遺産分割協議について

相続手続きについて前回ご説明いたしましたが、今回は「遺産分割協議」というものを今少し詳しく見ていきたいと思います。

遺産分割を行うにあったては、①相続人の確定、②遺産の範囲と評価の確定、③各相続人の具体的相続分の確定をする必要があります。

①相続人の確定につきましては前回のブログでもお話し致しましたが、被相続人(お亡くなりになった方)の「出生から死亡までの戸籍謄本」を取り寄せ、相続人を確定していきます。遺産分割の話し合いはすべての共同相続人が参加して行われなければ無効です。慎重に戸籍から相続人を確定する必要があります。

②遺産の範囲と評価の確定ですが、分割するべき相続財産の範囲が決まらなければ、分割することは困難となります。もし争いがあり話し合いがつかなければ、家庭裁判所の審判や通常の民事訴訟で争われることになります。遺産の評価についてよく問題となるのは不動産です。遺産分割の協議の段階では、実際の取引の売買価格を不動産業者から聴く方法が一般的です。相続人間で評価額について合意できないときは、不動産鑑定士に正式な鑑定を依頼することになります。

③各相続人の具体的相続分の確定について、相続分は法定されていますが、遺産分割の話し合いでは、相続人全員が合意すれば法定相続分に関係なく自由に相続分を決めることができます。法定相続分を修正するために、特別受益や寄与分の制度を主張するなどあらゆる事情を話し合いの場に持ち出すことができます。

民法は「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」と定め遺産分割の指針としています。たとえば遺産に「農地や居住用の土地建物、あるいは営業用資産」がある場合、農地は農業を継承する者に相続させ、居住用の土地建物については現に居住している者の利益を考慮する必要があります。営業用資産はこれを分割すると営業の継続ができなくなるため、できるだけ一体として扱うなどの考慮が必要となります。したがってこれらの遺産を細分化せず、できるだけ一括して相続人が取得できるものとし、他の相続人には代償金を支払うなどの方法で分割し相続人の間の公平を図ることはこの指針に沿った方法と言えます。

遺産分割の話し合いがまとまったときは、「遺産分割協議書」を作成する必要があります。後日の紛争を未然に防止するという目的のほかに、以下のような見地からも作成が必要になります。

遺産の中に不動産があり遺産分割により所有権を移転する場合、所有権移転登記の申請の際に原因証書として遺産分割協議書が必要になります。また、相続税の申告の際、法定相続分と異なった遺産分割をしたときや、相続税の配偶者控除を利用するときなど遺産分割協議書が必要になります。遺産の中に銀行預金があり遺産分割によりこれを相続する人が銀行から遺産分割協議書の提示を求められることがあります。

遺産分割協議を行う際注意することがあります。相続人の中に以下のような方が含まれている場合、遺産分割協議を行う前に手続きが必要となることがあります。

相続人に未成年者が含まれる場合。この場合は親権者が未成年者のために「特別代理人」を選任することを家庭裁判所へ請求しなければなりません。未成年者が複数いる場合はその人数分特別代理人の選任を家庭裁判所へ請求しなければなりません。判例によりますと、親権者が共同相続人である数人の子を代理して遺産分割協議をすることは、親権者の意図や親権者の代理行為の結果のいかんにかかわらず利益相反行為に該当するとされています。未成年の子がいるにもかかわらず、特別代理人の選任をしないでなされた遺産分割協議は無権代理行為として未成年の子が成人に達した後に追認しない限り無効となります。

相続人に認知症などで通常の日常生活が送れない方が含まれる場合。この場合は家庭裁判所へ後見開始の審判を申立てて成年後見人を選任してもらい、成年後見人と遺産分割協議を行う必要があります。

相続人に行方不明者がいる場合、大きく二通りに分かれます。

①7年以上生死が不明な場合。利害関係人からの請求で家庭裁判所で失踪宣告をしてもらう方法があります。失踪宣告がなされますと生死不明になったときから7年間の期間満了の時に死亡したとみなされます。死亡したとみなされたのが被相続人が死亡する前であれば、失踪宣告を受けた者の子があれば代襲相続者として遺産分割協議に参加します。死亡したとみなされたのが被相続人が死亡した後であれば、失踪宣告を受けた者がいったん相続をした後に失踪宣告者について相続が発生することになります。

②生死不明がまだ7年以上続いていない場合やどこかで生きているといううわさなどがあるときは、失踪宣告の申し立てはできません。このような場合、利害関係人が家庭裁判所に不在者の財産管理人を選任してもらうよう請求する方法があります。財産管理人は不在者の財産について現状に変更をきたさない保存行為や利用・改良行為は自分の権限でできます。これを超える処分行為をするには家庭裁判所の許可が必要です。遺産分割は不在者の財産に対する処分行為の一種と考えられますので、財産管理人は遺産分割の協議や調停をするには家庭裁判所の許可が必要になります。よって不在者の財産管理人が家庭裁判所の許可を受けて遺産分割協議に参加することになります。

このように遺産分割協議を行う際には、注意しなければならない点がいくつもあります。相続手続きの際不安に思うことや心配な点があれば専門家にご相談ください。

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