【終活・遺言・相続相談】相談例57 使途不明金の扱い

世田谷区砧で子供のいないご夫婦、おひとり様の遺言書作成、相続手続き、戸籍収集支援、任意後見、死後事務委任に詳しい行政書士セキュリティコンサルタントの長谷川憲司です。
パスポート申請、車庫証明申請も多く手掛けております。

【終活・遺言・相続相談】相談例57 使途不明金の扱いについての記事です。

東京都世田谷区の車庫証明は【090-2793-1947】までご連絡を

東京都世田谷区の遺言書は【090-2793-1947】までご連絡を

東京都世田谷区の相続・戸籍収集支援・銀行手続は【090-2793-1947】までご連絡を

東京都世田谷区の成年後見制度・任意後見契約・死後事務委任契約は【090-2793-1947】までご連絡を

東京都世田谷区のパスポート申請は【090-2793-1947】までご連絡を

【相談内容】
相談者(62歳女性)から、「1年前に施設で亡くなった母(90歳)の遺産が預金300万円だけだったので、おかしいと思って取引履歴を調べたら、相続開始の4年前に窓口で定額預金1000万円を解約し、3か月前に50万円ずつ14回にわたって700万円の普通預金ATMで引き出されていた。相続人は私と弟(59歳)だけで、かつて母と同居していた弟が預金を抜き取ったに違いない。そこで、(弁護士には委任せず)出金された1700万円を遺産に含めて遺産分割調停を申し立てたが、弟は「しらない」の一点張り。調停委員も「その問題は遺産分割調停では扱えない」といって取り合ってくれない。どうすればいいだろうか」と相談を受けた。

【検討すべき点】
使途不明金(不正出金)の問題は、遺産分割の付随問題の典型例で、相続分野におけるもっとも難解な論点の一つです。相談者の現実的な選択肢としては、調停不成立として審判を求めるか、調停を取り下げて不当利得返還請求又は損害賠償請求の訴訟を提起するしかなさそうですが、提携先の弁護士を紹介する等します。

【1】遺産分割の付随問題

① 「遺産分割の付随問題」とは、遺産分割の当事者などとの間で発生する種々の法律問題のうち、遺産分割審判の対象外の事項とされ、別の法的手段により解決せざるを得ない問題のことです。
② 具体例としては、使途不明金の他に葬儀・埋葬の関連費用、祭祀承継、遺産管理費用及び収益の分配、相続債務の整理・分配などが挙げられます。
③ ことに相談例のような場合、相続開始時に残っていた預貯金の額よりも使途不明金の額の方が大きいので、相談者とすれば、使途不明金を含めた分割でなければ納得できず、遺産分割調停での当事者の主張は先鋭に対立します。

【2】調停委員会の対応

① 付随問題は、もともと遺産分割の対象ではありません(この点で前提問題と異なります)。もちろん相談者が使途不明金に関する主張を諦め、現存する預金300万円のみを対象とする遺産分割で我慢するなら別ですが、それは難しいでしょう。
② そこで、遺産分割調停の2、3回目の期日までに使途不明金の扱いについて当事者が合意できる見通しがなければ、調停委員会は、調停を不成立として遺産分割審判に移行するか、遺産分割調停を取り下げるかを選択するように求めます(当事者が前提問題について合意できる見込みがない場合も同様です)。

【3】相談者の選択肢

① このような場合、相談者としてはどのように対応するべきでしょうか。
② 第一に、現存遺産(300万円)のみを対象とする遺産分割調停を成立させ、その後に、弟に対する不当利得返還請求や不法行為による損害賠償請求の訴訟を提起することが考えられます。
③ しかし、その訴訟で、弟が一転して使途不明金は母から贈与されたと主張するかもしれません。そこで、この方法を選択する場合には、一部分割である旨、あるいは使途不明金は贈与(特別受益)ではないことを確認しておくべきでしょう。
④ 第二に、調停を不成立として審判に移行した場合、使途不明金は遺産分割の対象ではないため、現存遺産のみを対象とする審判が下されるはずです。
⑤ そしてその後の不当利得返還請求等の訴訟で弟が使途不明金を特別受益と主張した場合は先程と同じ問題になりますが、その場合には審判をやり直すことができません。
⑥ また、遺産分割の調停や審判で時間を空費した後、しばらくしてから不当利得返還請求等の訴訟を提訴する場合は時効を援用される可能性もあります。
⑦ 第三に、調停委員会の勧めに従って調停を取下げ、不当利得返還請求等の訴訟により、遺産分割に先行して使途不明金の問題を解決する方法もあります。手戻りになるので、相談者としては不本意でしょうが、負担になるのは相手方(弟)も同様です。
⑧ 展開次第では訴訟中の和解による(遺産分割を含めた)解決もあり得ますので、これを勧めるのも選択肢の一つになります。
⑨ ところで、以上の選択肢は、いずれも不当利得返還請求等の訴訟を予定するものです。しかし、不当利得返還請求等の訴訟で勝訴できなければ、絵に描いた餅にすぎません。そこで、不当利得返還請求等の訴訟において勝訴の見込みがあるか否かを検討し、その見込みが薄いのなら、第四の方法として、譲歩の姿勢を見せながら少しでも有利な条件の下で遺産分割調停を成立させるべきでしょう。

【4】別訴における勝訴の見込み

【4-1】出金者の特定

① 通帳や取引履歴によって、被相続人名義口座からの相続開始前の出金が見つかっても、それだけでは誰が出金したのかわかりません。
② 相談例では、4年前の窓口での定額預金解約の際には本人確認されたはずですが、弟が母に同行し、出金伝票に代書して出金している可能性もあります。そこで、(弁護士照会制度を利用して)出金伝票を入手し、その筆跡・印影や本人確認書類によって弟との関与があったか否かを確認します。
③ 他方、当時の母の介護認定の調査票、主治医の意見書、介護記録などによって、母の健康状態や認知症の程度を調査し、母自身の意思によらない出金の可能性があるかを検討します。
④ 次に、相続開始3か月前のATMでの出金については、弟がキャッシュカードのありかや暗証番号を知っていた蓋然性があること、当時母が施設に入所していたことに加え、出金したATMが被相続人が入居していた施設から遠く、弟の生活圏(自宅や勤務先の最寄り駅)にあるといった事実が認められれば、弟が母のキャッシュカードを利用して出金できたと推定できそうです。

【4-2】出金の使途

① 弟が出金への関与を認めざるを得なくなっても、弟は、その使途について、1.母に出金金額を手渡した、2.母の生活費や自宅改修費用等に使った、3.母から贈与された、4.母から借りた(預かった)と反論する可能性があります。
② しかし、1.については、母に多額の出費を要する事情が見つからず、入所中の施設でも多額の現金を保管できなかったといった事情があれば弟の主張は不合理ですし、2.についても使途や領収証が明らかにならなければ同様で、不当利得返還請求等が、認められる可能性が高くなります。
③ また、3.の贈与を主張するなら(持戻しの免除の問題はあるとしても)特別受益として遺産分割で考慮されるべきことですし、4.については、貸金返還請求や預託金返還請求となるだけです。
④ こうしてみると、弟の側も使途不明金の説明に窮しますので、調停では「知らない」の一点張りということが起こります。しかし、不当利得返還請求等の民事訴訟になれば、何らかの説明が求められますから、これらの訴訟を利用した方がよい場合があると思います。

【4-3】遺産分割調停における方針

① 以上からすると、係属中の遺産分割調停においては、弟に証拠を突き付けて使途不明金への関与を認めさせ、それが贈与(特別受益)でないことを書面によって明らかにさせるべきです。
② 一方、母の認知症が軽度で、ある程度の意思能力が維持されており、むしろ母は傍にいる弟を頼りにしていた(生活費の出金を任せていた)等の事情があって、一部でもそれなりの領収証が提出されるなら、弟に対する包括的委任関係が認められ、不当利得返還請求等が棄却される可能性が出てきます。したがって、そのような場合は、無理をせず遺産分割調停の中で問題を解決すべきでしょう。
③ 以上のように、使途不明金の問題の解決には、事実の調査、法的評価や手段選択についての専門的な知見が必要ですので、弁護士への委任は不可欠と考えられます。

【4-4】相続税との関係

① 使途不明金については、税務面での問題があります。まず、相続開始3か月前の700万円の出金は、それが贈与だったとしても遺産とみなされ、相続税の課税相続財産に含まれます。
② 次に、4年前の1000万円の出金は、税務調査の末、弟名義の預金口座への同時期、同額の入金が確認できれば贈与とみなされ、弟に対して、多額の贈与税や無申告加算税が課税される可能性があります。そして、弟がその負担を免れるためには、税務署に対して、これは預かり遺産だと主張せざるを得ません。
③ しかし、その場合には全体の相続税額が変更されるため、弟のみならず、相談者も修正申告が必要になります。したがって相談者としては、弟が遺産分割調停で、使途不明金につき特別受益と持戻し免除を主張した場合でも、贈与税課税の可能性を指摘し、あるいは、やがて生じる相続税申告との矛盾を指摘して交渉できる可能性があります。
④ なお、同様のことは名義預金に関しても言えます。このように、使途不明金、生前贈与(特別受益)、名義預金等に関しては、課税上の問題を指摘して、遺産性を認めるように相手方を説得できる可能性があります。