【終活・遺言・相続相談】相談例61 遺留分侵害額請求権と特別受益

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【相談内容】
相談者(55歳女性)は、「亡くなった母(88歳)は、すべての遺産を私に相続させるという公正証書遺言を残してくれたが(積極財産8千万円。なお、相続債務は1千万円)、それを知った姉(57歳)から遺留分侵害額請求の通知が届いた。姉も、20年前に母から自宅購入の資金として2千万円の贈与を受けていたはずなので、納得できない」と相談された。

【検討すべき点】
かつての遺留減殺請求権は、平成30年の相続法改正により遺留分侵害額請求権に変わりました(令和元年7月1日以降に相続開始した場合に適用)。遺留分侵害額請求は著名な論点の一つですし、相談者の方もある程度の知識を仕入れてきますから、おぼろげな知識で対応するのは危険です。一つずつ条文に当たりながら検討しましょう。

【1】遺留分侵害額請求権

① 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む)又は受贈者に対し、遺留分侵害に相当する金員の支払を請求することができるとされます。
② しかし、この権利は、遺留分権利者が自分のために相続が開始したことと遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと時効によって消滅します(相続開始から10年間の除斥期間が経過したときも同じです)。
③ したがって、姉からの遺留分侵害額請求の通知が、以上の要件を満たしているかを確認します。
④ つぎに、遺留分侵害額請求の額を計算しますが、この点はたいへん間違えやすいので、条文に沿って見ていきます。

【2】遺留分の基礎財産の計算

【2-1】遺留分の基礎財産

① まず、「遺留分を算定する貯めの財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする」とされます。
② この条文だけで言えば、相談例の遺留分の基礎財産は8千万円+2千万円-1千万円=9千万円です。

【2-2】遺留分の基礎財産に組み入れられる贈与

① もっとも、「贈与は相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を参入する」とされ、これが第一準則です。
② しかし、姉に対する2千万円の贈与は20年も昔のことですから、この規定では、遺留分の算定に算入できません。
③ また、例外的に、「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与したときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする」とされ、これが第二準則です。
④ しかし、母から姉への2千万円の贈与が20年前なら、その当時母がどの程度の資産を持っていたかを知らべて主観的要件を主張立証しなければなりませんから、第二準則によって姉への生前贈与を基礎財産に組み入れるのは困難です。

【2-3】相続人に対する贈与の組み入れ

① さらに、相続人に対する贈与については原則が修正されます。すなわち、「相続人に対する贈与についての第1項の規定の適用については、同項中「1年」とあるのは「10年」と「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る)。」とする」とされました。これが第三準則です。
② なお、この条項は、持戻し免除の意思表示を素通りしていますので、この計算においては持戻し免除の意思表示の有無は無視して結構です。
③ そうすると、相続開始前10年間に行った被相続人から相続人に対する贈与は、それが特別受益と同様の要件を満たすなら遺留分の基礎に入りますが、相談例では姉に対する贈与は約20年前なので、この要件も満たさず、遺留分の基礎財産に算入できません。
④ 以上から、相談例では、第一乃至第三準則によっても遺留分の基礎財産は、8千万円-1千万円=7千万円となると思われます(第二準則の悪意を立証した場合のみが例外です)。

【3】遺留分侵害額請求権の額の計算

【3-1】遺留分侵害額と請求額

① そうすると、姉(相続人は姉と相談者の二人とします)の遺留分は、7千万円の1/4(1/2×1/2)である1,750万円であり、遺留分を侵害している額も同額で、姉は相談者に対して1,750万円を請求できるかのように見えます。
② しかし、遺留分侵害額として請求できる金額についても、修正が図られています。すなわち、遺留分権利者が請求できる遺留分侵害額については、「第1042条の規定による遺留分から第1号及び第2号に掲げる額を控除し、これに第3号に掲げる額を加算して算定する」とされるので(民法1046条2項)、今度はこの点を検討しなければなりません。

【3-2】遺留分侵害額請求権の修正

① まず、民法1046条2項1号では、「遺留分権利者が受けた遺贈又は第903条第1項に規定する贈与の価額」とされますので、特別受益に該当する生前贈与は、遺留分侵害額請求の額から控除されます。
② そして、同条項は、上記で述べた民法1044条3項の規律(10年間の期間制限)をスルーしていますから(相続人の公平を図る趣旨)、10年以上前の生前贈与も、遺留分侵害額請求権から控除されます。
③ その結果、姉が遺留分侵害額請求できる金額は1,750万円-2千万円=-250万円となり、姉は遺留分侵害額請求権を行使できません。

【3-3】その他の修正

① なお、民法1046条2項2号では、「第900条から第902条まで、第903条及び第904条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額」とあり、これも遺留分侵害額請求の額から控除されます。
② これは遺産分割の対象となる遺産がある場合で、その相続分については遺産分割で取得するべきなので遺留分侵害額請求の額から控除されるのですが、相談例では、姉が取得する遺産はなさそうです。
③ また、民法1046条2項3号により、「被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、899条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第3項において「遺留分権利者承継債務」という)の額」が遺留分侵害額に加算されますが、相談例の遺言は、相続債務もすべて相談者に承継させる内容と解釈されますので、加算されるべき金額はありません。

【4】結論

① 以上のとおり、相談例では、母から姉に対して20年前に行われた2千万円の生前贈与(特別受益)は、遺留分の基礎財産にこそ算入されませんが、遺留分侵害額請求の額の算定においてはマイナス要素として考慮され、その結果、姉は遺留分侵害額請求権を行使できません。
② これに対して、もし、行政書士や弁護士などが、20年前の相続人に対する贈与も遺留分の基礎財産に含まれると誤解していれば、姉には9千万円×1/4-2千万円=250万円の遺留分侵害額請求権が認められると説明してしまうかもしれません。
③ また、遺留分侵害額請求権の修正を忘れていれば、遺留分の基礎財産は7千万円だから、7千万円×1/4=1,750万円の遺留分侵害額請求権が認められると説明してしまうかもしれません。いずれも明白な誤りです。
④ なお、相談者が、対立する兄弟姉妹の特別受益を主張しながら、自分の特別受益については忘れていたり、隠していたりする場合があります。後日相手方にそれを指摘されると一気に守勢に回りますので、あらかじめ、依頼者にこの点について確認する必要があります。