【相続・遺言について】遺留分侵害額請求権行使の時期的制限

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、遺留分侵害額請求権行使の時期的制限について考えてみたいと思います。

世田谷の相続・遺言・成年後見は090-2793-1947までご連絡を

 

【Q】父が亡くなりました。既に母は他界しており、父の相続人は、私と弟2人だけです。父には預貯金はほとんどなく、私と一緒に住んでいた不動産が唯一の財産でした。
①父は生前、居住不動産を一緒に住んでいた私に残すという遺言を作成していました。父の死から1年半ほどが経過していますが、イギリスに住んでいた弟が、突然、自分にも「遺留分」というのがあるとして、不動産の価格相当分について私に支払うよう主張してきました。私は弟に支払わなければならないのでしょうか?
②父が亡くなる15年前に、私は父から一緒に住んでいた不動産を贈与されていた場合、弟の遺留分の侵害となるのでしょうか?

【A】◆1.遺留分侵害額請求権行使の時期的な制限
①で、弟さんが主張しているのは遺留分侵害額請求権という権利です。遺留分侵害額請求権を行使すると遺留分侵害額に相当する金銭の給付を目的とする債権が発生します。
①の場合で言うと、弟さんがあなたに侵害された遺留分相当額の支払いを求めることができるということです。

この遺留分侵害額請求権の行使については時期的な制限があり、民法上、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年、相続の開始から10年と定められています。
「遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」とは、単に贈与や遺贈があったことを知った時ではなく、これに加えてこれらが遺留分を侵害するものであることを知った時とされています。

①では、お父様が亡くなられてからすでに1年半が経過しているとのことですが、弟さんがお父さんの死だけではなく、お父さんの「唯一の財産」である不動産をあなたに残すという遺言の内容を知り、これを知って1年が経過しているのであれば、遺留分侵害額請求権を行使することはできません。

たとえば、弟さんがお父さんの財産である不動産をあなたに残すという遺言を知っていたとしても、弟さんがお父さんの相続財産全体について不明で遺留分が侵害されているか否か不明であった場合や、弟さんがお父さんの相続財産が他にももっとあり遺留分は侵害されていないと誤信していた場合には、上記1年の期間制限にはかかりません。

したがって、弟さんが遺言の内容を全く知らない場合や知っていても遺言の内容がお父さんがあなたに残した不動産が「唯一の不動産」であることを明示しておらず弟さんがこのことを知らなかったり、お父さんに他に財産があると誤信している場合などは「遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」から「1年」が経過したとはいえず、弟さんはあなたに対して、遺留分侵害額に相当する金銭(この場合不動産価値の4分の1)について請求できることになり、あなたはこれを支払わなければなりません。

 

◆2.遺留分算定に含まれる特別受益の期間
相続人に対してなされた贈与については、特別受益(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本としてなした贈与)に該当する相続開始前10年間にされた贈与のみが遺留分の算定の基礎となります。
したがって②の場合、お父さんからあなたになされた不動産の贈与はすでに10年以上が経過しており、特別受益にあたるか否かに関わらず、遺留分を算定するための財産の価額に算入されません。よって、あなたが弟さんの遺留分を侵害している状態になっていないということになり、弟さんからの金銭の請求を拒むことができます。

【相続・遺言について】遺留分侵害額請求の相手方

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、遺留分侵害額請求の相手方について考えてみたいと思います。

世田谷の相続・遺言・成年後見は090-2793-1947までご連絡を

 

【Q】父が半年前に亡くなりました。法定相続人は母、兄、自分の3人です。
①父の死後、兄が公正証書遺言というものを持ち出してきたのですが、その内容は父名義の預貯金2,000万円のうち、500万円を叔母に贈与する、その他の財産はすべて兄に相続させるという内容になっていました。父名義の資産としては、預貯金のほかに不動産や株式などがあり兄が相続した分の合計額は5,000万円ほど、遺産総額で5,500万円になります。なお、預貯金を払い出してもらう手続きも、不動産の名義を変更する手続きもすべて終わってしまっています。このような場合、遺留分侵害額請求というものができると聞いたのですが、誰に対して行使することができるのでしょうか?
②遺留分侵害額請求を行使する前に、叔母が亡くなってしまいました。相続人は子供1人です。この場合はどうしたらよいでしょうか?
③兄が相続した不動産の一部が売却されてしまっていることが分かりました。この場合はどうしたらよいでしょうか?

 

【A】◆1.誰に遺留分侵害額請求をするべきか
遺留分を侵害された者(遺留分権利者及びその承継人)は、受遺者・受贈者に対して遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができます。
遺言において特定の相続人に「相続させる」旨の遺言は、本来、遺贈とは法的性質は異なりますが、何らの行為を要しないで当該遺産が被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継されるものと考えられていることから、遺贈と同順位で負担します。そして、複数の遺贈がある場合には、遺贈目的物の価額の割合に応じて負担します。
本件では、あなたのお兄さんと叔母さんが、遺留分を侵害する行為によって直接利益を得た受遺者として、遺留分侵害額請求の相手方となります。あなたは、お兄さんと叔母さんに対して、遺留分侵害額請求権を行使することができます。

あなたの遺留分は、被相続人の財産の8分の1になります(財産の2分の1に法定相続分である4分の1を乗じて算出)。
遺留分の基礎となる財産額5,500万円に対し、あなたの遺留分額は687万5000円です。そして遺留分侵害額請求に際しては、遺贈の目的の価額の割合に応じて負担することとされています。この点、お兄さんは遺留分侵害額請求の相手方であると同時に、相続人でもあります。このような場合には、目的物の価額は遺贈された目的物の価額から遺留分として当該相続人(受遺者)が受けるべき額を控除した額が限度となります。
したがって、お兄さんについてはお兄さんの遺留分を超える部分のみとして、
5000万円-687万5000円=4312万5000円。叔母さんは遺留分がないので500万円となります。
お兄さんへの請求額は 687万5000円÷(4312万5000円+500万円)×4312万5000円≒616万714円
叔母さんへの請求額は 687万5000円÷(4312万5000円+500万円)×500万円≒71万4286円

◆2.直接利益を得た受遺者・受贈者が亡くなっていた場合
遺留分侵害額請求の対象となる行為によって直接利益を得た受遺者・受贈者の包括承継人は、遺留分侵害額請求の相手方になります。
本件において、叔母さんの子は受遺者の包括承継人にあたりますので、あなたは、叔母さんの子に対し、遺留分侵害額請求権を行使することができます。

◆3.直接利益を得た受遺者・受贈者がその目的物を他人に譲り渡していた場合
今回の改正により遺留分侵害額請求は金銭債権とされたため、減殺を受けるべき受遺者・受贈者が贈与・遺贈の目的物を他人に譲り渡したときであっても、遺留分権利者は受遺者・受贈者に対して金銭賠償を求めることができます。

【相続・遺言について】遺留分侵害額請求権者

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、遺留分侵害額請求権者について考えてみたいと思います。

世田谷の相続・遺言・成年後見は090-2793-1947までご連絡を

 

【Q】①死亡した兄の遺言に「全ての財産は弟に相続させる。」と記載がありました。妹の私は、何ももらえないのでしょうか?
②死亡した夫の遺言に「全ての財産は、前妻との間の長男に相続させる」という記載がありました。私は、亡夫との間に子供を身ごもっているのですが、その子は、何ももらえないのでしょうか?
③死亡した祖父の法定相続人として、妻(私の祖母)と子が1人(私の父)いました。祖父の遺言に「財産のうち10分の9を、妻に相続させる」という記載がありました。私の父が相続放棄をした場合、孫の私は、何ももらえないのでしょうか?
④債務者の父親が死亡しましたが、その父親の遺言で「全ての財産は妻に相続させる」という記載がありました。子供である債務者の代わりに、父親の遺産について権利を主張できないでしょうか?

 

【A】◆1.兄弟姉妹に遺留分はない
遺留分は兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる権利です。兄弟姉妹には遺留分はありません。したがって、遺言のとおり、全ての財産は弟さんが相続し、妹であるあなたは、何も相続することはできません。

◆2.胎児にも遺留分はある
胎児も生きて生まれれば、子としての遺留分を持っています。お子さんが無事に生まれたならば、遺留分の請求ができます。
なお、妻であるあなたにも遺留分があります。

◆3.父親の相続放棄
お父さんが相続放棄をされた場合、その子(孫)であるあなたは、何ももらえません。

◆4.債権者代位権
債務者がその財産権を行使しないときに、債権者が自分の債権を守る(保全する)ために、債務者にかわってその権利を行使することができるのが、債権者代位権という権利です。
しかし、「その権利を行使するかどうかが、権利者(この場合債務者)の個人の意思にゆだねられているもの」については、債権者がかわりに行使する(代位する)ことはできません。
遺留分侵害額請求権も債務者本人が行使しない限り、債権者が代位することはできません。
債務者が、遺留分の権利を誰かに譲り渡す等、自分が権利行使する意思があることを、外から分かるようにはっきり表明しているような場合を除いては、債権者が代わって権利を主張することはできません。

【相続・遺言について】遺留分制度の概説

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、遺留分制度の概説について考えてみたいと思います。

世田谷の相続・遺言・成年後見は090-2793-1947までご連絡を

 

【Q】父が死亡した後、遺言が発見されました。その遺言には「すべての財産は、長女に相続させる」と記載されていました。しかし、次女の私には、遺留分の権利があるので、遺産を全くもらえないわけではないと聞きました。父の相続人は、母と長女と私です。遺留分について教えてください。

 

【A】◆1.遺留分制度とは
遺留分とは、相続のとき、一定の相続人のために一定割合の相続財産を確保する制度です。被相続人は、遺言や贈与などによって、遺産を誰に与えるかを自由に決めることができます。しかし、本来相続権のある相続人の生活を保障し、家族財産を公平に配分するという点も無視できません。そこで、民法では、一定の相続人に対しては、被相続人の遺言や贈与などによっても奪うことのできない最低限の取り分を遺留分として保護しています。遺留分制度は、被相続人の財産処分の自由と、相続人の保護という2つの要請を調整したものといえます。

◆2.遺留分権利者
遺留分の権利を持つ相続人を遺留分権利者といいます。遺留分権利者は、兄弟姉妹以外の相続人です。具体的には、被相続人の配偶者、子(胎児も生きて生まれれば含まれます)、直系尊属が該当します。ちなみに、子の代襲相続人も、被代襲者である子と同じ遺留分を持ちます。

◆3.遺留分の算定方法
遺留分がどの程度の割合で認められるかについては、相続人が誰かによって異なります。相続人が直系尊属だけの場合は全相続財産の3分の1、それ以外の場合は2分の1とされています。そして遺留分権利者が複数いる場合には、この割合にそれぞれの遺留分権利者の法定相続分を乗じて算出します。
質問のケースでは、あなたの遺留分は「1/2×1/4(法定相続分)=1/8」になります。

◆4.遺留分の算定の基礎となる財産
遺留分の算定の基礎となる財産は、被相続人が相続開始時に有していた積極財産(祭祀財産は除きます)に、「贈与」した財産を加え、債務の全額を引いて算定します。
ここでの「贈与」とは、相続開始前1年間になされた贈与(贈与の相手は問いません)と、相続開始前10年間になされた相続人への特別受益になります。平成30年の改正によって、遺留分の算定の対象となる特別受益に期間の制限が設けられました。これにより、相続開始の10年以上前になされた特別受益は、遺留分の算定の基礎には含まれなくなりました。
なお、遺留分の算定の基礎となる財産の評価は、客観的基準である取引価格により、評価の基準時は相続開始の時とされています。

◆5.遺留分の請求
自己の遺留分を侵害された遺留分権利者は、受遺者または受贈者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の請求ができます。以前は遺留分の権利を行使すると遺贈又は贈与された財産を共有する状態になっていたのですが、平成30年改正により、遺留分の権利は金銭債権とされました。遺留分侵害額は個別的遺留分から遺留分権利者が相続財産から取得または取得できる財産があればそれを控除し、相続した債務があればそれを加えて算定します。
遺留分請求権の行使は、受遺者または受贈者に対する一方的な意思表示でよく、裁判や調停を起こすことが必要なわけではありません。ただし、立証の観点からすると、配達証明付き内容証明郵便によって意思表示をすべきでしょう。

◆6.遺留分侵害額の負担と順序
遺留分侵害額の請求を受けた受遺者または受贈者は、遺贈または贈与の目的の価額を限度として遺留分侵害額を負担します。ただし、受遺者または受贈者が相続人の場合には、遺贈または贈与の目的の価額からその人の遺留分を控除した金額が負担の限度となります。
遺留分を侵害する遺贈や贈与が複数ある場合には、どのような順序で遺留分を負担するかが定められています。遺贈と贈与がある場合は、遺贈を受けた者が先に遺留分侵害額を負担します。複数の遺贈または贈与が同時になされている場合には、その目的の価額の割合に応じて負担します。贈与が複数ある場合には、後のもの(相続開始時に近いもの)から先に負担します。

◆7.受遺者または受贈者による相続債務の弁済
遺留分侵害額の請求を受けた受遺者または受贈者が、遺留分権利者が相続した債務を弁済等によって消滅させた場合には、遺留分権利者に意思表示をすることで、消滅させた債務の限度で遺留分侵害額を支払わなくてよくなります。この規定は平成30年改正で加えられたものです。

◆8.相当の期限の許与
遺留分侵害額を負担することになった受遺者または受贈者は金銭を支払わなければなりませんが、遺贈や贈与を受けたのが金銭以外の財産だった場合には、すぐに金銭を支払うことが困難な場合があります。このような点に配慮して、受遺者または受贈者は、遺留分侵害額の支払いについて、相当の期間の許与を裁判所に求めることができるようになりました。この規定も平成30年改正で加えられたものです。

◆9.消滅時効
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと時効によって消滅します。また、相続開始の時から10年を経過したときも同様とされています。

◆10.遺留分の放棄
遺留分の放棄は、相続開始後はいつでもできます。しかし、相続開始前の場合は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生じます。なお、共同相続人の1人が遺留分を放棄しても、ほかの共同相続人の遺留分には影響を与えません。

◆11.相続税の還付・納付
遺留分侵害額を負担することになった受遺者または受贈者は、既に相続税の納付をしていた場合には、遺留分侵害額分として支払う金額が確定した日の翌日から4か月以内に更生の請求をして、納付済みの相続税の還付を受けることができます。一方遺留分権利者は、相続税の期限後申告や修正申告をして、遺留分に対応する相続税を納付することになります。

◆12.事業承継と遺留分
中小企業の経営者が、後継者に自己が持つ株式を集中して承継させようとしても、遺留分制度があるために自社株式が分散してしまうなど、事業承継にとって大きなマイナスとなる場合があります。また、後継者に株式を生前贈与していた場合、贈与を受けた後継者の貢献により株式の評価が高くなったのだとしても、遺留分の評価は相続開始時点でなされるため、不公平な結果になる場合もあります。これらの問題に対応するため、「中小企業における経営の継承の円滑化に関する法律」では「遺留分に関する民法の特例」が規定されています。具体的には、後継者に贈与等がなされた自社株式について、遺留分算定の基礎財産から除外する「除外合意」や基礎財産に算入する価額を合意時の時価に固定する「固定合意」があります。

【相続・遺言について】問題のある遺言

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、問題のある遺言について考えてみたいと思います。

世田谷の相続・遺言・成年後見は090-2793-1947までご連絡を

 

【Q】①先日、父が亡くなったのですが、自筆で書かれた遺言書が2通見つかりました。1つは平成22年4月1日付の遺言で、自宅土地建物を母に相続させ、預貯金を弟と私に半分ずつ相続させるという内容なのですが、もう一つは平成24年8月1日付の遺言で、自宅土地建物を私に相続させ、預貯金を母と弟に半分ずつ相続させるという内容です。両方とも父の筆跡であることは間違いないのですが、この場合、相続はどのようになるのでしょうか?

②先日、5年間病院で寝たきりだった母が亡くなったのですが、遺言書が見つかりました。その内容は、妹に全財産を相続させるというものですが、私の知っている母の筆跡とはだいぶ異なる気がします。また、仮に母の筆跡だったとしても、作成日となっているのは、母が亡くなる直前であり、母の意識はもうろうとしていました。このような遺言書でも従わなければならないのでしょうか?

③先日亡くなりました父の遺した遺言書(作成日はなくなる3年前)には、法定相続人である母と私と弟にそれぞれどの遺産を相続させるか、財産ごとに指定して記載されています。その中で、田舎の土地については私に相続させると書かれているのですが、田舎の土地は父が亡くなる1年前に自ら売却しており、すでに他人名義となっています。田舎の土地を私が相続することはできますか?

【A】◆1.複数の遺言
遺言は、遺言の方式に従えば、いつでも全部又は一部を撤回できます。
また、前後の遺言の内容が抵触する場合、抵触する部分は、後の遺言で、前の遺言を撤回したものとみなされますので、後の遺言が効力を有することになります。
本件では、自宅土地建物と預貯金の分け方が変わっておりますので、後になされた平成24年8月1日付の遺言が有効となり、それに従って相続されることになります。

◆2.筆跡や遺言意思の疑わしい遺言
遺言は、厳格な要式行為すなわち法律で定めた要件に従ってなされる必要があります。
自筆証書遺言の場合、遺言の全文、日付、及び名前を自書して、押印することが要件となります(遺言と一体の財産目録は、記載のある頁毎に署名押印されれば、自書でなくとも可能です。)。
被相続人の意思のとおりの内容の遺言であっても、他人が代わりに書いた遺言は、無効です。
本件では、被相続人であるお母さまの筆跡と異なっているように見えるわけですから、遺言書をだれが書いたのか、被相続人の生前の筆跡と比べるなどして確認します。
他人が書いた遺言であれば無効ですが、死の直前であれば、字が乱れるなど筆跡が変わることもありますので、慎重な検討が必要でしょう。

次に意識がもうろうとしていた時点で作成された遺言について回答します。
遺言をするには、遺言者に、遺言能力があることが必要です。
遺言能力とは、遺言の意味、内容を理解して、遺言の効果を判断するに足りる能力のことを言います。
また、法律行為ですので、当然意思能力すなわち事理を弁識する能力(自分が何をしているのかがわかる能力)も必要です。
意識がもうろうとしていて、遺言能力や意思能力がない状況であったのであれば、遺言は無効であり、従う必要はありません。

◆3.遺言作成後に生前処分された財産についての相続
遺言内容はいつでも撤回でき、後の遺言が前の遺言と抵触する場合、前の遺言を撤回したことになりますが、それと同様、遺言と抵触する生前の処分も、その部分について撤回したものとみなされます。
相続させると書かれていた土地が、遺言者である父の生前に売却され、遺言の内容と抵触しておりますから、その部分は撤回されたものとみなされ、相続できません。

【相続・遺言について】遺言執行者を指定していなかった場合の手続きの流れ

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、遺言執行者を指定していなかった場合の手続きの流れについて考えてみたいと思います。

世田谷の相続・遺言・成年後見は090-2793-1947までご連絡を

 

【Q】遺言書で遺言執行者を指定していなかった場合、遺言の内容はどのような手続きで執行されるのですか?

 

【A】遺言の内容には、その内容を実現するために何らかの手続きを必要とするものと、何らの手続きを必要としないものがあります。遺言の内容を実現するために手続きを行うことを遺言の執行といい、認知や相続人の排除といった遺言執行者でなければできない手続と、遺言執行者がなくても相続人で行うことができる手続きがあります。
では、遺言書で遺言執行者が指定されていなかった場合、遺言の内容はどのような手続きで執行されるのでしょうか?

◆①家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立て、裁判所が選任した遺言執行者が執行する方法です。遺言執行者がいないときには、利害関係人(相続人、受遺者など)は、家庭裁判所に遺言執行者の選任を請求することができます。遺言書で遺言執行者が指定されていないけれども、遺言執行者でなければできないことが遺言書に記載されている場合、遺言を執行するためにはこの方法によることが必要になります。
また、遺言執行者でなければできないことが遺言書に書かれていない場合でも、遺言執行者の選任は可能です。(ただし、遺言執行者による執行の余地が全くない場合は、申立は却下されます)。家庭裁判所によって遺言執行者が選任された場合には、相続人は遺産の処分等の遺言執行を妨げるような行為を行うことができず(仮に行ったとしても原則として無効になりますが、平成30年改正により、善意の第三者に対抗できない旨が定められました。)、遺言執行者が相続人に代わって必要な諸手続きを行い、遺言を執行していくことになります。

◆②遺言執行者なしで遺言を執行する方法です。例えば、被相続人Aが「自宅の甲不動産は同居している妻のBに相続させる。乙不動産は社会福祉法人Cに遺贈する。丙銀行の普通預金は別居している子のDとEに半分ずつ相続させる。丁銀行の普通預金は生前世話になった知人のFに遺贈する。自宅に保管してある絵画はG美術館に遺贈する。」という内容の遺言書を残して死亡したとします(相続人はB、D、Fの3名)。このときの具体的な手続きを考えてみます。

まず甲不動産について、従来「相続させる遺言」と呼ばれていた特定の遺産を特定の相続人に承継させる旨の遺言は平成30年改正で「特定財産承継遺言」と名付けられましたが、最高裁の判例は「相続させる遺言」について、遺産分割方法を定めるものであり、特段の事情のない限り、何らの行為を要さず、被相続人の死亡時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される、ということを述べています。
つまり、A死亡時に当然に甲不動産の所有権がAからBに移転することになります。甲不動産の登記名義をAからBに移す場合、Bは単独で(他の相続人であるD、Eの関与なしで)法務局に対して登記手続きを行うことができます。
なお、従来「相続させる遺言」には対抗要件が不要とされていましたので、もし、Bが登記手続きをする前に、相続人Dが自己の法定相続分4分の1の相続登記を行いその上で、第三者に当該4分の1の持分を売却してXがその旨の登記を経た場合でも、BはXに対して甲不動産全部の権利を主張することができました。
しかし平成30年改正により、自己の法定相続分を超える部分については対抗要件を要するものとされましたので(後述する遺贈と同じ扱い)、この場合、BはXに対してX名義に登記された4分の1の持分の権利を主張することができなくなりました。

乙不動産については、Aの相続人ではないものに財産を与える遺贈であり、遺贈の場合、登記名義をAからCに移すためには、登記権利者であるCと、登記義務者である相続人B、D、Eの全員で共同申請をしなければなりません。仮に相続人の内1人でも登記手続きに協力しない者がいれば、共同申請で登記することはできませんので、この場合、Cは裁判を起こして登記手続きを請求することになります。また、現に乙不動産を占有する者が任意に引渡しをしない場合には、占有者に対して引渡しを求める裁判も必要となります。
なお、遺贈によるAからCへの所有権移転登記が行われる前に、Dが法定相続分に基づく相続登記を経て、自己の持分4分の1を第三者に売却して、Yが登記名義を得た場合、Cは遺贈による所有権取得を先に登記を得たYに対抗することができませんので、注意が必要です。

丙銀行の普通預金はどうでしょう。上記の最高裁判例からすると、Aの死亡と同時にAの預金は半分ずつDとEに当然に帰属することになり、D及びEはそれぞれ、単独で丙銀行に対して預金の各2分の1の払戻しを請求することができそうです(なお、この場合も、法定相続分を超える部分については対抗要件(債務者への通知)が必要とされました。)。しかしながら、銀行は遺言書が無効である可能性や、相続人間の紛争に巻き込まれることなどを懸念して、相続人が単独で遺産である預金の払戻し請求を行った場合、相続人全員の承諾書や印鑑証明書等の提出を求めることがあります。その場合、相続人の内1人でも協力しない者がいた場合には、丙銀行に対して裁判をして、払戻しを求めざるを得ないことになります。

Fが遺贈を受けたとして丁銀行の預金払い戻しを求める場合にも、相続人全員の協力を得て、その旨の書面を銀行に提出をして払戻しを受けるか、そうでなければ裁判手続きによらざるをえません。

動産である絵画については、遺贈の効力発生時に何らの行為を要せず、当然に受遺者であるGに権利が移転することになりますが、第三者に対抗するには対抗要件(動産の場合は引渡し)を要します。具体的な遺言の執行としては、事実上絵画を保管しているBが、遺贈を受けたGに引き渡すことで執行されることになります。もし、Bが絵画を引き渡すことを拒んだ場合、GはBに対して裁判を起こし、絵画の所有権に基づき引渡しを求めることができます。

【相続・遺言について】遺言の開封、遺言執行者

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、遺言の開封、遺言執行者について考えてみたいと思います。

世田谷の相続・遺言・成年後見は090-2793-1947までご連絡を

 

【Q】①先日父が亡くなり、父の遺品を整理していたところ、机の引き出しから「遺言書」と書かれた封がされている封筒が見つかりました。内容を確かめるために私が開封しても問題はないでしょうか?
②父の遺言の中身を、検認手続を経て確認したところ、遺言執行者として行政書士の名前が書かれていました。遺言執行者とは何をする人ですか?

【A】◆1.遺言の開封
自筆証書遺言の場合、法律では、遺言の保管者は、相続の開始を知った後遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならないと規定されています。また、遺言の保管者がいない場合、相続人が遺言を発見した後、遅滞なくその遺言書を家庭裁判所に提出して、検認を請求しなければならないと規定されています。(令和2年7月10日以降に、法務局に遺言書を保管してある場合は検認は不要です。)

ご質問の遺言書は、お父様の自筆証書遺言だと思われます。机の引き出しから発見されたということですので、遺言の保管者はいないことになり、発見したあなたが、家庭裁判所へ検認を請求する必要があります。

問題はあなたが封を破り、家庭裁判所に提出できるかということです。
この点、法律では、封印されている遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することはできないと規定されています。中身を確認したいお気持ちはわかりますが、封筒に遺言書と書かれている以上、中身がお父さまの遺言書と推認できますので、開封しないまま家庭裁判所に提出し、検認手続を請求して下さい。
仮に、検認手続の請求を怠ったり、検認手続以外において封印された遺言書を開封してしまったりした場合には、5万円以下の過料に処せられます。

検認とは、家庭裁判所が遺言書そのものの態様を確認する手続で、遺言の内容や有効性などを判断するものではありません。実際の検認手続としては、お父様の生前の最後の住所を管轄する家庭裁判所において、裁判所が指定する検認期日(検認をする日)に、相続人らが呼び出され、相続人らの立会いの下、裁判官が遺言書を開封し、遺言の方式や状態を確認して現状を明確にすることになります。
ただし、遺言の執行をするためには、検認手続を経るだけでは足らず、遺言書に検認済証明書が付いていることが必要ですので、家庭裁判所に対して、検認済証明書の申請をしてください。
自筆証書遺言の場合について説明いたしましたが、公正証書遺言の場合はこのような検認の手続はありません。

 

◆2.遺言執行者とは
検認手続きを経て遺言書の内容が確認されても、お父様はすでに亡くなられており、遺言の内容を記載の通りに実現する手続きを行うことはできません。そのため、遺言をした方に代わって、遺言の内容を実現させる、つまり遺言を執行する者が必要となります。遺言者に代わって遺言を執行する役割を果たすのが遺言執行者です。

相続法の改正により、遺言執行者は「遺言の内容を実現するため」、相続財産の管理や遺言の執行に必要な権利義務を有することが明記されました。
遺言執行者が就職を承認した場合には、直ちに任務を開始しなければなりません。そして、遺言執行者が任務を開始したときには、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知することが義務化されました。

相続手続における遺言執行者の権限は、とても強いものです。遺言執行者がある場合には、相続人であっても、相続財産の処分や遺言の執行を妨げるような行為をすることはできません。相続法改正によって、遺言執行者があるときに、相続人が相続財産について処分行為あるいは遺言の執行を妨げるような行為をしてしまうと、その行為は、原則として無効であることが明文化されました。

これまで、遺言執行者はやむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わせることができないとされていました。しかし、相続財産や遺言執行業務が多様化・複雑化している昨今の状況を踏まえ、相続法改正では、遺言執行者は、自己の責任で、第三者にその任務を行わせること(復任といいます)が可能になりました。ただし、遺言者が遺言において復任を許さない意思表示をしていた場合には、遺言執行者がその任務を行わなければなりません。「自己の責任で」というのは、第三者が遺言執行事務を行うにあたり生じるリスクを、遺言執行者自身が負うということを意味します。これに対し、遺言執行者がやむを得ず、第三者に任務を行わせる場合には、遺言執行者が負う責任は、第三者の選任及び監督についての責任に限定されます。

なお、遺言執行者には、未成年者や破産者はなることができませんが、その他には資格や条件はありません。行政書士や弁護士に限らず、親族や相続人でも遺言執行者になれます。遺言において遺言執行者の定めがなく、遺言内容の実現のために遺言執行者が必要である場合には、相続人その他の利害関係人が、家庭裁判所に対して遺言執行者の選任を請求することができますから、必要があれば、家庭裁判所に遺言執行者の選任の申立をしてください。

【相続・遺言について】遺言書の書き方

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、遺言書の書き方について考えてみたいと思います。

世田谷の相続・遺言・成年後見は090-2793-1947までご連絡を

 

【Q】私は3代続いた和菓子店を営んでおり、その店舗兼自宅に妻と2人で住んでおりました。妻に先立たれた後、息子3人の内、次男が自宅に戻ってきて、私の和菓子店を継ごうと手伝ってくれています。
ちなみに、長男と三男は私と別居しており、それぞれサラリーマンをしています。
私が死亡した場合の相続人はこの息子3人になります。
①私の死後は、すべての財産を次男に渡したいと考えています。この場合どのような遺言書を書けばよいのでしょうか。また、注意すべき点はありますか?
②長男の元妻が、長男と別れた後も本当によく店を手伝ってくれており、なにかしら恩返しをしたいと考えています。どのような遺言書を作成すればよいのでしょうか?
③少なくとも三男にだけは一切の財産を譲りたくありません。何か対処法はありますか?

 

【A】◆1.法定相続人に対する遺言
相談者(遺言者)の死後、次男にすべての財産を渡すためには、「遺言者は、遺言者が有するすべての財産を、遺言者の次男〇〇(✖年✖月✖日生)に相続させる。」という遺言書を作ります。ご質問のように、法定相続人に財産を渡す遺言を作成する場合、「相続させる」という表現を使うことが一般的です。(こうすることで、店舗兼自宅について、次男が他者の意向に影響されることなく、単独で相続の登記手続をすることができるなどといったメリットがあります。)

ただ、このような相続人の一人にすべての財産を相続させる内容の遺言書を作る場合、注意すべき点があります。

①他の相続人が遺留分を有しているため、相談者(遺言者)の死後に兄弟間でトラブルが生じやすいことです。
遺留分を簡単に説明すると、被相続人(本件では相談者兼遺言者)の意思に関係なく、被相続人の財産価値の一定割合を、一定の範囲の相続人が受け継ぐことを認める制度です。
相談者が、次男に全財産を相続させる内容の遺言書を作成して、死亡した場合、長男や三男の遺留分が侵害されていることになります。そのため長男や三男は、次男に対して、遺留分侵害額請求というものをすることができます。
この請求がされた場合、次男は、長男や三男に対して相続した財産価値の一定割合を支払わざるを得ません。(仮に本件の次男が相続した財産が6,000万円として、法定相続人が兄弟3人の場合、次男は、長男や三男に、それぞれ1,000万円を支払わなければなりません。)
もし、相談者の財産に、和菓子店の店舗兼自宅以外の財産(現金や預貯金)などがある場合、長男や三男に対し、現金や預貯金を相続させる内容の遺言にして遺留分の侵害がないようにすれば、相談者の死後、兄弟間でトラブルになることは回避できるでしょう。
ただ、和菓子店の経営には運転資金なども必要でしょうから、現金や預貯金が遺留分に達しない場合などは、遺言書に付言事項として、3代続いた和菓子店を次男に継がせる必要性や理由などを書いて、長男や三男に遺留分侵害額請求をしないように頼んでおくべきでしょう。相談者が生きている間に遺留分を放棄してもらえればより確実ですが、これには家庭裁判所の許可が必要となります。

②すべての財産を相続させる、とだけの遺言をする場合、遺言書だけでは、相談者(遺言者)がどこにどのような財産をもっているのか、相続人が分からないという問題が生じることになります。
そのため相談者の生前に、相続人に対して相談者の財産内容を教えておくとか、遺言書に主な財産の内容を具体的に記載しておくといった対応をしておくのが望ましいでしょう。
遺言書に財産の内容を記載する場合、「特定」できるようにしておくべきです。ここでの「特定」は、他の財産と間違えることなく識別できるという意味です。
例えば、預金の場合、金融機関名、支店名、預金の種類(普通か定期か)、口座番号、名義人といった内容を記載して「特定」することになります。ポイントは、事情を全く知らない人(例えば金融機関の職員など、将来相続手続きに関わる人)が遺言の記載から、どの財産を指すのか明確に判断できるようにする、という観点を持つことが必要です。

◆2.法定相続人以外の者に対する遺言
長男の元妻のように、法定相続人ではない、生前良くしてくれた人に何らかの恩返しをしたい場合は、相続人の遺留分を侵害しないように注意する必要があります。遺留分を無視された相続人は、遺留分侵害額請求権を行使する可能性がありますから、トラブルを招く事態となり、恩返しにはなりません。
質問の内容を実現するには、遺言書に「遺言者は長男の元妻△△(✖年✖月✖日生)に対し、下記の財産を遺贈(いぞう)する。」などとして、長男の元妻に渡したい財産を記載します。(遺贈とは遺言によって財産を渡すことを意味します。)
その上で、他の相続人の遺留分を侵害しないように、相続人には財産の一部を「相続させる。」とします。
遺贈や相続させる財産については、必ず、具体的に「特定」できるようにしてください。
それから長男の元妻への遺贈事項に続いて相続人の理解を得るために、元妻に遺贈をする理由を簡潔に説明しておくことがよいと思います。

◆3.法定相続人に相続させたくない場合
遺言書には「三男に遺産を一切相続させない。」と記載します。そして、三男に財産を残さない理由を簡潔に説明しておくとよいでしょう。
もっとも三男は遺留分侵害額請求権を行使する可能性があります。これを防止するには、先程説明した遺留分放棄による対策が考えられます。しかし、本件のような場合、相談者と三男の親子関係が悪化しているでしょうから、家庭裁判所の許可を必要とする遺留分放棄の手続きに三男の協力を得ることは難しいと思います。
ほかに、遺留分を有する三男を遺言で廃除するという方法もあります。この「廃除」には要件が必要となります。「廃除」は相続人が「被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えた」場合、又は相続人に「その他の著しい非行」があった場合のみ、認められるとされています。
遺言による排除の場合、遺言者の三男◇◇(✖年✖月✖日生)は平成〇年頃から令和〇年頃まで、遺言者に対し繰り返し暴行を加え、暴言を浴びせ、遺言者の多額の金銭を無償で消費する等の虐待をしたことから、遺言者は三男を相続人から排除する。」というように、廃除事由を具体的に記載します。
このような遺言は、遺言者の死亡によって効力を生じることになります。その場合遺言執行者が、家庭裁判所に廃除の審判を請求しなければならないとされています。そのため、遺言書に遺言執行者を指定する必要があります。(指定されていない場合、利害関係人(相続人等)が家庭裁判所に遺言執行者の選任を求めることになります。)
なお、裁判所は廃除を認めることに慎重であると言われております。

◆4.まとめ
遺言を作るにも考えなければならない問題がありますし、作ったとしても、自分の思い通りに実現されるとは限らない場合があります。遺言について分からないことが生じましたら、当事務所までご相談下さい。

【相続・遺言について】遺言による認知・保険金受取人変更の可否

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、遺言による認知・保険金受取人変更の可否について考えてみたいと思います。

世田谷の相続・遺言・成年後見は090-2793-1947までご連絡を

 

【Q】①私には妻と子供がいます。家族には隠してきたことですが、実は、私は妻以外の女性と交際していた時期があり、その女性との間に子供を授かっています。これまでその子には苦労をかけてきましたので、私が死亡する際には、認知をし、その子にも私の財産を分けてやりたいと考えています。遺言によって認知はできますか?
②私は、生命保険に入っており、加入時は生命保険の受取人を長男と指定していましたが、現在は、私や妻の面倒をよく見てくれる次男に、生命保険金を受け取ってほしいと思っています。遺言によって生命保険金の受取人を変更することはできますか?

 

【A】◆1.遺言による認知
遺言によって認知をすることはできます。
あなたが、奥さん以外の女性との間のお子さんに財産を残すことだけを希望されるのであれば、遺言でそのお子さんに財産を遺贈することを書いておけば足ります。
しかし、あなたがそのお子さんを法律上もあなたのお子さんにしたいと希望されるのであれば、認知という手続きが必要です。
あなたと奥さん以外の女性との間のお子さんは、そのままですと法律上はあなたのお子さんではありません。認知をすることではじめて法律上もあなたの子供(非嫡出子)になります。

認知の方法は、戸籍法の定めに従って届出することとされていますが、遺言によってもすることができます。ただし、遺言を書く上で注意点があります。
まず、お子さんの母親が誰であるのか、氏名や生年月日を明らかにします。
次に、認知したいお子さんの住所・氏名・生年月日・本籍・戸籍筆頭者も明らかにする必要があります。これらの記載がないと、お子さんの戸籍への記載の手続きができず、認知ができない恐れがあります。
これらを明記した上で、「私の子供として認知する。」と書きます。

また、遺言の中で、遺言を実行する人(遺言執行者)を指定します。なぜなら、役場への届出など実際の認知の手続きは、あなたの死後遺言執行者が行うことになるからです。遺言執行者が指定されていない場合、あなたの死後、妻や子供などあなたの相続人や利害関係人が、家庭裁判所に遺言執行者の選任を求めなければなりません。
この手続きが円滑に行われず、遺言の実行がうまく進まないケースが散見されますので、ご注意ください。

さらに、遺言で認知するだけですと、認知されたお子さんは、あなたの妻や子供を相手にだれがどの財産をもらうかという、遺産分割協議をしなければなりません。そのような遺産分割協議を行うのは、認知されたお子さんには精神的に大きな負担となるので、遺言には遺産分割協議をしなくてもよいように、具体的にどの財産を誰に相続させるかまで、書いておくことが大切です。
◆2.遺言による生命保険金受取人の変更
平成22年4月に保険法が施行され、遺言によって受取人を変更することが法律で認められました。ただし、できれば今のうちに受取人を次男さんに変更しておくことをおすすめします。
遺言で受取人を変更する場合、まず、対象となる生命保険を明らかにする必要があります。保険会社名、証書番号、現在の受取人、変更後の受取人等を明記します。その上ではっきりと「受取人を変更する。」と書いてください。「保険金を受け取らせる」などとあいまいな表現は禁物です。受取人を変更する意味に解釈されない場合があります。

ところで、遺言で受取人を変更する場合、注意しなければいけないことがあります。
それは、保険法が、相続人が保険会社に対して遺言により受取人が変更されたことを通知しない限り、受取人の変更の効果が発生しないと定めていることです。
つまりあなたの死後、次男が保険会社に遺言の存在を知らせる前に、保険会社が長男に生命保険金を支払った場合には、次男は保険金を受け取ることができなくなります。
このような問題がありますので、できれば遺言ではなく、今のうちに受取人変更の手続きをすることをおすすめします。
あくまで遺言で受取人を変更することを希望されるのであれば、あらかじめ、次男さんに遺言の内容を伝え、あなたの死後直ちに保険会社に連絡するよう依頼しておいてください。

【相続・遺言について】遺言の記載と効力

世田谷区砧で車庫証明、相続、遺言が得意な行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。

今回は、【相続・遺言】に関して、遺言の記載と効力について考えてみたいと思います。

世田谷の相続・遺言・成年後見は090-2793-1947までご連絡を

 

【Q】私も老後を考える年になりました。友人からも遺言を書いておいた方がよいと勧められており、遺言の基本的な事項について知りたいと思ってます。
①遺言には、どのようなことを記載することができるのですか?
②遺言に書いたことは、すべて効力があるのですか?

 

【A】◆1.遺言の記載内容
遺言として記載されたことについて全て法的効力が認められるのではなく、法律で有効とされている事項(遺言事項)のみが法的効力を持ちます。
遺言として法的効力がある主な内容事項は、大きく分けて次の6つです。

(1)法定相続に関すること
①推定相続人の廃除及び廃除の取消 ②相続分の指定 ③遺産分割の指定または禁止 ④遺産分割の際の担保責任に関する別段の定め

(2)財産処分に関すること
①包括遺贈・特定遺贈 ②以下の事項についての別段の定め:受遺者の相続人の承認・放棄、遺言の効力発生前の受遺者の死亡、受遺者の果実取得権、遺贈の無効または失効の場合における目的財産の帰属、相続財産に属しない権利の遺贈における遺贈義務者の責任、第三者の権利の目的たる財産の遺贈、受遺者の負担付遺贈の放棄、負担付遺贈の受遺者の免責 ③財団法人の寄付行為 ④遺産の信託設定

(3)遺言の執行・取消に関すること
①遺言執行者の指定 ②以下の事項についての別段の定め:遺言執行者の復任権、共同遺言執行者、遺言執行者の報酬 ③遺言の撤回

(4)遺留分に関すること
目的物の価額による遺贈の遺留分侵害額の負担に関する別段の定め

(5)家族関係に関すること
①遺言認知 ②未成年者後見人の指定 ③未成年者後見監督人の指定

(6)法文に遺言による旨の定めはないが、遺言によってできると解釈されている事項
①祭祀主宰者の指定 ②特別受益の持戻しの免除 ③保険金受取人死亡の場合の更なる受取人の指定

 

◆2.効力を有する事項
遺言として法的効力を有する事項は法律で定められているので、それ以外の事項を遺言で記載しても、法的効力は有しないことになります。
例えば「死後、配偶者との婚姻関係を解消する。」とか、養子との「養子縁組を解消する。」といった婚姻や養子縁組に関する内容は認められません。また、連名による共同遺言も禁止されています。

ただ、遺言として法的効力のある内容以外は書いても無駄というわけではありません。遺言書を書くにあたっての心境や、相続についての考え方をはっきりと記しておくことは遺言を作成する上でとても大切なことです。「こう考えて、このような相続にした。」と、相続の指定についての理由を述べたり、「家族仲良く助け合って欲しい。」「兄弟仲良く暮らすように。」など、残された家族への思いを記すことは、家族にとっては精神的に重要な意味を持ちますし、相続トラブルを防ぐためにも意味があります。

また、葬式の方法、婚姻や縁組の指定、家族間の介護や扶養の方法、遺訓などを記載しても、それ自体としては法的効力は認められないのですが、相続人の自発的な受け入れがあれば、実現される可能性が出てくるわけです。