺産をできる限り明らかにしてから調停を申し立てるべきであり、家庭裁判所が後見的立場から遺産や特別受益を調査してくれると期待すると当てが外れます。この点を誤解している方が多いので、説明が必要になります。
② なお、相談例の相談者は被相続人の近くにお住まいで、被相続人の通帳などを保管している可能性があるので、それを取りまとめて(家庭裁判所の書式に従った)遺産目録を作成するように説明します。

【1-4】調停期日

① 調停を申し立てた後、2か月程度で第1回の調停期日が指定され、以後、1ヶ月から2ヶ月に1度の割合で調停が開かれること、調停には調停委員会を構成する調停委員2名と対面して遺産分割の内容を協議することなどを説明します。
② また、調停委員の関心は、遺産の範囲の確定、特別受益や寄与分をどのように取り扱うか、どのような調停案が適切か、調停不備の場合に審判に移行するべきかにあるので、当事者が調停期日で延々と心情を訴えてもあまり効果がないことを指摘し、もし、主張したいことがあるなら書面にまとめるべきと説明します。

【1-5】調停の結末

① 相続人全員が同意すれば遺産分割調停が成立します。当事者が多数になる場合には、調停期日に不出頭となる当事者が予想されますが、その場合でも、1.電話会議システム又はテレビ会議システムの利用、2.調停条項の書面による受諾の方法、3.調停に代わる審判の利用などの方法により、調停を成立させることができます。
② これに対して、数回の調停期日を経ても調停成立の見込みがないときは調停不成立となり、自動的に遺産分割審判に移行します。なお、相続人の範囲や遺産の範囲などに問題があると、調停の取下げを求められることもあります。

【2】前提問題

① 遺産分割調停を申し立てるに当たって、遺産分割の前提問題の確認は避けて通れません。遺産分割とは、相続人に遺産がどのように分配するかの問題ですから、法定相続人が確定し、遺産の範囲が確定し、かつ、遺言や遺産分割協議によって遺産の分配方法(各相続人の具体的相続分)が決まらない場合にはじめて、遺産分割に適した状態になります。
② したがって、1.法定相続人に関して認知、廃除、縁組無効や親子関係不存在、相続欠格等の争いがある場合、2.遺産分割時に存在する遺産の範囲に争いがある場合(名義預金や使途不明金)、3.遺言や遺産分割協議の有効・無効が争われている場合には、これらの問題を先に片付けておかなければ、遺産分割に適した状態になりません(遺産分割の前提問題)。
③ 前提問題が未解決でも、調停委員会は当事者全員が合意すれば遺産分割調停を成立させることができますし、調停不成立後に家庭裁判所は遺産分割審判を下せますが、その審判には既判力がないので、結論に不満のある当事者は別途の訴訟などでその判断の当否を争うことができ、紛争の一回的解決の要請(訴訟経済)に反します。
④ そこで、一般に、遺産分割の前提問題は、遺産分割を行う前に訴訟など(認知と相続人廃除等の効力は別途の審判手続きによります)で解決しておくことが望ましいとされ、遺産分割調停中に前提問題に関する合意が難しいと判明した場合には、調停委員会から、調停を取下げて訴訟などで前提問題を解決するよう求められることがあります。
⑤ したがって、遺産分割調停を申し立てる前に、前提問題がないかを相談者に確認し、もし前提問題があるなら、調停の中で合意できる見込みはあるのか、それが難しいなら遺産分割調停前に訴訟などによって前提問題を解決しておくべきではないかと検討を促します。

【3】遺産分割の対象となる遺産

① 相談者によると、「遺産に関する認識がかみ合わない」とのことですので、遺産分割の対象となる遺産について整理しておきます。
② 「遺産分割の対象となる遺産」とは、1.相続開始時に存在し、2.分割時にも存在し、3.未分割の遺産であると考えられています。ただし、以下の点に注意が必要です。
③ 第一に、不動産、株式、現金、借地権などは相続開始後は共有状態ですから、3.の要件を満たし、1.2.の要件も揃えば遺産分割調停及び同審判の対象となります。
④ 第二に、債権は、相続によって当然分割となるから共有状態が解消され、3.の要件を満たしません。ただし、最高裁は、投資信託受益権や個人向け国債、投資信託受益権から相続開始後に発生した元本償還金又は利益分配金について、当然分割債権にならない旨を判示し、普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権についても、遺産分割の対象となる判断をしましたので、これらの債権を対象とした遺産分割の調停や審判は可能です。
⑤ これに対して、貸金債権、賃料債権、不当利得返還請求権や不法行為による損害賠償請求権は当然分割債権となるので、3.の要件を満たしませんが、相続人全員が同意する場合には遺産分割調停及び同審判の対象とすることができます。
⑥ 第三に、相続開始前に出金された預貯金(使途不明金)は1.の要件を満たさず、相続開始後に出金された預貯金(同)は2.の要件を欠きますが、相続人全員が合意すれば遺産分割調停及び同審判で対象とすることができます。
⑦ なお、後者に関しては、平成30年相続法改正により、相続開始後かつ遺産分割前に財産が処分された場合であっても、共同相続人全員の同意があれば、その遺産を遺産分割の対象とすることができ、共同相続人が財産処分をした場合には、その共同相続人の同意は不要とされました。
⑧ 第四に、相続開始前の相続債務や相続開始後の葬儀費用や遺産管理費用は、遺産分割調停の中で負担割合を協議することはできますが、1.から3.までの要件を満たさないので、遺産分割審判で対象とすることはできません。
⑨ 最後に、遺産の一部についての遺産分割も有効です。したがって、遺産性に争いのある部分や引き取り手のない遺産(山林・農地など)は、遺産分割の対象から外すことができます。

【4】遺産分割調停の申立てについての注意

① まず、相談例のように、多数の相続人(相手方)がいる場合は、申立前に、相続人間で相続分の譲渡(民法905条1項)や相続分の放棄を試み、当事者の人数を減らしておくべきです。
② もっとも、1.相続分の譲渡や相続分の放棄は「相続放棄」とは違い、譲渡者・放棄者は相続債務を免れないこと、2.相続分の譲渡は相続人以外に対しても行えること、3.相続分の譲渡や放棄は印鑑証明書を付した家庭裁判所所定の書面によること、4.相続分の譲渡や放棄には遡及効がないこと、5.相続分の譲渡や放棄後に遺産分割が成立する場合、司法書士に相続登記手続の方法を確認する必要があること、6.相続分の譲渡や放棄により対価を得た場合には相続税が課税されること、7.遺産分割調停申し立後に相続分全部を譲渡した当事者は手続きから排除されることなどに注意が必要です。
③ 次に、相続人の中に意思能力に問題がありそうな高齢者がいる場合には、あらかじめ成年後見人を選任してもらっておくべきです。
④ また、被相続人の先代や先死亡した配偶者名義の不動産などが残っていたということもあり、一次相続と二次相続の二軒の遺産分割調停を申し立てることがあります。古い日付の一次相続では法定相続分が異なる場合もありますので(昭和22年5月2日以前に相続開始した場合は家督相続、昭和55年12月31日以前に相続開始した場合は配偶者の相続分が少なくなっています)、相続開始の日付に注意して下さい。